スタートアップ投資やプライベート・エクイティ(PE)ファンドなどのニュースを見ていると、「LPA」や「GP」「LP」といったアルファベットの専門用語がしばしば出てきますよね。
なんとなく「投資家やファンド運営者のことかな?」とイメージしていても、それぞれの具体的な役割や責任の違いまではよくわからない…という方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事は、ファンド投資の基本とも言えるLPAにおけるGPとLPの役割と違いについて、法的な背景も踏まえつつ、わかりやすく解説していきます。なお、解説にあたっては、令和7年に経済産業省から公表された最新のモデル契約等の資料も参照しつつ、最新の実務動向に合わせて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
そもそもLPAとは何か
LPAとは、投資事業有限責任組合契約(Limited Partnership Agreement)の略称です。
日本でベンチャー企業や未公開企業に投資するファンドを立ち上げる際、最もよく使われるファンドの器(ビークル)が、この投資事業有限責任組合(LPS)という仕組みです。LPAは、その組合を組成し、運営のルールを定めるための重要な契約書を指します(経産省からモデル契約が出ています)。
このLPS(投資事業有限責任組合)は、GP(無限責任組合員)とLP(有限責任組合員)という、2種類の異なる立場の人たちによって構成されるのが最大の特徴です。
▽LPS法2条2項
2 この法律において「投資事業有限責任組合」とは、次条第一項の投資事業有限責任組合契約によって成立する無限責任組合員及び有限責任組合員からなる組合をいう。
▽LPS法3条1項
(投資事業有限責任組合契約)
第三条 投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。
一~十二 (略)
では、それぞれの役割を見ていきましょう。
ファンドの運営者:GP(無限責任組合員)
GP(General Partner:無限責任組合員)は、ひとことで言えばファンドの運営主体です。
役割:ファンドのハンドルを握る
GPは、投資先の発掘、投資の実行、投資先企業の経営支援(バリューアップ)、そして最終的な売却(エグジット)まで、ファンドの業務のすべてを決定し、執行する権限と義務を持っています。ファンドという車を運転するドライバーのような存在です。
▽LPS法7条1項
(業務の決定及び執行の方法等)
第七条 組合の業務は、無限責任組合員が決定し、これを執行する。
責任:連帯して無限責任を負う
無限責任という名前の通り、GPはファンド(組合)が抱えた債務に対して、出資額に関係なく、連帯して全額の支払い責任を負います。
つまり、万が一ファンドの財産だけで借金や損害賠償などを払い切れない事態に陥った場合、GPは自らの固有財産を投げ打ってでも責任を取らなければなりません。重い責任を背負う代わりに、ファンドの運営を自由にコントロールできるのがGPの立場です。
▽LPS法9条1項
(組合員の責任)
第九条 無限責任組合員が数人あるときは、各無限責任組合員は組合の債務について連帯して責任を負う。
ファンドのスポンサー:LP(有限責任組合員)
一方、LP(Limited Partner:有限責任組合員)は、ファンドにお金を出す投資家(スポンサー)です。金融機関、年金基金、事業会社、個人の富裕層などがこのLPになります。
責任:安心の有限責任
LPの最大のメリットは、自分が出資した額(出資の価額)を限度としてのみ責任を負うという点です。
ファンドがどれだけ大きな損失を出したり、借金を抱えたりしても、LPは自分が約束した出資額以上のお金を請求されることはありません(出資したお金がゼロになるリスクはありますが、それ以上のマイナス(借金)を背負うことはないということです)。
▽LPS法9条2項
2 有限責任組合員は、その出資の価額を限度として組合の債務を弁済する責任を負う。
役割:口出しはNG(業務執行の禁止)
有限責任という安全な立場を約束される代わりに、LPには厳しいルールがあります。それは、ファンドの業務執行(投資判断などの運営)には一切関与してはいけないということです。
もしLPがファンドの運営に口出しをして、外部の人から「このLPが業務執行者(GP)なんだな」と誤認させるような行為をした場合、そのLPは、GPと同じように重い無限責任を負わされてしまうリスクがあります。LPはあくまでお金は出すけど、口は出さない(出せない)パッシブな投資家として位置づけられています。
▽LPS法9条3項
3 有限責任組合員に組合の業務を執行する権限を有する組合員であると誤認させるような行為があった場合には、前項の規定にかかわらず、当該有限責任組合員は、その誤認に基づき組合と取引をした者に対し無限責任組合員と同一の責任を負う。
LPはどうやってGPを監視するのか(ガバナンス)
「お金だけ出して口を出せないなら、GPが自分たちの利益に反する運用をしないか不安では…?」 LPにとっては当然の悩みです。
そこで、LPA(契約)の中には、LPの権利を守り、GPを監視・監督するための様々な仕組み(ガバナンス)が組み込まれます。
情報開示と検査権
GPには定期的に財務諸表や運用報告書を作成・送付する義務があり、LPはそれらを閲覧したり、組合の業務や財産の状況について質問・検査したりする権利を持っています。
LPS法8条3項で、組合員がいつでも財務諸表等や監査人の意見書の閲覧・謄写を請求できる権利が保障されているほか、民法673条(組合員の組合の業務及び財産の状況に関する検査権)が準用されており、LPがGPの業務執行状況や財産状況を検査する権利の法的根拠となっています。
▽LPS法8条
(財務諸表等の備付け及び閲覧等)
第八条 無限責任組合員は、毎事業年度経過後三月以内に、その事業年度の貸借対照表、損益計算書及び業務報告書並びにこれらの附属明細書(第三項において「財務諸表等」という。)を作成し、五年間主たる事務所に備えて置かなければならない。
2 前項の場合においては、無限責任組合員は、組合契約書及び公認会計士(外国公認会計士を含む。)又は監査法人の意見書(貸借対照表及び損益計算書並びにこれらの附属明細書に係るものに限る。次項において同じ。)を併せて備えて置かなければならない。
3 組合員及び組合の債権者は、営業時間内は、いつでも、財務諸表等並びに前項の組合契約書及び意見書の閲覧又は謄写を請求することができる。
▽LPS法16条→民法673条(※「…」は管理人が適宜省略)
(民法の準用)
第十六条 組合については、民法(明治二十九年法律第八十九号)…第六百七十一条から第六百七十四条まで(委任の規定の準用、業務執行組合員の辞任及び解任、組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査並びに組合員の損益分配の割合)、…の規定を準用する。
モデルLPAでも、LPの検査権・質問権の詳細な手続が規定されています(モデルLPA17条)。
諮問委員会(LPAC)の設置
また、大口のLPなどで構成される諮問委員会を設置することがよくあります。
GPが自分たちと利益相反するような取引(自分の会社から株を買うなど)を行う場合や、規定のルールから外れた投資を行う場合などに、この委員会の承認や助言を必要とする仕組みにして、GPの暴走に歯止めをかけています。
モデルLPAのブラケット部分([ ]部分)は、空欄または選択制になっている箇所です。本記事では黄色ハイライトにしています(以下同じ)。
▽モデルLPA20条1項・2項・7項
第20条 諮問委員会
1. 無限責任組合員は、本条に規定するところに従い、本組合の諮問委員会を設置する。
2. 諮問委員会の委員は、出資約束金額が[ ]円以上である有限責任組合員(特定関係者である有限責任組合員[、特別有限責任組合員]及び不履行有限責任組合員を除く。)が[その裁量により指名する者 / 指名する自己の役員又は従業員]とする[(当該有限責任組合員が個人の場合には当該有限責任組合員とする。)]。なお、いずれの有限責任組合員も、諮問委員会の委員として複数人を指名することはできない。
7. 諮問委員会は、次の各号に規定する行為を行うことができるものとする。無限責任組合員は、本項第①号、第②号及び第④号に規定する行為又は取引については、これらに規定するところに従って諮問委員会の承認を得ること又は諮問委員会の意見陳述若しくは助言の機会を設けることを条件として、かかる行為又は取引を行うことができるものとする。なお、本項[第①号、第②号、]第③号及び第④号において、諮問委員会は、意見陳述又は助言提供の機会を与えられるに留まり、無限責任組合員は、かかる意見又は助言に拘束されないものとする。
① 前条第2項に規定する行為及び前条第7項第③号から第⑤号までに規定する行為であって無限責任組合員から予めその[承認 / 承認又は意見陳述若しくは助言]を求められたものについての[承認 / 承認又は意見陳述若しくは助言]
② 前号に規定する行為のほか、本組合の利益と相反し、又は相反する可能性のある無限責任組合員又は特定関係者の行為又は取引(前条第7項第①号及び第②号の取引を除く。)のうち、無限責任組合員から予めその[承認 / 意見陳述又は助言]を求められたものについての[承認 / 意見陳述又は助言]
③ 本条第12項に従い無限責任組合員から報告を受けた事項についての意見陳述又は助言
④ その他無限責任組合員から照会を受けた本組合に関する事項についての意見陳述又は助言及び無限責任組合員から承認を求められた事項についての承認
解任権
万が一、GPに契約の重大な違反などがあった場合、LPの一定数の同意によってGPを除名・解任できる権利も規定されます。
▽モデルLPA40条1項
第40条 無限責任組合員の除名
1. 無限責任組合員が次の各号のいずれかに該当する場合、総有限責任組合員の出資口数の合計の[ ]分の[ ]以上に相当する出資口数を有する有限責任組合員は、当該無限責任組合員を除名することができる。この場合、かかる有限責任組合員は、除名の対象となった無限責任組合員に対し、当該無限責任組合員が除名されたことについて速やかに書面による通知を行うものとする。
① 本契約に基づく支払義務の履行を[ ]営業日以上怠った場合
② 本組合の業務を執行し、又は本組合を代表するに際し、重大な違法行為を行った場合
③ その他本契約上の表明及び保証又は重大な義務に違反した場合
最新トレンド:令和7年版モデルLPAの新しい顔ぶれ
令和7年6月、経済産業省から14年ぶりとなる新しいモデルLPA(雛形)が公表されました。
海外投資家を呼び込むための英文契約書版が用意されたり、サブスクリプション・ファイナンスなどの最新実務に対応したりと大幅にアップデートされていますが、中でも注目なのが新しいプレイヤーの登場です(特別有限責任組合員(SLP)の導入)。
LPでありながら、GPのように成功報酬(キャリード・インタレスト)の分配を受け取る特別有限責任組合員(SLP)に関する条項が追加されました。
▽モデルLPA1条1項(抜粋)
第1条 定義
1. 本契約において、以下の用語は、文脈上別段の意味を有することが明らかな場合を除き、以下の意味を有するものとする。
[「特別有限責任組合員」 有限責任組合員のうち、本契約添付別紙1において特別有限責任組合員に該当すると明記されている者(但し、第4条第2項に基づいて特別有限責任組合員としての指定が解除された者を除く。)をいう。]
ファンド運営会社の役職員などをこのSLPとして位置づけ、ファンドの成功に向けたインセンティブを与える実務が広まっており、最新のモデルLPAでもその仕組みが明記されるようになりました。
【用語解説】キャリードインタレストとは?
キャリードインタレスト(Carried Interest)とは、投資ファンド(LPSやSPVなど)において、ファンドが投資の成功(Exitなど)によって得た運用利益のうち、あらかじめ合意された一定割合(例えば20%など)をファンド運営者に分配する成功報酬(インセンティブ)のことです。
1. 費用ではなく利益の分配
キャリードインタレストは、ファンドの運営経費として定額(または定率)で支払われる管理報酬(マネジメントフィー)とは区別されます。
- 管理報酬:ファンドの出資額などを基準に、投資の成果に関係なく日常の活動費として支払われる費用(サービスへの対価)
- キャリードインタレスト:ファンドが実際に利益を生み出したときに、その利益そのものをGPとLPの間で分ける利益の分配
2. 投資家(LP)との利害を一致させる仕組み
キャリードインタレストは、投資家(LP)が払い込んだ出資金が回収され、かつ一定の基準(ハードル・レートと呼ばれる優先分配額)をクリアする成果を上げて初めて運営者に分配されるのが一般的です。これによって、運営者と投資家の利害が一致し、運営者が「より高いリターンを目指そう」というインセンティブが生まれます。
3. 最新トレンド:特別有限責任組合員(SLP)の活用
日本における最新の実務(経産省が公表した令和7年版のモデルLPAなど)では、ファンド運営を行うGP法人の役職員(個人のファンドマネージャー)個人に対してインセンティブとしてこのキャリードインタレストを届けるため、彼らを特別有限責任組合員(SLP)としてファンドに組み入れ、そこへ直接キャリードインタレストを分配するスキームが広く導入されています。
結び
LPA(投資事業有限責任組合契約)の世界では、無限責任でファンドを切り盛りするGPと、有限責任で安全に資金を提供するLPという、明確な役割分担がファンド成功の鍵を握っています。
次に投資ファンドのニュースを見たときは、「この記事の企業はGPとして運転席に座っているのか、LPとして後部座席から応援しているのか?」という視点で読んでみると、より面白く理解できるはずですよ。
SPC・ファンド法務の関連記事一覧はこちら
-
-
SPC・ファンド - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
ファンド法務に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- SPVスキーム持分に係るモデル契約|第二種金融商品取引業協会HP
- LPS法の解説|経産省HP
- 投資事業有限責任組合契約書例及びその解説〔令和7年版〕|経産省HP
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
参考文献image
