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インハウスローヤー転職と非弁の論点(前編)|転職活動時の注意点

著作者:pressfoto/出典:Freepik

今回は、インハウスローヤー転職と非弁の論点について書いてみたいと思います。

非弁の論点は、座学の時代には「法曹倫理」とかナントカいった科目で若干触れるだけで、「そんな話、そうそう無いでしょうよ…こんなこと勉強して何になるんじゃろ」と思うものの(管理人の当時の正直な心情)、実務になってみると意外とそこそこ出会うことになるのが非弁の論点です。

※非弁行為があるという意味ではなく、非弁に抵触しないよう論点を検討すべき場合がある、という意味です。以下のいくつかの例も、それが非弁行為という意味ではなく、その論点がある領域という意味。

インハウスローヤーとも無関係ではないですし、転職のときにも意識はしておいた方がいいと思う論点なので、書いてみたいと思います。

なお、正確な記述は、日弁連などの諸々の書籍・記事群にお任せするとして、本記事は、他の記事と同様、管理人の個人的意見、主観記事であることをあらかじめお断りしておきます。

また、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

非弁の論点とは

非弁行為とは、ざっくりいうと、弁護士でない者が他人の法律事務を有償で処理することです。

正確にいうと、条文は以下のとおりです(弁護士法72条)。

▽弁護士法72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることできない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

分節すると、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者は【主体】
  • 報酬を得る目的で【目的】
  • 訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件【対象】
    に関して
    鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い【行為①】
    又は
    これらの周旋をすることを【行為②】
  • 業とすることができない【態様】

のようになっています。

これ、よく勘違いされているのは、「弁護士だから気にしますよね」というコメントなのですが、非弁自体は、弁護士だからどうという話ではなく、みんな(何人たりとも)やってはいけないという性質の話です。

非弁というのは、「法律系のライセンスを持っていないと、他人の法律事務を有償で処理してはいけません」という意味なので、「医師じゃないと医療行為をしてはいけません」というのと似たような話なのですが、なぜかそういうふうには理解されない感じがします。

「無免許医療って、医師だから気にしますよね」とは言わないだろうと思います。みんなやってはいけないわけです。

また、「やってはいけない」の意味も、あまり理解されていないような気がしますが、これは刑事罰、つまり犯罪とされています。

刑罰は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金です。

▽法77条3号

(非弁護士との提携等の罪)
第七十七条
 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
三 第七十二条の規定に違反した者

また、行為者(代表者又は従業員)のほか会社も処罰できる両罰規定になっています。会社(事業主が個人の場合はその個人)に対しては、300万円以下の罰金です。

▽法78条2項

 法人の代表者又は法人若しくはの代理人、使用人その他の従業者が、その法人又はの業務に関して第七十七条第三号若しくは第四号、第七十七条の二又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又はに対して各本条の罰金刑を科する。

インハウスローヤー転職と絡めていえば、インハウスローヤーは会社の手足として働くのだから、自分が弁護士登録をしていることは関係なく、業務が非弁に抵触していれば会社の行為が非弁となります(弁護士法72条)。株式会社は弁護士法人ではないので、当然そうなります。

インハウスローヤー個人は、自身が非弁になる、あるいは非弁提携になる(弁護士法27条)場合があると思います。

以下、いくつか個別の分野の話を見てみたいと思います。

非弁の論点があるいくつかの例

退職代行

ニュースなどで見聞きするイメージしやすいところからいくと、いわゆる退職代行サービスがあります。

退職代行業者がインハウスローヤーを雇用するというのは聞いたことがないので、インハウスローヤー転職とは関係ないですが、先ほど見たように、仮にそのようなことがあっても、それが理由で非弁の論点がなくなったりすることはありません(あくまでも会社の行為)。

以前に、以下のような関連記事を書いたことがあります。

▽関連記事

退職代行サービスが「代行」という言葉をチョイスしている理由

続きを見る

退職「代理」ではなくて退職「代行」という言葉を使っているのは、使者のニュアンスを出すためなんですよ、という話です。

つまり、退職代行が出来ることはメッセージのやり取りを伝えるだけ、比喩的にいえば手足としての動き(伝書バト的な動き)までであり、事件性のあることについて判断作用を伴うことをしてしまうと、法律事務の取扱いになってしまうということです。

不動産業界における立退き

たとえば、賃借人が入っているような物件(収益物件)の場合、老朽化などにより建替えをしたいときは、そのとき入っている賃借人やテナントに出て行ってもらわないといけないわけですが、これはいわゆる立退きと呼ばれます。

不動産会社がオーナーとの間に立っていることがあると思いますが、事情を話すことでさらっと移ってくれる人、立退料の交渉になる人、営業上の補償も問題になる人、そもそも退去を拒否する人など、いろいろな場合があり得ます。

間に入っている不動産会社が、こういったケースにどこまで関与するか(できるのか)、どこから弁護士にバトンタッチするのか、というのが、ここでの非弁の論点になります。

たとえば、紛争になっている場合、条件交渉を伴う場合、金額交渉を伴う場合、単にオーナーの呈示金額を伝えたりするだけの場合、立退料なども特になく退去する賃借人との連絡をする場合…、といったような、かなりの幅・グラデーションがあるだろうと思います。

この分野で有名な最高裁判決は以下で、これは、賃貸人から委託を受けて立退き交渉をした行為が非弁と判断された事例です。

最判平成22年7月20日(刑集64巻5号793頁)(最高裁HP)|裁判所HP(裁判例検索)

所論は、A社と各賃借人との間においては、法律上の権利義務に争いや疑義が存するなどの事情はなく、被告人らが受託した業務は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、同条違反の罪は成立しないという。しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。

ただ、この判決は、クロである事案をクロであると言っているもので(法的紛議が不可避であることが明らかといった認定のほか、不安や不快感を与えるような振舞いもしながら…といった事情も指摘されている)、シロとの間に広がるグレーの領域がどうなるかについては、あまり参考になる事例ではないように思います。

いわゆる判例の射程としては広くないという感じがします(管理人の私見)。

弁護士マッチングサービス

ちなみに、意外と見落とされがちなのは、法律事務の取扱いだけでなく、法律事務の取扱いを周旋することも非弁とされていることです(先ほどの弁護士法72条を参照)。

すっかり一般的になった弁護士マッチングサービスにもこの論点は存在するわけですが、主に検討の俎上にのってくるのは、「周旋」該当性と「報酬を得る目的」該当性になります。

少なくともメジャーな事業者はこれらの論点を整理した上でビジネスを行っているわけですが、弁護士はさておき、案外それを知らない人も会社にはいたりしますので、一般に普通と感じられているビジネス分野にも関係があるというひとつの例かなと思います。

周旋の論点と弁護士マッチングサービスについては、以下の関連記事にくわしく書いています。

▽関連記事

ビジネスと弁護士法|弁護士マッチングサービス

続きを見る

M&Aアドバイザリー/仲介

ほかにビジネス色の強いところとしては、M&Aアドバイザリー/仲介の分野にも、非弁の論点があったりします。

交渉の場面での関与の仕方についてよく言及がなされていますが、サポートが法的助言にわたる場合や契約書等の書面の作成への関与の仕方にも、境界線の問題はあるだろうと思います。

▽参考リンク
事業承継 ニューズレターVol.21|北浜法律事務所
M&Aアドバイザリーとは?業務内容、手数料、仲介会社との違い|M&Aサクシード

結び

インハウスローヤー転職と非弁の論点(前編)ということで、非弁の論点の一般論と、非弁の論点があるいくつかの例について書いてみました。

くり返しになりますが、本記事で非弁の論点があるといっているのは、非弁行為がなされている領域という意味ではなく、非弁の論点が存在する領域という意味であり、具体的な結論は個々の事例によります。

後編は、業務委託型の弁護士人材紹介サービスについてです。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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