犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認-確認事項と確認方法

2021年4月30日

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認の全体像について見てみたいと思います。

確認事項と確認方法に分けて把握するとわかりやすいかと思いますので、本記事ではそのようにまとめています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

取引時確認の確認事項(法4条1項)

まず、取引時確認の確認事項について見てみます。

通常の特定取引の場合、確認事項は

  • 本人特定事項
  • 取引の目的
  • 職業(自然人の場合)又は事業の内容(法人の場合)
  • 実質的支配者(法人の場合)

の4つです。

具体的な内容と確認方法を加えてざっくり全体を表にすると、以下のようになります(※注:ハイリスク取引の場合はまた別です)。

確認事項顧客等具体的な内容確認方法
本人特定事項自然人の場合顧客等の「氏名」「住所」「生年月日」書類
代理人の「氏名」「住所」「生年月日」(※代理がいる場合のみ)
代理人と顧客等との関係(※代理人がいる場合のみ)
法人の場合顧客等の「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」
代表者等の「氏名」「住所」「生年月日」
代表者等と顧客等との関係
取引の目的  申告
職業又は事業の内容自然人の場合職業申告
法人の場合事業の内容書類
実質的支配者法人の場合のみ実質的支配者の本人特定事項申告

もともとは、本人特定事項だけだったので「本人確認」と言われていましたが、その後の改正で確認事項が増えたため「取引時確認」と呼ばれるようになりました。つまり、確認事項はいろいろありますが、最も重要な中心は「本人特定事項」です。

この点については、JAFICの「犯罪収益移転防止法の概要」の以下の解説がわかりやすいかと思います。

「犯罪収益移転防止法の概要」〔令和2年10月1日時点〕3頁|JAFICホームページ(≫掲載ページ

【犯罪収益移転防止法の一部改正】
≪平成 23 年改正犯罪収益移転防止法の概要(平成 25 年4月1日全面施行)≫
取引時の確認事項の追加(士業者を除く。)
一定の取引を行う際の確認事項に、本人特定事項に加え、次のものが追加されました。
取引を行う目的
職業(自然人)又は事業の内容(法人・人格のない社団又は財団)
実質的支配者(法人)
・ 資産及び収入の状況(ハイリスク取引の一部)

※ これらの確認事項は、特定事業者が疑わしい取引の届出を行うべき場合に該当するか否かの判断をより的確に行うために追加されたものであり、特定事業者は、顧客等が行う取引の態様が、その取引を行う目的や職業・事業内容等の属性情報等に照らし合わせて不自然でないかどうかを吟味することにより、当該取引が疑わしい取引の届出を行うべき場合に該当するかどうかを判断する必要があります。
なお、確認事項が追加されることに伴い、取引に際して行う確認を「取引時確認」と、確認をした際に作成する記録を「確認記録」ということとしています。

〇(以下略)

下線部に趣旨もさらっと書かれているように、②~④の「取引を行う目的」「職業又は事業の内容」「実質的支配者」は、疑わしい取引の届出を行うかどうかの判断に資するために加えられたものになります。

つまり、①と②~④とで確認の趣旨が違っていることも理解のポイントかと思います。

なお、①の趣旨は従来どおりで、顧客等の実在性と同一性の確認、つまり仮名取引やなりすましによる取引の防止です(前掲「犯罪収益移転防止法の概要」19頁)。

条文も確認してみます。

顧客等との間で、特定取引を行うに際しては、次の各号(1~4号)に掲げる事項の確認を行わなければならないと書かれています。

▽法4条1項(※「…」は管理人が適宜省略)

(取引時確認等)
第四条
 特定事業者…は、顧客等との間で、…特定業務…のうち…特定取引…を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない
 本人特定事項自然人にあっては氏名住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
 取引を行う目的
 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

取引時確認の確認方法

取引時確認の確認事項は上記のようなものだとして、次に、それをどうやって確認するのか?が2つ目の問題です。

それが取引時確認の確認方法で、大きく分けると書類申告があります。

書類は、確認事項ごとに、いろいろ細かい書類があります。

申告は、顧客等や代表者等から申告を受けることであり、口頭で確認することや、チェックリストへのチェック等が例示されています(前掲「犯罪収益移転防止法の概要」25頁)。

確認方法については、法律ではなく、施行規則で細かいところが定められています。

先ほどの表を右に伸ばして情報を追加すると(※カラーの列)、以下のようになります(※注:ハイリスク取引の場合はまた別です)。

確認事項顧客等内容確認方法書類の種類方法の種類
①本人特定事項自然人の場合顧客等(自然人)の本人特定事項書類・本人確認書類(A群)運転免許証など
・本人確認書類(B群)健康保険証など
・本人確認書類(C群)住民票の写しなど
・補完書類
(規則7条1号)(※)
対面の場合
非対面(eKYC)の場合
非対面(郵便等)の場合
☆使用できる本人確認書類は方法ごとに異なる
代理人の本人特定事項書類(※)の場合と同様 
代理人と顧客等との関係書類等・同居の親族又は法定代理人
・委任状その他の書面
・電話その他の方法
・認識その他の理由
のいずれか
(規則12条5項1号)
 
法人の場合顧客等(法人)の本人特定事項書類・登記事項証明書、印鑑登録証明書
・官公庁発行書類
・補完書類
(規則7条2号)
対面の場合
非対面の場合
代表者等の本人特定事項書類(※)の場合と同様 
代表者等と顧客等との関係書類等・委任状その他の書面
・代表役員としての登記
・電話その他の方法
・認識その他の理由
のいずれか
(規則12条5項2号)
 
②取引の目的  申告(規則9条)  
③職業又は事業の内容自然人の場合職業申告(規則10条1号)  
 法人の場合事業の内容書類・定款
・法令に基づく作成書類
・登記事項証明書
・官公庁発行書類
のいずれか
(規則10条2号)
左記の書類(写しを含む)を確認
④実質的支配者法人の場合のみ実質的支配者の本人特定事項申告(規則11条1項)  

①~④の確認事項のうち、内容的に量が多くて難しいのは、①の本人特定事項と、④の実質的支配者かと思います。②と③はそんなにややこしい話ではないのではないかと。

実質的支配者が何かについては、以下の関連記事にくわしく書いています。

顧客等が国や上場会社等の場合(法4条5項)

なお、顧客等が国や上場会社等の場合は、取引時確認の確認事項が大幅に省略されています(法4条5項)。

ひとことでいうと、顧客等が法人のうち国、自治体、上場会社等である場合は、取引の任に当たっている自然人(代表者等)の本人特定事項の確認と取引権限の確認のみでよいことになっています。

くわしくは以下の関連記事に書いています。

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、「取引時確認」に関して、確認事項と確認方法を見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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