今回は、景品表示法ということで、総付景品規制における自他共通割引券について見てみたいと思います。
自他共通割引券は、総付景品規制の適用除外のところで出てくる概念ですが、結論としては、
「値引だから景品類ではない」とするのではなく、いったん景品類に該当させたうえで、同額割引等の要件を満たすものについて総付景品の限度額規制から除外する
という構造になっています。消費者庁のQ&Aにも記載があります。
本記事で取り上げるのは、この前半部分、自他共通割引券が「値引きにあたらない」という部分につき、それはなぜか?という点です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
まず結論を確認(消費者庁Q&A)
自他共通割引券とは、自社での取引だけでなく、他のお店(他の事業者)との取引でも共通して使える割引券のことです。
例えば、A店が「次回A店で500円引き」とする券を交付する場合(自店限定の割引券)、継続するA店との取引全体で見れば、A店が自ら受け取る対価を500円減らすものです。そのため、通常の値引として景品類に該当しません。
これに対し、A店・B店の双方で使える自他共通割引券を、A店の買物客に交付した場合、B店で使用される局面では、
- A店との取引価格は減額されていない
- 消費者は、A店との取引を契機として、B店との別の取引で500円分の利益を得ている
ことになります。したがって、A店が自己の販売価格を下げたというよりも、A店との取引に付随して、他店でも利用できる経済上の利益を付けたものと評価されます。
他店での使用可能性がある以上、交付事業者自身の取引対価の減額だけでは説明できず、独立した経済上の利益の提供という性質を持つため、値引きには該当しないということです
もっとも、実質的には通常の値引に近いため、同額割引等の一定の要件を満たす自他共通割引券については、別途、総付景品規制の適用除外が設けられています。
| 券の性質 | 景品類該当性 | 総付景品規制 |
|---|---|---|
| 自店だけで使える通常の割引券 | 原則として非該当(値引) | 適用なし |
| 自他共通割引券 | 該当 | 自他いずれでも同額を割り引く、正常な商慣習に照らして適当、といった一定の条件を満たせば、総付景品規制の適用除外 |
以上のような整理は、消費者庁のQ&Aでも示されています。
▽景品に関するQ&A-総付景品について【Q122】|消費者庁HP
当店で2,000円以上購入してくれた顧客に対し、次回の買い物の際に当店だけではなく他店でも共通して使用できる500円分の割引券を差し上げようと考えていますが、この割引券は景品類に該当し、総付景品の規制が適用されますか。
自己の供給する商品又は役務の取引だけではなく他の事業者の供給する商品又は役務の取引においても共通して用いられる割引券は、「値引と認められる経済上の利益」には該当せず、景品類に該当します。しかしながら、自己と他の事業者の取引において同額の割引を約する証票であって、正常な商慣習に照らして適当と認められるものについては、総付景品の規制は適用されません。
したがって、本件は、取引の価額2,000円の10分の2である400円を超えた500円分の割引券を提供することになりますが、この割引券が、正常な商慣習に照らして適当と認められるものであれば総付景品の規制は適用されず、問題となりません。ただし、特定の商品・サービスと引き換えることにしか用いることのできない証票(例えばドリンク1杯無料券、ケーキ1個引換券)や、他店でのみ使用できる割引券(例えば飲食店Aが提供する飲食店Bの割引券)等の場合は、総付景品の規制の対象となります。
もっとも、このQ&Aからは、「自他共通割引券は値引きにはあたらない」という結論は明確であるものの(回答の前半部分)、その理由については直接窺い知ることはできません。また、他の公式資料(告示や運用基準など)によっても、この点を直接に明示した部分は見当たりません。
結論としては、シンプルに「値引きの定義にあたらないため」だと考えられますが、本記事では以下、順を追って丁寧めに検討していきたいと思います。
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景品表示法|景品規制における「総付景品規制の適用除外」4つのケース
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自他共通割引券に関する規制の有無の検討フロー
01|まず「景品類」の積極要件に該当する
景品類指定告示第1項は、景品類を、おおむね次のような3要件で定義しています。
- 顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)
- 自己の供給する商品・役務の取引に付随して(取引付随性)
- 相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益(経済上の利益)
上記のQ&Aのように、2,000円以上の購入者に500円分の自他共通割引券を交付する場合、
- 購入を促すためのものである
- 購入を条件として交付される
- 将来の商品等を500円安く購入できる
ため、原則として、この定義に該当します。
運用基準4⑴も、「取引を条件として他の経済上の利益を提供する場合」を「取引に附随」する提供とし、5⑵も、商品・役務を通常価格より安く購入できる利益を「経済上の利益」に含めています。
02|次に告示但書の「値引」による除外を検討する
もっとも、景品類指定告示第1項但書は、
正常な商慣習に照らして値引と認められる経済上の利益
を景品類から除外しています。
その具体例として、運用基準6⑶アは、
取引の相手方に対し、支払うべき対価を減額すること(複数回の取引を条件として対価を減額する場合を含む。)
を挙げています(減額類型)。例示には「○円お買上げごとに、次回の買物で○円の割引」も含まれています。
したがって、自店でのみ使える次回割引券は、通常、この類型に該当します。
03|自他共通割引券はなぜ「値引(減額類型)」にあたらないのか
ここでいう「支払うべき対価の減額」は、文脈上、景品提供者が自己の供給する商品・役務の取引において受け取る対価を減額することを意味します。
ところが、A店が交付した自他共通割引券をB店で使用した場合、減額されるのは、
消費者がB店に支払うべき対価
です。A店が自己の取引について受け取る対価を減額しているわけではありません。
したがって、自他共通割引券は、A店との取引を契機として、B店との取引にも利用できる経済上の利益を付加したものであり、単純な「自己の取引における対価の減額」には収まりません。
そのため、自他共通割引券は、値引除外とならず、景品類に該当します。Q122も、自他共通割引券は「値引と認められる経済上の利益」には該当せず、景品類に該当する、という記載になっています。
04|運用基準6⑷の「値引非該当類型」との関係
運用基準6⑷アは、値引に当たらない場合として、
- 懸賞による対価の減額・割戻し
- 減額・割戻しをした金銭の使途を制限する場合
- 景品類の提供と組み合わせる場合
を挙げています(値引非該当類型)。自他共通割引券は、この③にはあたらないのでしょうか。
景品類の提供と組み合わせる場合とは
運用基準6⑷アは、次の場合を「値引と認められる経済上の利益」に当たらないとしています。
対価の減額又は割戻しであっても、…同一の企画において景品類の提供とを併せて行う場合
(例:取引の相手方に金銭又は招待旅行のいずれかを選択させる場合)
この例は、
- 金銭の割戻しを選べば「値引」
- 招待旅行を選べば「景品類」
という、性質の異なる二つの利益を一つの企画で選択的に提供するケースです。そのため、企画全体を純粋な値引として扱わない、という規定です。
自他共通割引券はどうか
一方、自他共通割引券は、使用先が自店でも他店でも、提供されるものは一個の「500円割引券」です。自店で使用すれば自己の取引における対価の減額になりますが、他店で使用すれば他の事業者との取引における対価の減額になります。
したがって、自店で使える部分は値引・他店で使える部分は景品類であり、両者を組み合わせていると捉え、6⑷アに類似するという理解は一応可能かと思われます。
ただし、直接に適用されると考えるのは難しいところがあります。
自他共通割引券は、値引と招待旅行のように別種の利益を選択させるものではなく、使用先が違うだけで、券の額面・機能は一貫して「500円の対価減額」です。運用基準6⑷アの典型例とは構造が異なります。
したがって、自店における値引としての機能と、他店で利用できる景品的利益とを備えている点では、運用基準6⑷アの「景品類の提供とを併せて行う場合」と実質的に共通する面がある、という程度の理解にとどめておくのが無難と思われます。
値引に該当しないという理由は、やはり前述03のとおり、値引(減額類型)の定義にあたらないから、という説明が中心になります。
05|そのうえで総付景品告示による特別の適用除外がある
自他共通割引券が景品類に該当すると、通常は総付景品規制の対象になります。
しかし、総付景品告示第2項第3号は、
自己の供給する商品又は役務の取引において用いられる割引券その他割引を約する証票
で、正常な商慣習に照らして適当なものについて、景品類に該当する場合でも総付景品規制を適用しないとしています。
さらに、その運用基準4⑵は「証票」に、
自己の取引及び他の事業者の取引において共通して用いられ、同額の割引を約する証票
つまり自他共通割引券(ただし同額割引に限る)を含めています。
以上をまとめると、全体の法的構造は次のとおりです。
| 判断段階 | 自他共通割引券の評価 |
|---|---|
| 景品類該当性(景品類指定告示本文) | 顧客誘引性・取引付随性・経済上の利益があり、該当 |
| 値引除外(同告示但書) | 自己の取引における対価の減額だけではないため、非該当 |
| 結論① | 景品類に該当 |
| 総付規制の適用除外(総付景品告示2項3号) | 自他の取引で同額を割り引く証票なら、特別に適用除外 |
| 結論② | 景品類ではあるが、一定の場合は総付景品規制を受けない |
結び
自他共通割引券は、運用基準6⑷に明記された「値引非該当類型」に直接当てはめるというより、そもそも6⑶アの「対価の減額」に収まらないため、告示但書の値引除外を受けない、という整理になります。
今回は、景品表示法の景品規制における自他共通割引券の位置付けについて見てみました。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- よくわかる景品表示法と公正競争規約〔令和6年12月改訂〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 事例でわかる景品表示法〔令和6年12月改訂〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 違反事例集(「景品表示法における違反事例集」)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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