下請法

下請法を勉強しよう|親事業者の禁止行為③ー下請代金の減額の禁止

今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の禁止行為のうち「下請代金の減額の禁止」について書いてみたいと思います。

下請法の適用対象になったとき、親事業者には4つの義務と以下のような11の禁止事項が課せられますが、

【親事業者の11の禁止事項】
4条1項のグループ
①受領拒否の禁止
②下請代金の支払遅延の禁止
下請代金の減額の禁止 ←本記事はココ
④返品の禁止
⑤買いたたきの禁止
⑥購入・利用強制の禁止
⑦報復措置の禁止
(4条2項のグループ)
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
⑨割引困難な手形の交付の禁止
⑩不当な経済上の利益の提供要請の禁止
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

本記事は上記のうち黄色ハイライトを引いた箇所の話です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

下請代金の減額の禁止(3号)

三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

親事業者が、発注時に定めた下請代金の額を減ずることである。

「歩引き」や「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多少を問わない。また、発注後いつの時点で減じても本法違反となる。

「減ずる」

名目を問わない

減額の名目には以下のような多様なものがあり(講習会テキストに記載)、いかに減額の事態が多いかを物語る。

【これまでに違反とされたことのある減額の名目】

「歩引き」「リベート」「本部手数料」「一時金」「一括値引き」「オープン新店」「管理料」「基本割戻金」「協賛金」「協賛店値引」「協定販売促進費」「協力金」「協力費」「協力値引き」「決算」「原価低減」「コストダウン協力金」「仕入歩引」「支払手数料」「手数料」「特別価格協力金」「販売奨励金」「販売協力金」「不良品歩引き」「物流及び情報システム使用料」「物流手数料」「品質管理指導料」「分引き」「値引き」「年間」「割引料」など

▽講習会テキスト【1-(5)-ウ】

Q67  業界では「歩引き」や「手数料」等の名目で,慣行として下請事業者に支払う下請代金の額から差し引くことが行われているが,このような行為も本法違反となるのか。

  業界で慣行として行われていることであっても,差し引く名目にかかわらず,発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずることは本法違反となる

合意の有無を問わない

仮に親事業者と下請事業者との間で下請代金の減額等についてあらかじめ合意があったとしても、下請事業者の責めに帰すべき理由なく下請代金の額を減ずる場合は違反となる。

▽講習会テキスト【1-(5)-ウ】

Q69 親事業者と下請事業者との間で下請代金の額を減ずることについてあらかじめ合意があったとしても,下請事業者の責めに帰すべき理由なく,下請代金の額を減じている場合は本法違反となるとされているが,例えば,事前に契約書等の書面において,歩引きとして5%を下請代金の額から差し引く旨の合意を記載していても問題になるのか。

 本法第4条第1項第3号は,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,親事業者が下請事業者の給付に対し支払うべき代金(下請代金)の額を減ずることを禁止しているものであり,親事業者と下請事業者との間で,歩引きとして5%を下請代金の額から減ずることについてあらかじめ合意し契約書等で書面化していても,問題となる

「歩引き」(ぶびき)とは、割引のひとつ。早く現金のほしい事業者が、 決められた支払期日よりも先に支払いがあったときには請求金額よりも割り引いて構わないと提案することで発生する割引のこと

方法を問わない

下請法運用基準では、以下のような多様な例も、本号の「減ずる」に該当するとされている。

▽下請法運用基準【第4-3-(1)】

下請代金の額を「減ずること」には,親事業者が下請事業者に対して,

 消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと。

 下請事業者との間で単価の引下げについて合意して単価改定した場合,単価引下げの合意日前に発注したものについても新単価を遡及適用して下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引くこと。

 支払手段としてあらかじめ「手形支払」と定めているのを下請事業者の希望により一時的に現金で支払う場合において,手形払の場合の下請代金の額から短期の自社調達金利相当額を超える額を差し引くこと。

 親事業者からの原材料等の支給の遅れ又は無理な納期指定によって生じた納期遅れ等を下請事業者の責任によるものとして下請代金の額を減ずること。

 下請代金の総額はそのままにしておいて,数量を増加させること。

 下請代金の支払時に,1円以上を切り捨てて支払うこと。

 下請事業者と書面で合意することなく,下請代金を下請事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ,下請代金から差し引くこと。

 下請代金を下請事業者の金融機関口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させることを書面で合意している場合に,下請代金の額から金融機関に支払う実費を超えた額を差し引くこと。

 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。

等も含まれる。

減額にあたる方法として、講習会テキストでは以下のような解説もある。
(上記ケの割戻金のこと。いったん全額払うが一部を後で戻させる方法)

●下請代金の額を減ずる方法
 下請代金の額を「減ずること」には,下請代金から減ずる金額を差し引く方法のほか,親事業者の金融機関口座へ減ずる金額を振り込ませる方法等も含まれる。

振込手数料についても言及されていて、書面での合意なしに差し引いたり(上記キ)、合意があっても実費を超えた額を差し引くと(上記ク)、本号違反とされます。

「減ずる」にあたらない場合

ボリュームディスカウントの場合は、合理的な理由に基づく割戻金として、下請法運用基準により下請代金の減額にあたらないとされている。

▽下請法運用基準【第4-3-(1)】

なお,ボリュームディスカウント合理的理由に基づく割戻金(例えば,親事業者が,一の下請事業者に対し,一定期間内に一定数量を超える発注を達成した場合に,当該下請事業者が親事業者に支払うこととなる割戻金)であって,あらかじめ,当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がなされ,その内容が書面化されており,当該書面における記載と発注書面に記載されている下請代金の額とを合わせて実際の下請代金の額とすることが合意されており,かつ,発注書面と割戻金の内容が記載されている書面との関連付けがなされている場合には,当該割戻金は下請代金の減額には当たらない。

「合理的理由」については、以下のように解説されている。

▽講習会テキスト【1-(5)-ウ】

Q68 下請代金の減額に当たらないとされるボリュームディスカウントとはどのようなものか。

 ①例えば,親事業者が,下請事業者に対し,一定期間内に,一定数量を超えた発注を達成した場合に,下請事業者が親事業者に対して支払う割戻金であって,あらかじめ,②当該割戻金の内容が取引条件として合意・書面化されており,③当該書面における記載と3条書面に記載されている下請代金の額とを合わせて実際の下請代金の額とすることが合意され,かつ,④3条書面と割戻金の内容が記載されている書面との関連付けがなされている場合には下請代金の減額には当たらない。
 運用基準にいう「合理的理由」とは,ボリューム及び割戻金の設定に合理性があるものであって,具体的には発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により,当該品目の取引において下請事業者の得られる利益が,割戻金を支払ってもなお従来よりも増加することを意味する。
 したがって,①対象品目が特定されていない発注総額の増加のみを理由に割戻金を求めることはボリュームディスカウントには該当しない。また,②単に,将来の一定期間における発注予定数量を定め,発注数量の実績がそれを上回るものは該当しない。特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)における発注予定数量が,基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)において実際に発注した実績を上回るとともに,それに伴い,下請事業者が,割戻金を支払ったとしても,期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。
 なお,現在のところ,合理的な理由に基づく割戻金と認められるものは,ボリュームディスカウントのみである。

また、減額にあたらない場合として、講習会テキストでは以下のような解説がある。

▽講習会テキスト【1-(5)-ウ】

●下請代金の額を減ずることに当たらない場合
 以下の場合は,下請代金の額を「減ずること」には当たらない。
(ア)  下請事業者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を下請代金から差し引くこと。

(イ)  発注前に,下請代金を下請事業者の金融機関口座へ振り込む際の振込手数料を下請事業者が負担する旨の書面での合意があり,親事業者が金融機関に支払う実費の範囲内で当該手数料を差し引いて下請代金を支払うこと。

(ウ)  下請事業者との間で支払手段を手形と定めているが,下請事業者の希望により一時的に現金で支払う場合に,親事業者の短期調達金利相当額を差し引いて下請代金を支払うこと。

振込手数料については、前述の、減額に当たる場合とされるキとクの場合と対比させて読むと、対になっていることがわかります。

発注前に書面で合意すること、②親事業者が負担した実費の範囲内での差引きに限ること、の2点を守れば、下請事業者の負担としても減額には当たらない(本号違反とはされない)、ということです。

▷参考サイト:下請法 知っておきたい豆情報 その4【振込手数料について】|公正取引委員会HP

「下請事業者の責に帰すべき理由」

下請事業者の責に帰すべき理由として、下請法運用基準に示されているのは以下の場合である。

  • 下請事業者の責めに帰すべき理由(瑕疵の存在,納期遅れ等)があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合に,受領拒否又は返品をしてその給付に係る下請代金の額を減ずるとき
  • 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって,受領拒否又は返品をせずに,親事業者自ら手直しをした場合に,手直しに要した費用など客観的に相当と認められる額を減ずるとき
  • 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして,受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって,受領拒否又は返品をせずに,瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に,客観的に相当と認められる額を減ずるとき

原文は以下のとおり。

▽下請法運用基準【第4-3-(2)】

(2) 「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の額を減ずることが認められるのは,次のア及びイの場合に限られる。
 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして,下請事業者の給付の受領を拒んだ場合又は下請事業者の給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせた場合(減ずる額は,その給付に係る下請代金の額に限られる。)
 「1 受領拒否」(2)又は「4 返品」(2)にいう下請事業者の責に帰すべき理由があるとして受領を拒むこと又は給付を受領した後その給付に係るものを引き取らせることができるのに,下請事業者の給付を受領し,又はこれを引き取らせなかった場合において,委託内容に合致させるために親事業者が手直しをした場合又は瑕疵等の存在若しくは納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合(減ずる額は,客観的に相当と認められる額に限られる。)

結び

今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の禁止行為のうち「下請代金の減額の禁止」について書いてみました。

▽次の記事

下請法を勉強しよう|親事業者の禁止行為④ー返品の禁止

続きを見る

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システム又は公正取引員会HPの掲載ページに飛びます
  • 下請法(「下請代金支払遅延等防止法」)
  • 下請法施行令(「下請代金支払遅延等防止法施行令」)
  • 3条書面規則(「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」)
  • 下請法運用基準(「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」)
  • 下請法Q&A(「よくある質問コーナー(下請法)」)

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