法律コラム

「Dr.STONE」の通信機自作と「通信」の意味

アニメ「Dr.STONE」、最初はあんまりピンと来なかったのだけど、科学好き少年のクロム、物づくり大好きおじいちゃんのカセキが出てきたあたりからおもしろくなってきて、結局全部見てしまった。

第2期ではついに原始の世界(文明崩壊後の世界)で通信機を自作してしまう。これをアニメのストーリーに持ってくる発想がすごい。ここからどうやってつくんのよ、と見ている方もちょっとワクワクしてしまう。

ツカサとの戦いに備え、「バトルは情報戦から!」という感じで、でっかい通信機を自作して背中に背負って歩いていく。要所要所で、離れた場所にいる仲間との通信が重要になっていく。

法律でも「通信」って色々なところで出てくるので、普段はつい何だか難しいもののように考えている(ような気もする)。

けど、ふと、「通信」の原形ってこういうことなんだよなー、と思うと、シンプルかつ深い概念だなと思って、法律で通信が出てくるところを振り返ってみた。

「通信」の法律的な意味

通信の意味はざっくりいうと、「隔地者間の意思疎通」、要するに離れた場所の者同士が連絡を取り合うことである。

大昔からあるのは手紙なんだろうけども、電話もメールもLINEもSNSも通信だし、スマホ含め普段インターネットでやっていることは、ほぼ全部「通信」。IT革命って、たしか情報通信革命っていうんでしたっけ。

古くからあるものでも、新しいものでも、離れた場所の者同士の意思疎通は、通信。

そういうわけで、普段何気なく使っている「通信」という言葉だけども、法律的にもいろんなところに顔を出すなあと。

電気通信事業法

思いつくままでもちょっと挙げてみると、通信業者(大手キャリアとか)で働く人にはおなじみかつ仕事で一番重要だと思うけど、電気通信事業法はまず頭に浮かんでくるなと。

2条に「電気通信」の定義があって、以下のような内容になっている。

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。

特商法の表記

あるいは、普段あまり気にしたことはないかもしれないけど、ネットショップやWebサービス、ゲームなどのサイトで目に入ってくる、「特商法の表記」というページ。

これは、一瞬、通信と何の関係があるのか?という感じだけど、特商法の表記というページは、通信販売の広告規制上の措置である。

(通信販売についての広告)
第十一条
 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。(以下略)

通信販売というのは、申込手段を通信とする商品の販売などのことで、

①郵便、信書便
②電話機、FAX機等の通信機器または情報処理の用に供する機器
③電報
④預金または貯金の口座に対する払込み

といった申込手段が列挙されている(施行規則2条)。

要するに、インターネットを通じて販売しているので、商品のネットショップでもWebサービスでも、離れた場所にいる者同士で契約しようとするものなわけで、これらは通信販売になる(上記②の「情報処理の用に供する機器」に該当)。

そういう通信販売のときは(対面で確認できないので)、取引の基本条件や連絡先など一定事項は広告のなかで明示しておきなさいよ、というルールである。

ネット誹謗中傷と発信者情報開示請求

また、最近特に問題の、インターネット上の誹謗中傷について、被害者の救済という側から見たときにハードルを上げているのは、加害者の本人特定、つまり通信の秘密という壁である。

ただ、これは壁といっても、制度としては、被害者の名誉や人格に関する権利と、通信の秘密や匿名表現の自由とのバランスの問題なので、そこが難しい論点になっている。今年2月26日に改正されましたっけ(▷総務省HP)。

法律でいうと、プロ責法(プロバイダ責任制限法)での、発信者情報開示請求の話になる(※以下は改正前の条文)。

(発信者情報の開示請求等)
第四条
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一~ニ (略) 

昔ながらの論点

そういう風に、比較的最近のトピックに関連してるかと思いきや、昔からある通信傍受による捜査の問題とか(もう立法的には解決されてますが)、郵便業者の人は当然だけど信書の秘密を保持してねというのも、通信の秘密に関する話である(郵便法8条)。

(秘密の確保)
第八条
 会社の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。
 郵便の業務に従事する者は、在職中郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

通信の秘密ということで出てきたが、もともと憲法で「通信の秘密」を保障する、という形で通信の概念がある。

法体系を見たときには、ここが元締めをしつつ、起点となりいろんな法律に派生しているという感じである(ざっくり全体を眺めたときには、という話)。

第二十一条 
 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

結び

「通信」というのは、意外と身近なところで何気なく目にしていて、法律的にもいろんなところに顔を出す、ときには複雑なもののように感じることもあるけれども、

原始的には、離れた場所の者と意思を通じ合うという、ただそれだけのシンプルなことのはずで、法体系的にも「通信」というひとつのシンプルな概念でつながっている。

みたいなところは、法律のなかなか面白いところのひとつかなー、と思う。

[注記]
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