資金決済法

資金決済法を勉強しよう|前払式支払手段とは

著作者:Freepik

今回は、資金決済法を勉強しようということで、前払式支払手段の概要について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

前払式支払手段とは(法3条1項)

前払式支払手段といってもイメージが湧きにくいですが、感覚的にいうと「プリペイド(pre-paid)」であり、商品やサービスの対価を前払いしておくもののことです。

例えば、商品券、プリペイドカード、Suica、PASMOなどは、日常生活でもよく見かけますが、これらが前払式支払手段にあたります。

資金決済法上の定義は法3条1項に定められていて、金額表示タイプ数量表示タイプの2つに分けて規定されています。

金額表示タイプ(1号)

金額表示タイプというのは、金券的な性質のもの、つまり、金額そのものを記録している前払式支払手段のことです。

例えば、「〇〇円」という金額が記録された商品券などです。

また、この「金額」には、金額を、度その他の単位により換算して表示している場合も含まれます(括弧書き参照)。

例えば、「〇〇度」という単位数が記録されたテレホンカードや、「〇〇ポイント」という単位数が記録されたICプリペイドカードなどです。

テレホンカードといっても今の時代によくわからないと思いますが、昔は、1000円で「105度」といった度数が記録されたテレホンカードを買って、公衆電話で、テレホンカードを使って電話をかけたりしていました(一定時間ごとに10円かかり、テレホンカードの1度数は10円分に相当)。

条文も見てみます。

▽資金決済法3条1項1号 ←金額表示タイプの前払式支払手段

(定義)
第三条
 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの

記録媒体の種類

 記録媒体の種類に関しては、大きくいうと、①利用者に発行される紙やカードなどに記録される紙型磁気型ICチップ型と、②事業者のサーバーに記録され金額情報と結びついているIDなどの符号が交付されるサーバー型に分けることができます。

 文言でいうと、「証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される…」という冒頭の部分が、記録媒体を示す部分になります。

 これら記録媒体の種類は、2号の数量表示タイプでも同様です(同様の文言で表現されている)。

数量表示タイプ(2号)

数量表示タイプというのは、物品や役務の数量を記録した前払式支払手段のことです。

例えば、ビール「びん○○ml 〇本」と交換できるビール券などがこれにあたります。

▽資金決済法3条1項2号 ←数量表示タイプの前払式支払手段

 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

前払式支払手段の要件

3つの要件

前払式支払手段の定義には、以下の3つの要件が含まれています。

【前払式支払手段の要件】

  • 金額・数量という財産的価値が記載又は記録されること【価値の保存】
  • 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は符号であること【対価発行】
  • 物品やサービスの提供を受ける場合に、その証票等又は符号が使用されること【権利行使】

金額表示タイプにも数量表示タイプにも共通する、前払式支払手段に該当するための要件です。

1号と2号の文言と対応させつつ、表にしてみると、概ね、以下のようになります。

要件金額表示タイプ(1号)数量表示タイプ(2号)
価値の保存証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される金額金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)…証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量
対価発行に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、…に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、…
権利行使…発行者等から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの…発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

※ 略語が定義されているものは略語で記載しています

該当しない例

上記の3要件に照らしたときに、前払式支払手段に該当しない例として、前払ガイドラインでは、以下の①~⑥が挙げられています。

▽前払ガイドラインⅠ-1-1-⑴

Ⅰ-1-1 前払式支払手段に該当しない証票等又は番号、記号その他の符号
⑴ 次に掲げる証票等又は番号、記号その他の符号については、法第3条第1項に規定する前払式支払手段に該当しない
 「日銀券」、「収入印紙」、「郵便切手」、「証紙」等法律によってそれ自体が価値物としての効力を与えられているもの
 「ゴルフ会員権証」、「テニス会員権証」等各種会員権(証拠証券としての性格を有するものに限る。)
 「トレーディング・スタンプ」等商行為として購入する者への販売であり、当該業者が消費者への転売を予定していないもの
 磁気カード又はICカード等を利用したPOS型カード
 本人であることを確認する手段等で証票等又は番号、記号その他の符号自体には価値が存在せず、かつ、証票、電子機器その他のものに記録された財産的価値との結びつきがないもの
(注)…(略)…
 証票等又は番号、記号その他の符号のうち、証票等に記載若しくは記録され又はサーバに記録された財産的価値が証票等又は番号、記号その他の符号の使用に応じて減少するものではないもの

③のトレーディングスタンプは、小売業者が、販売促進のために、商品を購入した顧客に対して購入額に応じて配布するクーポンのことです。

一定量集めると量に応じた商品などと交換することができるものですが、実質的には対価を得て交付されたものではないので、対価発行の要件を満たしません。
▷参考サイト:トレーディングスタンプとは|わかりやすく解説 Weblio辞書

⑤や⑥はイメージしづらいですが、⑤は、例えば、英会話教室の生徒証などです。

⑥は、例えば、新聞などの電子配信サービスで、あらかじめ一定期間の料金を前払いしておけばその期間内はいつでも購読でき、ID等の使用時ごとに財産的価値が減少することがないものなど、が挙げられています(堀天子「実務解説 資金決済法」参照)。

適用除外(法4条各号)

上記の要件を全て満たしていて、定義上は前払式支払手段に該当するものであっても、法4条で、適用が除外されているものがあります。

1号~7号までが規定されています。

これらについては、発行にあたり、資金決済法上の届出や登録は不要となります。

乗車券、入場券その他これらに準ずるもの(1号→施行令4条1項)

1号は、乗車券や入場券などです。

これらは、整理券的なもので、与信の意味合いが薄いため、適用除外とされています。

(適用除外)
第四条
 次に掲げる前払式支払手段については、この章の規定は、適用しない
 乗車券、入場券その他これらに準ずるものであって、政令で定めるもの

  ↓ 施行令4条1項

(適用除外となる前払式支払手段)
第四条
 法第四条第一号に規定する政令で定めるものは、第一号から第三号までに掲げる証票その他の物(以下この条において「証票等」という。)又は第四号に掲げる番号、記号その他の符号とする。
 乗車券乗船券及び航空券
 次に掲げる施設又は場所に係る入場券(通常入場券と併せて発行される遊園地その他これに類する施設の利用券を含む。)
 イ 映画、演劇、演芸、音楽、スポーツ又は見せ物を不特定かつ多数の者に見せ、又は聴かせる場所
 ロ 競馬場、競輪場、小型自動車競走場又はモーターボート競走場
 ハ 美術館、遊園地、動物園、博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設又は場所でこれらに類するもの
 前二号に掲げるもののほか、特定の施設又は場所の利用に際し発行される食券その他の証票等で、当該施設又は場所の利用者が通常使用することとされているもの
 前三号に掲げる証票等と同等の機能を有する番号、記号その他の符号(その発行する者又は当該発行する者が指定する者による利用者に対する物品等の給付又は役務の提供が、発行する者又は当該発行する者が指定する者の使用に係る電子計算機と利用者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて行われる場合に利用されるものを除く。)

発行日から6か月以内に限り使用できるもの(2号→施行令4条2項)

2号は、使用期間が6か月以内に限られているものです。

 発行の日から政令で定める一定の期間内に限り使用できる前払式支払手段

  ↓ 施行令4条2項

 法第四条第二号に規定する政令で定める一定の期間は、六月とする。

発行の日」については、以下のように定義されています。

▽前払ガイドライン1-1-3-⑴

⑴ 法第4条第2号に規定する「発行の日」とは、次に掲げる日のいずれか遅い日をいう。
① 財産的価値が証票、電子機器その他の記載又は記録された日
② 利用者に対し証票等、番号、記号その他の符号交付又は付与された日

①は物理デバイス型の場合、②はサーバー型の場合になります。

国又は地方公共団体が発行するもの(3号)

3号は、国又は地方公共団体が発行するものです。

これらは、発行者の財産的信用が十分であるため、適用除外とされています。

 国又は地方公共団体(次号において「国等」という。)が発行する前払式支払手段

国や地方公共団体に準じた主体が発行するもの(4号→施行令4条3項)

4号は、国や地方公共団体に準じた主体が発行するものです。

3号と同様の趣旨で、適用除外とされています。

 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又は特別の法律により地方公共団体が設立者となって設立された法人であって、その資本金又は出資の額の全部が国等からの出資によるものその他の国等に準ずるものとして政令で定める法人が発行する前払式支払手段

  ↓ 施行令4条3項

 法第四条第四号に規定する政令で定める法人は、次に掲げる法人とする。
 独立行政法人自動車技術総合機構
 日本中央競馬会及び日本放送協会
 港務局及び地方道路公社

発行者の従業員に発行されるもの等(5号→施行令4条4項)

5号は、発行者と利用者に、生活上密接な関係がある場合です。

資金決済法上の利用者保護を及ぼす必要がないと考えられるため、適用除外とされています。

 専ら発行する者(密接関係者を含む。)の従業員に対して発行される自家型前払式支払手段(専ら当該従業員が使用することとされているものに限る。)その他これに類するものとして政令で定める前払式支払手段

  ↓ 施行令4条4項

 法第四条第五号に規定する政令で定める前払式支払手段は、次に掲げる前払式支払手段とする。
 専ら発行者の従業員(当該従業員と同一の世帯に属する者を含む。以下この号において同じ。)に対して発行される第三者型前払式支払手段(法第三条第五項に規定する第三者型前払式支払手段をいう。)であって、専ら当該従業員が使用することとされているもの
 次に掲げる者が発行する保健施設、福祉施設又は福祉事業に係る前払式支払手段
 イ 健康保険組合又は健康保険組合連合会
 ロ 国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団
 ハ 企業年金基金又は企業年金連合会
 ニ イからハまでに掲げる者に類するものとして内閣府令で定める者
 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校を設置する者(国及び地方公共団体を除く。)が専らその学生、生徒若しくは児童又は職員(以下この号において「学生等」という。)に対して発行する前払式支払手段(専ら当該学生等が使用することとされているものに限る。)その他これに準ずるものとして内閣府令で定める前払式支払手段
 前三号に掲げる前払式支払手段のほか、一定の職域内に勤務する従業員又は当該従業員であった者(これらの者と同一の世帯に属する者を含む。以下この号において「従業員等」という。)の福利厚生のための売店その他の施設(以下この号において「福利厚生施設」という。)に係る事業を営むものが専ら当該従業員等に対して発行する前払式支払手段(当該従業員等の福利厚生施設においてのみ使用することとされているものに限る。)その他これに類するものとして内閣府令で定める前払式支払手段

他の法律に基づき資産保全のための措置が講じられているもの(6号→施行令4条5項)

6号は、他の法律で、資産保全のための措置が講じられているものです。

資金決済法上の利用者保護を及ぼす必要がないと考えられる(重複を避ける)ため、適用除外とされています。

 割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)その他の法律の規定に基づき前受金の保全のための措置が講じられている取引に係る前払式支払手段として政令で定めるもの

  ↓ 施行令4条5項

 法第四条第六号に規定する政令で定める前払式支払手段は、次に掲げる前払式支払手段とする。
 割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)第二条第六項に規定する前払式特定取引に係る商品の引渡し若しくは役務の提供又は同法第十一条に規定する前払式割賦販売に係る商品の引渡しにおいて使用することとされている前払式支払手段
 旅行業法(昭和二十七年法律第二百三十九号)第二条第三項に規定する旅行業務(住宅宿泊事業法(平成二十九年法律第六十五号)第二条第八項に規定する住宅宿泊仲介業務(旅行業法第六条の四第一項に規定する旅行業者が行うものを除く。)を除く。)に関する取引において発行される前払式支払手段

事業者間でのみ使用されるもの(7号)

7号は、事業者間でのみ使用されるものです。

利用者も事業者なので、資金決済法上の利用者保護を及ぼす必要がないと考えられるため、適用除外とされています。

 その利用者のために商行為となる取引においてのみ使用することとされている前払式支払手段

結び

今回は、資金決済法を勉強しようということで、前払式支払手段のうち前払式支払手段の概要について見てみました。

前払式支払手段の概要については、日本資金決済業協会HPの以下のページに、解説が掲載されています。

一般社団法人日本資金決済業協会|前払式支払手段発行業の概要
一般社団法人日本資金決済業協会|前払式支払手段発行業の概要

www.s-kessai.jp

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

主要法令等

リンクをクリックすると、e-Gov又は金融庁HPの資料(▷掲載ページはこちら)に遷移します

  • 資金決済法(「資金決済に関する法律」)
  • 資金決済法施行令(「資金決済に関する法律施行令」)
  • 前払府令(「前払式支払手段に関する内閣府令」)
  • 資金移動府令(「資金移動業者に関する内閣府令」)
  • 協会府令(「認定資金決済事業者協会に関する内閣府令」)
  • 発行保証金規則(「前払式支払手段発行保証金規則」)
  • 前払ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係)」)
  • 資金移動ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 14.資金移動業者関係)」)
  • 令和2年パブコメ(令和2年4月3日付「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」)
  • 令和3年パブコメ(令和3年3月19日付「『令和2年資金決済法改正に係る政令・内閣府令案等』に関するパブリックコメントの結果等について」)

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