退職代行サービスは、なぜ「退職代理サービス」と言わないのでしょうか?
退職代行は最近よく見かける言葉ですが、法律的にはどういう意味なのか、簡単に記事にしてみました。
「代理」と「代行」
退職代行サービスが「退職代理」と言わないのは、「代理」という言葉を使ってしまうと、「非弁行為」の疑いが出るからです。
▽弁護士法72条
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
ざっくり言うと、弁護士でない人が他人の法律事務の取り扱いをしてお金をもらおうとすると、弁護士法72条に違反するんですね。これを「非弁行為」といいます。
「代理」も、法律事務の取り扱いの一つとして明示されています。退職の申し出も、雇用契約の解除なので、法律事務の取り扱いになり得ますね(正確にいうと、諸説ありますが)。
ではどうするのか?
じゃあどうすればいいのか?ということを考える人がどうするかというと、「『代理』じゃないんです、『使者』なんです!』という理屈をひねり出すわけですね。
「使者」というのは、手足として動く人、のことです。つまり、ただの”伝書バト”であって、たまたまそれを人間がやっているだけ、という意味です。
「あいうえお」と伝えてきてください、と言われて、「あいうえお」と伝えてくるようなイメージで、その人自身は何も判断しません。
これに対して、「代理」というのは、手足として動くのではなく、その人自身で判断しながら動く人、のことです。
お勉強的には、「代理と使者の区別」という論点の話になります。概念的には、間に立っている人自身の判断があるかないか、でスッキリと区別できます。
しかし、実際には、「使者」と「代理」の境目はあいまいです。実際に間に立っている人が、ただの伝書バトなのか、それとも、自身の判断を入れながら動いているかどうかは、事案によって、白、黒、グレー、どれもありえます。なので、このリスクは、事実認定の問題になりますね。
結び
「代行」という言葉にはっきりした定義はないんですが、手足として動く人、つまり使者を指す場合によく使われます。
つまり、「退職代行サービス」という言葉のチョイスは、「代理じゃないんですよ!本人が言いたいことそのまま伝えてるだけなんですよ!」というアピールなワケです。
日常で何気なく目にする言葉にも、実は法律的な意味が隠れている、という話でした。
[注記]
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