今回は、ファンド法務ということで、投資事業有限責任組合におけるパススルー課税について見てみたいと思います。
LPS(投資事業有限責任組合)をはじめとする投資ファンドにおいて、パススルー課税(構成員課税)は、投資効率を最大化するための最も重要な税務メリットです。
しかし、そこで出てくる利益が現実に分配されていなくても、組合員に課税されるというルールは、初めてファンド投資に触れる方にとっておそらく理解しづらく、しかし実際上は投資家の資金繰り(キャッシュフロー)リスクに結びつく重要な論点です。
本記事では、この仕組みがどうして発生するのか、そして投資家にとって具体的にどのようなメリットとリスクをもたらすのかを解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
なぜ現実に分配されていないのに課税されるのか
これを理解するためのポイントは、損益の配分(Allocation)と財産の分配(Distribution)という、ファンド実務における2つの異なる概念の峻別にあります。
ファンドでお金が動き、投資家に届くまでには、税務・会計上、以下の2つのステップが異なるタイミングで行われています。
① 損益の配分(アロケーション)=計算上の利益の割り振り
LPSは通常、年1回などの決算(計算期間の終了)を行います。
この決算の際、ファンドが投資先の株式売却などで得た利益や損失を、あらかじめLPA(組合契約)で定められた割合(原則は出資比率)に応じて、各組合員の帳簿上の口座に割り振ります。
これはあくまで帳簿上・税務上の計算であり、現実に投資家の銀行口座にお金が振り込まれるわけではありません。
② 財産の分配(ディストリビューション)=現実の現金の支払い
ファンドの口座から、組合員の銀行口座へ現実にキャッシュ(または現物株式)を払い出す行為です。
結論:課税のタイミングは①損益の配分の時点
税法上、組合員(投資家)に税金が発生するタイミングは、②の現実にお金を受け取った時ではなく、①の帳簿上で利益が配分された時(=組合に損益が帰属した時)と定められています。
具体的には、LPSの計算期間の終了日の属する組合員(投資家)の事業年度の所得(個人なら所得税、法人なら法人税の益金)に算入して申告しなければならないという原則があります。
これが、利益が現実に分配(キャッシュとして受領)されていなくても、組合員に直接帰属した(アロケーションされた)段階で課税されるということの内容です。
なぜこのようなルールになっているのか(法的な背景)
なぜこのように、一見、投資家に厳しく見えるルールになっているのかというと、LPSが株式会社のような法人ではなく、契約型ビークルだからです。
二重課税の構造
株式会社の場合、会社自体が法人格という独立した法律上の人格を持つため、利益はまず会社のものになります。
そのため、国税はまず会社に対して法人税を課し、その後、会社が株主に配当を支払った段階で株主個人に所得税を課すという構造になります。これが、二重課税の構造です。
LPSは税法上の導管にすぎない
一方でLPSは、法人格を持たない組合(契約によって結ばれた人の集まり)です。法律上、LPSが取得した資産や現金は、LPSという会社が持っているのではなく、組合員全員の共有(法的な表現では合有)財産として扱われます。
LPSという”器”は税法上、単に中を素通りするだけの導管として扱われます。そのため、LPSが投資先から利益を得た瞬間、それは「LPSが稼いだ」のではなく、共有者である「組合員(投資家)が直接自分の力で稼いだ」という扱いになります。
したがって、お金がファンドの金庫(口座)に留まったままであっても、発生した瞬間に組合員の所得となり、課税が発生するわけです。
パススルー課税がもたらす投資家にとってのメリットとリスク
このパススルー課税の仕組みは、投資家にメリットをもたらす一方で、リスクも内包しています。
税制上のメリット
LPSの段階では一切法人税が課税されません。株式会社のように利益の約30〜40%を法人税として中抜きされることなく、100%丸ごとの利益に対して直接投資家の税率で課税されるため、手元に残るリターンが向上します(二重課税の回避)。
利益だけでなく、ファンドが被った損失(赤字)も同じようにリアルタイムで組合員にパススルーされます。投資家は、ファンドでの赤字を、自分自身の他の事業所得や法人の黒字と相殺(損益通算)して全体の税金を減らすことができます(損失のパススルー(損益通算) )。
任意組合等では一部損失取り込みに規制が入る場合がありますが、LPSの基本原則としてはパススルーです
投資家のキャッシュフロー(納税資金)リスク
一方、仮に、ファンドが投資案件で大きな利益を上げた(帳簿上の利益が発生した)ものの、以下のような理由で現金を投資家に分配せず、ファンド内に留保したとします。
- ファンドが、回収した資金を別の未上場企業に再投資することにした場合
- 一時的な資金のつなぎ(ブリッジ・ファイナンス)としてファンド内にプールしておく場合
- 将来の追加投資やファンド費用(管理報酬など)の支払いに備えて、GP(無限責任組合員)の裁量で現金を留保する場合
この場合、投資家の手元にはキャッシュ(分配金)は1円も入ってきていないにもかかわらず、決算が締まると帳簿上の利益(配分された損益)に対して多額の税金が課税されます。投資家は、自分のポケット(手元資金)から納税資金を持ち出して、税務署に支払わなければならなくなります。
これをドライ・インカム(Dry Income)課税などと呼び、投資家にとって予期せぬ資金繰りの圧迫要因となり得ます。
このリスクをどう防ぐのか(LPAにおけるガバナンスと条項設計)
このお金がないのに税金だけ払うというミスマッチを防ぐため、実際のLPSを立ち上げるための契約書(LPA)交渉においては、以下のようなガバナンスと条項の設計が重視されます。
① 公租公課の規定(代理納税)による納税原資の確保
海外のプライベート・エクイティ(PE)ファンド等では、ファンドが再投資などのためにキャッシュを留保する場合であっても、投資家に生じる想定納税額に相当するミニマムな金額だけは、最優先で投資家に現金分配しなければならない、と義務付けておく場合があります(納税分配(Tax Distribution)条項の設置)。
これに対して、日本の経産省のモデルLPAには、デフォルトでこのような名称の独立条項は用意されていませんが、これに代わるセーフティネットとして、公租公課条項(モデルLPA31条)が実質的な調整機能を果たしています。
▽モデルLPA31条1項
第31条 公租公課
1. 本組合の事業に関し各組合員に課される公租公課については、各組合員が負担するものとし、組合財産からは支払われないものとする。但し、組合財産の処分等に関して課される公租公課については、各組合員がその持分金額の割合又は関連する対象持分割合に応じて負担するものである限り、無限責任組合員は、これを組合財産から支払うことができるものとする。
これにより、ファンドが投資先を売却して利益(処分収益)を認識した際、GPは投資家にキャッシュを分配する前に、投資家にかかる税金分を組合財産から直接、税務署に支払う(代理納税する)ことができます。投資家は手元資金を持ち出すことなく、ファンド内のキャッシュで納税義務を果たすことができるため、実質的な納税用分配と同様の効果が得られます。
また、同条3項では、GPや組合が源泉徴収義務を負う場合や、投資家に代理して納税を行う合理的な理由がある場合、GPの裁量により、「分配を行うに際し、当該組合員等に分配すべき組合財産の中から、納税額に相当する現金を控除して(差し引いて)支払う」ことも認めています(分配金からの強制控除(Tax withholding))。
② 分配時期のコントロール
利益(処分収益など)が発生した場合には、GPが合理的な理由なくファンド内に現金を留保することを防ぐため、原則として受領後〇ヶ月以内に速やかに分配するという早期分配ルールをLPAに盛り込み、GPの留保裁量を制限します。
▽モデルLPA29条2項1号
① 無限責任組合員は、処分収益を受領したときは、その受領後[ ]ヶ月以内の無限責任組合員がその裁量により指定する日において、当該処分収益に係るポートフォリオ投資に係る対象組合員等に対し、当該処分収益から、処分等に要した諸費用及び公租公課並びに当該処分等の時において支払期限が到来していた当該ポートフォリオ投資に係る組合費用の合計額を控除した上、当該各対象組合員等の対象持分割合(脱退組合員については当該脱退組合員の脱退当時を基準とする。)に応じて按分した割合により分配するものとする。
③ GPの留保権および再投資権に対する制限
速やかな分配を基本原則に掲げていても、GPに広範な再投資権や、将来の費用のための資金留保権(リザーブ権)が認められていては、投資家にキャッシュが届きません。
そのため、投資家側のLPA交渉(またはサイドレター交渉)においては、以下のような対策をとることが考えられます(投資家の総合的な資金繰り(キャッシュフロー)という広義の観点からの、間接的な関係性)。
- 再投資枠の制限:再投資(早期回収分の再投資やブリッジ融資の回収金など)を認める場合であっても(モデルLPA29条6項参照)、再投資に優先して納税相当額のキャッシュだけは必ずLPに先行分配することを義務づける
- 留保(リザーブ)の制限:将来の組合費用(管理報酬など)やファンドの借入金(サブスクライン)の返済のためにGPが売却キャッシュを内部留保する際、その留保額の範囲を制限し、LPの納税資金の流出を最小限に抑える
要するに、前者は「再投資する前に、LPの税金分(納税分配)だけは先に配ってほしい」という要望、後者は「何年も先の費用のために、今ある売却キャッシュをファンド内にプールし続けないでほしい(上限を設けてほしい)」 という要望です(これらはモデルLPAに記載されているものではありません)
結び
利益が現実に分配されていなくても課税されるというのは、LPSが法人税を免除される(パススルーである)ことの裏返し、トレードオフです。LPSが利益を出した瞬間、法的には”投資家自身のサイフに直接利益が入った”と扱われるため、キャッシュの移動に関係なく課税が走るわけです。
この仕組みがあるため、LPSの運営ルールを定めるLPA(契約書)において、利益がいつ・どのように現金として分配されるかという点が、投資家とファンド運営者(GP)間でドラフティングや交渉がなされるポイントのひとつになります。
今回は、ファンド法務ということで、投資事業有限責任組合におけるパススルー課税について見てみました。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- SPVスキーム持分に係るモデル契約|第二種金融商品取引業協会HP
- LPS法の解説|経産省HP
- 投資事業有限責任組合契約書例及びその解説〔令和7年版〕|経産省HP
参考文献
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