今回は、景品表示法を勉強しようということで、強調表示と打消し表示について書いてみたいと思います。
「個人の感想です」「個人差があります」といった小さい注意書きを見ることはよくあると思いますが、強調表示と打消し表示は近年とみに注目されており、かなり分量のある実態報告書が消費者庁HPでも公表されています。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
強調表示・打消し表示とは
日常生活でもよく見かけるが、広告中で、例えば「10 時間効果が持続!!」のような断定的表現や目立つ表現を使って商品の内容を強調した表示をしつつ、「結果には個人差があります」といった注意書きを付している場合がある。
この場合の、強調された広告表示を強調表示といい、付されている注意書きを打消し表示と呼ぶ。
強調表示と打消し表示に関する詳細かつ公式な解説としては、平成30年6月7日に消費者庁が公表している「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」(以下「打消し表示留意点」)がある。
それぞれの定義は、この留意点の中で、以下のように記載されている。
▽打消し表示留意点1頁脚注
強調表示:事業者が、自己の販売する商品・サービスを一般消費者に訴求する方法として、断定的表現や目立つ表現などを使って、品質等の内容や価格等の取引条件を強調した表示
打消し表示:強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示
打消し表示は、強調表示からは通常予期できないが、その商品を購入するかどうかの選択にあたって重要となる事項、である。
語感としては、一般消費者が強調表示から受けた印象を打消し表示で打ち消す、というイメージです。
法令上の位置づけ
前提として少し法令上の位置づけについて触れておくと、強調表示・打消し表示という用語は、景表法やその規則には出てこない。なので、これら自体は法令上の概念ではない。
また、各種の告示やガイドラインにも出てこないので、ガイドライン上の概念でもない。
あくまでも、景表法で禁止されている不当表示に当たるおそれのある広告表示のひとつとして、この「打消し表示留意点」等で使用されている用語であり、概念ということになります。
この「打消し表示留意点」は、それまでに公表されている3つの実態調査報告書の総まとめになっている。
3つの実態調査報告書 | まとめ |
「打消し表示に関する実態調査報告書」(平成29年7月14日公表) 【以下「打消し表示報告書」】 |
「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」(平成30年6月7日公表) 【以下「打消し表示留意点」】 |
「スマートフォンにおける打消し表示に関する実態調査報告書」(平成30年5月16日公表) 【以下「スマホ打消し表示報告書」】 |
|
「広告表示に接する消費者の視線に関する実態調査報告書」(平成30年6月7日公表) 【以下「消費者視線報告書」】 |
つまり、「打消し表示報告書」+「スマホ打消し表示報告書」+「消費者視線報告書」=「打消し表示留意点」、である。
そのため、留意点を読んで、さらに詳しく見ていきたいときは3つの報告書を見ていけばよいと思う。
留意点と各報告書の掲載ページ(消費者庁HP)は、以下のとおりです。
▷その他の景品表示法関連の公表資料 2018年度|消費者庁HP
▷その他の景品表示法関連の公表資料 2017年度|消費者庁HP
もちろん何から見てもよく、決まりもないですが、打消し表示留意点は24頁、打消し表示報告書は95頁、スマホ打消し表示報告書は112頁、消費者視線報告書は180頁と、かなり分量があります。
基本的な考え方
強調表示と打消し表示は対概念
打消し表示留意点でも最初に示されているが、強調表示自体が禁止されるものではない。
ただ、強調表示からは通常予期できない例外等がある場合は、その旨の打消し表示を行っておかなければ、一般消費者の認識は強調表示から受けた印象そのままになってしまうので、認識が実際と異なってしまう(誤認が生じる)、ということである。
▽打消し表示留意点【第1】
一般消費者に対して、商品・サービスの内容や取引条件について訴求するいわゆる強調表示は、それが事実に反するものでない限り何ら問題となるものではない。ただし、強調表示は、対象商品・サービスの全てについて、無条件、無制約に当てはまるものと一般消費者に受け止められるため、仮に例外などがあるときは、その旨の表示(いわゆる打消し表示)を分かりやすく適切に行わなければ、その強調表示は、一般消費者に誤認され、不当表示として不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)上問題となるおそれがある。
このように、強調表示と打消し表示は対概念であるといえる。
適切な打消し表示とならない場合
対概念といっても、とりあえず打消し表示を付しておけば強調表示が適法となる(不当表示とならない)というわけではない。
打消し表示を行っていても強調表示が不当表示となるおそれがある場合として、
- 強調表示と打消し表示が矛盾する場合
- 打消し表示の表示方法について、一般消費者が認識できない場合
- 打消し表示の表示内容について、一般消費者が理解できない場合
の3つがある。
強調表示と打消し表示が矛盾する場合
適切な打消し表示とならない場合として、まず、強調表示と打消し表示が矛盾する場合である。
▽打消し表示留意点【第1】
強調表示と打消し表示との関係は、強調表示の訴求している内容が商品・サービスの実際を反映していることが原則であり、打消し表示は、強調表示だけでは一般消費者が認識できない例外条件、制約条件等がある場合に例外的に使用されるべきものである。したがって、強調表示と打消し表示とが矛盾するような場合は、一般消費者に誤認され、景品表示法上問題となるおそれがある。
あくまでも、本来は、強調表示が商品・サービスの実際を反映しているのが原則であり、打消し表示は例外的に使用されるべきものである。
逆にいうと、そもそも強調表示が商品・サービスの実際を反映していない場合(乖離している場合)は、打消し表示を付しても不当表示となるおそれがある。そのような場合に打消し表示を付しても、強調表示と打消し表示が矛盾するものとなり、結局何が示されているのかよくわからず、強調表示の印象だけが残ったままになるからである。
矛盾する場合として、例えば、体験型の打消し表示につき、
また、広告物は一般に商品の効果、性能等を訴求することを目的として用いられており、広告物で商品の効果、性能等を標ぼうしているにもかかわらず、「効果、効能を表すものではありません」等と、あたかも体験談が効果、性能等を示すものではないかのように記載する表示は、商品の効果、性能等を標ぼうしていることと矛盾しており、意味をなしていないと考えられる。
といった例が挙げられている(打消し表示留意点23頁)。
打消し表示は補完的なもの
さらに別の言い方をすれば、打消し表示は、強調表示が商品・サービスの実際を反映したものであることを前提に、強調表示からは通常予期できない例外等がある場合に補完的に付すものにすぎない、ということです。
打消し表示は、水戸黄門の印籠みたいなものじゃないよ、ということです。
打消し表示報告書には以下のような解説もあり、参考になります。本来は強調表示自体で適切に表示すべきであり、打消し表示はやむを得ず行うもの、やむを得ず行う場合には、強調表示と打消し表示を合わせた表示全体として適切な表示になるように、という考え方です。
▽打消し表示報告書1頁
過去の実態調査では、強調表示を行う際の原則は、打消し表示を行わずに済むように訴求対象を明確にして、商品・サービスの内容や取引条件を的確に表示することであることを明らかにするとともに、やむを得ず打消し表示が必要となるような強調表示を行う場合には、打消し表示が一般消費者にとって通常は予期できない事項であることを十分に認識した上で、打消し表示を明瞭に表示することにより、強調表示と打消し表示とを合わせた表示物全体として、その内容又は取引条件が一般消費者に正確に理解されるようなものでなければならないとの考え方を明らかにしている。
打消し表示の表示方法又は表示内容に問題がある場合
次に、打消し表示の表示方法又は表示内容に問題がある場合である。
打消し表示が適切に機能するためには、理屈からして、まずは、打消し表示が一般消費者の目に入ること(認識できること)、次に、認識されたとして意味がわかること(理解できること)、が必要である。
前者が表示方法の問題、後者が表示内容の問題である。
▽打消し表示留意点【第1】
また、例えば、打消し表示の文字が小さい場合や、打消し表示の配置場所が強調表示から離れている場合、打消し表示が表示されている時間が短い場合等、打消し表示の表示方法に問題がある場合、一般消費者は打消し表示に気付くことができないか、打消し表示を読み終えることができない。また、打消し表示の表示内容に問題がある場合、一般消費者は打消し表示を読んでもその内容を理解できない。
このように、打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できないことにより、商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの又は競争事業者に係るもの(以下「実際のもの等」という。)よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合、景品表示法上問題となるおそれがある。
一見難しそうな事を言っているように感じるが、当然といえば当然の話である。
(打消し表示が働こうにも、目に入らなければ機能しようがないし、目に入っても、意味がわからなければやはり機能しない)
結局、上記①~③をまとめて、カジュアルな言い方にすれば、
- 強調表示がそもそも実際から乖離している場合は、打消し表示を付しても矛盾するからダメ(意味をなさない)
- 強調表示が実際を反映していても、打消し表示の表示方法に問題があり、一般消費者が認識できなければダメ
- 認識できたしても、打消し表示の表示内容に問題があり、一般消費者に意味が理解できなければダメ
という感じである。
続いて、打消し表示留意点では、適切な打消し表示について、表示方法と表示内容の2つに分けて景表法の考え方が解説されている。
かなり量が多いので、ざっとになるが、以下順に見てみる。
打消し表示の表示方法
基本的な考え方
表示方法に関する基本的な考え方は、以下のとおりとされている。
▽打消し表示留意点【第2-1】
打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できるように適切な表示方法で表示されているか否かについては、打消し表示の文字の大きさ、配置箇所、色等から総合的に判断されるところ、この判断に当たっては、全ての媒体に共通する要素とともに、各媒体で特徴的な要素についても留意する必要がある。
判断要素
適切な表示方法の判断要素については、全媒体共通のものと、各媒体個別のものがある。
ざっくり整理すると、以下のようになる。(打消し表示留意点2~3頁を表にしたもの)
媒体 | 判断要素 |
全媒体共通 | 打消し表示の文字の大きさ |
強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス | |
打消し表示の配置箇所 | |
打消し表示と背景の区別 | |
動画広告 | 打消し表示が含まれる画面の表示時間 |
音声等による表示の方法 | |
強調表示と打消し表示が別の画面に表示されているか | |
複数の場面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するか | |
Web 広告(PC) | 強調表示と打消し表示が1スクロール以上離れているか |
Web 広告(スマートフォン) | アコーディオンパネルに打消し表示が表示されているか |
コンバージョンボタンの配置箇所 | |
スマートフォンにおける強調表示と打消し表示の距離 | |
スマートフォンにおける打消し表示の文字の大きさ | |
スマートフォンにおける打消し表示の文字とその背景の色や模様 | |
他の画像等に注意が引きつけられるか |
アコーディオンパネルとは、クリックで開閉するパネルのことです(クリックで開く、クリックで閉じる)。
留意点や実態報告書では、「初期状態では詳細な内容が表示されずに、『ラベル』といわれる項目の見出しのみが表示されており、ラベルをタップした際に、その時点で見ている画面から移動することなく、そのタップしたラベルに関する詳細な内容の表示(パネル)が画面上に表示されるものをいう。」とされています。(スマホ打消し表示報告書3頁脚注)
コンバージョンボタンとは、成約ボタンのことです。
留意点や実態報告書では、「コンバージョン(Conversion)とは転換を意味する言葉で、Web マーケティングの分野においては、Web サイトや広告の閲覧者が会員登録や購入等を行い、会員や顧客等に転換するという意味で用いられることがある。この報告書では、一般消費者が Web ページ上で商品・サービスの購入・申込みを行う際にタップするボタンの形状をしたハイパーリンクの文字列をコンバージョンボタンという。」とされています。(スマホ打消し表示報告書7頁脚注)
打消し表示の表示内容
打消し表示の類型
打消し表示報告書では、表示内容によって、打消し表示を以下のように7つに分類している。(打消し表示報告書3頁表から抜粋)
分類名 | 内容 |
---|---|
例外型 | 例外(別条件型及び追加料金型に係るものを除く)がある旨の注意書き |
体験談型 | 体験談に関する注意書き |
別条件型 | 何らかの別の条件が必要である旨を述べる注意書き |
非保証型 | (体験談を記述せずに、)効果、性能等には個人差がある旨や、効果、性能等を保証するものではない旨を述べる注意書き |
変更可能性型 | 予告なく変更する可能性がある旨を述べる注意書き |
追加料金型 | 強調表示で示した代金以外の金銭が追加で必要になる旨を述べる注意書き |
試験条件型 | 一定の条件下での試験結果、理論上の数値等である旨を述べる注意書き |
基本的な考え方
いずれの類型であったとしても、表示内容に関する基本的な考え方は、打消し表示の表示内容の意味が一般消費者に理解できること(つまりわかりやすさ)が必要、ということである。
つまり、
- 例外型であれば、例外の内容を、
- 別条件型であれば、別条件の内容を、
- 変更可能性型であれば、変更される可能性がある旨を、
- 追加料金型であれば、追加料金が発生する旨を、
- 試験条件型であれば、試験条件の内容を、
それぞれ理解できなければ、不当表示となるおそれがあるということである。
打消し表示留意点では、①例外型、②体験談型、③別条件型、⑥追加料金型、⑦試験条件型について、個別に留意事項が解説されている。
特に②体験談型については、項目を別立てにして詳細な解説がされており、求められる表示として、
- 被験者の数及びその属性
- そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合
- 体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合
等を明瞭に表示すべきである、とされている。
その他参考文献
ネット上で見ることのできる参考文献として、古川昌平弁護士の解説記事がある。本記事の末尾でも触れている「エッセンス景品表示法」の著者である。
なお、当該解説記事では、打消し表示留意点ではなく、打消し表示報告書の方をメインに取り上げて解説されている。本記事でも参考にさせていただいている。
▷【景品表示法を知る・学ぶ】第5回 表示規制(4)打消し表示(古川昌平)|国民生活センター
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、強調表示と打消し表示の概要について書いてみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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主要法令等
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- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格二重価格表示執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- No.1表示報告書(「No.1表示に関する実態調査報告書」)
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)