商標法

商標法を勉強しよう|商標的使用論

著作者:rawpixel.com/出典:Freepik

今回は、商標法を勉強しようということで、商標的使用論について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

商標的使用論とは

商標的使用論とは、形式的には商品・役務について商標が使用されていても、自他識別機能を果たすための使用(自分の商品やサービスを他人のものと区別するための使用)ではない場合は、商標権侵害を否定する理論である。

自他識別機能を果たすための使用を「商標的使用」といい、”商標的使用にあたらないので商標権侵害は成立しない”、といった表現で使われる。

商標的使用にあたらない場合、形式的に商標の使用にあたる行為(法2条3項)があっても、商標権侵害の成立は否定されるわけである。

なぜかというと、商標の本質的機能は出所表示機能(自他識別機能)にあるが、商標が出所を表示する(自他商品を識別する)ために用いられていない場合は、商標に化体された信用が害されることはないからである。

「出所」というのがイメージしにくいですが、要するに、商品や役務の提供者のことです。

提供者を区別するための使用でない、つまり、商標が使用されているのを見ても「これはどこそこの商品・サービスなんだな」という風に需要者が思わない場合は、出所の混同が起こらない、ということです。

商標的使用論は、平成26年法改正により、商標の効力が及ばない場合のうちのひとつとして明文化されている。

▽法26条1項6号

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条
 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない
 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

商標的使用かどうかの判断基準

商標的使用にあたるかどうかは、需要者が、商標が出所を表示する(自他商品・役務を識別する)ために用いられていると認識するかどうか、によって判断される。

もちろん、被疑侵害者の主観的意図だけで判断されるわけではなく、客観的に、

  • 商標の構成(文字か図形かなど)、自他識別力の高さ、
  • 商標の使用態様(表示の位置や、他の商標が使用されているか)、
  • 取引の慣行(他での通常の使用例など)
  • 一般社会での使用例(辞書での使用例など)

等を総合的に検討して、個別の事案ごとに、実質的にみて、自他識別機能を果たすための使用かどうかが判断される。

以下、具体例を少しだけ見てみる。

商標的使用論の具体例

デザインと判断された事例(ポパイ・アンダーシャツ事件)

ポパイの人物とともに「POPEYE」の文字を表した標章(乙標章)と、ポパイの人物とともに「ポパイ」の文字を表した標章(丙標章)が付されたアンダーシャツを被告が製造・販売(卸販売)していたことから、ポパイの図柄の登録商標を有する原告が差止めを求めた事案である。

裁判所は、ポパイの図柄文字等をアンダーシャツの胸部などの中央部分に大きく表示するのは装飾のためであって商標の機能を発揮するためではないとして、被告が使用した乙標章、丙標章は商標的使用にあたらないと判断した。

大阪地判昭和51年2月24日(昭和49(ワ)393号)|裁判例検索(裁判所HP)

「…乙、丙各標章の現実の使用態様は、右各標章をいずれもアンダーシヤツの胸部中央殆んど全面にわたり大きく、彩色のうえ表現したものである。これはもつぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である「面白い感じ」、「楽しい感じ」、「可愛いい感じ」などにひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目的として表示されているものであり、一般顧客は右の効果のゆえに買い求めるものと認められ、右の表示をその表示が附された商品の製造源あるいは出所を知りあるいは確認する「目じるし」と判断するとは解せられない
 これに対し、「本来の商標」すなわち、商品の識別標識としての商標は、広告、宣伝的機能、保証的機能をも発揮するが、「本来の商標」の性質から言つて、えり吊りネーム、吊り札、包装袋等に表示されるのが通常である。「本来の商標」がシャツ等商品の胸部など目立つ位置に附されることがあるが、それが「本来の商標」として使用される限り、世界的著名商標であつても、商品の前面や背部を掩うように大きく表示されることはないのが現状である。…」
「…被告の本件乙、丙各標章の使用行為はこれを客観的にみても商標の本質的機能である自他商品の識別機能及び商品の品質保証機能を有せず、また、その主観的意図からしても商品の出所を表示する目的をもつて表示されたものではないものというべきである。」

キャッチフレーズと判断された事例(Alway Coca-Cola事件)

被告(コカ・コーラ社)は、「オールウェイズ コカ・コーラ」というキャッチフレーズによるキャンペーンを行っていた。

そのキャンペーン中、コカ・コーラの缶に「ALWAYS」という欧文字又は「オールウェイズ」というカタカナ文字の表示からなる標章を付し、又は同標章を付した缶入りコーラを販売し、販売のために展示していたことから、コーヒー等について「オールウェイ」の登録商標を有する原告が差止めを求めた事案である。

裁判所は、被告が使用した「ALWAYS」ないし「オールウェイズ」について、一般顧客は販売促進のためのキャンペーンの一環であるキャッチフレーズの一部と認識すると考えられるから、商標的使用にあたらないと判断した。

▽【第一審】東京地判平成10年7月22日(平成9(ワ)10409号)|裁判例検索(裁判所HP)

「…①コカ・コーラについては、従来から、「Come on in.Coke」、「Yes Coke Yes」、「Coke is it!」、「I feel Coke.」、「さわやかになる、ひととき」等の様々なキャッチフレーズによるキャンペーンが実施されていたこと、「Always Coca-Cola(オールウェイズ コカ・コーラ)」のキャッチフレーズは、これらのキャンペーンの一環として、平成五年から長期間にわたり、大規模に広告宣伝活動が行われてきたこと、②被告図柄一及び二において、前記のとおり、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、いずれも、著名商標である「Coca-Cola」に隣接した位置に、一体的に記載されていること、③「Always」ないし「オールウェイズ」が、「常に、いつでも」を意味することは、一般に知られているものと解されること、特に、被告図柄二においては、同一の意味を指すスペイン語「Siempre」、ポーランド語「zawsze」及びフランス語「Toujours」の語とともに記載されていること、④右キャッチフレーズは、ごく短い語句であるが、需要者が、いつも、コカ・コーラを、飲みたいとの気持ちを抱くというような、商品の購買意欲を高める効果を有する内容と理解できる表現であること等の事情に照らすならば、コカ・コーラの缶上に記載された本件欧文字表記及び本件カタカナ表記を見た一般顧客は、専ら、ザ・コカ・コーラ・カンパニーがグループとして実施している、販売促進のためのキャンペーンの一環であるキャッチフレーズの一部であると認識するものと解される。したがって、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記は、いずれも商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものとはいえないから、商標として使用されているものとはいえない。…」

▽【控訴審】東京高判平成11年4月22日(平成10(ネ)3599号)|裁判例検索(裁判所HP)

「…控訴人は、ある標章が商標として使用されているかどうかについては、当該標章の使用態様を客観的に判断すべきであって、被控訴人が従前行っていた広告活動や目的は全く関係がないと主張する。しかし、ある標章が商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているか否かについて、その標章が使用されるに至った経緯が全く関係がないということはできない。例えば、従前コカ・コーラについて様々なキャンペーンが実施され、各キャンペーン毎に、様々なキャッチフレーズが使用され、それを使用した広告宣伝活動が大規模に行われてきた以上、これらのキャンペーンとキャッチフレーズは一般顧客によって認識されているものと推認されるところ、右認識は、本件欧文字表記及び本件カタカナ表記が商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられているか否かを判断するに当たり、全く関係がないということはできないところである。したがって、控訴人の主張は失当である。…」

別の商品の商品名の表示と判断された事例(巨峰事件)

被告が「巨峰」の商標を表示した段ボール箱を製造販売していたことから、包装用容器について「巨峰」の登録商標を有する原告が差止めを求めた事案である。

しかし、裁判所は、「巨峰」の文字は、内容物であるぶどうの商品名を示すために印刷されたものであり、段ボール箱についての標章の使用ではないとして、商標的使用にあたらないと判断した。

福岡地判昭和46年9月17日(昭和44(ヨ)41)|裁判例検索(裁判所HP)

「…被申請人は、別紙目録記載のA・Bの各段ボール箱を、右ぶどう「巨峰」の生産者にその出荷用の包装用容器として販売するため製造しているものであつて、本件各段ボール箱に前記認定の如く表示されている「巨峰」、「KYOHO」等の文字は、その内容物たるぶどう巨峰を表示する目的のもとに印刷したものであると認められる。即ち、これらの文字は、被申請人の取扱う商品たる段ボール箱(包装用容器)の出所を表示し、あるいはその出所の判定を混乱させる目的をもつて表示されたものではないことが明らかである。
 一般に包装用容器に標章を表示してその在中商品ではなく、包装用容器そのものの出所を示す場合には、その側面又は底面、表面であれば隅の方に小さく表示するなど、内容物の表示と混同されるおそれのないような形で表わすのが通例であつて、包装用容器の見易い位置に見易い方法で表わされている標章は、内容物たる商品の商品名もしくはその商品の出所を示す標章と見られるもので、包装用容器そのものの出所を表わすものとは受けとられない、というのが今日の取引上の経験則というべきある。
 しかして、先に認定したとおり本件においては、A箱、B箱共に見易い位置に見易い形状で「巨峰」又は「KYOHO」と印刷されており、更に、「BEST GRAPE」又は「HIGH GRAPE」と印刷されていると共にぶどう葉型の窓から内容物を見ることができるようになつているのであつて、これらの事実を考えれば、本件A箱、B箱の「巨峰」「KYOHO」の各文字は、客観的にみても内容物たるぶどうの商品名の表示と解するのが相当である。…」
「…要するに本件A・B各段ボール箱に表示された「巨峰」「KYOHO」の標章は、その客観的機能からみても、又これを製造している被申請人の主観的意図からみても、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきである。しかりとすれば、被申請人の別紙目録記載の物件の製造販売は、申請人の本件商標権に対する侵害行為を構成するものとは認められず、…」

結び

今回は、商標法を勉強しようということで、商標権使用論について書いてみました。

少しだけですが、以下の特許庁HPの参考資料2に、裁判例上の商標的使用論の例がまとめられています。

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_shoi/seisakubukai-21-shiryou.html
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_shoi/seisakubukai-21-shiryou.html

www.jpo.go.jp

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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