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M&A法務|株式譲渡契約(SPA)-コベナンツ(ポスト・クロージング事項)

今回は、M&A法務ということで、株式譲渡契約(SPA)のうち誓約事項コベナンツ)について見てみたいと思います。

※株式譲渡契約のSPAというのは、Stock Purchase Agreementの略です

コベナンツには、クロージング(取引実行)の前か後かで、大きく

プレ・クロージング事項(取引実行の誓約事項。プレクロ事項)
ポスト・クロージング事項(取引実行の誓約事項。ポスクロ事項)

がありますが、本記事は②の話です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

ポスクロ事項

ポスクロ事項は、プレクロ事項ほど多くありません。

クロージング(取引実行)が終了している場面なので、前提条件として定めることによる実効性確保はできないほか、解除についてもクロージング後は制限されていることも多いことから、救済方法としては基本的に補償(つまりお金の問題)によることが多いとされています。

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以下、いくつかのポスクロ事項を順に見てみます。

競業避止義務

これは、売主側が対象会社(譲渡する株式の発行体のこと。以下同じ)の事業についてノウハウを持っているような場合に、株式譲渡後に売主が対象会社と競合する事業を行うことを禁止するためのものです。

事業譲渡の場合には法定の競業避止義務がありますが、他の多くの場合には法律上の定めはないため、必要であれば、M&A契約に盛り込む必要があります。

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なお、法定の競業避止義務も、競業禁止が必要な場面での内容としては不十分な場合が多いため(特に場所的範囲)、結局、必要な場合には自前で定める必要があります

法定の競業避止義務はどちらかというと、競業禁止が(売主側からして)適切でない場面で、競業避止義務を特約で排除しておく必要がある、という形で出てきます

競業禁止の内容としては、

  • 場所的範囲:日本国内か、国外も含むか等
  • 時間的範囲:株式譲渡後、何年間競業が禁止されるか等
  • 事業の範囲:対象会社の営んでいる、または今後営む予定のあるどのような事業について競業が禁止されるか等

などがあり、その他も含め、事案に応じて内容を調整して定めることになります。

従業員の雇用維持

これは、株式譲渡後も従業員の雇用や雇用条件を維持するように売主側から要望がある場合があるということです。主に、対象会社の役員や従業員の理解を得るためや、レピュテーションの観点からとされています。

ただ、買主側としては、当然ですが、その分将来の判断(条件変更や人員削減)が拘束される可能性があるため、内容を限定したり努力義務にとどめるといったことも検討されることになります。

グループ会社としての従前のサポート等の継続

これは、対象会社が売主との間で諸々の取引上のつながりがある場合に、対象会社の事業継続のために必要な措置を継続するというものです。

対象会社が売主との間で(つまり売主グループ内で)重要な取引を行っているとか、いわゆるバックオフィス業務をホールディング等で行っているとか(いわゆるシェアド)、あるいはシステムやファシリティー系(オフィス物件etc)で売主から提供を受けている、といった場合などです。

株式譲渡によって対象会社は売主グループ会社ではなくなるわけですが、こういった場合に、クロージング後も一定期間は対象会社への従前の便益提供を継続する旨をM&A契約に定めることがあります。

あるいは、M&A契約に定めるのではなく、別途、移行サービス契約(トランジション・サービス契約TSA:transition service agreemet)を締結する場合もあります(M&A契約では、TSAの締結を前提条件やプレクロ事項にするといった形で確保する)。

対象会社の商号・商標の変更等

これは、対象会社が売主グループ会社である場合などに、株式譲渡後、対象会社が売主に関連する従前の商号や商標を使用することがないようにするためのものです。

売主グループ内でライセンス契約や、包括的なロイヤリティ契約がなされている場合は、株式譲渡と同時にライセンスを終了させれば対象会社は以後の使用はできなくなるわけですが、対象会社自体が何らかの関連する商標権を保有している場合などもあります。

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そのため、売主側のグループと混同されることがないよう、クロージング後の商号の変更や一定範囲の商標等の使用禁止などが定められることがあります(逆に、変更に時間を要する場合など、クロージング後も一定期間は使用を継続できるようにする場合もある)。

売主側の情報アクセス権

これは、決算や税務申告等の関係で、株式譲渡後も対象会社の情報へのアクセスが必要なときがあるので、売主による情報アクセス権を定めておくということです。

クロージング後は、売主側にはもう対象会社と資本関係がないので、売主側の情報アクセス権を書いておくものです

一般的な協力義務

これは、契約締結時には想定していなかったものの、クロージング後も、取引を全うするために必要なその他の行為が出てくることがあるので、合理的なあるいは適切な追加的行為を互いに行うという一般的な義務を定めておくものです。

結び

今回は、M&A法務ということで、コベナンツのうちクロージング後のもの(ポスクロ事項)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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