今回は、法令用語を勉強しようということで、「別段の定め」と「かかわらず」を見てみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書を読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
「別段の定め」と「かかわらず」は一見関係ないようですが、一般規定と特別規定の関係を示すにあたって対のように使うことができる用語になります。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
「別段の定め」
他に特別規定があることを示す
「別段の定め」は、
別段の定めがある場合を除くほか
とか、
特別の定めがある場合を除くほか
などの形でよく使われ、ある規定のなかで、他に例外があること(同じ法令の中の他の規定やあるいは他の法令に、特別のルールがあること)を示します。
つまり、いわゆる一般法と特別法の関係(”特別法は一般法に優先する”)があることを明示するときに、一般法の側に置かれるものです。
▽国税通則法4条
(他の国税に関する法律との関係)
第四条 この法律に規定する事項で他の国税に関する法律に別段の定めがあるものは、その定めるところによる。
▽行政事件訴訟法1条
(この法律の趣旨)
第一条 行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
別段の定め/特別の定め?
ちなみに、上記の例では「別段の定め」と「特別の定め」に特に使い分けはないですが、民法や会社法では、例外の存在を示す言葉の使い方として、
- 法令や裁判上の命令については「特別の定め」
- 法律行為や定款については「別段の定め」
といった表現での使い分けがあります。
▽民法138条
(期間の計算の通則)
第百三十八条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。
「かかわらず」
「かかわらず」には以下のように3つの意味がありますが、一番多いのは、「別段の定め」と対になる、1つめの意味です。
①特別規定であることを示す
「かかわらず」は、
〇〇の規定にかかわらず
という形で、「〇〇の規定」の例外(特別規定)を定めるときに使います。
つまり、いわゆる一般法と特別法の関係があることを明示するときに、特別法の側(特別規定の側)に置かれるもので、法令上随所に見られます。
▽民法5条3項
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
▽民法466条の5
(債権の譲渡性)
第四百六十六条 (略)
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
第四百六十六条の五 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
②逆接を示す
また、普通の日常生活と同じように、
~にもかかわらず
という形で、逆説を示す意味のときもあります。つまり、「~であるのに」とか「しかし」といった意味を持つ場合です。
▽民法607条の2
(賃借人による修繕)
第六百七条の二 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
③”問わない”という意味を示す
また、一定の条件の有無を問うことなく、という意味でも使われます。
▽農地法20条1項
(借賃等の増額又は減額の請求権)
第二十条 借賃等…(略)…の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の借賃等の額に比較して不相当となつたときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かつて借賃等の額の増減を請求することができる。ただし、…(略)…。
▽民法529条
(懸賞広告)
第五百二十九条 ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。
同じ意味で、「問わず」という用語が使われている場合もあります。
契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)
契約書を作成する際にも、例えば捕捉範囲の広い一般的な規定(損害賠償や費用負担の定めなど)をつくるときに、他に例外的な内容を定めている規定がある場合に、
本契約に別段の定めがある場合を除き
とか
本契約に特別の定めがある場合を除き
などの表現で使うケースがあるかと思います。
「特段の定め」といった表現も契約書で見かけることがある気がしますが、少なくとも法令上はない表現なので、上記のどちらかの方が良いような気はします(※「特段の事情 」という言い方はある)
「かかわらず」の方はというと、契約書では、例外規定の側に「○○の規定にかかわらず」という表現を置いて一般・特別の関係を明示することは、あまりないような気がします(上記のような一般規定の側の記述だけで整理としては終わらせているケースが多い印象)。
とはいえ、たまにはあるので、はっきり書きたいとか書いている方がしっくりくるというときは、「かかわらず」を使えばよいと思います。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「別段の定め」と「かかわらず」を見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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