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法律ニュースの解説 #3|信託銀行(証券代行)での議決権誤集計

今回は、信託銀行での議決権誤集計(不算入)のニュースについて、プチ解説してみたいと思う。

 

ニュースは、たとえば以下のとおり。

 

▽ 1300社超で議決権誤集計 過去20年放置か―三井住友信託・みずほ信託|時事ドットコム(2020/09/24)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020092400877&g=eco

 

▽ 議決権集計、不透明な慣行20年 企業・投資家把握できず|日本経済新聞(2020/09/23)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64146050T20C20A9EE8000/

 

信託銀行2行では、「先付け処理」という処理(総会が集中する時期に、郵便局と調整の上、議決権行使書を本来より1日早く受け取る)を行っていた。

 

のだが、期限の翌日に配達予定だった議決権行使書が期限内に届いた場合は、(本来なら期限内に届いていなかったはずなので、)集計対象から外して算入していなかった、とのこと。

 

しかし、民法上、意思表示の効力は到達時に発生するので(民法97条1項)、受領した以上は算入する必要があった、という話。

 

“大株主の海外ファンド”からの指摘が、これらが判明する発端となったらしい。

 

 

決議取消事由になる可能性

なぜ信託銀行が出てくるか?

 

そもそもなぜ信託銀行が議決権の集計云々で出てくるのか?という感じもするかもだが、上場企業では、上場のルールとして、各種の株式事務を行ってくれる会社(一般に、証券代行と呼ばれる)に対して、株式事務を委託することが義務づけられている。そして、証券代行には、信託銀行と専門の会社がある。

 

▽(参考サイト)株主名簿管理人とは|東京証券代行

https://www.tosyodai.co.jp/stock/information/index.html

 

で、その信託銀行での、集計方法に問題があった、という話なわけです。

 

何がイヤか?

 

こういうのは、(会社側の)関係者的には何がイヤかって、総会決議の瑕疵として決議の取消事由になる可能性がある点である(一般論です)。

 

総会決議の瑕疵には、取消、無効、不存在の3種類があって、それぞれの原因事由は、以下のような感じ。大まかには、手続の違反内容の違反が、決議の瑕疵になる。

 

① 取消事由(法831条1項1号)

 ➢「招集の手続・決議の方法」の「定款or法令違反」または「著しい不公正」

 ➢「決議の内容」の「定款違反」

② 無効事由

 ➢「決議の内容」の「法令違反」

③ 不存在

 物理的な不存在(議事録だけがあって総会決議が事実として無い場合)や、事実として全くないわけではないが法的評価のうえで不存在となるような場合(それほど手続上の瑕疵がひどい場合)

 

つまり、手続上の瑕疵については、取消事由となっているわけです(なお、手続上の瑕疵でも「ものすごくひどい」場合は、不存在事由になる)。

 

ニュースになっている議決権不算入も、手続上の瑕疵(決議の方法の定款・法令違反)なので、取消事由になる可能性がある。

 

そして、決議の取消しについては、訴訟によらなければならないことになっている(決議の取消訴訟)。

 

 

実際の取消の可能性を低減させる制度

取消の可能性を低減させる制度①:出訴期間

 

とはいえ、総会決議というのは決議があった場合、それが有効であることを前提にして、次々と会社の行為等が積み重ねられていくものなので、取消については、法的安定性を重視した制度がいくつかある。

 

たとえば、取消訴訟には出訴期間があって、3か月になっている(会社法831条1項柱書)。つまり、取消訴訟を提起するなら、決議の日から3か月以内に提訴しないといけない(⇔無効、不存在には出訴期間はない)。

 

なのでまあ、特に取り立てて動くような株主がいない会社なら、ニュースにあった信託銀行に委託してる会社も、誰も文句をいうことなく出訴期間を過ぎて、取消訴訟の心配はなくなるわけです。

 

取消の可能性を低減させる制度②:裁量棄却

 

また、2020/09/24日経朝刊(「議決権集計、不透明な慣行20年、企業・投資家把握できず、電子化の遅れ背景」)では、決議に影響がない場合、株主が取消しを求めても棄却される可能性が高い、との弁護士の意見が紹介されていた。

 

これはたぶん裁量棄却のことで、取消訴訟にはそういう制度がある。つまり、取消事由となる手続上の瑕疵があっても、「こういうケースでは決議をやり直しても一緒じゃん」という場合、裁判所が裁量で棄却できるわけです。なお、裁量棄却というのは通称で、法文上にはその言葉はないです。

 

(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
(太字は管理人による)

 

とはいえ、上記の太字部分のように、「決議に影響を及ぼさない」のほかにも、「違反する事実が重大でなく」という要件もある。

 

ニュースのケースのような、期限内に到達した議決権の不算入が、”違反事実として重大でない”と裁判所が判断するかどうかは、個人的にはちょっと微妙な気もする(そのように記載した判決を書くと、社会的な非難も大きそうな気がする)。

 

 

第三者委員会の設置が求められている模様

報道によれば、筆頭株主であるエフィッシモは、東芝に第三者委員会の設置を求めている模様(下記ニュース)。

 

▽ 東芝に第三者委設置要求 筆頭株主、議決権集計漏れで|時事ドットコム(2020/09/25)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020092501192&g=eco

 

先日のWBS(9/25金)では、設置がされなかった場合、東芝の対応次第では、決議取消の訴えや、臨時株主総会の開催請求もありうる、という海外ファンド関係者の意見も紹介されていた。

 

本当にそういう動きになるのかはわからないですけど。

 

なお、過去にはこういう経緯もあった模様。

 

▽ 議決権行使助言会社のISS、東芝の役員選任案に賛成|日本経済新聞(2020/07/16)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61568570W0A710C2000000/

 

 

勝手に見立てる成り行き(私見)

ということで、余計なお世話だけど(笑)、管理人が勝手に今後の成り行きを見立ててみると、こういう感じかなと。

 

●弱気ベクトル

第三者委員会を設置し、非を認める結論を出す(株主の次の反応がリスク)

 

●強気ベクトル

設置せず、取消訴訟のリスクは裁判所の裁量棄却を期待して、突っぱねる。臨時株主総会の開催が請求されても、そこで出されるであろう議案が否決されるよう頑張る(同時に、万一取消しが認められる場合に備え追認の議案も出す?有効打になるなら)。

あるいは、先手をうって臨時株主総会を招集し、追認の決議を得てしまう?(※)(現実性は低いかなと)

 

●モヤっとベクトル

設置したうえで、モヤっとした結論、または特に追加情報のない結論を出す

 

(※)(参考サイト)株主総会の決議取消しと再決議(追認決議)における訴えの利益 - 名古屋地裁平成28年9月30日判決|BUSINESS LAWYERS

https://www.businesslawyers.jp/articles/248

 

 

結び

議決権集計問題について、プチ解説と私見を書いてみました。

 

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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