犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|特定事業者の5つの義務

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、特定事業者にかかってくる法的義務について見てみたいと思います。

特定事業者というのは要するにこの法律の適用対象となる事業者のことですが、くわしくは以下の関連記事に書いています。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|特定事業者とは

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ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

特定事業者の5つの義務

特定事業者が守らなければならない義務は、次の5つになります。

  • 取引時確認
  • 確認記録の作成・保存義務
  • 取引記録等の作成・保存義務
  • 疑わしい取引の届出
  • 取引時確認等を的確に行うための措置

他に、「コルレス契約締結時の厳格な確認」や「外国為替取引に係る通知」といったものもありますが、金融機関等にのみかかってくる義務ですので、本記事では割愛します。

②の確認記録は、①の取引時確認をしたときに作成するものですので、①と②はセットだと思えばよいです。

また、③の取引記録等の作成・保存義務と④の疑わしい取引の届出は、義務がかかってくる場面の規定ぶりが基本的には同じですので、③と④もセットだと思えばよいです。
(※後述のように③では少額取引等が除外されるので、その差分はあります)

①②は「特定取引」を行うときの義務、③④は「特定業務」を行うときの義務となっています。

義務が必要な場面を合わせて見ると、ざっくりとしたイメージは以下のようになります。

義務が必要な場面特定業務
を行う場合
特定取引/ハイリスク取引
を行う場合
特定事業者の義務③取引記録等の作成・保存(7年間保存)
④疑わしい取引の届出
①取引時確認
②確認記録の作成・保存(7年間保存)
※概念の広狭:特定業務>特定取引

わかりにくいのは「特定業務」と「特定取引」が一体何なのか?ということですが(言葉が似ているので)、要するに、「特定業務」のうち・・・取引時確認が必要な取引を「特定取引」と呼んでいる、と思えばよいです。

▽関連記事

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|特定業務と特定取引の関係

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①取引時確認

取引時確認というのは、本人特定事項とその他いくつかの事項について、特定取引(又はハイリスク取引)を行う際に確認を行うことです。

昔は本人特定事項だけだったのですが、その後改正で確認事項が追加されていったため、「本人確認」から「取引時確認」という言い方になりました。

確認事項は、以下のようになっています。

  • 本人特定事項
  • 取引を行う目的
  • 職業(自然人の場合)or 事業の内容(法人等の場合)
  • 実質的支配者(法人の場合)

①の本人特定事項というのは、

自然人の場合①氏名②住居③生年月日
法人の場合①名称②本店又は主たる事務所の所在地

のことです。

条文も確認してみます。

▽犯罪収益移転防止法4条1項(※「…」は管理人が適宜省略)

(取引時確認等)
第四条
 特定事業者…は、顧客等との間で、…特定業務…のうち…特定取引…を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない
 本人特定事項自然人にあっては氏名住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
 取引を行う目的
 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

②確認記録の作成・保存義務

取引時確認を行った場合は、その記録を作成・保存しなければなりません(法6条)。

▽犯罪収益移転防止法6条

(確認記録の作成義務等)
第六条
 特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、主務省令で定める方法により、当該取引時確認に係る事項、当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録(以下「確認記録」という。)を作成しなければならない
 特定事業者は、確認記録を、特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から、七年間保存しなければならない

③取引記録等の作成・保存義務

特定業務を行った場合には、その取引の内容についての記録を作成・保存しておかなければなりません。

とはいえ、全部が全部、取引記録等を作成しないといけないということではなく、少額の取引等の場合には、記録を作成しなくていいことになっています。

なお、言葉が似ているので紛らわしいですが、「確認記録」と「取引記録」は別モノですのでご注意を。確認記録は、本人特定事項など取引時確認の記録で、取引記録は、取引の内容の記録になります。

▽犯罪収益移転防止法7条

(取引記録等の作成義務等)
第七条
 特定事業者(次項に規定する特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引を行った場合には、少額の取引その他の政令で定める取引を除き、直ちに、主務省令で定める方法により、顧客等の確認記録を検索するための事項、当該取引の期日及び内容その他の主務省令で定める事項に関する記録作成しなければならない
 (略)
 特定事業者は、前二項に規定する記録(以下「取引記録等」という。)を、当該取引又は特定受任行為の代理等の行われた日から七年間保存しなければならない
★2項では特定事業者のうちいわゆる士業者について書かれていますが、本記事では割愛します

少額の取引等というのは、

  • 財産の移動を伴わない取引
  • 1万円以下の財産の移転についての取引

などです。

少額の取引等には、上記2つ(=全ての特定事業者に共通のもの)以外にも、特定事業者の種類プロパーのものもありますが、本記事では割愛します。

内容は施行令で定められていますので、条文も確認してみます。ちなみに、共通のものが1号と2号、プロパーのものが3号と4号になっています。

▽犯罪収益移転防止法施行令15条1項(※【 】は管理人注)

(少額の取引等)
第十五条
 法第七条第一項に規定する政令で定める取引は、次に掲げるものとする。

1号:財産の移動を伴わない取引
 財産移転(財産に係る権利の移転及び財産の占有の移転をいう。以下この条において同じ。)を伴わない取引

2号:1万円以下の財産の移転についての取引
 その価額が一万円以下の財産の財産移転に係る取引

3号:金融業者/カジノ事業者/宝石・貴金属等取扱事業者についての少額取引
 前号に掲げるもののほか、次のイからハまでに掲げる特定事業者の区分に応じ、当該イからハまでに定める取引
  法第二条第二項第一号から第三十八号までに掲げる特定事業者  二百万円以下本邦通貨間の両替又は二百万円以下本邦通貨と外国通貨の両替若しくは二百万円以下旅行小切手の販売若しくは買取り
  法第二条第二項第四十一号に掲げる特定事業者  第七条第一項第四号ホに規定する金銭の両替であって、当該取引の金額が三十万円以下のもの
  法第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者  その代金の額が二百万円以下貴金属等の売買

4号:その他取引記録を作成する必要がない取引
 前三号に掲げるもののほか、財産移転を把握するために法第七条第一項に規定する記録を作成する必要がない取引として主務省令で定めるもの

2項では特定事業者のうちいわゆる士業者について書かれていますが、本記事では割愛します

④疑わしい取引の届出

特定業務を行っているなかで、マネー・ロンダリングと疑わしい取引があった場合には、届出をしなければなりません。

もし届出をするときは、当該顧客等に届出をすることを伝えてはいけないことになっています(事前も事後もNG)。

▽犯罪収益移転防止法8条

(疑わしい取引の届出等)
第八条
 特定事業者(第二条第二項第四十六号から第四十九号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない
 (略)
 特定事業者(その役員及び使用人を含む。)は、第一項又は第二項の規定による届出(以下「疑わしい取引の届出」という。)を行おうとすること又は行ったことを当該疑わしい取引の届出に係る顧客等又はその者の関係者に漏らしてはならない
 (略)

⑤取引時確認等を的確に行うための措置

これは、上記①~④の義務を的確に行うために、平素から体制づくりをちゃんとしておきなさいということです。

▽犯罪収益移転防止法11条

(取引時確認等を的確に行うための措置)
第十一条
 特定事業者は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下この条において「取引時確認等の措置」という。)を的確に行うため、当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるものとするほか、次に掲げる措置を講ずるように努めなければならない。
 使用人に対する教育訓練の実施
 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成
 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任
 その他第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して講ずべきものとして主務省令で定める措置

「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」は「講ずる」とされているように法的義務ですが、1号~4号に定める措置は「講ずるように努める」とされているように、努力義務となっています。

※ただ、すべて努力義務と解する見解もあるようです(「詳説 犯罪収益移転防止法」(中崎隆)の「体制整備」の章での脚注参照)

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、特定事業者にかかってくる5つの義務について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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