今回は、ファンド法務ということで、投資事業有限責任組合とは何かについて見てみたいと思います。
ニュースなどでも目にする投資事業有限責任組合(LPS:Limited Patnership)ですが、ファンドの器として用いられるものの、実は株式会社のような会社ではありません。では、一体どのような仕組みで、なぜファンド組成において多く利用されているのでしょうか。
本記事では、このLPSの内容を、
- 契約型ビークルとしての特徴(会社型との違い)
- 特別法ビークルとしての特徴(一般法である民法上の任意組合との違い)
- LPSが適している場面
の3つのポイントに分けて紐解いていきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
契約型ビークルとしての特徴(会社型との違い)
LPSは、株式会社や合同会社といった法人を設立する会社型ビークルではなく、出資者同士が組合契約を結ぶことで成立する契約型ビークルです。
この契約型(=法人格がない)という性質から、次のような特徴があります。
LPS自体は契約の主体になれない
LPSは法人格を持たない組合(人の集まり)にすぎないため、LPS自体が法律行為の主体になることはできません。
したがって、投資先と契約を結んだり、銀行口座を作ったりといった対外的な取引を行う際は、LPS名義ではなく「〇〇投資事業有限責任組合 無限責任組合員 〇〇株式会社」といったように、GP(無限責任組合員)の肩書き付き名義で行うことになります。
財産は組合員の共有(合有)
LPSが投資した株式や現金などの組合財産は、LPSという法人の持ち物になるわけではなく、法律上は組合員全員の共有(合有)財産として扱われます。
法律上、LPSの組合財産は民法668条(LPS法16条で準用)に基づき、総組合員の共有に属すると規定されています。しかし、通常の共有(例:1つのマンションを夫婦で共有する)とは大きく異なり、共同事業(ファンドの目的)を達成するために、メンバー個人の自由な処分は厳しく制限されています。
LPSという共同事業を行うための合有においては、特定の投資家が勝手に、ファンドが保有する“このスタートアップの株式を、自分の持分比率の分だけ他人に売る(担保に入れる)”といった処分をすることは、無効(対抗不可)とされます(持分処分の制限)。さらに、ファンドが解散して清算手続が終わる以前には、自分の出資金に相当する分の株式を今すぐ切り分けて返してくれと分割を請求することも、法律上(民法676条の準用により)認められていません(分割請求の制限)。
▽LPS法16条で準用→民法676条
(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
第六百七十六条 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
2 組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することができない。
3 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。
このように、財産の処分や分割の自由を制限することで、投資先企業の株式やファンド内のキャッシュといった大切な組合財産が、個々の投資家(LP)の都合あるいは破産・差押えによって途中で切り崩されてしまうリスクを防いでいます。
LPSという法人格のない”ただの契約”が、あたかも一つの会社組織であるかのように安定して何年も投資運用を続けられるのは、この合有という財産隔離の仕組みが法的に張られているためといえます(組合財産の独立性)
税金面でのメリット:パススルー課税
会社型ビークルの場合、会社が出した利益に対して法人税がかかり、さらに投資家に配当された際にも税金がかかる二重課税の問題が生じます。
しかし、LPSは法人ではないため、ビークル(LPS)の段階では法人税が課税されません(パススルー課税)。これにより、ファンドと投資家との間での二重課税が回避されるため、投資家にとって税務上有利な仕組みとなっています。
ただし、パススルー課税の性質上、利益が現実に分配されていなくても、組合員に直接帰属した段階で課税される点(手元資金から税金を支払わなければならないドライインカムのリスク)には、十分な注意が必要です。
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特別法ビークルとしての特徴(一般法である民法上の任意組合との違い)
契約で結びつく組合の基本形(一般法)として、民法に規定されている任意組合があります。
LPSは、この任意組合の弱点を克服し、ベンチャー企業等への投資を促進するために、投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)という特別法によって作られたビークルです。その違いからくるLPSの特徴は以下のとおりです。
投資家を守る有限責任の実現
民法上の任意組合では、原則として組合員全員がファンドの借金や損失に対して出資額以上の責任を負う無限責任となってしまいます。これでは怖くて誰も出資できませんよね。
そこでLPS法は特別ルールとして、業務を行うGP(General Partner)のみを無限責任とし、お金を出す投資家(LP:Limited Partner)は出資した額までしか責任を負わない有限責任を法的に認めました。これがLPSの最大の特徴です。
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登記と監査で透明性を確保
LPの有限責任を法的に守り、取引相手(債権者など)に不測の損害を与えないようにするため、LPSには厳しいルールが課されています。
まず、LPSの成立やGPの名前などを登記しなければ、善意の第三者に対して有限責任を主張(対抗)できません。
▽LPS法4条1項
(登記)
第四条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
▽LPS法17条(※【 】は管理人注)
(組合契約の効力の発生の登記)
第十七条 組合契約が効力を生じたときは、二週間以内に、組合の主たる事務所の所在地において、次の事項を登記しなければならない。
一 第三条第三項【=LPAの必要記載事項】第一号、第二号、第六号及び第七号に掲げる事項
二 無限責任組合員の氏名又は名称及び住所
三 組合の事務所の所在場所
四 組合契約で第十三条第一号から第三号までに掲げる事由以外の解散の事由を定めたときは、その事由
さらに、毎年の財務諸表の作成や、公認会計士または監査法人による外部監査を受けることが法律で義務付けられており、任意組合にはない高い透明性とガバナンスが確保されています。
▽LPS法8条1項・2項
(財務諸表等の備付け及び閲覧等)
第八条 無限責任組合員は、毎事業年度経過後三月以内に、その事業年度の貸借対照表、損益計算書及び業務報告書並びにこれらの附属明細書(第三項において「財務諸表等」という。)を作成し、五年間主たる事務所に備えて置かなければならない。
2 前項の場合においては、無限責任組合員は、組合契約書及び公認会計士(外国公認会計士を含む。)又は監査法人の意見書(貸借対照表及び損益計算書並びにこれらの附属明細書に係るものに限る。次項において同じ。)を併せて備えて置かなければならない。
事業範囲の制限
任意組合は法律に反しない限りどんな事業でも行えますが、LPSは事業者への円滑な資金供給という法律の目的を達成するために作られた特別法上の存在です。
そのため、LPSが行うことができる事業(株式や社債の取得、金銭の貸付けなど)は法律で限定列挙されており(法3条1項)、それ以外の事業を行うことは禁止されています。
▽LPS法3条1項
(投資事業有限責任組合契約)
第三条 投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。
一~十二 (略)
LPSができる12の事業(法3条1項各号)
法3条1項各号に掲げられている具体的な事業は、大きく以下の4つのカテゴリーに分類することができます。
カテゴリーA:成長企業へのエクイティ(出資)投資
ベンチャーキャピタルやバイアウト・ファンドの基本となる、企業の株式や持分を取得して保有する投資です。
- 第1号(設立時の出資):新しく設立される株式会社の株式や、合同会社・企業組合の設立に際しての持分の取得・保有
- 第2号(既存株等の取得・セカンダリー):すでに設立されている株式会社の株式・新株予約権、合同会社・企業組合の持分の取得・保有。既存の株主から株式を買い取るセカンダリー取引もここに含まれます
- 第3号(指定有価証券への投資):社債やコマーシャル・ペーパーなど、事業者の資金調達に資するもので政令が定める指定有価証券の取得・保有
▽LPS法3条1項1号~3号
一 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに合同会社又は企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有
二 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。以下同じ。)又は合同会社若しくは企業組合の持分の取得及び保有
三 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項各号(第九号及び第十四号を除く。)に掲げる有価証券(同項第一号から第八号まで、第十号から第十三号まで及び第十五号から第二十一号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第二項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有
カテゴリーB:企業へのデット(融資・債権)投資
LPSは、単に出資するだけでなく、企業に対してお金を貸し付けたり、債権を買い取ったりする融資(デット)機能も法律上認められています。
- 第4号(金銭債権の取得):事業者に対する金銭債権、または事業者が所有している金銭債権の取得・保有
- 第5号(新たな貸付け):事業者に対する金銭の新たな貸付け(融資)
- 注意点:LPSが業として貸付けを行う場合は、貸金業法に基づく貸金業者としての登録が必要になります
▽LPS法3条1項4号・5号
四 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有
五 事業者に対する金銭の新たな貸付け
カテゴリーC:新しい投資手段や権利の取得
時代の変化やWeb3などのイノベーションに合わせ、投資対象がアップデートされています。
- 第6号(匿名組合・信託受益権):事業者を相手方とする匿名組合契約の出資持分、または信託の受益権の取得・保有
- 第6号の2(暗号資産・トークン):Web3スタートアップなどが資金調達のために発行する暗号資産(トークン)の取得・保有
- 注意点:将来暗号資産を受け取る権利(SAFTやToken Warrantなど)を目的とする契約の締結も、経済的実態から本号に含まれると解釈されています
- 第7号(知的財産権):事業者が所有する特許権などの工業所有権や、著作権の取得・保有(ライセンス許諾も含む)
▽LPS法3条1項6号~7号
六 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有
六の二 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有
七 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。)
カテゴリーD:ファンドの付随業務や海外投資、効率的運用
ファンドを円滑に運営し、リスク分散を図るためのサポート事業や運用方法です。
- 第8号(経営・技術の指導):投資先(LPSが株式や新株予約権等を保有している事業者)に対して、役員の派遣などを通じて経営や技術の指導を行う事業(ハンズオン支援)
- 第9号(他のファンドへの投資):他のLPS、民法上の投資組合、または外国のこれらに類似する団体(ケイマン籍リミテッド・パートナーシップなど)への出資。いわゆるファンド・オブ・ファンズを組むための規定です
- 第10号(付随事業):第1号から第9号までの事業に付随する事業で、政令で定めるもの
- 具体例:事業者が発行した約束手形や譲渡性預金証書の取得・保有、投資先暗号資産のステーキング(Staking)による運用などが付随事業として認められています
- 第11号(海外投資):外国法人が発行する株式や暗号資産などの取得・保有
- 注意点:国内事業者への資金供給という本来の趣旨から、海外投資の合計額が、LPSの出資総額の50%未満でなければならないという厳しい海外投資上限規制が課されています(後述)
- 第12号(余裕金の運用):ファンドの目的を達成するまでの間、業務上の余裕金を銀行預金や国債・地方債などで運用する事業
▽LPS法3条1項8号~12号
八 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、暗号資産、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業
九 投資事業有限責任組合若しくは民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資
十 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの
十一 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分若しくはこれらに類似するもの又は外国法人のために発行される暗号資産の取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの
十二 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用
事業範囲の制限からくる特徴
LPSにおけるこの事業範囲の制限は、民法上の任意組合(公序良俗に反しない限り何でもできる)と比べて、以下のような強い規律を持っています。
① 列挙されていない事業を行うと無効になり、追認もできない(法7条4項)
LPS契約で、LPS法に載っていない事業も行うと合意したり、後から個別に合意して投資を行ったりしても、その合意は法律上無効(無権代理行為)となります。
さらに、法7条4項には以下のような厳しいルールがあります。
▽LPS法7条4項
4 無限責任組合員が第三条第一項に掲げる事業以外の行為を行った場合は、組合員は、これを追認することができない。無限責任組合員以外の者が同項に掲げる事業以外の行為を行った場合も、同様とする。
たとえ組合員(GPやLP)全員が”この投資を認めよう”と後から一致団結して追認しようとしても、法律上追認して効果を組合に帰属させることはできません。もし列挙外の行為を行ってしまった場合、それを行ったGP(無限責任組合員)自身が、個人として相手方に対して直接責任(履行義務や損害賠償義務)を負うことになります。
② 現物不動産の取得や直接の売買はできない
LPSができる事業の中に不動産取引は含まれていません。
したがって、LPSが直接、現物不動産を購入してアパート経営をしたり、転売して利益を得たりすることは、法3条1項に反するため一切できません(※ただし、融資の担保として設定された担保不動産を、担保権実行によって取得・売却することは付随事業として認められています)。
もし不動産を対象としたファンドを組みたい場合は、LPSではなく、不動産を信託受益権という有価証券の形にしてLPSに保有させるか、あるいは不動産特定共同事業法に基づく契約形態を選択する必要があります。
③ 一体業務は認められる
制限は厳しいですが、実務が麻痺しないよう、各号の事業に直接該当しなくても経済的に一体不可分、または補完する業務であれば、一体業務としてLPSの事業の範囲内(各号の事業の一環として法7条4項の適用対象外)で行うことができます。
例えば、株式を取得した後の株式の売却(イグジット)や議決権の行使、融資をした後の担保権の設定、為替や金利リスクをヘッジするためのデリバティブ取引などがこれに該当します。
LPSが適している場面
このような特徴を持つLPSは、具体的にどのような場面で活用されているのでしょうか。
ベンチャーキャピタル(VC)やバイアウト・ファンドの王道ビークル
LPSは、有限責任で安全に投資したい機関投資家や富裕層から資金を集め、プロであるGPが非上場企業などに投資してリターンを狙うプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)やベンチャーキャピタルにおいて、日本国内で最も広く利用されている王道のビークルです。
有限責任というスポンサー(LP)の安心感と、自由に運用したい運営者(GP)のニーズを同時に満たすからです。
エンジェル税制を使いたい場合
スタートアップのシード期やアーリー期への投資において、個人投資家が所得税の優遇を受けられるエンジェル税制という制度があります。
このエンジェル税制は、匿名組合(TK)のスキームでは利用できませんが、LPSであれば(一定の要件を満たすことで)適用を受けることが可能です。そのため、エンジェル税制のメリットを投資家に提供したい場合には、LPSが適したビークルとなります。
国内の事業者を中心に投資するファンド
LPSには、法律上、出資総額の50%未満の範囲内でしか海外投資(外国法人への投資)ができないという制限(海外投資上限規制)があります。
▽施行令4条
(外国法人の発行する株式の取得等)
第四条 法第三条第一項第十一号に掲げる事業については、同号の規定による取得の価額の合計額の総組合員の出資の総額に対する割合が百分の五十に満たない範囲内において、組合契約の定めるところにより、行わなければならない。
そのため、主に日本のスタートアップや国内企業に成長資金を供給し、投資を行うファンドに最適化された仕組みとして実際に利用されています(※ただし、日本企業や日本人が実質的に支配している外国法人などは、この50%の計算から除外される特例もあります)。
結び
まとめると、LPS(投資事業有限責任組合)は、投資家のリスクを限定しつつ(有限責任)、税務上のメリット(パススルー課税)を享受し、日本の産業を育てるための資金供給を円滑にするために、特別法によって精巧にデザインされた契約型ファンドであるといえます。
今回は、ファンド法務ということで、投資事業有限責任組合とは何かについて見てみました。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- SPVスキーム持分に係るモデル契約|第二種金融商品取引業協会HP
- LPS法の解説|経産省HP
- 投資事業有限責任組合契約書例及びその解説〔令和7年版〕|経産省HP
参考文献
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