今回は、公益通報者保護法ということで、公益通報保護のための5つの要件のうち、通報者の範囲(通報の主体)について見てみたいと思います。
公益通報者保護法で不利益な取扱いから守られるためには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
① 通報者の範囲(だれが通報するのか?) 👈 本記事のテーマ
② 通報対象事実(なにを通報するのか?)
③ 通報の目的(どういう目的で通報するのか?)
④ 通報先の類型(どこに通報するのか?)
⑤ 通報先ごとの保護要件(どのくらいの裏付け・基準で通報するのか?)
本記事は、この5つの要件の中のスタート地点となる、①通報者の範囲(公益通報の主体となる人)について解説します。
令和7年法改正(令和8年12月施行)によって、この誰が守られるかという範囲が広がるという変化がありました。”私は正社員じゃないから… ”、”フリーランスで契約しているだけだから…”と諦める必要はありません。法律が定める、保護対象となる5つのグループをわかりやすく紐解いていきましょう。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
保護対象となる5つのグループ
保護の対象となる通報者(公益通報者)は、法2条1項の各号(1号〜5号)に沿って、以下の5つの立場の人たちに整理されます。
それぞれのグループの定義と、法的な位置づけを詳しく見てみましょう。
1号:雇用元の労働者(+辞めて1年以内の退職者)
もっともスタンダードな、直接雇用されている(されていた)人たちです。
現役の労働者
労働基準法上の労働者を指します。正社員だけでなく、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイト、公務員など、雇用契約を結んで働いている全ての人が含まれます。
「労働者」の意義
一応、「労働者」について少し中身を見ておくと、
「…労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)…」
となっています。
つまり、労働基準法9条に規定する「労働者」と同じ意味ということです。では、労働基準法9条はというと、以下のようになっています。
▽労働基準法9条
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
つまり、①使用されていること、②賃金を支払われていることの2つの要件をみたす者なので、事業者の従業員として働く人(要するに雇用契約で働く人)が広く含まれます。
したがって、例えば、いわゆる正社員(直接雇用・フルタイム・無期雇用)のほか、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどの短時間労働者、契約社員(有期雇用労働者)、公務員も含まれます。
退職者(辞めて1年以内)
雇用元を退職した元従業員です。退職後に退職金の不支給・減額などの報復を受けるリスクから守るために含まれています。ただし、退職した日から1年以内に通報を行うことが保護のタイムリミットとなります。
▽公通法2条1項1号
一 労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者 当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前一年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)
2号:派遣先の派遣労働者(+派遣終了1年以内の元派遣労働者)
派遣先の不正を、派遣先に対して通報できる人たちです。
現役の派遣労働者
派遣元から会社(派遣先)に派遣されて、現に指揮命令を受けて働いている人たちです。
派遣先の不正を通報したことで、派遣先から別の派遣社員に交代してくれと要求されたり、派遣契約を中途解除されたりする嫌がらせから守られます。
元派遣労働者(派遣終了1年以内)
その派遣先での派遣期間が終了してから、1年以内の元派遣社員も含まれます。
▽公通法2条1項2号
二 派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条第一項第一号において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者 当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第四条第一項において同じ。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者
3号:委託元のフリーランス(+契約終了1年以内の元フリーランス)
多様な働き方に寄り添う、令和7年改正の目玉のひとつです。
現役のフリーランス(特定受託業務従事者)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)2条2項に定める特定受託業務従事者がそのまま引用されます。具体的には、以下のいずれかに該当する個人または一人社長です。
- 従業員を雇わずに、個人として業務委託を受けている個人事業主
- 自分以外に役員がおらず、かつ従業員を雇っていない、いわゆる一人会社(一人社長)の法人の代表者
近年、フリーランスという働き方が急速に普及していますが、発注元に対して経済的に依存しやすく、実質的には労働者と近い立場にあります。それにもかかわらず、これまでは事業者間の取引だからという理由で公益通報者保護法の対象外となっており、不正を告発すると契約を解除されて仕事を失うリスクに晒されていました。
そこで令和7年改正により、労働者と同様に業務委託契約の解除や報酬の減額などの不利益な取扱いから法律で保護されることになりました。
元フリーランス(契約終了1年以内)
発注元との業務委託契約が終了してから、1年以内の元フリーランスの方も同様に守られます。
業務委託関係(契約)が終了した日の翌日が起算日となり、そこから1年以内に通報を行うことで保護されます。万が一、フリーランス側の落ち度で契約が中途で打ち切られてしまったようなケースであっても、契約が終了したことには変わりないため、そこから1年以内であれば保護の対象となります。
▽公通法2条1項3号
三 特定受託業務従事者(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)第二条第二項に規定する特定受託業務従事者をいう。以下同じ。)又は特定受託業務従事者であった者 当該特定受託業務従事者に係る特定受託事業者(同条第一項に規定する特定受託事業者をいう。以下同じ。)又は特定受託事業者であった者に業務委託(同条第三項に規定する業務委託をいう。以下この号及び第五条において同じ。)をし、又は当該通報の日前一年以内に業務委託をしていた事業者
4号:取引先の事業に従事する労働者等・フリーランス(+その元従事者)
請負や委託などの契約に基づいて、取引先の現場で働いている(いた)人たちです(取引先事業者への従事者)。
現に従事する労働者等・フリーランス
下請会社の社員(または下請の派遣・フリーランス)として、元請会社の工場(現場)に入って働いている現役のメンバーなどがこれにあたります。
具体例
- 請負会社の作業員が、元請企業の工場で稼働中に、元請企業が廃棄物を不法投棄しているのを見つけて元請に通報する
- 下請のフリーランスが、元請のオフィスに常駐してシステム開発中に、元請の個人情報漏洩を見つけて元請に通報する
取引先(元請など他社)の事業に従事しているなかでそこの不正を見つけた場合、取引先に対して直接通報を行うことができ、取引先から損害賠償を請求されるなどの報復から守られます(法7条)。
過去に従事していた元従事者(1年以内)
その取引先(元請など)の事業に従事しなくなってから1年以内の元下請従業員、元派遣、元フリーランスが該当します。
▽公通法2条1項4号
四 前三号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは派遣労働者(以下この号及び第十一条第二項において「労働者等」という。)若しくは労働者等であった者又は特定受託業務従事者若しくは特定受託業務従事者であった者 当該他の事業者
5号:現職の役員
内部を最もよく知る経営幹部です。ただし、元役員は対象外となっています。
対象となる人
法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人など、法律の規定に基づいて法人の経営に従事している人です(※外部の独立した会計監査人は除かれます)。
通報の対象は、以下の2つです。ロは、先ほど見た4号とパラレルです(つまり、役員が取引先事業者への従事者となっているケースです)。
- イ:自分が役員を務めている事業者(自社)への通報
- ロ:自社と取引先との請負契約等に基づき、取引先の現場に現役の役員として現に従事している場合における、その取引先への通報
▽公通法2条1項5号
五 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
役員特有の注意点(過去=元役員は対象外)
労働者やフリーランスには、退職・契約終了後も1年以内なら退職者等として守るというルール(1号〜4号)がありました。
しかし、役員については、退任した元役員を退職者として保護する仕組みは法律上ありません。5号のロも、役員が取引先の事業に従事するとき(現職の現役役員であるとき)のみを対象とする建付けになっています。
役員は、在籍している間(現役の時)に通報した内容については、仮にその通報が引き金となってその後に役員を解任されたとしても、解任によって生じた損害の賠償請求(残りの任期分の役員報酬など)という形で事後的に保護されます。しかし、役員を退任した後に、在籍時の不正を外部に告発するといったケースでは、本法の保護対象にはならない(1年ルールなどはない)ため、この点は労働者と役員の違いとして注意が必要です。
(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
企業が取り組むべき周知・啓発
令和7年改正(令和8年12月施行)では、301人以上の大規模事業者に対して、整備した内部通報体制の内容を労働者やフリーランス等に対して、周知・啓発することが法律上の義務として課されました(※同改正前は法定指針レベルでの言及)。
▽公通法11条2項
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置をとらなければならない。
ハードルとなるのが、新しく保護対象となったフリーランスへの周知です。
自社の社員であれば、社内イントラ(ポータルサイト)に窓口の連絡先を載せておけば周知できますが、イントラへのアクセス権を持たない場合の外部のフリーランスにはその方法が使えません。
そのため、消費者庁の指針などでは、フリーランスと業務委託契約を締結して取引条件を書面・メール等で明示する際、同時に「当社の内部通報窓口の案内(連絡先や、契約終了後1年以内も通報できる旨など)」を記載した書面を一緒に交付する、という方法などが有効なアプローチとして推奨されています。
結び
公益通報と聞くと、雇用されている“会社員”だけの話のように思われるかもしれませんが、令和7年の改正によって、フリーランスやそのOB・OGなども含むようにその範囲が広がっています。
誰が通報者になり得るのかを正しく把握することは、会社を様々な法令違反リスクから守る体制づくりの第一歩です。風通しの良い、誰もが安心して声を上げられる環境を点検・構築していきましょう。
今回は、公益通報者保護法ということで、公益通報保護のための5つの要件のうち、通報者の範囲について見てみました。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 公益通報ハンドブック〔令和8年12月施行版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です