会社の不正を見つけたとき、多くの人が最初に考えるのはこれではないでしょうか。
「通報したら、自分がクビになったり、左遷されたりしないだろうか」
この不安を法的にカバーしているのが、公益通報者保護法です。本記事では、この法律が定める公益通報保護のための要件を、できるだけかみ砕いて整理していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
公益通報保護のための要件
公益通報者保護法が守るのは、あらゆる内部告発ではありません。保護を受けるには、いくつかの要件を満たす必要があります。
要件ごとに分けると、次の5つになります。
それでは、順番に見ていきましょう。
01|保護される「通報者」は意外と広い:通報者の範囲
保護対象は正社員だけではありません。次の5つの立場の人たちが、通報の主体になります。
- 雇用元の労働者(+辞めて1年以内の退職者)
- 派遣先の派遣労働者(+派遣終了1年以内の元派遣労働者)
- 委託元のフリーランス(+契約終了1年以内の元フリーランス) ★令和7年改正で追加
- 請負等の取引先の事業に従事する労働者等・フリーランス(+その元従事者(1年以内))
- 現職の役員 (取締役、執行役、監査役、理事、監事など)
※ただし調査是正の努力を尽くすことが前提条件になるなど、労働者とは要件がやや異なります
「辞めた後だから関係ない」「役員だから対象外」と思われることもあるかもしれませんが、どちらも一定の条件下で保護の範囲に入っています。
通報者の範囲について詳しくはこちら
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公益通報者保護法|公益通報の要件「通報者の範囲」について解説~誰が通報すれば守られるのか?
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02|「何でも通報していい」わけではない:通報対象事実
保護されるのは、対象となる法律(個人情報保護法、食品衛生法、金融商品取引法など約500本の法律が対象)に違反する行為であって、かつ、
- 犯罪行為(刑罰の対象になる事実)
- 過料(行政上のペナルティとしての金銭)の対象となる事実
- 最終的に①②につながる行為
に関するものに限られます。
つまり「この会社の方針、なんだか気に食わない」という主観的な不満は対象外です。あくまで法令違反の事実が前提になります。
通報対象事実について詳しくはこちら
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公益通報者保護法|公益通報の要件「通報対象事実」について解説~何を通報すれば守られるのか?
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03|「言っていることが正しければOK」ではない:通報の目的
見落とされがちですが、公益通報者保護法には、通報の主体や通報対象事実とは別に、もうひとつ通報の目的というハードルがあります。
法律の定義上、公益通報と認められるのは
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく行われた通報
に限られます。つまり、通報の中身がどれだけ事実で、法令違反が本当に存在していたとしても、通報した目的が不正だと判断されると、そもそも「公益通報」として扱ってもらえないのです。
「不正の目的」に当たりうる例としては、こんなケースが挙げられます。
- 会社に金銭を要求する目的で、「バラされたくなければ金を払え」と通報をちらつかせる
- 個人的に恨みのある上司や同僚を陥れるために、事実を誇張・歪曲して通報する
- 競合他社に情報を流す目的で、内部情報を外部に持ち出しつつ通報の形を取る
こうしたケースでは、たとえ通報内容そのものに法令違反の事実が含まれていても、公益通報者保護法による保護(解雇無効や不利益取扱いの禁止など)は及びません。
通報の目的について詳しくはこちら
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公益通報者保護法|公益通報の要件「通報の目的」について解説~どういう目的で通報すれば守られるのか?
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04|「どこに」通報できるのか:通報先の類型
法律は、公益通報の宛先として、次の3つの類型を用意しています。
- 事業者内部(1号通報先):
勤務先そのもの、または勤務先があらかじめ定めた窓口(社内のコンプライアンス部門)等 - 権限のある行政機関(2号通報先):
その法令違反について処分や勧告などを行う権限を持つ官庁・自治体 - その他の外部(3号通報先):
報道機関、消費者団体、労働組合など、通報することが被害の発生・拡大の防止に必要と認められる者
通称、①は「内部通報」、②と③は「外部通報」と呼ばれます。
②は”権限のある”とされているように、どこの行政機関でもよいわけではありません。通報対象事実となる法令を所管している行政機関でなければならず、所管は法令により決まっています。どの行政機関が該当するかは、消費者庁の行政機関検索システム等で確認することができます。
ここまでは、いわば通報の宛先の顔ぶれの話です。どの宛先に送っても、送り先自体は法律が想定する範囲に収まっている、という前提が整います。
通報先の類型について詳しくはこちら
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公益通報者保護法|公益通報の要件「通報先の類型」について解説 ~どこに通報すれば守られるのか?
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05|「どういう基準で」通報すれば保護されるのか:通報先ごとの保護要件
ところが、宛先の顔ぶれに収まっているだけでは、まだ保護は確定しません。同じ内容の通報でも、どの宛先を選ぶかによって、保護を受けるために必要な条件(=どういう基準で通報するか)が段階的に厳しくなる、という仕組みになっています。
① 事業者内部への通報
ハードルは一番低く、
不正が行われている、または行われようとしていると思料する
という主観的な疑いがあれば足ります。「確実な証拠がないと通報できない」わけではなく、そのように信じたことで足りるという設計です。
ただし、最初から嘘だと知っていた場合=思料もしていない場合は、さすがに保護されません。
② 行政機関への通報
ハードルが上がり、
信じるに足りる相当の理由がある
ことが必要です(「真実相当性」と呼ばれます)。単なる主観的な疑いを超えて、客観的な根拠が求められます。
ただし、書面(氏名や通報内容を記載した書面)を提出して通報すれば、真実相当性は求められないという緩和ルートもあります。
なお、行政機関には一定の調査義務が生じるという仕組みも用意されています。
▽公通法13条1項
(行政機関がとるべき措置)
第十三条 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関は、公益通報者から第三条第二号及び第六条第二号に定める公益通報をされた場合には、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
③ 報道機関・消費者団体などへの通報
最もハードルが高いのがこのルートです。
「信じるに足りる相当の理由」に加えて、さらに以下のいずれかに該当すること(「特定事由」と呼ばれます)が必要です。
つまり、最初からどこに通報してもよいことになってはいるものの、「社内→行政→その他の外部」という順で保護要件が厳しくなる設計になっているわけです。結果的に、いきなりメディア等に駆け込むのは相対的にリスクが高くなっています。
こうして見ると、「どこに」(通報先の類型)は入口の話にすぎず、実際に自分が保護されるかどうかを左右するのは「どういう基準で」(通報先ごとの保護要件)の部分だ、ということがわかります。通報を考えるときは、この2つを分けて、自分が選ぼうとしている通報先について保護要件を満たしているかをチェックする必要があります。
通報先ごとの保護要件について詳しくはこちら
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公益通報者保護法|通報先ごとの「保護要件」について解説 ~どのような基準で通報すれば守られるのか?
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(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
法律の読み方の解説
この法律は少し変わった作りをしていて、保護の要件を実際に法文を読んで確認しようと思っても、どこにどう書いてあるのか、一見してよくわからない構造になっています。
これはなぜかというと、公益通報保護のための要件は、公益通報の定義(法2条)として定められた部分(要件①~④)と、公益通報が実際に保護されるための保護要件(法3条以下。要件⑤)とに、分けて定められているためです。
なぜこの法律はわかりにくいのか
そこで、この条文構造を意識しながら、公益通報保護のための要件をもう一度整理してみましょう。理解のタネは、先ほど述べた二段構えの構造にあります。
第一段階め:「公益通報」該当性
法2条は、「公益通報」という言葉の定義を定めています。
誰が(労働者・退職者・派遣労働者・役員など)、どんな目的で(通報の目的)、何を(通報対象事実)、どこに(ⅰ勤務先等 ⅱ権限を持つ行政機関等 ⅲその他の外部の者、という3つの通報先類型)、通報すれば「公益通報」と呼べるのかという、いわば器の部分がここに書かれています。
▽公通法2条1項
(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令(法律及び法律に基づく命令をいう。以下同じ。)の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)をいう。以下同じ。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者(以下「役務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第二号及び第六条第二号において「行政機関等」という。)又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号及び第六条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一~四 (略)
もう少し読み易くなるよう、箇条書きにすると以下のようになっています。
- 第二条 この法律において「公益通報」とは、
- 【① 通報者の範囲】
- 「次の各号に掲げる者が、」
- 【③ 通報の目的】
- 「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、」
- 【② 通報対象事実】
- 「…について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、」
- 【④ 通報先の類型】
- 「当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者…、当該通報対象事実について処分…をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者…又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者…に」
- 通報することをいう。
- 【① 通報者の範囲】
第二段階め:保護を発生させる要件
法3条(見出しは「解雇の無効」)は、その3つの宛先類型それぞれについて、実際に法的保護を受けるためのハードルを定めています。
1号は「思料する」だけで足りる一方、2号は「信ずるに足りる相当の理由」が必要、3号はそれに加えてさらに6つの個別事情(イ〜へまでの特定事由)のどれかに当てはまることが必要、という具合に、宛先が外に向かうほど要件が厳しくなる仕組みです。
- 1号(社内):通報対象事実が生じていると「思料する場合」
- 2号(行政):生じていると「信ずるに足りる相当の理由がある場合」又は「思料し、かつ書面を提出する場合」
- 3号(外部):生じていると「信ずるに足りる相当の理由がある場合」+「特定事由(イ~ヘ)」
▽公通法3条
(解雇の無効)
第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報
二 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報
イ~二 (略)
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ~へ (略)
つまり、「公的通報の定義(2条)に当てはまる通報」と、「保護要件(3条)を満たして実際に保護される通報」は、イコールではないということです。法2条は公益通報に該当するかという土台の話、法3条はその中でも保護に値するかを審査する物差し(保護要件)、というふうにイメージするとわかりやすいかと思います。
しかも法3条は、見出し上は「解雇の無効」の話ですが、法4条(派遣契約解除の無効)や法5条(フリーランスへの不利益取扱いの禁止)、法7条(損害賠償の制限)は、いずれも「第3条各号に定める公益通報をしたことを理由として」という形で法3条を引用する作りになっているため、実質的には法3条が保護要件全体の本体として機能している、という点も押さえておくと読みやすくなります。
なお、役員の場合は、調査是正義務の前置など特別ルールがあるため、通報に関する保護要件は法6条(役員を解任された場合の損害賠償請求)において独自に規定されています
まとめ
まとめると、公益通報保護のための要件の全体構造は、以下のようになっています。
- 【法2条1項(定義規定)】に基づく要件(「公益通報」該当性の要件)
- ① 通報者の範囲(労働者、フリーランス、役員など)
- ② 通報対象事実(犯罪行為や過料対象行為など)
- ③ 通報の目的(不正の目的でないこと)
- ④ 通報先の類型(内部・行政・その他外部のいずれか)
- 【法3条 / 法6条(保護規定)】に基づく要件(保護を発生させる要件)
- ⑤ 通報先ごとの保護要件(思料、真実相当性、特定事由など)
結び
通報前にチェックしたい3つの視点をまとめます。
公益通報保護のための主なチェックポイント
- 自分は保護対象の「通報者」に当てはまるか(在職中・退職後1年以内・役員など)
- 通報内容は対象となる法令違反(犯罪行為・過料事実・これらにつながる行為)に該当するか
- 通報先に応じた要件(思料 → 相当の理由 → 相当の理由+追加要件)を満たしているか
特に、3つの通報先に優先順位はなく、どこに通報してもよいことになっているものの、不用意に外部に通報してしまうと、内容が正しくても法律上の保護を受けられない可能性があります。「社内→行政→その他の外部」の順に保護要件が段階的に厳しくなっている点を知っておくことが、自分自身を守る近道となります。
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主要法令等
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参考資料
- 公益通報ハンドブック〔令和8年12月施行版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です