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M&A法務|株主間契約(SHA)-プット・オプションとコール・オプション

今回は、M&A法務ということで、株主間契約(SHA)のうちプット・オプションとコール・オプションについて見てみたいと思います。

※株主間契約のSHAというのは、Shareholders Agreementの略です

株主間契約では対象会社の運営・ガバナンスに関する事項と株式の処分に関する事項が規定されることが多いですが、本記事は後者に関する内容になります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

プット・オプション(Put Option)とコール・オプション(Call Option)

これらは、一定の条件を満たした場合に特定の相手に対して、株式の売買を一方的に請求できる権利を意味し、M&Aやスタートアップ投資などの場面で、リスクの調整や将来の出口戦略の明確化を目的として規定されることがあります。

簡単にいうと、株主間で(例えば合弁会社であれば合弁当事者間で)株式譲渡を行うことにより、一方当事者を株主関係から離脱させる仕組みです。

プット・オプション(Put Option)とは

プット・オプションとは、自らが保有する株式を、一定の条件のもとで相手方に買い取るよう請求できる権利です(取得請求権)。

プット・オプションのputは、「押しつける」とイメージするとわかりやすいです。つまり、売りつけるイメージです

プット・オプションは、自分が株主関係から離脱する・・ための手段となります。

例えば、投資家が一定期間経過後(ex. 5年後)にイグジットを図るため、他の株主に対して自らの株式の買い取りを請求できるようにするとか、投資先企業の財務状況が悪化した際に、投資家が損失回避の手段として保有株を売却できるようにする、といった目的が考えられます。

SHAにおける定め方の主なポイントは、オプションの行使事由(トリガー)と、行使価格の設定方法(ex. あらかじめ定めた固定価格、一定の算定式に基づく算出、時価評価)ですが、行使可能期間(ex. 〇年目以降、△ヶ月以内など)や、相手方の買受義務(実際には、多数派株主や会社自体が買受義務者となることが多い)なども定められます。

コール・オプション(Call Option)とは

コール・オプションとは、相手方が保有する株式について、一定の条件のもとで自らに売り渡すよう請求できる権利です(譲渡請求権)。

コール・オプションのcallは、「呼びつける」とイメージするとわかりやすいです。つまり、呼びつけて強奪するイメージです

コール・オプションは、相手を株主関係から離脱させる・・・ための手段となります。

例えば、事業上の支配権を確保するために、多数派株主が特定株主(ex. 退任した役員、従業員、ベンチャーキャピタルなど)から株式を回収するとか、投資家による段階的な出資・買収の一環として、一定のタイミングで追加取得する枠組みとして設定する、といった目的が考えられます。

SHAにおける定め方の主なポイントは、やはり、行使事由(トリガー)と、行使価格の設定方法ですが、行使可能期間(ex. 〇年目以降、△ヶ月以内など)や、相手方の売渡義務(実際には、少数派株主が売渡義務者となることが多い)なども定められます。

プット・オプション/コール・オプションの違いと整理

ここまでをまとめると、以下のようになります。

項目プット・オプション(Put)コール・オプション(Call)
誰が権利をもつか(通常)少数派株主多数派株主
請求内容株式を買い取らせる(put=”押しつける”)株式を買い取る(call=”呼びつける”)
相手方の義務株式の買取り義務株式の売渡し義務
主な利用者投資家・少数派株主など多数派株主・会社・創業者など
主な目的Exitの確保、損失回避支配権確保、段階的買収、離脱時対応

オプションの行使事由(トリガー)

オプションには、行使条件があります。つまり、オプションの行使事由トリガー)です。

大きく、SHAへの違反(契約違反)があった場合と、それ以外の場合とに分けることができ、

  • 契約違反の場合
  • 契約違反以外の場合
    1. 事前承諾事項に関するデッドロック(意見の不一致による膠着状態)が生じた場合
    2. その他合弁契約などでの終了事由が生じた場合
    3. 当初合意した一定期間が経過した場合(イグジット期間の到来)【プット・オプションの場合】
      ex. 投資後5年が経過した場合、投資家は創業者または会社に対して株式の買取りを請求できる
    4. IPO・M&Aなどの流動化イベントがある場合【コール・オプションの場合】
      ex. IPOやM&A実施時に、会社または主要株主が特定株主から持株を買い取る

などがあります。

オプションの行使価格の設定方法

オプション行使時の価格(=売却価格・買付価格)は、当事者間の利害が対立しやすいため、契約時にできるだけ明確で合理的な算定方法を合意・記載することが重要となります。

以下、いくつかの例を見てみます。

固定価格方式

これは、契約締結時に、将来の行使時の売買価格を「1株あたり〇円」等とあらかじめ固定する方式です。

将来の当事者間の紛争を避けることができ、将来のExit計画を立てやすいですが、反面、事業継続中に企業価値・株式価値は変動するものなので、実勢価値と乖離するリスクがあります(高すぎる/安すぎるなど)。

算定式方式

これは、オプション行使時の売買価格を、一定の数値指標や算定式で自動的に算出する方式を定めておくやり方です。

例えば、EBITDAに所定のマルチプルを乗じる方法(EBITDA × ○倍)や、対象会社の純資産額をベースにする方法(純資産額 ± 調整項目(キャッシュ、負債etc))等があります。

EBITDA(イービットディーエー/イービッダー)というのは、簡単にいうと営業利益に減価償却費などを足し戻したもので、キャッシュベースでの利益を見るときの指標です

(※つまり、減価償却費などは費用であっても実際のキャッシュは減っていないので、それを足し戻している)

算定式方式によれば、市場動向や業績に応じた価格設定が可能となりますが、反面、評価項目の定義や計算方法などをめぐって議論になりやすいといえます。

公正価格方式(第三者評価方式)

これは、公正価格(フェアバリュー)をオプション行使時の売買価格としておくもので、実際には、独立した第三者(公認会計士・税理士・評価会社など)による時価評価・算定をもとに価格を決定することにする場合が多いかと思います。

公平性・客観性があり、株式市場が未整備な場合にも有効ですが、反面、評価手続が煩雑で、コストや時間がかかります(評価結果が想定より低くなるリスクも)。

一定のプレミアム/ディスカウントを加味

以上のほか、オプションの行使事由(トリガー)がSHAの違反である場合、違反当事者に対してペナルティを課すような価格設定がなされることがあります。

つまり、株式取得のベースとなる金額に、一定のプレミアムまたはディスカウント(ex. ±20%)を加えた金額を売買価格とするということです。

プット・オプションの場合は通常より高く買い取らせるのでプレミアム・・・・・を加える、コールオプションの場合は通常より安く買い取るのでディスカウント・・・・・・・を行う、ということになります。

プット・オプションの行使手続(一般的なプロセス)

プット・オプションは、概ね、次のような手続の流れになるのが一般的です。

行使事由の発生

例えば、投資後5年が経過、契約違反が生じた、創業者が退任した、などです。

オプション行使通知

株主(売却希望者)から相手方(買主)に対して、書面でオプション行使の意思表示を行います。

価格算定と通知

固定価格方式や算定式方式に従い、価格を算定します。

必要に応じて第三者評価人の関与もあります。

売買契約の締結

オプション行使を前提とした株式譲渡契約を締結します。

クロージング(決済)

指定期日までに株式譲渡および代金支払を完了します。

コール・オプションの行使手続(一般的なプロセス)

コール・オプションは、概ね、次のような手続の流れになるのが一般的です。

行使事由の発生

例えば、契約違反、IPO・M&A時の指定条件などです。

オプション行使通知

会社または創業者などの買主側から、対象株主に対して書面で意思表示します。

価格算定と通知

あらかじめ合意された価格算定方法に従い、金額を算定します。

必要に応じて第三者評価人の関与もあります。

売買契約の締結

オプション行使を前提とした株式譲渡契約を締結します。

クロージング(決済)

期日までに株式と代金のやり取りを完了します。

結び

特にオプションの行使価格はトラブルの原因となりやすいため、できるだけ明確な定義が重要となるほか、行使時の資金調達能力も検討要素となり得ます(特にPut Option)。

また、会社法上の自己株式取得との関係にも留意が必要になることがあります(会社が買受義務を負う場合)。

今回は、M&A法務ということで、株主間契約(SHA)のうちプット・オプションとコール・オプションについて見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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