前回(転職物語⑥)に続いて、インハウス転職のポジティブな面を指摘したいと思います。
前回、「法律事務所ではできない経験ができる」と書きましたが、「訟務」(訴訟業務の意)と「法務」の違いを、2点、対比的に書いてみたいと思います。
隣接分野との関わりの多さ
ひとつは、法務の方が訟務よりも法律外の隣接分野との関わりが多い、ということです。
もちろん訟務の方も、事実認定レベルで、あらゆる部分社会の経験則に精通しなければ(首を突っ込なければ)ならないので、法律外の分野との関わりはあります。
ただ、個別事例の処理に必要な限度で切り取るので、その関わりはスポット的です。
(それも積み重なっていけば体系的になる(=その分野の専門家になる)のですが)
これに比べて、法務の方は、総務、経理、監査、広報、IT、IR etc…と協働するので(要は案件によって他部署との連携が必要であるということ)、法律外の分野についてもある程度知識経験があった方がよいです。
当然ながら、平時の世界は法律だけで動いているのではなく、いくつかの要素が有機的に関連しつつ併行して動いているのであり、法務というか法律問題はその一要素にすぎません。
もっといえば、法律は主役ではなく、むしろ脇役であるといえます(主役っぽくなるときもありますが)。
このあたりは法律事務所では経験できない部分であると思います。
このへんを面白がることができるかどうかが、インハウス転職の向き不向きかもしれません。
法務は1行問題的
もうひとつは、法務は1行問題的であり、訟務は事例問題的である、ということです。
もう知らない人も多いかもしれませんが、旧司法試験には、事例問題のほかに一行問題というのがあり、民事訴訟法などは論文2問のうち1問は必ず1行問題でした(自分は旧司法試験と新司法試験の過渡期にいたため両方体験している)。
1行問題というのは、このテーマに関してはコレとコレとコレと…というふうに、ある程度枝分かれを整理してかつ暗記しておく必要がある(そうでないと書けない)のですが、これは事前に色んなパターンを網羅しておき処理を決めておくという、法務のフローに似ています。
白紙に仕組みを構築していく様が、1行問題に似ていると感じるわけです(ひとたび構築した後は、その更新作業になる)。
訟務というのは紛争の事後処理であるので、当然ながらいわば事例問題です。
さて自分はというと、久しぶりに弁護士業界に戻ってきたのですが、こんなに法律の話ばかりするのを聞いたのは久しぶりだなあという印象です。もちろん法律の専門家なのだから法律の話をしていれば良いのかもしれないし、むしろそうあるべきなのかもしれません。
ただ、本当にそれで良いのだろうか、という気もします。
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