今回は、下請法を勉強しようということで、まず規制の仕組み(全体像)を見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
規制の目的
下請法の正式名称は、「下請代金支払遅延等防止法」(昭和31年法律第120号)という。
下請法は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律である。
目的規定は、以下のとおり「親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめ」、「下請事業者の利益を保護」することである。
▽下請法1条
(目的)
第一条 この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
独占禁止法の補完法
下請法は、独占禁止法の補完法とか補助立法といわれていて、独占禁止法の行為規制のひとつである「優越的地位の濫用」行為をより迅速かつ効果的に規制しようとするものである。
位置付けをパッと見でわかるようにすると、以下のような感じである。
【独占禁止法】
●行為規制
┗私的独占
┗不当な取引制限
┗不公正な取引方法
┗①差別的取扱い
┗②不当対価
┗③不当な顧客誘引・取引強制
┗④不当拘束
┗⑤優越的地位の濫用 ←ココの補完法
┗⑥取引妨害・内部干渉
●構造規制ー企業結合規制
優越的地位の濫用というのは、独占禁止法の2条9項5号イ~ハと6号ホに定められていて、優越的地位を利用して以下のような行為をすることである。
- 取引に関係ない商品・役務の購入【=購入要請】(2条9項5号イ)
- 金銭役務・経済上の利益提供【=利益提供要請】(2条9項5号ロ)
- 取引条件の不利益変更(2条9項5号ハ)
- 取引の相手方に対する不当干渉(2条9項6号ホ→一般指定13項)
では、下請法のどこが「より迅速かつ効果的な規制」なのか?というと、
- 独占禁止法では、「優越的地位」を個別に判定する必要があるのに対し、
- 下請法では、
- 資本金に一定以上の差がある親事業者をいわば定型的に「優越的地位」にあるとみて、
- かつ、濫用が行われがちな取引類型を括り出して適用対象にし、
- 書面の交付義務など、親事業者のより細やかな義務や禁止行為を規定した
という感じである(管理人の理解)。
正確な解説は、以下のとおりである。
▽講習会テキスト【1-(1)】
1 下請代金支払遅延等防止法の内容
(1) 本法制定の趣旨
下請取引における下請代金の支払遅延等の行為は,独占禁止法の不公正な取引方法のうち優越的地位の濫用行為に該当し,同法第 19 条の規定に違反するおそれがある行為であるが,同法により規制する場合は,当該行為が「取引上優越した地位を利用したものかどうか」,「不当に不利益なものかどうか」を個別に認定する必要がある。この認定には,相当の期間を要し問題解決の時機を逸するおそれがある上,親事業者と下請事業者との継続的取引関係をむしろ悪化させる要因となる場合もあり,結果として下請事業者の利益にならないことも考えられる。
また,下請取引の性格上,下請事業者が親事業者の違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に申告することは,余り期待できない。
したがって,下請事業者の利益を確保するためには,独占禁止法の違反事件処理手続とは別の簡易な手続が必要であるとの考えから,下請代金支払遅延等防止法(以下「本法」という。)が,昭和 31 年に独占禁止法の補完法として制定された。
すなわち,本法は,適用対象を明確にし,違反行為の類型を具体的に法定するとともに,独占禁止法に比較して簡易な手続を規定し,迅速かつ効果的に下請事業者の保護を図ろうとするものである。
独占禁止法と下請法の適用関係
下請法は独禁法の補完法なので、下請法が適用されない場合でも、独禁法の優越的地位の濫用規制が適用される可能性はあるので、注意が必要である。
ちなみに、独禁法と下請法の両方の要件を満たす場合にどうなるのか?というと、管理人が見た範囲では、意外とはっきりしない。昔の「優越的地位濫用ガイドライン」に、”双方が適用可能な場合には、通常、下請法を適用する”旨の記載があったようだが、今は見当たらない。
また、解説書には、“事実上下請法が優先的に適用される”と書いたものなどもあるが、通常とか事実上の意味が、いまひとつはっきりしない。
なお、下請法に基づく勧告に従った場合には独禁法が適用されないこと(排除措置命令や課徴金納付命令が課されない)については明文がある(下請法8条)。
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)
第八条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条及び第二十条の六の規定は、公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、親事業者がその勧告に従つたときに限り、親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。
特別法的な位置づけであるのは間違いないのだが、「特別法は一般法に優先する」という意味での特別法・一般法の関係というのとは若干違うということなのかもしれない。
(下請法が適用される場合は独禁法は適用されない、というわけではない。例えば、下請法に基づく勧告に従わなかったときは独禁法上の措置が発動されることがある。講習会テキスト1の(6)のイ参照)
なので、”補完法”とか”補助立法”とかいう表現が使われていることが多いのではなかろうか、と思う(管理人の私見)。
主な法令等
勉強の際に参照すべき、下請法に関する主な法令等を表にすると、以下のとおりである。
全てネット上で見ることができる。(リンクについては本記事末尾の主要法令等を参照)
法令 | 行政解釈 (通達、Q&A等) | 解説書 |
---|---|---|
➢下請法 (「下請代金支払遅延等防止法」) ➢下請法施行令 (「下請代金支払遅延等防止法施行令」) | ➢下請法運用基準 (「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」) ➢下請法Q&A (「よくある質問コーナー(下請法)」) | ➢ポイント解説下請法(親事業者向け) (「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック」) ➢講習会テキスト (「下請取引適正化推進講習会テキスト」) |
規制の仕組み
下請法の規制の仕組みはシンプルで、下請法の適用要件を満たす場合は、親事業者に4項目の義務と11項目の禁止が課せられる、というものである。
適用要件
下請法は、適用対象となる下請取引の範囲を、取引の主体と取引の内容という2つの側面から定めている。
取引の主体については、親事業者が下請事業者に対し優越的地位にあると見られる”立場の格差”を、資本金の大小の差によって定型的に判断できるようにしている。
つまり、資本金の規模の差によって定型的に定めている。これが「資本金区分」である。以下の4パターンある(詳しくは別記事にて)。
【資本金区分】
- 親事業者「3億円超」⇔下請事業者「3億円以下」
- 親事業者「1000万円超〜3億円以下」⇔下請事業者「1000万円以下」
- 親事業者「5000万円超」⇔下請事業者「5000万円以下」
- 親事業者「1000万円超〜5000万円以下」⇔下請事業者「1000万円以下」
取引の内容については、濫用が行われがちな取引類型として、以下の4つの取引区分を適用対象としている(詳しくは別記事にて)。
【取引区分】
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
適用の効果
以上により親事業者が下請法の適用対象となる場合、親事業者には、以下のような4項目の義務と11項目の禁止が課せられる。
【親事業者の義務】(4項目)
- 書面の交付義務
- 支払期日を定める義務
- 書面の作成・保存義務
- 遅延利息の支払義務
【親事業者の禁止行為】(11項目)
- 受領拒否の禁止
- 下請代金の支払遅延の禁止
- 下請代金の減額の禁止
- 返品の禁止
- 買いたたきの禁止
- 購入・利用強制の禁止
- 報復措置の禁止
- 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
- 割引困難な手形の交付の禁止
- 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
親事業者の義務(4項目)は、「~せよ」という義務(作為義務)であり、親事業者の禁止行為(11項目)は、「~するな」という義務(不作為義務)である。
結び
今回は、下請法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について書いてみました。
▽次の記事
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下請法を勉強しよう|資本金区分(取引の主体に関する要件)
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
主要法令等