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ファンド法務|不動産を投資対象とする場合のLPSスキームと不特法スキームの違い

2024年8月27日

今回は、ファンド法務ということで、投資事業有限責任組合において不動産を投資対象とする場合のスキームについて見てみたいと思います。

LPS(投資事業有限責任組合)において不動産を対象としたファンドを組みたい場合は、不動産を信託受益権という有価証券の形にしてLPSに保有させる必要があります。

では、LPSに信託受益権化された不動産を格納するときに、不動産特定共同事業法の規制はかからないのでしょうか。本記事は、この点を中心に、LPSにおいて不動産に投資するときのスキームについて、不特法スキームと対比しつつ解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

不動産を対象資産とする場合のLPSのスキーム

結論からいうと、LPS(投資事業有限責任組合)に信託受益権化された不動産(不動産信託受益権)を格納する場合、原則として不動産特定共同事業法(以下、不特法)の規制はかかりません

この信託受益権によるスキームは、不特法の厳しいライセンス要件を回避するためのポピュラーな手法となっています。

なぜ不特法がかからないのか、そして代わりにどのような法律に注意すべきなのか、法的な背景と合わせて詳しく解説します。

不特法の規制がかからない理由

不特法の規制をクリアできる理由は、不特法が対象とする「不動産」の定義と、LPSが取得する資産の性質にあります。

不特法は現物不動産の取引のみが対象

不特法が規制する不動産特定共同事業とは、出資を募って不動産取引(現物不動産の売買、賃貸、交換)を行い、そこから生じる収益を分配する行為を指します。

しかし、不動産を信託銀行等に信託して信託受益権という形にした場合、それは法律上有価証券(みなし有価証券)として扱われます。不特法は有価証券の取引を対象としていないため、信託受益権を取引しても不特法の適用外となります。

LPS法上も信託受益権の保有は適法

LPSは法律で事業範囲が制限されていますが、LPSが営むことができる事業として、信託の受益権の取得及び保有が限定列挙事業のひとつに入っています(LPS法3条1項6号)。

LPSは現物不動産を直接取得することは原則できませんが(不特法の問題以前にLPS法違反となるため)、信託受益権の形にパッケージされたものであれば、法律上取得・保有することができます。

なぜ信託受益権化が用いられるのか

不動産証券化の実務(合同会社を用いたGK-TKスキームなど)において、現物不動産を一度信託銀行に信託し、信託受益権にしてからビークルに格納するのは、この不特法回避が最大の目的の一つです。

もし現物不動産のまま出資を募って運用しようとすると、営業者(SPCやGP)は不特法上の許可事業者にならなければなりません。この許可を得るためには、資本金1億円以上の株式会社であること宅地建物取引業者(宅建業)の免許を持っていることなど、ビークル(ペーパーカンパニー)にとっては実際にはクリア不可能なハードルが課されます。

そのため、不動産を信託受益権という有価証券の形に変えることで、不特法の適用を回避し、組成の柔軟性を確保しています。

不特法は適用されないが金融商品取引法(金商法)の規制がかかる

ただし、不特法がかからないなら自由に対外募集して運用できる、などと考えるのは早計です。不特法の網からは外れますが、その代わりとして金融商品取引法(金商法)規制が適用されるからです。

不動産信託受益権は金商法上のみなし有価証券(第二項有価証券)に該当するため、以下の規制をクリアしなければなりません。

GP(無限責任組合員)に対する投資運用業の登録というハードル

LPSが出資者から集めた資金を主として不動産信託受益権(有価証券)に投資して運用する行為は、金商法上の投資運用業(自己運用)に該当します。そのため、原則としてGPは投資運用業者としての登録(資本金5,000万円以上、人的体制の完備など)が必要になります。

登録を回避するための特例業務の活用

実務上、すべてのファンドで投資運用業の登録を行うのは困難であるため、金商法63条の適格機関投資家等特例業務(プロ向け私募)の届出を行い、登録を回避するのが一般的です。

この特例を利用するためには、LPSの組合員の中に適格機関投資家(プロ)を1名以上含め、一般投資家(個人など)の人数を49名以下に抑えるといった人数制限や、持分の譲渡制限を契約書(LPA)に盛り込む必要があります。

考え方の解説

簡単にいうと、信託受益権化するとみなし有価証券になって、金商法の規制をかけることができるので、不特法による規制はいらないというイメージです。

言い換えると、上記のスキームは、適用される法律の土俵(ルール)を、厳しい不動産業の規制から、ある程度柔軟な金融の規制へと引っ越しさせるための知恵といえます。

なぜそのようなことが可能になり、実務ではこのルートを選ぶのか、その考え方を改めて3つのステップに分けて見ていきましょう。

ステップ1:信託受益権にするとなぜ不特法から外れるのか

不動産特定共同事業法(不特法)が規制対象としているのは、あくまで現物不動産の取引(売買、賃貸、交換)です。

  1. 現物を信託する:オリジネーター(元の所有者)が土地や建物を信託銀行等に信託すると、法的な所有権は信託銀行に移ります
  2. 財産権を債権に変える:代わりにオリジネーターが手にするのは、信託財産から出る利益を受け取る権利である信託受益権です
  3. 不特法の対象外へ:信託受益権は法律上有価証券(債権)であって現物不動産そのものではないため、これをSPCが購入して運用しても、不特法上の不動産取引には該当しなくなり、不特法の適用から外れます

ステップ2:代わりに金商法がかかる(みなし有価証券化)

不特法の網からは外れますが、代わりに登場するのが金融商品取引法(金商法)です。

金商法上、この不動産信託受益権はみなし有価証券(第二項有価証券)とされています。有価証券を扱う以上、その販売勧誘(第二種金融商品取引業)や運用(投資運用業)には、投資家保護を前提とした金商法の金融規制が課されることになります。

ステップ3:なぜ不特法を避けて金商法にしたいのか

ここで金商法の規制がかかるなら、結局厳しいのではないか?という疑問が湧くかもしれませんが、ここに実際上のメリット(使いやすさの差)があります。

不特法の壁(ペーパーカンパニーには不可能)

不特法は、いわば街の不動産会社のような”実体のある事業者”を想定して作られた法律です。

そのため、事業の許可を得るには、資本金1億円以上の株式会社であること宅地建物取引業(宅建業)の免許を持っていることなどの重い要件が課されます。資金調達のために設立される中身のない”箱”にすぎないSPC(合同会社など)が、この許可をクリアすることは実質的に不可能です。

金商法の柔軟性(プロ向け特例の存在)

一方、金商法には特定投資家(プロ)制度や、届出だけで業務が行える適格機関投資家等特例業務(金商法63条)といった、ある程度柔軟な免除規定も用意されています。

プロの投資家を1名以上含め、一般の投資家を49名以下に抑えるといった一定のルール(プロ向け私募)をクリアして事前に届け出れば、SPC自身は重い金融ライセンスの登録を受けることなく、簡易な届出だけでファンド(GK-TKスキーム等)を組成・運営することができます。

このように、現物不動産を信託という方法で信託受益権(みなし有価証券)という金融商品にパッケージングすることで、ペーパーカンパニーには到底クリアできない不特法の規制を回避し、その代わりに、プロ向けの免除制度が整っている金商法の土俵でファンドを運営しているというのが、このスキームが用いられる理由です。

投資一任契約によるスキームはないのか

ちなみに、SPVにおける金商法の登録を回避するためのスキームとしては、ほかにも投資一任スキームがありますが、これは使えないのでしょうか。

結論からいうと、LPS(投資事業有限責任組合)においても、外部の登録投資運用業者に運用権限を全部委託(投資一任契約)することで、無限責任組合員(GP)自身の投資運用業の登録を回避するスキームは法的に存在します。

つまり、「LPSだから使えない」というわけではありません。ただ、通常のPE(プライベート・エクイティ)やVC(ベンチャーキャピタル)のLPSファンドにおいては、この投資一任による回避スキームは主流ではなく、簡易な適格機関投資家等特例業務(自己運用)が多数を占めます。

なぜ、LPSにおいて投資一任契約による登録回避が可能なのか、そしてなぜ通常のLPSファンドではそちらではなく特例業務が選ばれるのか、このあたりの事情も見ておきましょう。

LPSにおける投資一任契約による登録回避の法的根拠

LPSであっても、集団投資スキーム持分(ここではLPS契約に基づく権利)による出資を受けて、その出資金で主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として運用財産を運用する行為は、金融商品取引法における自己運用(金商法2条8項15号ハ)にあたり、規制対象となります。

そのため、GPが組合財産を(主として未上場株式などの有価証券に)投資・運用する場合、原則として投資運用業の登録が必要です。

しかし、LPSにおいても定義府令16条1項10号(および同施行令第1条の8の6第1項第4号)の適用を受けることができます。以下の要件をLPS契約(LPA)および投資一任契約に盛り込み、実際の運用を一任することで、GP(無限責任組合員)自身は投資運用業の登録を受けなくても適法にファンドを運営することができます。

  • LPA(組合契約)への明記:運用を行う権限の全部を外部の投資運用業者に委託する旨、委託先(運用会社)の名称、投資一任契約の概要、およびその報酬について、LPS契約書に明記すること
  • 受託者の義務規定:委託先の運用会社が、投資家(LP)に対して忠実義務・善管注意義務を負う旨を、LPS契約および投資一任契約の双方に定めること
  • 分別管理と監督:GP自身が組合財産を自己の固有財産等と分別管理し、委託先の運用会社がその分別管理状況を監督すること
  • 事前届出:委託先の運用会社が、事前に所管金融庁長官等に対して当該LPSに関する届出を行うこと

これらは、経済産業省が作成しているモデルLPAやその解説でも、業務の外部委託(全部委託)を行う場合の条項案として用意されています。

なぜ通常のLPSファンドでは投資一任が使われにくいのか

法的には可能な投資一任による全部委託スキームですが、通常のベンチャーキャピタルやバイアウトファンドなどのLPSでこれがメインにならないのには、主に2つの理由があります。

① GPの運用の主体性(存在意義)が失われる

LPSのGP(無限責任組合員)は、LP(投資家)から、”あのGPのソーシング能力(案件発掘力)、目利き力(デューデリジェンス)、ハンズオンでの経営指導力”を信頼され、高い報酬(管理報酬や成功報酬であるキャリードインタレスト)を約束されてファンドの舵取りを任されています。

しかし、このスキームを適用するためには、投資判断の権限を、外部の運用会社に“全部”一任しなければなりません。

もしGPが投資先企業の選定や投資実行の決定権限を一切持たず、単なる”事務管理の箱”になり下がってしまっては、GPとしての存在意義(何のためにLPから資金を集めたのか)や独自の運用ノウハウを発揮する余地が契約上失われてしまいます。これが最大のネックです。

② 適格機関投資家等特例業務の届出のハードルが低い

通常のPE/VCファンド(LPS)が出資を募る相手は、機関投資家(プロ)や、相応の資産と投資経験を持つ事業会社・富裕層(準プロ)がほとんどです。

金商法上、プロである適格機関投資家が1名以上存在し、一般投資家(特例業務対象投資家)が49名以下という要件を満たせるのであれば、GP自身が届出を提出するだけで、重い投資運用業の登録をすることなく、自身の主体的な意思決定(自己運用)としてファンドを合法的に運用(特例業務)することができます

GP自身が「自分で投資判断をしたい」と考え、かつ投資家がプロ中心であるLPSの実務において、わざわざ自分の投資権限を外部に一任する投資一任スキームを選ぶ動機は薄いといえます。

LPSで外部への投資一任(全部委託)が使われるケース

では、どのような場合にLPSでこの一任スキームが使われるのでしょうか。

一般投資家(個人など)を広く(50名以上)呼び込みたい場合

特例業務の人数制限(一般投資家49名以下)を超えて、個人投資家などから広く小口の資金をLPSに集めたい場合、特例業務の枠組み(プロ向け私募)は使えません。

しかし、GP自身が投資運用業の重いライセンスを新規取得する人的・財政的余裕がないとき、この一任(全部委託)スキームを使うことで、登録なしで一般投資家からLPSで資金調達することができます。

官民協調ファンドなどの特殊な救済・安定化スキーム

また、実際の具体例として、リーマンショック後に官民共同で組成された不動産市場安定化ファンド(J-REITをデット面で支援するファンド)では、このLPSと信託・一任契約を組み合わせたスキームが採用されました。

このファンドでは、LPSで幅広い業界から出資(LP)を束ねたうえで、LPS自体が信託の委託者兼受益者となり、その運用指図(投資一任)を登録投資運用業者であるアセットマネージャー(AM)に委託するという、精巧なLPS+投資一任の構造が取られました。

【参考】SPVモデル契約(匿名組合)との対比

 ちなみに、令和8年7月に二種業協会が公表したSPVモデル契約(匿名組合・GK-TKスキーム)においては、投資一任がデフォルト(標準設計)として想定されていますが、これは、LPSのような複数案件に分散投資するブラインドプール型ファンドとは異なり、投資先があらかじめ1社に特定されている単一案件型のSPV(プロジェクトファンド)を想定しているからです。

▽参考リンク
SPVスキーム持分に係るモデル契約|第二種金融商品取引業協会HP

 このようなSPVでは、営業者(合同会社等)は投資判断をする必要がほぼなく、単なる事務処理と資産保有のためのペーパーカンパニー(ハコ)に徹するため、リスク遮断とライセンス回避のために、外部の投資運用業者に運用(管理・処分等)を丸ごと一任(全部委託)するストラクチャーが理にかなっています。

 これに対して、GPが能動的に未上場企業を発掘して育てるLPSでは、GPの主体性を守るために特例業務(自己運用)が王道として選ばれる、というビークルの目的・特性に応じた使い分けが存在しています。

結び

LPSに信託受益権化された不動産を格納する場合、不動産特定共同事業法の規制(許可や資本金要件など)は適用されません。

ただし、その格納されるアセット(信託受益権)は金融商品取引法上の有価証券となるため、LPSのGP(無限責任組合員)は金融商品取引法上の投資運用業の規制や適格機関投資家等特例業務の届出要件を遵守して運営する必要がある、という点に留意が必要です。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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