今回は、公益通報者保護法ということで、事業者がとるべき措置等のうち、内部通報システムの基盤構築について見てみたいと思います(窓口設置・独立性・利益相反排除)。
前の記事では、刑事罰を伴う守秘義務を負う従事者(公益通報対応業務従事者)の指定について解説しました。これは、窓口を動かす”人”を決めるものです。
窓口を支える人が明確になったら、次に必要となるのが、通報者が安心して利用でき、通報への対応が公正になされるような組織システム(インフラ)の構築です。
”うちは○○部に通報メールアドレスを設置してあるから大丈夫”と思っている企業も多いかもしれませんが、形式的な対応のみだと、令和7年改正(令和8年12月施行)においては指針違反(体制整備義務違反)として、消費者庁からの是正命令や公表の対象になってしまうかもしれません。
本記事では、法定指針の第4の1における受付窓口の設置等・独立性の確保・利益相反の排除という、内部通報システムの信頼性を支える3つのインフラ基盤について、わかりやすく解説していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
なぜシステムの信頼性が重要なのか
近年、地方公共団体や民間企業における不祥事・内部告発をめぐって、
- 社長や知事が、自分を告発した文書を怪文書と決めつけて、初期段階で揉み消した
- 通報者の犯人捜し(探索)を行い、報復処分を下した
といった事案が、連日のように社会的な関心を集めたことがありました。
これら事例からは、最初の受付・判断を行うシステムや人物が、経営トップや被通報者から独立しており、かつ利益相反が排除されていなければ、通報制度は適切に機能しないということがわかります。
そのため、公益通報者保護法は、このような基盤整備を、事業者がとるべき法的義務(300人超の企業の場合)として規定しています(→内容は指針で具体化)。
▽公通法11条2項・4項
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置をとらなければならない。
4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
それでは、この3つのインフラを1つずつ見ていきましょう。
(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
部門横断的な受付窓口の設置等(法定指針 第4-1-⑴関係)
スタートラインとなる窓口です。指針は単に窓口を置くだけではなく、部門横断的に受け付ける部署と責任者を明確に定めることを求めています。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-1-⑴
1 事業者は、部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備その他の必要な措置として、次の措置をとらなければならない。
⑴ 内部公益通報受付窓口の設置等
内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕脚注10
10 「部署及び責任者」とは、内部公益通報受付窓口を経由した内部公益通報に係る公益通報対応業務について管理・統括する部署及び責任者をいう。
部門横断的な受付の意味
特定の部署だけ・工場勤務の人だけが使える窓口は、法定の窓口とは認められません。
個々の事業部門から独立し、全部門(またはこれに準ずる複数の部門)から、正規・非正規・役員・フリーランス・退職者(1年以内)を問わず、広く受け付ける窓口でなければなりません。
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕脚注9
9 「部門横断的に受け付ける」とは、個々の事業部門から独立して、特定の部門からだけではなく、全部門ないしこれに準ずる複数の部門から受け付けることを意味する。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q7
指針第4の1の柱書にある「部門横断的」とは具体的にどのような意味合いですか。
通報の内容によっては通報を受け付けた部署だけでは十分な調査等ができないおそれがありますので、そうした点に備え、各部署が連携して通報に対応する仕組みの整備を求める趣旨です。
どこに窓口を置くのか:いくつかの留意点
窓口の設置場所には、いくつかの選択肢と、それぞれ留意点があります。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q8
どのような部署に内部公益通報受付窓口を設置する必要がありますか。
内部公益通報受付窓口とは、内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口であり、個々の事業部門から独立して、特定の部門からだけではなく、全部門ないしこれに準ずる複数の部門から受け付けることが可能な部署に設置する必要があります。
その際、事業者内の部署に設置するのではなく、事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置することや、事業者の内部と外部の双方に設置すること、いわゆる企業グループの親会社等に当該企業グループの共通窓口を設置し、当該企業グループに属する事業者(子会社や関連会社、関係会社等)が当該共通窓口を自社の内部公益通報受付窓口とすること、事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の窓口を自社の内部公益通報受付窓口として設置すること等も可能です。
選択肢A:人事部門
人事部に窓口を置くことは禁止されていません。
しかし、人事評価を下す部署に通報すると、自分の身元や評価が不利に扱われるのではないかと、従業員が躊躇するリスクが高い部署でもあります(Q&A 内部通報体制Q13)。人事部に置く場合は、守秘の徹底や人事権の濫用防止の周知が他の部署以上に重要と考えられます。
選択肢B:事業者外部(外部委託先・法律事務所など)
社外の専門機関等に窓口を委託することは、通報者の安心感を高める上で有効です(Q&A 内部通報体制Q18)。
ただし、外部委託したからといって丸投げはできません。窓口は外でも、そこから届いた通報を社内で調査・是正を統括する責任者は、自社(各子会社自身)で明確に定めておく必要があります(Q&A 内部通報体制Q11参照)。
選択肢C:いわゆる顧問弁護士窓口
会社の顧問弁護士を窓口に指定することはあります。
しかし、通報者から見れば、顧問弁護士は会社(経営陣)の味方だから、結局もみ消されるのではないかという懸念・躊躇を抱かれやすいという、実際上の弱点(心理的障壁)があります(Q&A 内部通報体制Q14)。
もし顧問弁護士を窓口にする場合は、その旨をあらかじめ規程等で全従業員に明示した上で、中立的に機能する仕組みであることを説明・開示することが望ましいとされています。
選択肢D:企業グループ共通窓口
親会社にグループ一括の共通ホットラインを設けるケースです(Q&A 内部通報体制Q11,12)。
これ自体は有効ですが、子会社の従業員にとってそれが法律上の1号通報先として成立するためには、子会社の側の内部規程等において、この親会社窓口を自社の通報先としてあらかじめ定めるという、子会社側の主体的な指定プロセスが不可欠です(法2条1項柱書)。
ハラスメント相談窓口との関係の整理
ハラスメントと公益通報の法的な違い
職場で発生するパワーハラスメントは労働施策総合推進法、セクシャルハラスメントは男女雇用機会均等法に規定されていますが、これらは通常、犯罪行為や過料対象行為にはあたらないため、単なるハラスメントについての通報は公益通報に該当しません。
しかし、ハラスメント行為が暴行、脅迫、不同意わいせつなどの犯罪行為に及ぶ場合は、通報対象事実として公益通報に該当します。このように、対象となる行為の法的性質によって、適用される法律や保護の仕組みが異なります。
窓口の統合か分離か
事業者は、組織の実態に応じて、以下のいずれかの方法を選択できます。
一本化して兼ねる場合
あらかじめ従事者を定めた内部公益通報受付窓口に、ハラスメント相談窓口の機能を統合する方法です。
この体制をとる場合は、内部公益通報受付窓口がハラスメント関連のみを対象としているものと誤解されないよう、周知等留意することが求められるとされています。
分離して別に設ける場合
内部公益通報受付窓口とは別に、ハラスメント相談窓口を設置する方法です。
この場合も、兼ねる場合と同様に、窓口がハラスメント関連のみを対象としているものと誤解されないよう周知する必要があります。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q9
内部公益通報受付窓口と、他の窓口(ハラスメント通報・相談窓口等)を兼ねることは可能ですか。
組織の実態に応じて、例えば、法令に従って従事者を配置した内部公益通報受付窓口が他の窓口(ハラスメント通報・相談窓口等)を兼ねることや、本法に基づく内部公益通報受付窓口を設置し従事者を定めた上で、これとは別に通報対象事実以外に関する相談を受け付ける窓口(ハラスメント通報・相談窓口等)を設置することは可能と考えられます。
なお、内部公益通報受付窓口とハラスメント通報・相談窓口を別に設ける場合はもとより、それらを兼ねる場合においても、当該内部公益通報受付窓口がハラスメント関連の事案のみを対象としているものと誤解されないよう、周知等留意することが求められます。
名称に関わらず公益通報窓口と判定される基準
ある窓口が公益通報者保護法上の窓口となるかは、名称ではなく、部門横断的に内部公益通報を受け付けているという実質で判断されます。
そのため、ハラスメント相談窓口であっても、暴行や不同意わいせつに該当するハラスメントなど、通報対象事実に係る通報を全社から受け付ける運用の場合は、法律上の内部公益通報受付窓口に該当する可能性が生じます。もし該当する場合は、守秘義務を負う従事者の指定や、情報漏洩を防ぐ体制整備が必要となります。
また、ハラスメント専用窓口を公益通報窓口とは別に運用する場合は、通報者が窓口の性質の違いを明確に認識できるよう、以下の措置をとることが求められます。
- 非内部公益通報受付窓口であることを事業者内に周知し、利用者に示す
- 誤って通報してきた者に対し、内部公益通報受付窓口を教示する
- 秘匿性のルールについて通常のハラスメント窓口と内部公益通報受付窓口とでは差異があることを明確に伝える
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q10
内部公益通報受付窓口のほかに、ハラスメント通報・相談窓口も設けている場合、当該窓口は内部公益通報受付窓口となりますか。
事業者は、内部公益通報受付窓口の設置を義務付けられているところ、ある窓口が内部公益通報受付窓口に当たるかどうかは、その名称ではなく、部門横断的に内部公益通報を受け付けるという実質の有無により判断されます。そのため、例えば、ハラスメント通報・相談窓口等において、事業者の全従業員から通報対象事実に係る通報(例:暴行・脅迫に該当するパワー・ハラスメントや不同意わいせつに該当するセクシュアル・ハラスメントの通報)を受け付ける場合には、部門横断的に内部公益通報を受け付ける窓口として、内部公益通報受付窓口に該当し得ると考えられます。
他方、事業者は、内部公益通報受付窓口には該当しない通報窓口を別途設けることも可能です。ただし、このような窓口を設ける場合、通報者の保護の観点から、通報者が通報先の窓口が内部公益通報受付窓口であるか、内部公益通報受付窓口に該当しない窓口(非内部公益通報受付窓口)であるかを明確に認識・理解できることが必要になります。
そのため、事業者は、例えば、
- 非内部公益通報受付窓口であることを事業者内に周知し、当該窓口の利用者に対して明確に示す
- 非内部公益通報受付窓口を内部公益通報受付窓口と誤解して通報してきた通報者に対し内部公益通報受付窓口を教示する
- 非内部公益通報受付窓口への通報者に対し、当該窓口と内部公益通報受付窓口とでは、公益通報者を特定させる事項の秘匿についてのルールに差異があることを明確に伝える
といった措置を講ずることが必要になると考えられます。
なお、このような非内部公益通報受付窓口への通報についても、本法で定める条件を満たせば公益通報に該当する場合があり得ますので、その場合、不利益な取扱いや範囲外共有等は禁止されると考えられます。
匿名通報の受付と連絡を可能にする仕組みの構築
匿名による通報の受付義務と窓口設計
公益通報は実名での通報に限定されておらず、匿名であっても、法律に定める要件を満たしていれば保護の対象となります。そのため、部門横断的な受付窓口においては、匿名の通報についても適切に受け付ける体制を整える必要があります。
実名の通報のみを受け付ける窓口を設定すること自体は禁止されていませんが、その運用を行う場合には、別途匿名の通報を受け付ける窓口を設置しなければならないという点に注意が必要です(Q&A 事業者における通報対応Q3参照)。結果として、組織内に匿名の受付ルートを一切用意しない運用は、指針に違反することになります。
双方向の連絡を可能とする仕組みの導入
匿名の通報であっても、事実確認のための追加ヒアリングや、是正結果の通知を行う必要があります。そのため、指針解説においては、匿名の通報者と窓口担当者(従事者)との間で、双方向で連絡が取れる仕組みを導入することが求められています。
具体的な手法として、
- 受付時に、個人名と紐付かないメールアドレスなどを利用して連絡を取るよう促す
- 外部の委託先(外部窓口)から事業者に対しては通報者の氏名等を開示せず、外部窓口を経由して伝達を行う
- 専用のチャットシステムや双方向連絡が可能なITシステムを導入する
などの取組例が示されています。
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕第3-Ⅱ-1-⑶-③
● 内部公益通報対応の実効性を確保するため、匿名の内部公益通報も受け付けることが必要である(19)。匿名の公益通報者との連絡をとる方法として、例えば、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口(20)から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム(21)等)を導入する等の方法が考えられる。
19 匿名の通報であっても、法第3条第1項第1号及び第6条第1項第1号に定める要件を満たす通報は、内部公益通報に含まれる。
20 「外部窓口」とは、内部公益通報受付窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置した場合における当該窓口をいう。
21 匿名で公益通報者と事業者との間の連絡を仲介するサービスを提供する事業者も存在する。
組織の長その他幹部からの独立性(法定指針 第4-1-⑵関係)
社長のセクハラ・役員の横領といった、組織のトップや幹部自身が関与している不正を通報された際、その通報情報がそのまま社長や担当役員に筒抜けになってしまえば、もみ消されるか、犯人捜しが始まります。
そのため、幹部が関与する事案については、その影響力が及ばない、独立した調査・報告ルートを整備することが義務付けられています。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-1-⑵
⑵ 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。当該内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合においても、同様の措置をとる。
独立性を担保する具体的なルート設計
幹部関与事案については、以下のようなバイパスルートを社内規程に組み込みます(Q&A 内部通報体制Q17)。
- 監査役・監査委員会ルート:
通報対象が社長や取締役の場合、従事者は社長への報告をバイパスし、常勤監査役や社外取締役に直接報告を行い、その指示の下で調査を進める仕組み - 社外取締役直通ルート:
取締役会の監督機能を活かし、社外取締役がダイレクトにモニタリングする体制 - 外部第三者機関への完全委託:
外部の法律事務所に調査権限を一任し、報告書を直接監査役に提出する
外部通報(2号・3号)や職制ライン報告への「同様の措置」
令和7年改正で、実務上の関心が高く、パブコメでも議論となったのが、以下の部分です。
当該内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合においても、同様の措置をとる。
これは、通常の社内窓口(1号窓口)に寄せられた通報だけでなく、
- 従業員が、いきなり行政機関(2号)や、マスコミ(3号)に通報した
- 従業員が、窓口を使わずに直属の上司に口頭で不正を報告(職制レポーティングライン)した
といった、窓口を経由しない内部通報や外部への通報であっても、行政指導の開始やマスコミの報道などによって会社がその存在を了知し、調査や是正が必要だと判断した時点から、同様に社長や幹部から独立した体制(監査役主導など)で調査を行わなければならない、ということです(Q&A 内部通報体制Q24)。
パブコメで寄せられた懸念と消費者庁の回答
この点について、パブコメ段階での事業者側からの意見は、”外部通報は、会社が情報を十分に把握できない。いつ発生したかもわからない外部通報に備えて、あらかじめ体制を整備しておくなど不可能を強いるものである”というものでした。
これに対する消費者庁の回答は、概ね以下のようなものです。
- 不可能を強いる趣旨ではない
- 外部通報等の存在、またはその可能性を、行政からの調査や報道等によって事業者が認識(了知)した時点で、独立性確保などの措置を講じればよい
- そのため、あらかじめそうした事態に対応できるよう、規程にそのプロセスを盛り込んでおくなどの有効な措置を講じておくことが求められる
例えば行政から調査が入ったときに、被通報者である社長が主導して”怪文書の出元を調べろ”と調査チームを動かすことは、この時点で指針第4の1-⑵違反(外部通報に対する独立性確保の義務違反)という形で法律違反になることになります。
▽令和8年3月31日パブコメ29~30頁
御意見に対する消費者庁の考え方:
内部公益通報以外の公益通報がなされたこと(その可能性がある場合を含む。)を認知する端緒としては、一般的に、行政機関による調査の実施や報道機関による報道等が考えられますが、事業者が当該通報を認知する手段等も含め対応は各事業者によって異なると考えられることから、内部公益通報以外の公益通報に関する独立性確保の措置等について、「調査及び是正等の対応が必要な場合」として規定しているものです。
このため、内部公益通報以外の公益通報の存在又は内部公益通報以外の公益通報であることの可能性を認識した場合には、その時点で「通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合」に該当するかどうかを判断の上、独立性確保等の措置を講ずることが求められます。
公通法Q&Aでは、体制整備等の措置に関するQ24で詳しく解説されていますので、適宜ご参照ください。本記事では、問題の所在(事業者側の感覚)がわかりやすいため、パブコメの方を紹介しました。
保護要件の充足との関係性
なお、当該通報が通報先ごとの保護要件を満たしているかどうかは、事業者側における判断に必須の情報ではないとされています。つまり、充足の有無が不明であることを理由として判断を保留するということはできない、ということです。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q25
事業者が、報道等により3号通報がなされたことを知った場合において、本法第3条第1項に規定する不利益な取扱いからの保護要件を満たしているか不明であることを理由とし、「調査及び是正等の対応が必要な場合」ではないと判断(あるいは判断を留保)してもよいですか。
本法第3条第1項に規定する不利益な取扱いからの保護要件を満たしているか否かは「調査及び是正等の対応が必要な場合」の判断を行うに当たって必須の情報ではありません。
また、「調査及び是正等の対応が必要な場合」であるか否かは、3号通報の内容等に鑑みて、事業者において判断する必要があります(詳細は本Q&A・Q24参照)。
(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
中立性を揺るがす利益相反の排除(法定指針 第4-1-⑷関係)
利益相反の排除とは、事案に関係している者を、その公益通報対応業務(受付・調査・是正など)に関与させない(除外する)措置のことです。
どんなに素晴らしい従事者を置いて独立ルートを作っても、調査チームのなかに被通報者の部下や被通報者と仲の良い同期、かつてその部署で一緒に働いていた人が混ざっていれば、情報が漏洩し、調査の公正さが失われるおそれがあります。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-1-⑷
⑷ 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。当該内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合においても、同様の措置をとる。
① 事案に関係する者の定義
指針解説やQ&Aにおいて、関与させてはならない人物として、以下のような者が例として挙げられています(Q&A 内部通報体制Q23。過去の「民間事業者向けガイドライン」も参考にしています)。
- 法令違反行為を行った当事者(被通報者本人)
- その法令違反行為の意思決定に関与した上司・役員
- 調査の結果、実質的に不利益(社内処分など)を受ける者
- 公益通報者、または被通報者と一定の親族関係にある者
- 以前にその法令違反行為が行われた部署に勤務していた者(※後述)
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕脚注24
24 「事案に関係する者」とは、公正な公益通報対応業務の実施を阻害する者をいう。典型的には、法令違反行為の発覚や調査の結果により実質的に不利益を受ける者、公益通報者や被通報者(法令違反行為を行った、行っている又は行おうとしているとして公益通報された者)と一定の親族関係がある者等が考えられる。
▽民間事業者向けQ&A〔2017年2月版〕(≫掲載ページ(WARP))
民間事業者向けガイドラインにおいて、「自らが関係する通報事案の調査・是正措置等に関与してはならない。」とされていますが、「関係する」とは具体的にどのような場合のことでしょうか。
具体的には、例えば、通報受付担当者、調査担当者その他の通報対応に従事する者が、
- 法令違反行為を行った当事者である
- 法令違反行為の意思決定に関与した
- 以前法令違反行為が行われた部署に勤務していた
- 法令違反行為を行った者の親族である
場合などが想定されます。
その他のデリケートな利益相反
現時点での指針解説やQ&Aには明示されていませんが、以前にその法令違反行為が行われた部署に勤務していた者や、かつてのチーム・プロジェクトメンバーである等の、仲間意識による利益相反も考えられます。
このような場合も、中立・公正な事実認定を歪める心理的バイアスが働きやすいため、これらも調査担当者から排除することが、信頼される窓口には必要であるとの指摘もあります(「内部通報制度調査担当者必携」(森原憲二)95~96頁参照)。
② 利益相反排除のプロセス
段階的な除外
受付当初の段階で関係者かどうかがわからなくても、関係者であることが判明した時点(調査の途中)で、直ちにその担当者を調査チームから除外する仕組みを規程に定めておきます。
自己申告と経歴確認
調査を開始する前に、従事者全員に対して本件の被通報者や部署との関係性を自己申告させ、過去の勤務経歴(人事データ)と照合して利益相反がないかをダブルチェックします(Q&A 行政機関向けQ16参照)。
外部委託時の注意
調査を外部の法律事務所や専門機関に委託する場合も、被通報者の出身大学の同窓弁護士がいないか、中立性に疑義が生じる法律事務所(被通報部署の顧問先など)でないかなど、慎重にチェックし、該当する場合は起用を避ける必要があります。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q15
内部公益通報があった場合に、調査等を外部機関に業務委託する場合の留意点を教えてください。
内部公益通報の事実関係の調査等、通報対応に係る業務を外部委託する場合には、事案の内容を踏まえて、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や、民間の専門機関等の起用は避けることが適当と考えられます。
結び
本記事のハイライトとして、要点をチェックリスト風にまとめます。
窓口設置・独立性確保・利益相反排除のチェックリスト
- 【外部共通窓口の有効化】 親会社の窓口を子会社の通報先として利用している場合、子会社の内部規程(または取締役会決議など)において、その窓口を自社の窓口として指定する規定を明記しているか(Q&A Q11)
- 【経営陣からの独立】 代表取締役や経営幹部自身に関する通報があった場合、通常の指揮命令ラインをバイパスして、直接監査役や社外取締役に報告され、その指揮下で調査・是正を行うプロセスが、規程上かつ外形上、担保されているか(Q&A Q17)
- 【利益相反の段階的チェック】 社内規程に、関与を禁止すべき事案に関係する者の具体的な範囲が例示されており、調査の途中であっても利益相反が判明した時点でチームから除外するルールになっているか(Q&A Q23)
- 【外部・窓口外通報への適用】 従業員が上司に直接報告したあるいは行政やマスコミに外部通報したことを会社が認知した場合でも、規程に基づいて独立性の確保や利益相反の排除を講じた上で、社内調査を開始するプロセスが整備されているか(Q&A Q24)
窓口の設置・独立性の確保・利益相反の排除という3つの土台は、企業が身内の甘えや経営陣への忖度を行わず、中立的に不祥事と向き合うための出発点です。
この基盤が整備されて初めて、従業員は”この会社なら、中で不正を正してくれる”と信頼し、まずは社内窓口(1号)を選んでくれるようになります。逆に、このインフラが不十分であれば、従業員は会社を見限り、直接行政やマスコミに通報し、会社は社会的信用の失墜(ブランド毀損)という重いリスクを背負う可能性があります。
令和7年改正も良い契機にして、自社の規程と組織ルートを見直し、この3つの土台を仕上げていきましょう。
公益通報者保護法の関連記事一覧はこちら
-
-
公益通報者保護法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
【PR】管理部門・士業特化の転職エージェント / 下のバナーから相談フォームに進めます(無料)
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
公益通報者保護法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 公益通報ハンドブック〔令和8年12月施行版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
参考文献image
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です