グループガバナンス 商標法務

グループガバナンスと法務|商標管理体制

今回は、グループガバナンスと法務ということで、企業グループにおける商標管理体制について見てみたいと思います。

なお、知財管理レベルの高いグループ(グローバル企業や化学分野が主力の業界など、商標権に限らず知財戦略が磨かれた企業群)を想定したものではなく、また管理人の個人的意見です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

商標管理体制の考慮要素

商標の管理体制については、いくつかの考慮要素にわけて、その組み合わせにより、強弱さまざまな管理体制のパターンを考える、というのが一般的な(モデル的な)検討の仕方になるかなと思います。

考慮要素としては、

  • 権利帰属
  • 商標権の管理(法務的視点)
  • システム管理(IT部的視点)
  • ブランディング戦略(広告宣伝部的視点)

といったものがあるかと思います。

それぞれ完全に独立したものというよりは、相互に絡まり合っていますが(例えば、権利帰属と出願はほぼイコールであるとか、戦略的な目線に関しては法務とかブランディングとかは一体であり分けにくいなど)、モデル的に考える便宜上、項目を分けています。

権利帰属

これは文字どおり、商標権の権利帰属です。

商標権を個社が有するのか、ホールディング(以下「HD」)に集約させるのかということです。そもそも論として、一番最初に頭に浮かぶ要素かなと思います。

HDに帰属させる場合には、基本的にHDで出願することになります。

個社で商標登録後にHDに譲渡させることももちろん可能ですが、そのようにするケースはあまりないだろうと思います

商標の登録要件との関係

 ちなみに、商標権の登録要件との関係で、使用の意思というのがあり、これは「自己の業務に係る商品又は役務について」必要とされます(商標法3条1項)。つまり、自己使用です。

 ただし、以下のように、親会社から見たときの子会社などは「自己」に含めて考えられています。そのため、グループ会社で使用する商標をHD(持株会社)で出願・登録することは可能です(以下の①②)。

商標審査基準〔改訂第16版〕第3条第1項柱書解説1|特許庁HP

1.「自己の業務」について
 「自己の業務」には、出願人本人の業務に加え、出願人の支配下にあると実質的に認められる者の業務を含む。
(例)
① 出願人がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社の業務
② ①の要件を満たさないが資本提携の関係があり、かつ、その会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある場合の当該会社の業務
③ 出願人がフランチャイズ契約におけるフランチャイザーである場合の加盟店(フランチャイジー)の業務

商標権の管理

商標法務という観点からみたときには、商標権の管理(広義)は、

  • 商標権の取得
  • 商標権の管理(狭義の管理)
  • 商標権の行使

というふうに分けることができるかと思います(※広義/狭義は管理人の個人的呼称です)。

商標権の取得は、出願から登録に至る手続のことです。

商標権の管理は、ベーシックなところでは更新時期の更新(あるいは更新しないという判断)、少し細かいところになると、普通名称化の防止や、侵害行為のモニタリングといった視野広めの業務も入ります。

商標権の行使は、権利侵害の警告や、場合によっては法的措置をとることを指します。

これらを、個社でやるのか、HDでやるのか、ということです。

システム管理(IT部的視点)

これは単純にいうと、全体情報の一元化です。

単純ですが、システムをどうするかという話は大きな検討点ですし、HD管理に移行する場面、つまり個社ごとに散らばっている商標権を集約して管理体制を作る際の実際の作業は膨大になることが多いと思いますので、なかなか大変なものになります。

これを、個社でやるのか、HDでやるのか、ということです。ただ、管理体制をつくるときには、少なくともシステム管理はHDでやるという選択になるのではないかと思います(そうしないと管理体制づくりの意味がない)。

システム的に個社がどういうふうに閲覧することができるようにするのか(アクセスできるようにするのか)、といった点もあるかと思います。

ブランディング戦略(広告宣伝部的視点)

権利帰属をHDに集約する場合、必然的に何かしらのブランディング判断にもHDが関わることになるだろうと思います(出願手続はHDで行うことになりHDの目に触れるので、完全スルーの方針となるのは考えにくい)。

これは法務的な観点ではなく、広告宣伝部やブランディング部といった部署で行う視点の業務です。

つまり、登録しようとしている商標がクオリティ的にどうかとか、グループ全体のイメージに合ってるかとか、グループ全体の今後の戦略に照らしてどうかとか、あるいは単純にイケてる・イケてない、といった判断のことです。

商標管理体制のパターン

こういった考慮要素のどこまでをHDに寄せるかでパターンは無数に考えられると思いますが、本記事では、個社最適と全体最適という両極の体制を眺めたあと、その中間を考えてみるという流れで、いくつかの例を考えてみます。

①個社に権利帰属×個社で全部管理【個社最適】

これは、出願/権利帰属を個社とし、その後の管理/ブランディング判断も個社で行うというものです。

要するに、バラバラに動いている状態で、全てがそれぞれの個社の責任者の判断で行われるのみです。初期というか、成長期はこのように、必然的に個別最適の形になるのが通常だろうと思います。

【パターン①:個社最適】

考慮要素 個社 HD
権利帰属  
商標権の管理 商標権の取得  
商標権の管理  
商標権の行使  
システム管理  
ブランディング戦略  

こう書くと聞こえが悪い感じがしてしまうかもしれませんが、そうではなく、個社の自由さに振り切ったパターンだといえます。個社に裁量がありスピーディ、かつ感覚的に最も現場に密着した形での運用が容易である、というメリットがあります。

②HDに権利帰属×HDで全部管理【全体最適】

しかし、商標権の数が増えてきたり、また個社の数も増えてきたりすると、全体的にどうなっているかがよくわからなくなってくる(そういうタイミングがくる)というのが、①の欠点であろうと思います。もちろん全くわからないということではなく、ツギハギの状態で把握しているような感じ、という意味ですが。

また、個社によって管理の精度に大きなバラつきが出るのが目立つようになってきたりします。これは、商標権の管理に限った話ではないですが。

商標権でいうと、極端な場合には、更新する・しないの判断をするとかの話以前に、更新に気づかずに(弁理士からの連絡も含め結果的にスルー)、失効しているといったケースもゼロではありません

このように感じる状態になると、グループ全体の力をうまく使ってシナジーを生み出していきたいとか、全体的な管理精度を上げたい(一定の基準となるラインはキープしたい、最低ラインは設けたい)といったときに、じゃあHD管理に移行しようか、という話が出てくることになります。

HD管理を徹底した形で考えると、先ほど見たような考慮要素をすべてHDで行うことになります。

【パターン②:全体最適】

考慮要素 個社 HD
権利帰属  
商標権の管理 商標権の取得  
商標権の管理  
商標権の行使  
システム管理  
ブランディング戦略  

つまり、出願の判断(商標権とるかの判断)もHDで行う、ということになります。HDですべて徹底管理、という方向性であり、管理精度のバラつきも一掃されます。

一方、何をやるにしてもHDを通すことになるので、めんどくさ、とか、どんどん堅苦しさが増してくるなあ、大企業化してるなあ…というのが個社での本音になったりもします。

また、このようにするにはHDが大変なので、能力/人員数ともにある程度の陣容を揃えないと無理だろうと思います。

そこまで一足飛びには行けないので、少なくとも移行期には、実際にHDに集約するのは一部分とし、他の部分は個社と一緒にやる、というのが現実的かと思います。

③個社に権利帰属×HDでシステム管理のみ【①寄りの折衷案】

これは、個社で出願/権利帰属するが、HDでシステム管理(情報の一元化)のみ行うという形です。

【パターン③:システム管理のみHD】

考慮要素 個社 HD
権利帰属  
商標権の管理 商標権の取得  
商標権の管理  
商標権の行使  
システム管理  
ブランディング戦略  

つまり、基本的には①の個社最適とほぼ同じなんだけれども、管理精度のバラつきをなくしてある程度の水準をキープするために、全体状況の把握は常時きちんとやるようにする、個社に対して”更新どうですか?”みたいなフォローは出すようにする、といったイメージです。

とはいえ、個社からの情報共有がグループの方針に従ってなされなかった場合、全体情報が一元化されないので、結局もとの黙阿弥になるという不完全さもあります(逆に言うと、そこがちゃんとできるのであれば、個社の裁量を確保しつつ、全体把握もできているというそれなりに合理的なバランスを実現できる)。

④HDに権利帰属×HDで手続的な部分を管理【②寄りの折衷案】

結局、これが一番ベーシックではないかと思いますが、出願/権利帰属はHDとし、また手続的な管理部分はHDに集約するという形です。

【パターン④:手続的な部分はHD】

考慮要素 個社 HD
権利帰属  
商標権の管理 商標権の取得 出願の判断、出願の内容面(商標の内容と区分判断)は個社 出願の手続面はHD
商標権の管理 更新の希望は個社
(※モニタリング・侵害行為の察知は基本的には個社)
更新の手続面はHD
(※普通名称化の防止やセカンダリミーニング獲得に向けた継続使用など大局観が必要な管理はHD)
商標権の行使 HDと連携
システム管理  
ブランディング戦略 内容の決定(名称、デザイン等)は基本的には個社 HDは審査・補正を行う

なお、経理的な処理に関してもすり合わせが必要になる場合があります(取得原価等の関係)。

⑤その他無数のパターン

以上のほかにも、パターンは無数にあり得ると思います。

例えば、権利帰属が個社帰属かHD帰属かといっても、オールオアナッシングではなく、一定の商標は個社に残すといった方法もあるでしょうし(個社と一口にいっても、グループの中核子会社からチャレンジ的個社まで様々)。

また、商標法務/システム管理/ブランディングといった考慮要素のどこまでをHDに寄せるかの組み合わせも様々でしょうから、これらと権利帰属の程度の掛け合わせを考えると、組み合わせは無数にあるかと思います。

ただ、それでも、システム管理は一元化した方がよいだろうなとは思います(商標管理体制をつくるのであれば)。

結び

今回は、グループガバナンスということで、商標管理体制について見てみました。

パターンは沢山あると思いますが、意味のある組み合わせというか、いくつかの大局的な価値観に基づいていて、ベーシックと考えられるパターンを挙げてみました(管理人の個人的見解です)。

ネット上でも見られるものとして、以下のデロイトの記事も参考になります。

第4回 知的財産管理体制――一元管理と分散管理 | DTFA Times | FA Portal | デロイト トーマツ グループ
第4回 知的財産管理体制――一元管理と分散管理 | DTFA Times | FA Portal | デロイト トーマツ グループ

faportal.deloitte.jp

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システムまたは経産省HPに遷移します

参考文献

リンクをクリックすると、Amazonのページに遷移します

-グループガバナンス, 商標法務