法律の勉強を始めたころにとっつきにくい用語の代表格は、パンデクテン方式ではないでしょうか。
まず響きがいかついですし、管理人も学生時代に目にしたとき、いろいろな用語のすべてがなんだか高尚で難解に聞こえる中で、「パンデクテン」とか言われるともうトドメ、みたいな感じ(?)だったような気がします笑。教科書読んでも当時よくわからなかったですし。
ただ、わかってしまうとそんなに難しい話ではなく、結論から言ってしまうと、これは目次の組み立て方(情報の整理の仕方)のことで、内容的には因数分解のロジックを使ったものです(深淵な理解はもっとあるんでしょうが、ひとまず置いといて)。
本記事では、民法を学び始めたばかりの初学者(昔の管理人)に向けて、パンデクテンという用語とその概念、そしてなぜそれが日本の民法学習において重要なのかをわかりやすく解説します。
そもそもパンデクテンとは何か
「パンデクテン」という言葉には、大きく分けると2つの意味があるようです。
① 歴史的な書物の名前として
もともとは、ローマ法大全(Corpus Iuris Civilis)の一部である学説彙纂(がくせついさん)のことを指します。
6世紀にローマ皇帝ユスティニアヌスが編纂させたもので、当時の著名な法学者たちの学説を集大成したものです。ラテン語ではDigesta、ギリシア語ではPandectaeと呼ばれ、”全て集めた物”つまり会典、百科全書のような意味合いがありました。
② 法の体系(システム)として
法学部生にとって重要なのはこちらです。
19世紀のドイツ(当時のプロイセンなど)で、上記のローマ法を研究し、緻密に体系化した法学の一派をパンデクテン法学と呼びます。彼らが作り上げた民法の構成スタイル(目次の並べ方)をパンデクテン・システム(方式)と呼びます。
日本の民法は、このパンデクテン方式を採用して作られています。
パンデクテン方式の内容:因数分解の論理
では、パンデクテン方式とは具体的にどのようなものでしょうか?
これを理解するには、数学の因数分解をイメージするのが一番の近道です。
共通項をくくり出す技術
例えば、以下のような数式があるとします。
ax + ay + az
これを数学では、共通している 「a」を前にくくりだして、以下のように整理しますよね。
a(x + y + z)
パンデクテン法学は、これと同じことを法律で行いました。
- x: 本を買う(売買契約)
- y: アパートを借りる(賃貸借契約)
- z: お金を貸す(消費貸借契約)
これらすべての契約に共通する要素(「a」)は何でしょうか? それは、人が意思をもって行う行為であること、つまり法律行為です。
また、時効のルールや、代理のルールも、売買・賃貸・金銭貸借すべてに共通して使えます。
このように、個別のルールすべてに共通する要素を共通項(「a」)として抽出し、法典の一番最初にまとめたものが、総則(General Provisions)になります。
これの何がいいのかというと、同じこと(「a」)をくり返さなくて済む、ということです。
単にax、ay、azと順に記述していくとしたら、「a」にあたる内容を3回書かないといけませんが、こういった重複を省くことができ、全体をスッキリまとめることができる、と考えるわけです
くくり出しは何回でも行われる
先ほど、因数分解のイメージを借用して「a(x + y + z)」と書きましたが、実際には、共通項のくくり出しは全体だけではなく、それぞれの部分でも行われますので、1回とは限りません。
例えば、契約が、成立し、一定の効力を生じ、終了する(解除)といった事柄は、売買契約・賃貸借契約・請負契約etcの契約種別に関係なく、全ての契約に共通する要素なので、「契約」の「総則」としてくくり出していたりします。
このように、「総則」は他の部分でも何度も出てきます。
ただ、本記事では単純化のために、典型的なわかりやすい例として、民法全体の総則(「第1編 総則」)を主に取り上げています。
なぜ民法は「総則」から始まるのか
法学部に入って最初にぶつかる大きな壁は、おそらく民法ではないでしょうか。
売買や賃貸借といった具体的な契約の話ならイメージしやすいのに、民法はいきなり総則という、抽象的で掴みどころのない分野から始まります。法律行為や意思表示……。なぜこんなに難しい話が最初に来るのでしょうか?
実は、今回解説しているパンデクテンが、その理由なのです。
日本の民法典は、パンデクテン方式を採用しているため、以下のような目次になっています。
第1編 総則(全員・全取引etcに共通する抽象的なルール)
第2編 物権
第3編 債権
第4編 親族
第5編 相続
この構成には、法律の条文重複をなくし、論理的で美しい体系を作るという立法者側のメリットがあります。非常に合理的で科学的なシステムといえます。
しかし、学習者(初学者)にとってはデメリットがあります。
それは、最も抽象的でわかりにくい話(総則)が、一番最初に来てしまうということです。
具体的な売買(x)や賃貸(y)を学ぶ前に、いきなり抽象的な法律行為(a)を学ばなければならないため、「結局、何の話をしているの?」と迷子になりやすいわけです。
パンデクテン方式を知った上での学習のコツ
そこで最後に、このシステムを踏まえた上での学習のアドバイスを送ります。
① 最初から完璧に理解しようとしない
第1編「総則」は、後ろにある「物権」や「債権」をすべて学んで初めて、「ああ、あれは共通項だったのか!」と理解できる性質のものです。
最初はわからなくても、これは後で出てくる具体的な話の共通ルールなんだな程度に捉えて、先に進んでしまいましょう。
② 具体例(各論)と行ったり来たりする
総則(a)を勉強しているときは、できるだけ「これは売買(x)のときはどうなる?」「賃貸(y)だとどうなる?」と、具体的な契約(各論)と組み合わせてイメージしてください。
「a」だけを凝視していても意味はよくわからないからです。「x」 や 「y」 に当てはめて初めて意味を持ちます。
結び
今回は、法律の勉強を始めたころにとっつきにくい用語の代表格として、パンデクテン方式について見てみました。
本記事のハイライトをまとめます。
本記事のハイライト
- パンデクテンとは: ローマ法の「学説彙纂」、および19世紀ドイツで発展した法学体系のこと
- パンデクテン方式とは: 数学の因数分解のように、共通ルール(総則)を前にくくりだす構成のこと
- 日本の民法: この構成を採用しているため、冒頭に抽象的な「総則」があり、初学者にはハードルが高くなっている
パンデクテンという用語は、一見難しそうに見えますが、実は、情報を整理整頓するための合理的なツールの名前、という感じです。
民法に限らず、パンデクテン方式での整理は基本的にどの法令でもそうなっているので、早めに頭に入れておいて損はないかと思います。
[注記]
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