法務転職

弁護士の転職物語⑭-転職の含み益?-

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弁護士の転職物語は10回で終わるはずだったのだが,ぽつぽつ書きたいことを後から思い出すことも出てきたので,続けて書いていきたい。

今回は,内定が複数もらえた場合の迷いの話,「メジャーを選ぶかマイナーを選ぶか」である。

転職活動を頑張り,幸いにして内定を複数をもらえた場合,どこに行くか?を当然決めねばならない。また,返事を待ってくれる期間には通常限りがあるし(長くて1週間~10日くらいか),できればすぐ返事をした方が感じもいいので,あまり悠長に悩んでいる暇はない(幸せな悩み,というやつであるが)。
自分は2回の転職活動をしたが,2回目の転職活動のときに,転職には”含み益”があるのかな?と思ったことがあり,それがこの話に関連しているので,ここで一緒に書いておきたい。

自分は1回目の転職活動をしたとき,ほぼ同時に,メジャーな会社の法務部と,マイナーな会社(皆が知っているような有名な会社ではない,という意味です)から,幸いにして内定をいただくことができた。

さてどっちに行こうか,というのは1,2日の間死ぬほど悩んだ。今後にとってかなり真逆の大きな選択だと感じたからである。

メジャーな会社は,名前を言えば誰でも知っているような有名な会社で,法務部もあり,その歴史も長い,という企業であった。ノウハウの蓄積もあるだろうし,巨大ビルでの面接で,社長面接というのは特になく,法務部長までが最終,というところだった。

マイナーな会社は,まさに業務規模拡大中の成長企業(当時,大証の2部だったと思う)で,これから会社体制を強化するために,法務部を新設するというお話だった。若輩野郎の私に,”そのために先生の力をお借りしたいのです”という感動的なお誘いの言葉を,面接担当官の方が言ってくださったことを,今でも覚えている。いまは部長となる人間がいて,海外に出張に出ているが,40歳ぐらいで部長になれる,ということすら仰っていた(リップかどうかはさておき)。来てくれるなら社長面接も直ちに行い,採用してくれるとのことだった。

さて結局自分はというと,メジャーな会社の方を選んだ。

後者の会社は,まさにこれから法務部を新設するというワクワク感がある一方,当時の自分は法律事務所で基本的に紛争処理業務に携わっており,法務の仕事といっても,「契約書チェック」「コンプライアンス」「債権管理」「労務管理」といった言葉が頭を形式的に巡るのみで,実感としてのイメージがほぼ湧かない状態だったからである。後ろ向きな理由だが,期待に応えられる自信がなかったともいえる。

他方,前者の会社を選んだのは,法務部長がある種のカリスマ性を持っている人で,面接でのインパクトが非常に強かったこと(この人はぶっ飛んでいて凄く面白そう,という直感を持った),また,当時の自分としては,いくらかすでにノウハウの蓄積があり,そこで法務の仕事をスタートさせてもらうというのがよいのではないかと思った,というのが理由である。

さてこれは今から振り返ってどうだったか。まさに「タラレバ野郎」的な話であるが,一応間違ってはいなかったのではないかと思う。

やはり一定程度,法務部に歴史があるところは,法務の全体像がすでに形作られていて(それがうまくアップデートされているかはさておき),なにか手さぐりの状態から始めるといった苦悩を感じることはなかった。非常に良い経験になったし,面白かった。いまでは自分の感覚として,法務部の全体イメージを持っているので,もし,いまの状態で同じ選択を迫られたら,今度はマイナーな会社の方に行っていると思う。

もうひとつ,メジャーな会社の方を選んで間違いではなかっただろうと思うのは,転職には一種の「含み益」があるのではないかと思うからである。

2回目の転職のとき,いくつか複数の内定をいただいたが,このとき,年収の額が,同じくメジャーな会社の場合にはほぼ横ばいであったのに対し,マイナーな会社の場合,かなり上限がアップしていた。

つまり,「誰でも知っているような会社」の法務部で働いていたというのは,一種の”箔がつく”というか,含み益を持っている状態ではないかと思うのである。転職しない限りその箔は顕在化しないが,転職の際に年収アップとなって顕在化することがあるのではないか,と感じた。
(これは私の個人的経験談にすぎず,そんな経験則はないのかもしれないので,ご注意ください。ちなみに私はその後独立したので,結局この含み益を享受することはできませんでしたし。)

マイナーな会社にいくと,そういった「含み益」はないのだろうし,もしも,もう1回転職を考えたときに,どんな会社で働いていたのかというのは,説明しないとわからないだろう。

というわけで,どうてしても決め手がなく,同じ悩みを持っている人がいたら,それならばメジャーな会社の方を選んでおくことをお薦めする。

しかし,本当に正しい選択なのかはもちろん誰にもわからない。メジャーな会社はそれなりに大企業病を発症しており,働いていて萎えることも多い。マイナーな会社の方に行っていたら,手さぐりでも一生懸命仕事し,自分で会社の新しい領域を構築する楽しみを感じ,インハウスで迷いなく幸せに一生を送る,ということもあったのかもしれない。

『東京タラレバ娘』も終わったところで,「たられば」風に締めてみました。

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