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ファンド法務|信託受益権化

今回は、ファンド法務ということで、対象資産の信託受益権化について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

対象資産の信託受益権化

SPVの仕組みにおいて、信託はそれ自体が契約型ビークルとして利用されますが(▷参考記事はこちら)、それ以外にも、対象資産をSPCに譲渡する際に信託受益権化しておくという形でよく利用されます。

つまり、SPCが対象資産の現物・・を保有するのではなく、元の保有者(以下オリジネーター)が対象資産を受託者(通常は信託銀行)に信託し、信託受益権にしたうえで、その信託受益権・・・・・をSPCに譲渡するというパターンです。

この場合、オリジネーターは当初は委託者兼受益者となっていて(委託者=受益者という自益信託)、それから、信託受益権をSPCに譲渡します。

▷参考リンク:信託の基本|信託協会HP

信託の仕組み

 信託(Trust)とは、ある財産の所有者が「委託者」となってその財産を「受託者」に信託し、受託者が信託の目的に従って信託財産を管理し、その利益を「受益者」が受け取る仕組みです(委託者と受益者は同一でもよい=自益信託)。

 この信託を、委託者と受託者の契約によって行うのが信託契約です(信託法3条1号)。信託受益権には譲渡性があります(信託法93条1項)。

▽信託法2条4項~7項

 この法律において「委託者」とは、次条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。
 この法律において「受託者」とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう。
 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。
 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。

▽信託法3条1号

(信託の方法)
第三条
 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
 特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法

▽信託法93条1項

(受益権の譲渡性)
第九十三条
 受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

信託受益権化する理由

なぜこのように対象資産を信託受益権化しておくかというと、主な理由として

  • 流通税の節税メリットがある
  • 担保設定がしやすい
  • 信託銀行のデューデリジェンスが期待できる
  • 譲渡手続が簡便

といった点が挙げられます。

①は、対象資産が不動産の場合、登録免許税が軽減されるほか、不動産取得税が非課税となるといった流通税の節税メリットが挙げられます。

②は、信託受益権を担保にとる(=質権を設定する)場合、信託受益権の交換価値だけでなく、信託口座にプールされている諸々のキャッシュも担保とすることができ、主にレンダー目線でメリットがあります。

▽信託法96条1項、97条

(受益権の質入れ)
第九十六条
 受益者は、その有する受益権に質権を設定することができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

(受益権の質入れの効果)
第九十七条
 受益権を目的とする質権は、次に掲げる金銭等(金銭その他の財産をいう。以下この条及び次条において同じ。)について存在する。
 当該受益権を有する受益者が受託者から信託財産に係る給付として受けた金銭等
 第百三条第六項に規定する受益権取得請求によって当該受益権を有する受益者が受ける金銭等
 信託の変更による受益権の併合又は分割によって当該受益権を有する受益者が受ける金銭等
 信託の併合又は分割(信託の併合又は信託の分割をいう。以下同じ。)によって当該受益権を有する受益者が受ける金銭等
 前各号に掲げるもののほか、当該受益権を有する受益者が当該受益権に代わるものとして受ける金銭等

③は、対象資産に対する信託銀行の受託審査の過程でデューデリジェンスが期待できるということで、これも主にレンダー目線でのメリットになります。

④は、信託受益権を譲渡しても受益者の名義を変えるだけで済み、所有者名義を受託者名義のままで変える必要がないということです。

そのほか、不動産の場合、SPCが不動産の現物を保有する形にすると不動産特定共同事業法の適用があり、同法上の不動産特定共同事業者としての許可が必要になってしまうので、それを避けるため、といった事情もあります。

金融商品取引法との関係

信託受益権の取引に関しては、信託受益権は第二項有価証券みなし有価証券)として、金融商品取引法の適用があります。

▽金融商品取引法2条2項1号

 …(略)…次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であつても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。
一 信託の受益権(…(略)…。)

第二項有価証券とは

 ざっくりいうと、流通性の高い有価証券(株式など)が第一項有価証券、流通性の低い有価証券が第二項有価証券みなし有価証券)と呼ばれています。

 なお、信託受益権でも、受益証券が発行されているものは第一項有価証券となっています。

▽参考リンク
二項有価証券(みなし有価証券)|第二種金融商品取引業協会HP

オリジネーターと金商法

オリジネーターが対象資産を信託し信託受益権を第三者(=ここではSPC)に譲渡する場合は、譲渡時に、オリジネーターが有価証券の発行者とみなされます(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下定義府令)14条3項1号、4項1号イ)。

▽金融商品取引法2条5項

 この法律において、「発行者」とは、有価証券を発行し、又は発行しようとする者(内閣府令で定める有価証券については、内閣府令で定める者)をいうものとし、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利で第二項の規定により有価証券とみなされるものについては、権利の種類ごとに内閣府令で定める内閣府令で定めるに当該権利を有価証券として発行するものとみなす

▽定義府令14条3項1号イ、4項1号イ(※【 】は管理人注)

 法第二条第五項に規定する権利の種類ごとに内閣府令で定める時に有価証券として発行されたものとみなされる内閣府令で定めるは、次の各号に掲げる権利の区分に応じ、当該各号に定める者とする。
一 法第二条第二項第一号に掲げる権利(次号に掲げるものを除く。)及び同項第二号に掲げる権利 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める者
 イ 委託者又は委託者から指図の権限の委託を受けた者のみの指図により信託財産の管理又は処分が行われる場合 当該権利に係る信託の委託者

 法第二条第五項に規定する内閣府令で定めるは、次の各号に掲げる権利の区分に応じ、当該各号に定める時とする。
一 法第二条第二項第一号及び第二号に掲げる権利 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める時
 イ 当該権利に係る信託の効力が生ずるときにおける受益者が委託者である場合【=自益信託の場合】(…(略)…) 当該権利に係る信託の委託者が当該権利(委託者が譲り受けたものを除く。)を譲渡する時

しかし、信託受益権についての自己募集は、(商品ファンド持分に該当する場合を除き)金融商品取引行為とされていないため(金商法2条8項7号ト、金商法施行令1条の9の2)、オリジネーターが第三者(SPC)に信託受益権を売却することは金融商品取引業に該当せず、登録は不要となっています。

SPCと金商法

他方、第三者が信託受益権を譲り受けたり、譲り受けた信託受益権をさらに売却する場合は、有価証券の売買として金融商品取引行為にあたります(金商法2条8項1号)。

そのため、業として行う場合には、原則として、第二種金融商品取引業(金商法28条2項2号に該当)の登録が必要となります。

▽金融商品取引法2条8項1号(※【 】は管理人注)

 この法律において「金融商品取引業」とは、次に掲げる行為(…(略)…。)のいずれかを業として行うことをいう。
 有価証券の売買(デリバティブ取引に該当するものを除く。以下同じ。)、…(略)…

▽金融商品取引法28条2項2号

 この章において「第二種金融商品取引業」とは、金融商品取引業のうち、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。
 第二条第二項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利についての同条第八項第一号から第三号まで、第五号、第八号又は第九号に掲げる行為

ただ、①自己のポートフォリオ改善のために行う有価証券の売買等は、基本的に「業として」行うものに該当せず(対公衆性を欠く)、金融商品取引業に該当しないとされています(平成19年パブコメ参照)。

②また、信託受益権の販売・・については、自ら勧誘することなく金融商品取引業者等の代理または媒介により販売するときは、投資家保護の観点から支障がないとして、一定の要件の下で金融商品取引業から除外されています(定義府令16条1項1号)。

SPCによる信託受益権の売買も、これらに該当する場合には金融商品取引業に該当しないことになります。

平成19年7月31日パブコメ「定義(金融商品取引業)〔第2条第8項〕」No.25(p39)|e-Gov(掲載ページ)

 現行の証取法上、自己投資目的で有価証券の売買を行う個人や企業の行為は、対公衆性を欠き、証券業の定義としての「有価証券の売買」には該当しないと一般に考えられているが、こうした解釈が金商法の下でも維持されていることを明確にした上で、定義府令案第16条第1項第1号を削除すべきである。

 個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものではありますが、現行の証取法の考え方と同様に、金商法においても、自己のポートフォリオを改善するために行う「有価証券の売買」等は、基本的に「業として」(金商法第2条第8項柱書)行うものに該当せず、「金融商品取引業」に該当しないものと考えられます。
 一方、ご指摘の定義府令第16条第1項第1号については、「信託受益権の販売」のすべてが「自己のポートフォリオを改善するために行う」ものとは限らないことを前提として、現行の「信託会社等に関する総合的な監督指針」(10-2-1(1))の内容も踏まえ、投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められる行為に限定して、「金融商品取引業」の定義から除外することとしているものです。

同パブコメNo.3(p35)|e-Gov(掲載ページ):対公衆性について

 …(略)…。この「対公衆性」の要件は、金商法第2条第8項各号に規定されるすべての行為類型について妥当するものであるのか、あるいは金商法第2条第8項各号に規定される行為のうち特定の類型(上記のデリバティブ取引のほか、同項第1号の「有価証券の売買」など)に限って妥当するものであるのか。…(略)…。

 法第2条第8項各号のすべての行為類型について、「業として」行うことが「金融商品取引業」の要件とされており(同項柱書)、一般に、「対公衆性」のある行為で「反復継続性」をもって行うものをいうと解されていると考えられます。
 具体的な行為が「対公衆性」や「反復継続性」を有するものであるか否かは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられます。
 なお、「対公衆性」や「反復継続性」については、現実に「対公衆性」のある行為が反復継続して行われている場合のみならず、「対公衆性」や「反復継続性」が想定されている場合等も含まれる点に留意が必要と考えられます。

▽定義府令16条1項1号

(金融商品取引業から除かれるもの)
第十六条
 令第一条の八の六第一項第四号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
 法第二条第二項第一号又は第二号に掲げる権利の販売のうち、勧誘をすることなく、金融商品取引業者等(法第六十五条の五第二項及び第四項の規定により金融商品取引業者とみなされる者を含む。以下この号において同じ。)による代理又は媒介により当該販売に係る契約を締結するもの(当該代理又は媒介に係る業務の委託契約書その他の書類(電磁的記録を含む。)において、当該販売を行う者が当該金融商品取引業者等に勧誘の全部を委託する旨が明らかにされているものに限る。)

結び

今回は、ファンド法務ということで、対象資産の信託受益権化について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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