犯罪収益移転防止法を勉強しよう｜法律の目的、特定事業者など

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、どういう法律なのかということと、この規制がかかってくる「特定事業者」について書いてみたいと思います。

犯罪収益移転防止法は、略称は一般的には「犯収法」と呼ばれ、法律のイメージは、いくつかの業界では日常的に接する規制法であるものの、それ以外の業界だとあんまりよく知らないという感じの法律だろうと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

どういう法律なのか？

最初、犯収法に接することになった人にとってまずもってわからないのは、「何コレ？何をしたい法律なの？」というそもそも論のところだと思います。

本人確認とかの細かいルールがありますので、そもそも何をしようとしているのかわからないと、何のためにやってるかもわからずストレスも倍増すると思います。そこで、まずそこを管理人の個人的理解でざっくり説明したいと思います。

ひとことでいうと、マネー・ロンダリング（略して「マネロン」とよく言われる）を防止するための法律、つまりマネロンに対応するための法律になります。

マネー・ロンダリングと言われてもよくわからないかもしれませんが、要するに、財産の形態をコロコロと変えていくことで、もともと違法性のあったお金（あるいは財物）だったことをわからなくする、ということです。そういう、泥を払う？みたいなイメージで、マネー・ロンダリングは「資金洗浄」と訳されます。

洗ってキレイにしちゃうということです。これはもちろん、悪い人たちの方から見たときの言い方で、そういうふうに一見キレイに装おうとしている・・・・・・・・ということであって、実際にはキレイになっているわけではありません。

もともと詐欺とか特殊詐欺とかで違法に取得した財物であっても、金融商品に変えたり不動産に変えたり宝石に変えたりして、財産の形態をコロコロ変えていくと、どこかあたりからか、もともと違法性のあった財物であることがよくわからなくなる、ということです。どこからよくわからなくなるかが一律に線引きできるわけではないだろうと思いますが、とにかくそれでよくわかんなくなったら資金洗浄の完了、というわけです。

じゃあどうする？ということで、「どこからかあたりから、もともと違法性のあった財物であることがわからなくなる？それなら、後から全部追えるようにしといてやるぜ！」というなかなか気合いの入った法律が、犯収法になります。

あっちがよくわかんなくしようとするなら、こっちはトレースしてやろうということです。つまり、本人確認など取引時確認や、その後の取引記録とかがありますが、トレーサビリティの確保がその趣旨です。

なにかの拍子に、「アレ？なんかこの取引とかこの取引しようとしてる人、おかしくない？」となったときに、実際、個別の事例について、後から全部追えるようにしておくわけですし、また、全体の仕組みとして見たときには、そういう仕組みにしておくことによって、資金洗浄しようとしていることに対する抑止力を働かせようというわけです。

もちろん、他にも要素はあるのだが、まず最初に大づかみにすべきは、この、マネー・ロンダリングを防止するためのトレーサビリティの確保、そのための本人確認そのほかの諸々の取引時確認や、取引の記録などの措置という理解でよいと思います。

条文を見てみよう

ざっくりしたイメージは以上のとおりですが、条文も一応確認してみます。目的規定である法1条です。

▽犯収法1条

（目的）
第一条　この法律は、犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えるものであること、及び犯罪による収益の移転が没収、追徴その他の手続によりこれを剝奪し、又は犯罪による被害の回復に充てることを困難にするものであることから、犯罪による収益の移転を防止すること（以下「犯罪による収益の移転防止」という。）が極めて重要であることに鑑み、特定事業者による顧客等の本人特定事項（第四条第一項第一号に規定する本人特定事項をいう。第三条第一項において同じ。）等の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることにより、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律（平成十一年法律第百三十六号。以下「組織的犯罪処罰法」という。）及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律（平成三年法律第九十四号。以下「麻薬特例法」という。）による措置と相まって、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し、もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする。

分節しながら読むと、

【背景】
a. 犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えるものであること
　及び
b. 犯罪による収益の移転が没収、追徴その他の手続によりこれを剝奪し、又は犯罪による被害の回復に充てることを困難にするものであること
　から
〇犯罪による収益の移転を防止することが極めて重要であることに鑑み
【手段】
〇特定事業者による顧客等の本人特定事項等の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることにより
〇組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法による措置と相まって
【目的】
〇犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し、もって
【究極の目的】
〇国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与すること

のようになっています。

上記の「犯罪による収益の移転」というのが、先ほど見たマネロンのことだと思えばよいです。

所管庁と、参考になる資料

法律全体の所管庁は、警察庁であり、「犯罪収益移転防止対策室」というところになっています。略称は、JAFIC（Japan Financial Intelligence Center）といます。

以下のトップページの右のサイドメニューにいろいろなラインナップが載っていますので、必要に応じてこれを見ていくことになります。

JAFICトップページ｜JAFIC 警察庁

www.npa.go.jp

一番ベーシックな解説資料は、法律全体について解説する「犯罪収益移転防止法の概要」という60ページぐらいの解説資料になります。

それと、これまでの改正時のパブリックコメントも掲載されています。

この解説資料を読んで基本をざっと頭に入れつつ、改正が頻繁な分野ですので、関係する人は今後のパブコメも追っかけるように意識しておく必要があるということになるかなと。

また、過去のパブコメは事実上の解説資料にもなっていますので、これも必要に応じて見ていくことになります。

そして、犯収法が関係する各業界プロパーの事柄については、当該業界について所管している各行政庁が、それぞれの特定分野について詳しく解説やガイドラインを出しているというのが、全体的な構造になっています。

ですので、①まずJAFICの解説資料で全体の基本を押さえつつ、②これに加えて、自分の関係する業界プロパーの所管庁のHPを見るというのが、ベーシックな理解の進め方になるかと思います。

関係する業界－「特定事業者」

では、実際どの業界が犯収法に関係するのか？ということですが、いくつかの業種では、事実上、業法的な感じになりますので、関係する人はけっこう多いのかなと思います。

犯収法の規制を守らなければならない事業者は、「特定事業者」と呼ばれ、以下のような業種になっています。

条文も一応確認してみます。法2条2項に「特定事業者」の定義があり、1号～49号まであります。

▽犯収法2条2項

２　この法律において「特定事業者」とは、次に掲げる者をいう。

全体の目次は以下のとおりで、第二章が「特定事業者による措置」となっていることからわかるように、特定事業者に対してかかってくる規制というふうになっています。

▽犯収法の目次

第一章　総則（第一条―第三条）
第二章　特定事業者による措置（第四条―第十二条）
第三章　疑わしい取引に関する情報の提供等（第十三条・第十四条）
第四章　監督（第十五条―第十九条）
第五章　雑則（第二十条―第二十四条）
第六章　罰則（第二十五条―第三十二条）

マネロンという点では、金融業界と不動産業界が典型的で（要するに、悪いひとたちが、価値が高くて違法性のある財物をその形にして置いておこうとすることが伝統的に多い業界。宝石などを扱う古物なども）、説明がこなれていますので、その業界団体の解説やQ&Aを読んだ方が、上記のJAFICの解説よりわかりやすいということもあるかもしれません（管理人の個人的意見）。

例えば、不動産流通推進センターの以下サイトにある宅建業者のためのハンドブック（第4版⑵）などは、一般的な説明の部分もこなれていてわかりやすいかと思います。

業種ごとのプロパーな解説はその業界の所管庁が出しているガイドラインなどに書かれていますが、自分の関係する業界以外の業界が出している資料やノウハウも参考になる部分が多いですので、こういった他の「特定事業者」の出している解説なども参考にすればよいと思います。

まず最初は、業界共通の一般的な部分を参考にするといった感じでもいいと思いますし、次第に慣れていけば、自分以外の業界プロパーのところも少し見てみて、マネロンとその手口・その対策についての全体的な理解を深めていく、という方法もありだと思います。

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、最初の記事として、法律全体のイメージ・所管庁・この規制がかかってくる「特定事業者」などについて見てみました。

［注記］
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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