今回は、印紙税法ということで、文書の所属の決定について見てみたいと思います。
印紙税法における課税文書の該否および税額の判断は、大きく以下の3つのステップに沿って体系的に行われます。
- 【ステップ1:課否判定】
文書内に課税事項(パーツ)が含まれているか(課税・不課税・非課税)を仕分ける
▼ - 【ステップ2:所属の決定】
見つかった課税事項に基づき、一通の文書を何号文書とするか確定させる
▼ - 【ステップ3:記載金額の計算】
決定した号数に当てはめる記載金額(課税標準)を算定する
ステップ1はいわゆる課否判定(=課税事項の有無と、非課税文書に当たらないかのチェック)と呼ばれるものですが、本記事で解説するのは、最も複雑でありかつ細かいルールが存在する、文書の所属の決定(ステップ2)についてです。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
所属の決定における大原則
印紙税は原則として、物理的形状から判断される一の文書ごとに課税されます。
一つの文書に複数の号に該当する事項(課税事項)が記載されていても、それぞれの号の税金が重ねて課される(合算される)わけではありません。印紙税法は、一の文書に対しては、最終的に決定されたいずれか一つの号の税率のみを適用するという所属の決定のルールを定めています(通則3)。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3
3 一の文書が2の規定によりこの表の各号のうち二以上の号に掲げる文書に該当することとなる場合には、次に定めるところによりその所属を決定する。
イ~ホ (略)
所属の決定ルール(全体像)
所属の決定とは、課否判定をパスして課税文書となることが確定した文書について、最終的に課税物件表の第1号から第20号までの何号文書に分類(所属)させるかを確定させるプロセスです。
このプロセスは、記載事項の複雑さに応じて、基本通達別表第1の課税物件表の適用に関する通則(通則)1〜3の内容を順番に適用していくことで処理されます。
- 【通則1】(シンプルな文書の即決)
▼ 1つの号で即決できない複雑な文書の場合 - 【通則2】(すべての号の洗い出し)
▼ - 【通則3】(一の号への絞り込み)
各号の規定による決定(通則1)
文書に含まれる課税事項がシンプルであり、1つの号の定義だけで決まる場合は、通則1を適用してそのままピンポイントで所属が決定されます。
例えば、単に「土地を5,000万円で売却する」ことだけが書かれた契約書は、第1号の1の定義にのみ該当するため、通則1によりそのまま第1号の1文書に所属が決定してプロセスが完結します。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則1
1 この表における文書の所属の決定は、この表の各号の規定による。この場合において、当該各号の規定により所属を決定することができないときは、2及び3に定めるところによる。
異なる2つの号にまたがっているため、各号の規定(通則1)だけでは所属を1つに決められない(=所属を決定することができない)ときは、通則2と通則3のルールに進みます。
重複該当の整理(通則2)
一の文書の中に、異なる複数の号にまたがる課税事項が混同または併記されている場合、あるいは一つの約束が同時に複数の号の定義を満たしてしまう(重複該当する)場合があります。
通則2は、こうした文書に対して「この文書は、〇号の文書でもあり、かつ、〇号の文書でもある」というマルチな顔(号数)をすべて洗い出して重複該当状態にする役割を持っています。
具体例
- 併記・混合の例:不動産譲渡(1号の1)と売掛債権の譲渡(15号)が1通に並べて書かれている契約書 ➡ 1号かつ15号に該当
- 同時該当の例:継続的な清掃請負基本契約 ➡ これは請負(2号)の定義を満たすと同時に、営業者間において継続する取引条件を定める継続的取引の基本となる契約書(7号)の定義も完全に満たします ➡ 2号かつ7号に該当
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則2
2 一の文書でこの表の二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項又はこの表の一若しくは二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項とその他の事項とが併記され、又は混合して記載されているものその他一の文書でこれに記載されている事項がこの表の二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項に該当するものは、当該各号に掲げる文書に該当する文書とする。
通則2の読み方の補足①
この条文が難解なため補足すると、大きく、3つの記載パターンと、それらに対する1つの法的効果(結論)に分解することができます(※長いため、条文の読み方が気にならない方は、読み飛ばして通則3に進んでください)。
通則2の読み方の補足②
ここで記載パターン②の読み方がわかりにくいため、さらに補足します。
具体例のうち「保証契約のある消費貸借契約書(署名押印があるもの)」の紙面には、以下の2つの取り決めが書かれています。
- 金銭を貸し借りする合意(消費貸借):
これは課税物件表の第1号の3に掲げる課税事項です - 連帯保証人が保証する合意(保証契約):
本来は第13号文書の課税事項ですが、印紙税法の13号の定義欄において、主たる債務の契約書に併記するものを除くと定められています
➡ この除外規定により、この併記された保証部分は、13号としての課税対象から外され、印紙税法上はその他の事項(=課税事項に該当しない不課税事項)という扱いになります
この時点で、この文書は①第1号の3の課税事項(消費貸借)と、②その他の事項(不課税となった保証)が併記された1通の文書となります。
ここで、問題になっている記載パターン②の出番になります。通則2の文言をもう一度よく見てみましょう。
「当該文書に課税物件表の1又は2以上の号の課税事項とその他の事項が併記され(中略)ているものは、当該各号に掲げる文書に該当する文書とする。」
このルールを、保証付き消費貸借契約書に当てはめてみます。
- 「課税事項(第1号の3)」と「その他の事項(不課税の保証)」が併記されている。
- したがって、この文書は「当該各号に掲げる文書」に該当する文書とする。
ここで誤解しやすいのが、「当該各号」という言葉です。「その他の事項」として交ざっている保証(13号)も含まれて、1号と13号の両方に該当してしまうのではないか?と感じられますが、そうではありません。
ここでの「当該各号」とは、その文書に含まれている「課税事項(1〜20号に該当するもの)の属する号」だけを指しています。 保証契約(13号)はかっこ書によってすでに「不課税(その他の事項)」に転落しているため、この「当該各号」の中にはカウントされません。
つまり、ここで該当する「当該各号」とは、「第1号」のみを指します。 これにより、「保証契約のある消費貸借契約書は、通則2の記載パターン②の適用により、第1号(第1号の3)文書にのみ該当する」ということが法的に確定することになります。
「わざわざ定義で除外したのだから、通則2なんか通さなくても、最初から1号文書として扱えばいいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、このプロセス(通則2の記載パターン②)がないと、以下のような屁理屈が通ってしまうリスクがあります。
「この文書には、不課税の保証契約という『その他の事項』が混ざっている。印紙税法は書面全体に課税するものだから、不課税の要素が混ざっている以上、全体としても1号文書とは言えなくなって、不課税文書になるのではないか?」
このような解釈の混乱を防ぐために、「課税事項(1号)とその他の不課税事項が交ざっていても、不課税事項のことは無視して、純粋に課税事項の属する号(第1号文書)としてだけ扱いますよ」と、わざわざ通則2の記載パターン②で交通整理をしています。
優先順位による絞り込み(通則3)
複数の号に重複して該当する文書は、通則3のルール(イ〜ホ)に基づいて、最終的な所属が1つに決定されます。
所属を決定するにあたり、通則3は以下の3つの基本方針に基づいて定められています。
- 高税率優先:該当する号のうち、税率(税額)の最も高い号の文書に所属させる
- 若番号優先:税率が同一である場合は、号数の若い(先に掲げられている)号の文書に所属させる
- 通帳優先:証書(第1号〜第17号)と通帳等(第18号〜第20号)の双方に該当する場合は、原則として通帳等の号に所属させる
「第1号または第2号文書」と「第3号〜第17号文書」の重複(通則3のイ)
不動産の譲渡や消費貸借、請負といった契約書の多くは、領収書(17号)や債権譲渡(15号)などの他の事項を併記することが多いため、最も頻繁に適用されるルールです。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3イ
イ 第一号又は第二号に掲げる文書と第三号から第十七号までに掲げる文書とに該当する文書は、第一号又は第二号に掲げる文書とする。ただし、第一号又は第二号に掲げる文書で契約金額の記載のないものと第七号に掲げる文書とに該当する文書は、同号に掲げる文書とし、第一号又は第二号に掲げる文書と第十七号に掲げる文書とに該当する文書のうち、当該文書に売上代金(同号の定義の欄1に規定する売上代金をいう。以下この通則において同じ。)に係る受取金額(百万円を超えるものに限る。)の記載があるもので、当該受取金額が当該文書に記載された契約金額(当該金額が二以上ある場合には、その合計額)を超えるもの又は契約金額の記載のないものは、同号に掲げる文書とする。
原則:第1号または第2号
第1号文書または第2号文書に所属が決定されます。
具体例
- 不動産売買と、その代金にかかる売掛債権の譲渡を一書に記載した場合(第1号の1文書 兼 第15号文書)
➡ 第1号の1文書に決定 - 請負契約を締結し、同時にその手付金の受領(領収)を証明した場合(第2号文書 兼 第17号の1文書。ただし契約金額がある場合)
➡ 第2号文書に決定
例外1(契約金額なし 兼 第7号)
第1号または第2号文書で契約金額の記載がないものと、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)の双方に該当する場合は、第7号文書に所属が決定されます。
具体例
- 例:単価のみを定め、期間や総額の記載がない継続的な物品運送契約書(第1号の4 兼 第7号)
➡ 第7号文書
例外2(多額の売上代金受取との重複)
第1号または第2号文書と、売上代金の受取書(第17号の1文書)に該当するもののうち、受取金額が100万円を超え、かつその金額が契約金額を超える場合(または契約金額の記載がない場合)は、第17号の1文書に所属が決定されます。
「第1号文書」と「第2号文書」の重複(通則3のロ)
運送(1号の4)と請負(2号)のように、1号の課税事項と2号の課税事項が同一の文書に含まれる場合です。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3ロ
ロ 第一号に掲げる文書と第二号に掲げる文書とに該当する文書は、第一号に掲げる文書とする。ただし、当該文書に契約金額の記載があり、かつ、当該契約金額を第一号及び第二号に掲げる文書のそれぞれにより証されるべき事項ごとに区分することができる場合において、第一号に掲げる文書により証されるべき事項に係る金額として記載されている契約金額(当該金額が二以上ある場合には、その合計額。以下このロにおいて同じ。)が第二号に掲げる文書により証されるべき事項に係る金額として記載されている契約金額に満たないときは、同号に掲げる文書とする。
原則:第1号
第1号文書に所属が決定されます。
具体例
- 機械の製作(請負=2号)と、その機械の運送(運送=1号の4)を同一書面で一括(金額を分けずに)契約した場合
➡ 第1号の4文書
例外(区分記載があり、かつ2号の方が高い場合)
それぞれの課税事項ごとの契約金額を区分して記載することができ、かつ、第2号文書(請負)に係る金額が、第1号文書に係る金額を超える場合は、第2号文書に所属が決定されます。
具体例
- 機械製作費(2号)20万円、運送料(1号の4)10万円と区分記載されている契約書
➡ 2号の金額(20万)>1号の金額(10万)となるため、第2号文書
「第3号〜第17号文書」同士の重複(通則3のハ)
契約書(1号・2号以外)や有価証券、受取書などが重なり合う場合です。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3ハ
ハ 第三号から第十七号までに掲げる文書のうち二以上の号に掲げる文書に該当する文書は、当該二以上の号のうち最も号数の少ない号に掲げる文書とする。ただし、当該文書に売上代金に係る受取金額(百万円を超えるものに限る。)の記載があるときは、第十七号に掲げる文書とする。
原則:若番号優先
重複する号のうち、最も号数の少ない(若い)号に所属が決定されます(若番号優先)。
具体例
- 継続的な金銭債権の売買取引の基本契約書(第7号 兼 債権譲渡=第15号)
➡ 番号の若い第7号文書に決定
例外(多額の売上代金受取との重複)
第3号〜第16号までの文書と、売上代金の受取書(第17号の1)に該当するもののうち、受取金額が100万円を超える記載がある場合は、第17号の1文書に所属が決定されます(高税率優先)。
「証書(1〜17号)」と「通帳等(18〜20号)」の重複(通則3のニ、ホ)
一度限りの事実を証明する証書と、連続して事項を付け込む通帳等の性質を併せ持つ文書(証書兼用通帳など)のルールです。
原則(通則3のニ):第18号〜第20号
通帳等(第18号〜第20号)に所属が決定されます。
具体例
- 生命保険証券(10号)と、その保険料の受取通帳(18号)が一体となった文書
➡ 第18号文書
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3二
ニ ホに規定する場合を除くほか、第十八号から第二十号までに掲げる文書と第一号から第十七号までに掲げる文書とに該当する文書は、第十八号から第二十号までに掲げる文書とする。
例外(通則3のホ=多額の付込みがある場合)
通帳等への1回あたりの付込み(書き込み)金額が多額である場合は、通帳等への付込みではなく、独立した証書が新たに作成されたもの(みなし作成)と扱われ、所属が証書側に切り替わります。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則3ホ
ホ 第十九号若しくは第二十号に掲げる文書と第一号に掲げる文書とに該当する文書で同号に掲げる文書に係る記載された契約金額が十万円を超えるもの、第十九号若しくは第二十号に掲げる文書と第二号に掲げる文書とに該当する文書で同号に掲げる文書に係る記載された契約金額が百万円を超えるもの又は第十九号若しくは第二十号に掲げる文書と第十七号に掲げる文書とに該当する文書で同号に掲げる文書に係る記載された売上代金に係る受取金額が百万円を超えるものは、それぞれ、第一号、第二号又は第十七号に掲げる文書とする。
- 第19号・第20号通帳に、第1号文書(不動産等)の事項が書き込まれ、その金額が10万円(軽減税率適用時は50万円)を超える場合
➡ 第1号文書に決定 - 第19号・第20号通帳に、第2号文書(請負)の事項が書き込まれ、その金額が100万円(軽減税率適用時は200万円)を超える場合
➡ 第2号文書に決定 - 第19号・第20号通帳に、第17号の1文書(売上代金受取)の事項が書き込まれ、その金額が100万円を超える場合
➡ 第17号の1文書に決定
所属の決定がもたらす法的効果
通則3の規定によっていずれか一の号に所属が決定された文書については、所属した号の税率のみで印紙税が課税されます。
一方で、所属しなかった号の課税事項については、印紙税法上、その文書に最初から記載がなかったものと同様に扱われます。
したがって、不採用となった事項に係る印紙税は一切発生しません。
結び
このように、印紙税法は、重複する事項をどのようなルールで整理し、最終的にどの1つの号に帰属させるか(=所属の決定)というプロセスを経て、税額を導き出す構造となっています。
今回は、印紙税法ということで、課税文書の所属の決定について見てみました。
覚書・合意書など、変更契約書等の所属の決定ルールは、以下の関連記事で解説しています。
おすすめ書籍は「印紙税実用便覧」(佐藤明弘 編著)で、事例別の結論を知りたいときにまず参照する資料となります。そのほか、理屈をもう少し調べたいときは「問答式 実務印紙税」(百武寛泰 編)や「印紙税法基本通達逐条解説」(川﨑令子 編)などが便利です。
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印紙税法 - 法律ファンライフ
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 印紙税法(「印紙税法」)
- 施行令(「印紙税法施行令」)
- 施行規則(「印紙税法施行規則」)
- 基本通達(「印紙税法基本通達」)
- 質疑応答事例:印紙税目次一覧(国税庁HP)
- タックスアンサー:印紙税(国税庁HP)
参考資料
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