今回は、独占禁止法を勉強しようということで、不公正な取引方法のうち不当対価について書いてみたいと思う。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。
メモ
本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
不当対価
不当対価は、独禁法2条9項6号ロに定められている。
9
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
ロ 不当な対価をもつて取引すること。
不当対価には、不当廉売(=不当に安く売る)と不当価格購入(=不当に高く買う)がある。
不当廉売の内容・類型
不当廉売には、法定類型と告示類型の両方がある。
▽法定類型(法2条9項3号)
9
三 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
▽告示類型(一般指定6項)
(不当廉売)
6 法第二条第九項第三号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。
どちらも、原価割れするような対価での供給を不当廉売として規制するものである。
法定類型の方は、「商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給すること」という、キツめの廉売であり、不当廉売の典型である。そのため、行為要件に該当すれば基本的には公正競争阻害性があるといえるので、効果要件は「正当な理由がないのに」との文言になっている。
これに対し、そこにまで至らないにしても不当廉売として規制すべき場合も考えられるので、もう少し緩い廉売が告示類型の方に定められている。そのため、行為要件に該当するだけでは公正競争阻害性が認められないので、効果要件は「不当に」との文言になっている。
ちなみに、安く供給してくれることの何がいけないの?と思うかもしれないが、原価割れするような価格で供給が行われると、それについていけないような売り手の事業者は市場からの退出を余儀なくされるわけで(他の事業者を駆逐する)、反競争性を有するといえる。退出後に、市場を独占することができればその後は自由に価格を設定することもできてしまう。
不当廉売ガイドライン(「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」)に関連部分があるので、参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(2項)
2 不当廉売規制の目的
独占禁止法の目的は,いうまでもなく公正かつ自由な競争を維持・促進することにあり,事業者が創意により良質・廉価な商品又は役務(以下単に「商品」という。)を供給しようとする努力を助長しようとするものである。この中でも,企業努力による価格競争は,本来,競争政策が維持促進しようとする能率競争(良質・廉価な商品を提供して顧客を獲得する競争をいう。)の中核をなすものである。この意味で,価格の安さ自体を不当視するものではないことは当然であるが,逆に価格の安さを常に正当視するものでもない。企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく,採算を度外視した低価格によって顧客を獲得しようとするのは,独占禁止法の目的からみて問題がある場合があり,そのような場合には,規制の必要がある。正当な理由がないのにコストを下回る価格,いいかえれば他の商品の供給による利益その他の資金を投入するのでなければ供給を継続することができないような低価格を設定することによって競争者の顧客を獲得することは,企業努力又は正常な競争過程を反映せず,廉売を行っている事業者(以下「廉売行為者」という。)自らと同等又はそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあり,公正な競争秩序に影響を及ぼすおそれがある場合もあるからである。
不当廉売については、上記の不当廉売ガイドラインのほか、分野別のガイドライン3つ(酒類、ガソリン等、家電製品)がある。表にすると以下のとおり。
法律 |
告示 |
ガイドライン |
|
不当廉売 |
法2条9項3号 |
<一般> |
|
法2条9項6号ロ→ |
一般指定6項 |
同上 |
不当廉売(法定類型)
行為要件
「商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」すること、である。
「その供給に要する費用」とは、要するに原価のこと。なので、不当廉売とはつまり原価割れで供給することである。
告示類型と違って、単に「低い価格」ではなく「著しく下回る対価」、となっている。また、「継続して」との要件がある点も異なる。告示類型との違いはこれら2点である。
「その供給に要する費用」
では、原価とは具体的にどういうものを指すのか?
ここでいう原価は「総販売原価」のことをいい、簡単にいうと、
卸小売業の場合=仕入原価+販管費
製造業の場合=製造原価+販管費
である。(販管費というのは販売費及び一般管理費のこと)
不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(3項の(1)のアの(ウ))
(注2) 総販売原価とは,廉売対象商品の供給に要するすべての費用を合計したものであり,通常の製造業では,製造原価に販売費及び一般管理費を加えたもの,通常の販売業では,仕入原価に販売費及び一般管理費を加えたものである。
ここでの「製造原価」とは,当期の製造活動によって完成した全製品の製造に要した費用の合計である製造原価報告書上の当期製品製造原価ではなく,当該廉売によって販売された製品の製造に要した費用の合計額のことである。仕入原価,販売費及び一般管理費についても同様であり,当該廉売によって販売された製品の仕入れ,販売及び管理に要した費用の合計額のことである。
販売費及び一般管理費のように複数の事業に共通する費用については,これが各事業にどのように配賦されるかが問題となるところ,企業会計上は,当該費用の発生により各事業が便益を受ける程度等に応じ,各事業者が実情に即して合理的に選択した配賦基準に従って配賦されることが一般的である。
(以下略)
「著しく下回る価格で」
原価は上記のような意味合いだが、それよりも「著しく下回る」というのは、原価のうち「可変的性質を持つ費用」すら回収できない場合である、とされている。
不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
ざっくりいえば、「製造原価」と「仕入原価」は基本的に可変性費用であり、「販管費」はそのうち供給と密接な関連を有する費用項目のみが可変性費用である、と言っている。
▽不当廉売ガイドライン(3項の(1)のアの(エ))
(エ)総販売原価を著しく下回る価格であるかどうかは,廉売対象商品を供給することによって発生する費用を下回る収入しか得られないような価格であるかどうかという観点から,事案に即して算定されることになる。この算定に当たっては,次の点に留意する。
a 供給に要する費用には,廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用(以下「可変的性質を持つ費用」という。)とそれ以外の費用とがある。可変的性質を持つ費用でさえ回収できないような低い価格を設定すれば,廉売対象商品の供給が増大するにつれ損失が拡大する。したがって,可変的性質を持つ費用を下回る価格は,「供給に要する費用を著しく下回る対価」であると推定される(他方,可変的性質を持つ費用以上の価格は「供給に要する費用を著しく下回る対価」ではないので,その価格での供給は,法定不当廉売に該当することはない。)。
b 可変的性質を持つ費用に該当する費用かどうかについては,廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用か,廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用かという観点から評価する。
(a) 変動費(操業度に応じて総額において比例的に増減する原価をいう。)は,可変的性質を持つ費用となる。また,明確に変動費であると認められなくても,費用の性格上,廉売対象商品の供給量の変化に応じてある程度増減するとみられる費用は,特段の事情(注4)がない限り,可変的性質を持つ費用と推定される。例えば,変動費としては製品の製造に直接用いられる材料費や仕入価格が挙げられ,費用の性格上廉売対象商品の供給量の変化に応じてある程度増減する費用としては運送費,検収費等の商品仕入れに付随する諸経費が挙げられる。
さらに,費用の性格からそのように推定するまでは至らないものであっても,個別の事案において,廉売期間中,供給量の変化に応じて増減している費用は,原則として,可変的性質を持つ費用として取り扱われる。
(注4) 継続的な廉売ではあるものの,廉売期間が比較的短く,期間中の廉売対象商品の供給によってはその費用が増減し得ないといった事情は,特段の事情に該当する事由である。
(b) 企業会計上の各種費用項目のうち,廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用項目は,以下に示すように,可変的性質を持つ費用となる又は推定される場合がある。
(i) 製造原価
製造原価は製造業者が廉売を行うことにより販売した当該製品の「売上原価」を構成する重要な一要素である。製造原価は,製造業者が,ある製品について廉売を行った場合に,当該製品の供給と密接な関連性を有するものとして算定される費用項目であり,その性格上,特段の事情(注5)がない限り,可変的性質を持つ費用と推定される。製造原価のうち製造直接費(直接材料費,直接労務費及び直接経費)は,可変的性質を持つ費用となる。
(注5) 特段の事情に該当する事由としては,製造原価の中に,明らかに当該製品の供給と関連性のない費用項目があるといった事情(例えば,当該製品を製造する工場敷地内にある福利厚生施設(テニスコート,プール等)の減価償却費が製造原価に含まれている場合)が挙げられる。
(ii) 仕入原価
仕入原価とは,仕入価格(注6)と,運送費,検収費等の仕入れに付随する諸経費との合計額である。仕入原価は,販売業者が,ある製品について廉売を行った場合に,当該製品の供給と密接な関連性を有するものとして算定される費用項目であり,その性格上,特段の事情がない限り,可変的性質を持つ費用と推定される。仕入原価のうち仕入価格は,可変的性質を持つ費用となる。
(注6) ここでの「仕入価格」とは,名目上の仕入価格ではなく,実際の取引において当該製品に関して値引き,リベート,現品添付等が行われている場合には,これらを考慮に入れた実質的な仕入価格をいう。
(iii) 営業費
営業費は,販売費及び一般管理費から構成されるところ,これに含まれる費用項目のうち,廉売対象商品の注文の履行に要する費用である倉庫費,運送費及び掛売販売集金費は,事業者が,ある商品について廉売を行った場合に,廉売対象商品の供給と密接な関連性を有するものとして算定される費用項目であり,その性格上,可変的性質を持つ費用となる。
(c) (以下略)
「継続して供給」
不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(3項の(1)のイ)
イ 継続性
前記2のとおり,不当廉売に該当するためには,廉売が廉売行為者自らと同等に効率的な事業者の事業の継続等に係る判断に影響を与え得るものである必要がある。したがって,不当廉売となるのは,一般的には,廉売がある程度「継続して」行われる場合である。このため,独占禁止法第2条第9項第3号の規定は,「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給すること」と規定している。
「継続して」とは,相当期間にわたって繰り返して廉売を行い,又は廉売を行っている事業者の営業方針等から客観的にそれが予測されることであるが,毎日継続して行われることを必ずしも要しない。例えば,毎週末等の日を定めて行う廉売であっても,需要者の購買状況によっては継続して供給しているとみることができる場合がある。
効果要件(公正競争阻害性)
法定類型は、「その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」で、これは不当廉売の典型である。
行為要件に該当すれば基本的には公正競争阻害性があるといえ、正当性を主張する側で正当な理由があることを証明する必要がある。ゆえに、「正当な理由がないのに」という文言が使用されている。
というのが文言に関する一般論なのだが、以下各論的な解釈を見てみる。
「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」
公正競争阻害性に関する要件である。不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(3項の(2))
(2) 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」
ア 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」にいうところの「他の事業者」とは,通常の場合,廉売対象商品について当該廉売を行っている者と競争関係にある者を指すが,廉売の態様によっては,競争関係にない者が含まれる場合もあり得る。例えば,卸売・小売業者による廉売によって製造業者等の競争関係に影響が及ぶ場合であれば,「他の事業者」に,廉売対象商品と同種の商品を供給する製造業者等が含まれる場合もある。
イ 「事業活動を困難にさせるおそれがある」とは,現に事業活動が困難になることは必要なく,諸般の状況からそのような結果が招来される具体的な可能性が認められる場合(注9)を含む趣旨である。このような可能性の有無は,他の事業者の実際の状況のほか,廉売行為者の事業の規模及び態様,廉売対象商品の数量,廉売期間,広告宣伝の状況,廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的等を総合的に考慮して,個別具体的に判断される。
(注9) 例えば,有力な事業者が,他の事業者を排除する意図の下に,可変的性質を持つ費用を下回る価格で廉売を行い,その結果,急激に販売数量が増加し,当該市場において販売数量で首位に至るような場合には,個々の事業者の事業活動が現に困難になっているとまでは認められなくとも,「事業活動を困難にさせるおそれがある」に該当する。
「正当な理由」
廉売を正当化する特段の事情である。不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(3項の(3))
(3) 正当な理由
前記(1)及び(2)の要件に当たるものであっても,廉売を正当化する特段の事情があれば,公正な競争を阻害するおそれがあるものとはいえず,不当廉売とはならない。例えば,需給関係から廉売対象商品の販売価格が低落している場合,廉売対象商品の原材料の再調達価格が取得原価より低くなっている場合において,商品や原材料の市況に対応して低い価格を設定したとき,商品の価格を決定した後に原材料を調達する取引において,想定しがたい原材料価格の高騰により結果として供給に要する費用を著しく下回ることとなったときは,「正当な理由」があるものと考えられる(注10)。
(注10) 生鮮食料品のようにその品質が急速に低下するおそれがあるものや季節商品のようにその販売の最盛期を過ぎたものについて,見切り販売をする必要がある場合は,可変的性質を持つ費用を下回るような低い価格を設定することに「正当な理由」があるものと考えられる。きず物,はんぱ物その他の瑕疵(かし)のある商品について相応の低い価格を設定する場合も同様に考えられる。
不当廉売(告示類型)
行為要件
「商品又は役務を低い対価で供給」
「低い対価」とは、法定類型と同様、原価を下回る価格とされる。
では何が法定類型と違うのか?というと、「著しく」という文言はないので、原価を少し下回るだけでも「低い価格」に該当し得る、という点である。また、「継続して」との文言がないのも法定類型との相違点である(既述のとおり)。
不当廉売ガイドラインの関連部分を参考までに引用する。
▽不当廉売ガイドライン(4項の(1))
法定不当廉売の要件である価格・費用基準及び継続性のいずれか又は両方を満たさない場合,すなわち,廉売行為者が可変的性質を持つ費用以上の価格(総販売原価を下回ることが前提)で供給する場合や,可変的性質を持つ費用を下回る価格で単発的に供給する場合であっても,廉売対象商品の特性,廉売行為者の意図・目的,廉売の効果,市場全体の状況等からみて,公正な競争秩序に悪影響を与えるときは,不公正な取引方法第6項の規定に該当し,不当廉売として規制される。
効果要件(公正競争阻害性)
「不当に」「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」
告示類型は、「商品又は役務を低い対価で供給」という法定類型より緩い廉売行為を定めて、法定類型以外の行為を捕捉している。
行為要件に該当するだけでは公正競争阻害性があるとはいえないので、別途「不当」といえることが必要となる。
というのが文言に関する一般論なのだが、以下各論的な解釈を見てみる。
▽不当廉売ガイドライン(4項の(2))
4 不公正な取引方法第6項の規定
(2) 「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」の有無については,前記3(2)イに掲げる事項を総合的に考慮して,個別事案ごとに判断することとなるが,例えば,市場シェアの高い事業者が,継続して,かつ,大量に廉売する場合,又はこのような事業者が,他の事業者にとって経営上重要な商品を集中的に廉売する場合は,一般的には,他の事業者の事業活動に影響を与えると考えられるので,可変的性質を持つ費用以上の価格での供給であっても,不公正な取引方法第6項の規定に該当する場合がある。この場合には,廉売対象商品の供給と関連のある費用(製造原価又は仕入原価及び販売費)を下回っているかどうかを考慮する。
不当価格購入
不当価格購入は、告示類型である。
▽告示類型(一般指定7項)
(不当高価購入)
7 不当に商品又は役務を高い対価で購入し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。
不当廉売が売り手による不当対価であったのに対し(安すぎる売値)、不当価格購入は買い手による不当対価である(高すぎる買値)。
不当廉売の裏返しのような感じだが、極端に高い対価での購入が行われると、それについていけない買い手の事業者は市場からの退出を余儀なくされてしまうわけである(需要側の競争を破壊する)。
行為要件
「商品又は役務を高い対価で購入」することである。
効果要件
「不当に」「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」があることである。
結び
不公正な取引方法のうち不当対価については以上になります。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。初心者(=過去の自分)がなるだけ早く新しい環境に適応できるようにとの気持ちで書いております(ゆえに、ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれておりませんので、あしからずご了承ください)。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご留意ください。