今回は、広告法務ということで、No.1表示の適法要件のうち「正確かつ適正な引用」について書いてみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
No.1表示の適法要件
No.1表示が不当表示とならないための要件は、以下の2つとされている。
- No.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること
- 調査結果を正確かつ適正に引用していること
本記事では、このうち要件②の「正確かつ適正な引用」について見てみる。
これが要件とされているのはどういうことなのか、感覚的にわかるようにいうと、
(調査自体は客観的に行われていても)調査結果を歪曲する場合がある
ということである。
正確かつ適正な引用とは
では、調査結果の「正確かつ適正な引用」とはどういうものか?
この点については、
- No.1表示の対象となる①商品等の範囲、②地理的範囲、③調査期間・時点、④調査の出典について、調査の事実に即して明瞭に表示すること
が、望ましい表示とされている。
以下、それぞれについて見てみる。
①商品等の範囲
①商品等の範囲についての望ましい表示は、
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、一般消費者が理解することができるようにNo.1表示の対象となる商品等の範囲を明瞭に表示すること
とされている。
不当表示が問題となり得るパターンとして、例えば、No.1表示報告書では以下のようなパターンが指摘されている(8頁)。
- 漠然とした商品カテゴリー表示
=実際に調査対象となった特定の商品カテゴリーが示されていない
(例)実際に調査対象となったのは「中高年向け美容液」であるのに、「美容液」でNo.1と表示する - 理解できない商品カテゴリー表示
=商品カテゴリーが表示されているが、そのカテゴリーを理解することができない
(例)「○○健康食品シェアNo.1」(注:○○は特定の栄養成分等)と表示されているが、一般消費者には”○○”が何なのか理解できない(その結果、およそ「健康食品」というカテゴリーでNo.1と認識するおそれがある)
このようにして、実際に調査対象となった商品カテゴリーよりも広い範囲でナンバー1のように誤認される場合には、不当表示が問題になる。
後者のパターン(理解できない商品カテゴリー表示)に関しては、
特に、関係業界において商品等の範囲に関する基準がない場合には、一般消費者が理解できるような範囲で表示すべきであって、自社独自に商品等の範囲を細分化する場合には、景品表示法上問題となるおそれがある。
とも記載されており、つまり、(カテゴリーを狭くすればナンバー1と言いやすくなるからといって)独自の細分類を付しても、理解不能なものはダメであるとされている。
②地理的範囲
②地理的範囲についての望ましい表示は、
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、調査対象となった地域を、都道府県、市町村等の行政区画に基づいて明瞭に表示すること
とされている。
不当表示が問題となり得るパターンとして、例えば、No.1表示報告書では以下のようなパターンが指摘されている(9頁)。
- 漠然と「地域」とのみ表示
(例)「施術件数実績地域No.1」「地域No.1の合格実績」など
漠然と「地域」とのみ表示した場合、一般消費者が受け取る地理的範囲には広狭があり、実際の調査対象よりも広い地理的範囲と受け取められる場合もあるだろう。
このようにして、実際に調査対象となった地理的範囲よりも広い地理的範囲でナンバー1のように誤認される場合には、不当表示が問題となる。
③調査期間・時点
③調査期間・時点についての望ましい表示は、
No.1表示は、直近の調査結果に基づいて表示するとともに、No.1表示の根拠となる調査の対象となった期間・時点を明瞭に表示すること
とされている。
不当表示が問題となり得るパターンとして、例えば、No.1表示報告書では以下のようなパターンが指摘されている(10頁)。
- そもそも記載がないもの
- 調査期間の記載がないもの
(例)「○○販売数日本1位 (注:○○は商品の種類)『△△雑誌』□年□月号より」 - 調査時点の記載がないもの
(例)「オール電化住宅施工棟数 5年連続○○県下No.1」
いずれも、結局、“いつの調査期間においてNo.1だったのか?”が、わからない表示である。
このようにして、実は現時点でのナンバー1の調査実績がない(仮に過去にはあったとしても)のに、現時点でナンバー1のように誤認される場合には、不当表示が問題となる。
④調査の出典
④調査の出典についての望ましい表示は、
No.1表示の根拠となる調査の出典を具体的かつ明瞭に表示すること
とされている。
典型例
調査の出典を具体的かつ明瞭に表示するとは、例えば、
- 調査会社が行った調査結果に基づくNo.1表示の場合
→調査会社名+調査の名称を表示すること - 雑誌に掲載されている調査結果に基づくNo.1表示の場合
→雑誌名及び発行年月日+調査の名称を表示すること
(雑誌に掲載されている調査が調査会社に委託して行われたものであれば、雑誌名及び発行年月日+実際に調査を行った調査会社名+調査の名称を表示すること)
が例として挙げられている。
望ましい対応①ー調査内容の公表
また、調査の出典を表示するだけではなく、実際にどのような調査方法で行われたのかや、どのような調査結果だったのかについても、一般消費者が確認できることが望ましい。
そこで、
調査の出典とともにその調査方法や調査結果について、表示物にホームページアドレスを記載するなどして、一般消費者が確認できるように公開すること
も、望ましいひとつの方法である、とされている。
公表すべき調査内容に関しては、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が「ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン」(2022年5月26日)をリリースしており、参考になる(▷掲載ページはこちら)。
▽JMRA「ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン」5頁
4.4 ランキング広告表示に伴い公表されることが望ましい調査報告書等の内容
・ランキング広告表示に伴い公表されることが望ましい調査報告書の内容は以下①~③のとおりとする。(略)
① 調査設計の詳細
(必須)対象母集団及び商品・サービス等の定義、調査方法、調査地域、サンプリング方法(割り付けの有無を含む)、設計サンプル数及び回収数、調査期間・時点。
(必要に応じて)督促または追加サンプル、選択肢のランダマイズ、ウエイト付け、多変量解析の有無など、一般に調査報告書の「調査概要」の特記事項に含まれるもの。
注 1)情報開示の際には、「調査概要」全文を転載することもできる。
② ランキング広告表示に使用したデータに関する質問文と選択肢
質問文及び選択肢の詳細(対象を絞り込む設計の場合には、その前段となる質問文を含む)。
③ ランキング広告表示の根拠となった調査結果データ
質問した商品・サービスに関するデータのすべてを開示することが望ましいが、他社データの開示に支障がある場合には、そのブランド名等をマスキング表示(他社商品 A, B, C ・・・などと)することは許される。
注 2)調査設計や質問文に関する詳細な事例については、JMRA『比較広告のための調査実施の手引き(仮称)』を参照のこと。
望ましい対応②ー調査概要の併記
もうひとつ、望ましい対応として、
特に、顧客満足度調査などのように調査方法が様々である場合には、客観的な調査に基づくものであることを一般消費者が確認することができるように、表示物に調査方法の概要を併せて表示すること
が挙げられている。
つまり、このような場合には、広告表示物自体に、どのような調査方法でのNo.1なのかを端的に併記することが望ましい、ということである。
「自社調べ」の位置づけ
No.1表示報告書では、収集した広告表示物のなかには、「自社調べ」と表示されているものもあったことが触れられているが、
調査が自社調べの場合には、客観的なものとはいえない独自の基準で調査が行われることが多いと考えられ、景品表示法上問題となりやすい
とされている(12~13頁)。
自社調べ自体が否定されているわけではないので可能だが(結局は客観的な調査といえるかどうかの問題)、トーンとしては推奨はされていない感じである(管理人の感覚)。
また、自社調べの場合の出典表示の仕方については、直接は触れられていない。
第三者の調査を根拠にする場合
また、第三者の調査を根拠にする場合は、調査の出典を表示するだけでなく、その調査が客観的に実証された根拠に基づくものかどうかを確認することが必要とされている。
まとめ(私見)
調査の出典に関して、以上をまとめると、以下の表のようになると思われる(私見)。
調査会社に委託 | 調査会社への委託なし | |
自社の調査 | 調査会社名及び調査の名称を表示すること | 自社調べである旨と調査の名称を表示? (ただし、自社調べの客観性に懸念あり) |
自社以外(第三者)の調査 | 調査会社名及び調査の名称を表示すること (ただし、その調査が客観的に実証された根拠に基づくものかどうかを確認することが必要) |
当該会社調べである旨と調査の名称を表示? (ただし、当該会社調べの客観性に懸念あり) (その調査が客観的に実証された根拠に基づくものかどうかを確認することが必要) |
※望ましい対応①:調査内容(調査方法や調査結果)についても、一般消費者が確認できるよう、広告にリンクを記載し、別途ホームページで公開することなどが望ましい
※望ましい対応②:調査方法に様々なものが考えられる場合(ex.顧客満足度調査)は、広告自体に、調査方法の概要を併せて表示することが望ましい
明瞭でない表示
上記①~④までどれも、「明瞭に表示すること」とあるが、明瞭でない表示については、以下のような例が括弧書きで触れられている(「No.1表示報告書」7頁)。
<明瞭でない表示の例>
- No.1表示と同一視野にはない場合
- 文字が小さくて見にくい場合
- No.1表示が示す内容を理解することが困難な場合 等
結び
今回は、広告法務ということで、No.1表示の適法要件のうち「正確かつ適正な引用」について書いてみました。
本記事のハイライトをまとめます。
本記事のまとめ
- No.1表示の適法要件の2つめは、調査結果を「正確かつ適正に引用」していること
- No.1表示の対象となる①商品等の範囲、②地理的範囲、③調査期間・時点、④調査の出典について、調査の事実に即して明瞭に表示することが望ましい
- ①「商品等の範囲」については、実際の調査対象である商品カテゴリーよりも広いカテゴリーでNo.1のように誤認される場合には、不当表示が問題となる
- 商品カテゴリーを絞ればNo.1になりやすいからといって、独自の細分類を付しても、一般消費者に正しく理解できるものでなければダメである
- ②「地理的範囲」については、実際の調査対象である地理的範囲よりも広い地理的範囲でNo.1のように誤認される場合には、不当表示が問題となる
- ③「調査期間・時点」については、現時点ではNo.1の調査実績がないのに、調査期間・時点を曖昧にすることで、現時点でNo.1のように誤認される場合には、不当表示が問題となる
- 過去にNo.1であった期間があってもダメである
- ④「調査の出典」については、出典表示の典型例が示されているほか、調査の内容についても公表することが望ましいとされている
- 「正確かつ適正な引用」というのは、要するに、(調査自体は客観的に行われていても)調査結果を歪曲していたらダメですよ、ということを言っている
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
No.1表示に関するその他の記事
本記事の参考資料
参考資料
- (平成20年6月13日)No.1表示に関する実態調査について(概要)|公正取引委員会HP
- ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン|JMRAHP
広告法務の参考文献・主要法令等
参考文献
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格二重価格表示執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- No.1表示報告書(「No.1表示に関する実態調査報告書」)
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)