公益通報者保護法

公益通報者保護法|公益通報の要件「通報の目的」について解説~どういう目的で通報すれば守られるのか?

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今回は、公益通報者保護法ということで、公益通報保護のための5つの要件のうち、通報の目的について見てみたいと思います。

公益通報者保護法で不利益な取扱いから守られるためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。

① 通報者の範囲(だれが通報するのか?)
② 通報対象事実(なにを通報するのか?)
③ 通報の目的(どういう目的で通報するのか?) 👈 本記事のテーマ
④ 通報先の類型(どこに通報するのか?)
⑤ 通報先ごとの保護要件(どのくらいの裏付け・基準で通報するのか?)

本記事は、この中の真ん中に位置する、③通報の目的(不正の目的でないこと)について解説します。

令和7年改正(令和8年12月施行)でも、この目的の基本的な文言自体は変更されず維持されています。他の要件に比べるとそれほど複雑な点はないですが、”会社への不満や恨みがあったら守られないのか?”、”自分の交渉を有利にするための告発はアウトなのか?”など、多くの人が気になるいくつかの要素を含めて整理していきましょう。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

本記事は令和7年改正法(令和8年12月施行)を基準にしています

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。




法律が定める不正の目的とは(法2条1項)

そもそも、なぜ法律はわざわざ通報の目的を要件にしているのでしょうか。

公益通報者保護法は、本来であれば労働者が負っている会社への誠実義務や秘密保持義務といった契約上の縛りを乗り越えて、不利益取扱いを無効化する防御を与えています。しかし、客観的に不正を正す社会的価値のある通報であればこれを適法として保護しますが、さすがに社会通念上正当化できない悪意の通報にまでこの防御を与えるわけにはいかないため、法律の入口(定義規定である法2条1項)で足切りを行っているわけです。

具体的には、条文上、以下の2つの悪意不正の目的として例示されています。

▽公通法2条1項柱書(※「…」は管理人が適宜省略)

(定義)
第二条
 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者…(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員…、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先…等…、当該通報対象事実について処分…若しくは勧告等…をする権限を有する行政機関…等…又は…必要であると認められる者…に通報することをいう。

① 不正の利益を得る目的

公序良俗に反する形で、自分自身や第三者の利益を図ろうとする目的です。

例えば、社内の不正をネタに”これを公表されたくなければ、俺を役員に昇進させろ”、”裏金をよこせ”と会社を脅迫・ゆすり・たかりする目的などです。

なお、社内の報奨金や情報料が欲しいという目的であっても、それが公序良俗に反する不正なやり方でない限り、これに該当せずセーフです。

② 他人に不正の損害を加える目的

特定の従業員や他人に対し、社会通念上、通報のために必要な限度を超えて、財産的な損害を与えたり、社会的信用を失墜させたり(引きずり下ろしたり)することを狙う目的です。

例えば、全く根拠のないハラスメントや法令違反の事実をでっち上げ、ライバルや気に入らない上司を会社から追放(失職)させようとする目的などです。

▽公通法Q&A〔令和8年12月施行版〕:公益通報者保護法に関するQ&A【Q6】

 「不正の目的」での通報とはどのようなものですか。

 「不正の目的」での通報とは、以下のような目的でなされる、社会通念上違法性が高い
通報が考えられます。

1.不正の利益を得る目的
 公序良俗に反する形で自己又は他人の利益を図る目的。
 なお、報奨金情報料を得る目的であっても、それが公序良俗に反する不正な利益といえるようなものでない場合には、ここにいう「不正の利益を得る目的」には当たりません。
2.他人に不正の損害を加える目的
 他の従業員その他の他人に対して、社会通念上通報のために必要かつ相当な限度内にとどまらない財産上の損害、信用の失墜その他の有形無形の損害を加える目的。

 なお、「不正の目的でない」というためには、上記のような「不正の利益を得る目的」や「他人に不正の損害を加える目的」の通報と認められなければ足り、専ら公益を図る目的の通報と認められることまで要するものではありません。単に、交渉を有利に進めようとする目的や事業者に対する反感等の公益を図る目的以外の目的が併存しているというだけでは、「不正の目的」であるとはいえないことに留意が必要です。

(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です

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会社への不満や怨恨がある場合の扱い

実際上、事業者側からよく出される主張としては、

”あの通報者は、普段から会社への不満ばかり言っている”
”被通報者(上司)と激しく対立しており、私怨(怨恨)から相手を失脚させるために告発したに違いない。だから不正目的の通報だ”

といったものがありますが、これに対する法律・消費者庁の見解は明確です。単に、会社に対する反感や、上司への私怨、自分に有利な交渉を進めたいという目的が併存しているだけであれば、不正の目的(保護対象外)には当たらないとされています。

なぜ私怨があっても守られるのかというと、通報を行う人間の動機(主観)としては、複数の動機が混ざり合っているのが通常だからです。重要なのは、通報者の胸の内にある公的な正義感と私的な恨みのパーセンテージというよりは、客観的にその法令違反の事実(リスク)が職場に存在するのかどうかです。実際に不正が存在するのであれば、それは会社が早急に把握して自浄(コントロール)しなければならない組織リスクといえます。

▽公通法Q&A〔令和8年12月施行版〕:事業者における通報対応に関するQ&A【Q7】

 通報の背景に事業者や被通報者に対する不満や怨恨があると認められる場合、「不正の目的」による通報に該当しますか。

 通報の動機としては複数の動機が併存していることが通常であると考えられることから、本法第2条第1項に規定する「不正の目的」による通報であるというためには、単に、交渉を有利に進めようとする目的や事業者に対する反感等の公益を図る目的以外の目的が併存しているというだけでは足りず、通報が専ら不正の利益を得る目的や他人に不正の損害を加える目的によるものであると認められる場合でなければなりません。そのため、通報の背景に事業者や被通報者に対する不満や怨恨があると認められる場合であっても、最終的に裁判等で「不正の目的」が認定されず、その結果、公益通報に該当する可能性もありますので、各事業者においては慎重な判断が求められます。

つまり、会社や上司が憎いという私怨が引き金になっていたとしても、本当に社内で不正が行われている(またはそう信じるに足りる理由がある)のであれば、その通報は公益通報として保護の対象となります。専ら他人を陥れるためだけに、でっち上げの虚偽通報を行ったというような極端なケースでなければ、目的要件で保護を外されることは基本的にはありません。




不正の目的が認められて保護されなかった裁判例(ボッシュ事件)

とはいえ、過去には裁判でこれは不正の目的であると認定され、通報者が敗訴した(保護されなかった)ケースもあります(例:ボッシュ事件(東京地判平成25年3月26日))。

事案の概要

ある従業員が、社内のハラスメントや不正行為について内部通報を行いました。

しかし裁判所は、客観的な証拠等から、この従業員は、自らの「法務室への異動希望」を会社に無理やり実現させるための交渉カード(脅しの道具)として、通報内容に十分な理由・根拠がないことを自分で知りながら、あえて個人的な目的のために通報を行ったと認定しました。

判決のポイント

通報に理由がない(でっち上げ、あるいは根拠が全くない)と知りながら、自らの異動希望という私的利益の実現を迫るための手段として通報を悪用したため、公序良俗に反する不正の目的に該当するとして、不利益取扱いからの保護が否定されました。

この判決からもわかるように、単に異動したい(「自分を有利にしたい」)という希望があるだけなら問題ありませんが、内容が事実無根である(または根拠がない)とわかっていながら、会社を脅すための道具として通報を意図的に利用したというレベルに達すると、不正目的として保護対象外となります(「公益通報」に該当しない)。

企業の側から見た目的要件のその他の留意点

不正目的だと決めて処分すると会社が刑事罰を受けるリスク

令和7年改正(令和8年12月施行)以降、企業はこの目的要件の取扱いに、今まで以上に慎重になる必要があるといえます。

この改正により、公益通報を理由として解雇や懲戒処分を行った場合、事業者(起案した担当者や決裁した経営陣)に対する直接の刑事罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人には最大3,000万円の罰金)という重いペナルティが導入されました。

もし会社側が”あいつは私怨で通報してきたから不正目的だ、就業規則違反で懲戒処分にしてやる”と早合点して処分を下し、後から裁判や捜査で不正目的とまではいえない(正しい公益通報だった)と判定された場合、処分の決裁ルートに乗った役員や人事担当者自身が刑事罰対象になるリスクを負うことになります。

なお、刑事罰の対象となるのは、明確性と処罰の妥当性の観点から、不利益の程度が特に大きい解雇および懲戒(処分の種類を問わず、就業規則に基づくけん責や減給、出勤停止、降格などすべて含む)の2つに限定されています。通常の人事権としての配置転換(ジョブチェンジ)や長期出張命令、人事考課(査定)による給与やボーナスの減給などは含まれていません。

立証責任は事業者側にある

法律上、目的要件の立証責任は事業者側にあります。つまり、事業者(会社)の側が、通報者に不正の目的があったことを証明(立証)しなければなりません。

法律の入口である定義規定(法2条1項柱書)の文言を、もう一度読んでみましょう。

「この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、……通報することをいう。」

もしこの条文が、「…公益を図る目的をもって、通報することをいう」 という肯定的な書き方(積極的要件)だった場合、通報した労働者自身が裁判などで「私は、社会の正義(公益)のためにこの通報をしました」という主観を、自ら証拠を揃えて証明しなければならなくなってしまいます。

しかし、法律はあえて「不正の目的でないこと」という逆からの書き方をしています。この表現によって、目的の立証責任を事業者に負担させるという、通報者保護のための設計がなされているわけです。

人の主観(本心)を客観的な証拠で証明することは、実際上困難です(前述のボッシュ事件のように、本人のメール等の動かぬ裏付け証拠が出てくるケースは多くありません)。そのため、事業者としては、どれほど怪しい、悪意があると感じたとしても、安易に不正目的と決めつけて通報を無視したり、調査を拒否したり、通報者を処分したりすることは避けるべき、というのが基本スタンスとなります。




結び

本記事のハイライトをまとめます。

目的要件のポイントまとめ

  • 不正の目的(ゆすり・でっち上げ等)の通報は法律で守られない
  • しかし、会社への不満や恨みが混ざっていても、それで目的要件が否定されることはない(守られる)
  • 不正な目的だったと証明する責任は会社側にある。主観の証明は難しいため、会社が勝手に悪意と決めつけて処分することは避けるべき。

動機は純粋なものでなくても、中身が真実なら会社は真摯に受け止め、自浄作用を発揮して改善すべきというのが、この法律が目指す姿であるといえます。一見厳しく思えますが、企業が重大な不祥事を未然に防ぐための合理的なルールとなっています。

今回は、公益通報者保護法ということで、公益通報保護のための5つの要件のうち、通報の目的について見てみました。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

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参考資料

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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です

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