今回は、広告法務ということで、No.1表示に関連して、特定用語について見てみたいと思います。
別の記事でNo.1表示に関する広告ルールについて書いており、その関連記事になります。
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広告法務|No.1表示に関する広告ルール
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ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
特定用語とは
特定用語とは、業界別の公正競争規約において、”こういう用語を使うときは、こういう意味で使いなさいよ”という使用基準を取り決めている用語のことです。
正確な定義は、
特定表示事項は、公正競争規約に参加する事業者が任意に表示する特定の事項や用語の使用基準である。不動産の表示に関する公正競争規約において、徒歩による所要時間を80mにつき1分間として算出するとされていることや、食品の公正競争規約において、「濃厚」、「生」、「手造り」、「特選」等、それぞれの商品に応じて、その特徴を示す様々な用語の使用基準が規定されていることなどがこれに当たる。
「景品表示法」〔第6版〕(西川康一)275頁
のようになっています。駅から徒歩○分、というよく見る不動産広告も、実はこのように特定用語として使用基準が決められているわけです。
No.1表示も、この特定用語のひとつとして、公正競争規約のなかでしばしば出てきます。
つまり、業界によっては、”No.1である旨を表示するときは、こういう意味でこういうときにのみ使いましょう”という使用基準が決められている、ということです。
No.1表示に関する自主規制ルール
平成20年6月13日に公正取引委員会が公表している「No.1表示に関する実態調査報告書」の中でも、No.1表示に関する自主規制ルールとして特定用語に言及されています。
▽No.1表示報告書【第3-4】
4 No.1表示に関する自主規制ルール
景品表示法第12条の規定に基づき公正取引委員会の認定を受けて,業界において設定している景品類又は表示に関する自主ルールである公正競争規約(以下「規約」という。)には,No.1表示を規制する規定が含まれているものがある(規約の施行規則等に規定があるものを含む。)。
規制の内容としては,客観的な事実に基づく根拠なしにNo.1表示をすることを不当表示の一類型として定めている場合(ビール,はっ酵乳・乳酸菌飲料等)と,特定用語の使用基準として客観的な事実に基づく根拠がある場合にのみNo.1表示をすることができると定めている場合(化粧品,不動産等)がある。また,後者については,更に客観的な事実に基づく具体的数値又は根拠を付記することまで求めているもの(自動車,タイヤ等)がある。
このように、No.1表示に関する、公正競争規約での規制パターンは、
- 不当表示の一類型として規制
- 特定用語の使用基準として規制
(→具体的数値又は根拠の付記まで求めているものもある)
という2種類がありますが、本記事で取り上げている”No.1表示に関する特定用語”というのは、②のことになります。
以下、②の身近でわかりやすい例として、自動車業界と、不動産業界の、2つの表示規約を取り上げてみます。
公正競争規約にも表示規約の部分と景品規約の部分があり、例えば、不動産公正競争規約のうち表示規約部分を指して、"不動産表示規約"と呼ばれたりします。
自動車表示規約
正式名称は、「自動車業における表示に関する公正競争規約」です。一般社団法人自動車公正取引協議会のHPに掲載されています。
▷自動車業における表示に関する公正競争規約
(掲載ページ:自動車公正競争規約とは|一般社団法人自動車公正取引協議会HP)
「最上級を意味する用語」としては、4条1号に定めがあります。調査報告書でも取り上げられているように、客観的根拠の付記まで求められています。
▽自動車業表示規約4条1号・2号
第2章 新車
(特定用語の表示基準)
第4条 事業者は、新車の表示に関し、次の各号に掲げる用語について表示する場合は、それぞれ当該各号の定める基準に従い、施行規則で定めるところによるものとする。
(1) 最上級を意味する用語
「首位」、「第1位」、「トップ」、「最高」、「最長」、「BIGGEST」その他の最上級を意味する用語を表示する場合は、その裏付けとなる客観的数値等又は根拠を付記すること。
(2) 「完全な…」等の用語
「完全な…」、「完璧な…」、「絶対的な…」等の用語は、その内容が社会通念上、妥当な範囲を超えない程度において表示すること。
「完全な…」の部分は、No.1表示ではないですが、これもよく使おうとされる広告用語ですので、広告チェックの際はNo.1表示と並んで「あっ、これは特定用語だ」と反射的に反応できる必要があります。ダメ、ということではなくて、要注意、ということです。
不動産表示規約
正式名称は、「不動産の表示に関する公正競争規約」です。不動産公正取引協議会連合会のHPに掲載されています。
▷不動産の表示に関する公正競争規約
(掲載ページ:公正競争規約の紹介|不動産公正取引協議会連合会HP)
「最上級を意味する用語」として、18条2項1号に定めがあります。1号の最上級表示については、やはり、客観的根拠の表示まで求められています(柱書の後半)。
▽不動産表示規約18条2項
(特定用語の使用基準)
第18条
2 事業者は、次に掲げる用語を用いて表示するときは、それぞれ当該表示内容を裏付ける合理的な根拠を示す資料を現に有している場合を除き、当該用語を使用してはならない。この場合において、第1号及び第2号に定める用語については、当該表示内容の根拠となる事実を併せて表示する場合に限り使用することができる。
(1) 物件の形質その他の内容又は価格その他の取引条件に関する事項について、「最高」、「最高級」、「極」、「特級」等、最上級を意味する用語
(2) 物件の価格又は賃料等について、「買得」、「掘出」、「土地値」、「格安」、「投売り」、「破格」、「特安」、「激安」、「バーゲンセール」、「安値」等、著しく安いという印象を与える用語
(3) 物件の形質その他の内容又は役務の内容について、「完全」、「完ぺき」、「絶対」、「万全」等、全く欠けるところがないこと又は全く手落ちがないことを意味する用語
(4) 物件の形質その他の内容、価格その他の取引条件又は事業者の属性に関する事項について、「日本一」、「日本初」、「業界一」、「超」、「当社だけ」、「他に類を見ない」、「抜群」等、競争事業者の供給するもの又は競争事業者よりも優位に立つことを意味する用語
(5) 物件について、「特選」、「厳選」等、一定の基準により選別されたことを意味する用語
(6) 物件について、「完売」等、著しく人気が高く、売行きがよいという印象を与える用語
並べて見てみると、自動車表示規約と、問題意識が似ていると感じるかと思います。
「No.1」「完」「初」「唯一」(トップ、100%、first、only)等は特定用語=要注意!というのが管理人の感覚的イメージです(ダメ、ということではない)。
補足:公正競争規約とは
ここまでさらっと書きましたが、そもそも公正競争規約って一体何なのか?について補足しておきたいと思います。
公正競争規約とは、要するに、景品規制と表示規制に関する、業界別の自主規制ルールのことです。景表法31条に基づくものになります。
▽景表法31条1項
(協定又は規約)
第三十一条 事業者又は事業者団体は、内閣府令で定めるところにより、景品類又は表示に関する事項について、内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するための協定又は規約を締結し、又は設定することができる。これを変更しようとするときも、同様とする。
景表法だけでも、告示やらガイドラインやらいっぱいあるのに、そのうえまだ規約とかいうルールがあるの?と思いますが(管理人は昔思った)、残念ながらあります。ただ、規約は景表法の内容を含んで作られているので、基本的な考え方は当然重なっており、全く別のものをまたイチから見ないといけないという感じではありません。
景表法は法令なので、業界などを限定しない一般的なルールですが、いろんな業界に固有な内容は入っていなかったり、また、ルールの執行やエンフォースメント(実現の意。違反に対する措置)についても、人的リソースが限られています。
そこで、業界別に自主ルールをつくって、業界プロパーな内容を盛り込んでより細やかなルール形成をするとともに(内容の適切さは内閣総理大臣、具体的には委任を受けた消費者庁の認定を受けることで担保する)、違反者に対しては事業者団体内での措置をとる、という風にして、適切な広告表示を実現しようとしているわけです。
アウトサイダーへの効果
ふと疑問に思うのは、業界団体内での自主規制ルールというなら、ではその業界団体に加入していない事業者(非会員のことで、アウトサイダーと呼ばれたりします)はどうなるのか?という点です。
この点については、会員でない以上、直接に公正競争規約の遵守義務はありません(公正競争規約違反とはならない)。ただ、当然、景表法に違反するような表示であれば、景表法に基づいた措置がとられます。その際、公正競争規約が長年運用されてルールが一般化・世間に浸透することで、景表法の適用の際に規約の内容が反映される(考慮要素となる)ことが生じ得るとされています。
つまり、景表法の解釈・適用を通じて間接的に影響を及ぼす可能性はある(アウトサイダーだからといって完全に無関係というわけではない)、ということです。
「景品表示法」〔第6版〕(西川康一)266~268頁、「景品表示法の法律相談」〔改定版〕(加藤公司、伊藤憲二、内田清人、石井崇、薮内俊輔)279~280頁等参照
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、No.1表示に関連して、特定用語について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- No.1表示報告書(「No.1表示に関する実態調査報告書」)
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)