資金決済法

資金決済法を勉強しよう|資金移動業ー預り金に関する規制(滞留規制)

著作者:Lifestylememory/出典:Freepik

今回は、資金決済法を勉強しようということで、資金移動業のうち預り金に関する規制(滞留規制)について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

預り金に関する規制(滞留規制)

滞留規制の趣旨

資金移動業者は、為替取引(送金)とは無関係な資金を預かったり、長期間金銭を預かったりすることは禁止または制約されている。これを滞留規制と呼ぶ。

これは、資金移動業者の下に送金資金がとどまることにより、資金移動業者の破綻時等に利用者に生じる損害を防止しようとする趣旨である(利用者保護の観点)。

資金移動業者には、履行保証金の供託等の資産保全義務はあるものの、銀行等と比較すると、財産的基礎に関する厳格な規制や預金保険制度の対象にはなっていないからである。

また、払戻しが自由な資金移動業において、利用者から為替取引を行うためのものでない資金を受け入れることを無制約に認めることは、出資法の禁じる預り金にあたるおそれがあるためである(預り金の禁止の観点)。

前払式支払手段の場合、払戻しは原則として禁止されていますが(法20条5項)、これは、一般的に払戻しができるとした場合、①出資法で禁じる預り金や銀行法の預金業務になってしまうおそれがあるし、また、②送金手段としての利用が可能になるので、為替取引にあたるおそれもあるからでした(▷参考記事はこちら)。

一般的な払戻しが可能なものは、為替取引(資金移動業)として整理し規律を設けたとしても、①の点は別途残るので、その手当てをしないといけない、というのが、預り金の禁止の観点です。

資金移動ガイドラインでは、上記の2点を含む、以下の①~④のような趣旨が示されている。

▽資金移動ガイドラインⅣ-1(※第二種資金移動業の箇所にある記載)

 資金移動業者に為替取引との関連性に疑義がある利用者資金が滞留することの問題点として、①資金移動業者が利用者資金を受け入れた状態で破綻した場合、利用者が還付を受けるまでに相応の時間を要するなど利用者保護の観点から問題があること、②資金移動業者が本来的には必要がない保全コストを負担することになり、効率的な業務運営の妨げとなりうること、③出資法第2条の預り金規制に抵触する疑義が生じうること、④銀行預金と異なり経済活動に活用されない資金が増加することにより、経済的悪影響が生じうることが考えられる。

滞留規制の全体像

滞留規制は、令和2年法改正により導入された。

滞留規制の全体像は、以下の金融審議会の資料(令和2年法改正の検討プロセスの資料)を見ると掴みやすい。

▽金融庁HP
金融審議会 金融制度スタディ・グループ 「「決済」法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫」(令和元年7月26日)(▷掲載ページはこちら

まず、1回あたりの送金額に上限のない第一種資金決済業については、必然的に、高額の資金を受け入れることになるので、資金が滞留した場合、破綻時等の利用者のリスクは高いものになる。そのため、厳格な規制とするのが適当ということになる。

▽金融審議会報告(上記資料を指す。以下同じ)10~11頁

 資金移動業者が受け入れる利用者資金は、供託等の方法により保全が図られている。しかし、資金移動業者の破綻時には、預金保険制度が整備されている銀行預金等とは異なり、利用者が資金の返還を受けるまでに時間を要するなど、利用者保護等の観点からのリスクが存在する。
 「高額」送金にあたっては、必然的に、事業者は利用者から「高額」の資金を受け入れることとなる。仮に、その「高額」の資金が事業者に滞留することとなれば、利用者保護等の観点からのリスクは高まると考えられる。
 このため、例えば、英国における送金サービス提供者(payment institution)に対する規制も参考にしつつ、利用者資金の滞留について、①具体的な送金指図を伴わない資金は受入不可とする、②運用・技術上必要とされる以上の期間を超えて資金を保持しないこととする、といった制限を設けることが適当であると考えられる。

次に、1回あたりの送金額が100万円以下の第二種資金決済業については、同じく令和2年法改正で第一種から第三者までの種別が導入される前の資金移動業(100万円を限度とした送金額)と基本的にパラレルなものであるが、滞留規制の導入前は、法制定当初には想定されなかったような金額の利用者の資金が滞留しているケースもあり、やはり何らかの規制は必要ということになる。

▽金融審議会報告11頁

 前述の通り、現行規制を前提に今後も事業を行おうとする事業者に対する規制については、当該事業者やその利用者の活動に支障が生じることのないよう、現行の枠組みを基本的に変えないことが適当であると考えられる。
 他方で、多種多様なサービスが提供されるようになる中、一部において、資金決済法制定時の想定を超えて、利用者資金が事業者に滞留していることが指摘されている。例えば、その額が10億円以上に上る事例も確認されている。このため、資金移動業者に利用者資金が滞留することによるリスクを低減する観点からは、利用者資金の受入れに、何らかの制限を設けることについて、今後、検討する必要がある。

1回あたりの送金額が5万円以下の第三種資金決済業については、そもそも利用者から受け入れる資金の額自体を少額にすることで、破綻時等の利用者のリスクを抑えることができる、という考え方がとられている。

▽金融審議会報告11~12頁

 数千円又は数万円以下の「少額」の送金のみを取り扱う資金移動業者について、何らかの規制緩和を今後検討していく際にも、利用者資金が滞留することによるリスクを考慮する必要がある。こうした観点からは、仮に規制緩和を行う場合、緩和の要件を、①取り扱う1件あたりの送金額が「少額」であることに加え、②利用者1人あたりから受け入れる資金の額も「少額」であること、とすることが適当である。
 その場合、送金額と利用者資金の受入れ額がともに「少額」となり、事業者が破綻した場合でも、利用者一人ひとりが被る影響は限定的になると考えられる。

以下、具体的な内容を順に見てみる。

第一種資金移動業の滞留規制(法51条の2)

第一種資金移動業については、厳格な滞留規制となっている。つまり、資金滞留が認められていない。

▽資金移動ガイドラインⅢ-1-1

Ⅲ-1-1 厳格な滞留規制等
 第一種資金移動業者は、高額の為替取引を行うことから、仮に、破綻等した場合であっても、利用者に与える影響や社会的・経済的な影響を極小化する必要がある。また、利用者から受け入れる資金について直ちに資金の移動に関する事務処理を開始し、運用・技術上必要な期間を超える滞留をしないようにするなど、厳格な滞留規制が課されており、これを適切に遵守する必要がある。

具体的な送金指図を伴わない資金の受入れの禁止(1項)

具体的には、まず、送金額、送金日、送金先が明らかでない資金を受け入れてはならない。

(第一種資金移動業に関し負担する債務の制限)
第五十一条の二
 資金移動業者(第一種資金移動業を営む者に限る。次項において同じ。)は、第一種資金移動業の各利用者に対し、移動する資金の額、資金を移動する日その他の内閣府令で定める事項が明らかでない為替取引(第一種資金移動業に係るものに限る。同項において同じ。)に関する債務を負担してはならない。

 ↓ 資金移動府令32条の2第1項

(第一種資金移動業に関し負担する債務の制限)
第三十二条の二
 法第五十一条の二第一項に規定する内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 移動する資金の額
二 資金を移動する日
三 資金の移動先

標準処理期間を超えた為替取引に係る債務の負担の禁止(2項)

次に、事務処理に必要とされる期間(標準処理期間)を超えて資金を滞留させてはならない、とされている。

 資金移動業者は、資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間その他の内閣府令で定める期間を超えて為替取引に関する債務を負担してはならない。

 ↓ 資金移動府令32条の2第2項

 法第五十一条の二第二項に規定する内閣府令で定める期間は、資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間(利用者から指図を受けた資金の移動先に誤りがある場合その他の資金移動業者の責めに帰することができない事由により資金を移動することができない場合に、当該事由を解消するために必要な期間を含む。)とする。

第三種資金移動業の滞留規制(法51条の3)

第三種資金移動業については、緩やかな滞留規制となっている。

負担する債務額自体に少額の上限を設けるというスタイルである。金額が少額なので、資金滞留があっても問題が少ないからである。

▽資金移動ガイドラインⅤ-1

Ⅴ-1 滞留規制(為替取引に関する上限額)
 第三種資金移動業者は、為替取引に関して、1件当たりの送金額及び利用者1人当たりの受入額いずれも・・・・5万円相当額を上限額とするため、当該上限額を超える為替取引に関する業務を行わないようにする措置を講じることが必要であり、例えば、以下の点に留意するものとする。

負担する債務の額の制限

具体的には、各利用者の保有額が5万円を超えることを防止することとなっている。

(第三種資金移動業に関し負担する債務の額の制限)
第五十一条の三
 資金移動業者(第三種資金移動業を営む者に限る。)は、第三種資金移動業の各利用者に対し、政令で定める額を超える額の債務第三種資金移動業に係る為替取引に関し負担する債務に限る。)を負担してはならない

 ↓ 施行令17条の2

(第三種資金移動業に関し負担する債務の上限額)
第十七条の二
 法第五十一条の三に規定する政令で定める額は、五万円に相当する額とする。

そのため、各利用者から、送金先の利用者において5万円を超えることとなる送金依頼を受け付けない等の仕組みが必要となる。例えば、残高が4万円の他の利用者に対して3万円を送金すると、送金先の利用者の保有額が7万円となって上限額を超えてしまうからである。

ちなみに、1回あたりの送金額の上限も5万円(これは第三種資金移動業の内容の話)、各利用者の保有額の上限も5万円(これは滞留規制の話)、となっていますが、それぞれ根拠条文は異なります。

前者は施行令12条の2第2項、後者は施行令17条の2、になります。

資金移動ガイドラインには、以下のように記載されている。

▽資金移動ガイドラインⅤ-1-1

Ⅴ-1-1 主な着眼点
① 各利用者から5万円相当額を超える為替取引の依頼を受け付けない仕組みを講じているか。
② 各利用者に対し負担する為替取引に関する債務が5万円相当額を超えない仕組みを講じているか。例えば、ある利用者が他の利用者から資金を受け取った結果、当該利用者(受取人)に対する受入額(為替取引に関する債務)が5万円相当額を超えることを防止するために必要な措置を定めているか。
(注)例えば、ある利用者が、アカウント残高が4万円の他の利用者に対して3万円の送金を行う場合には、仮にこれを全額アカウントで受け取るとすると、当該利用者(受取人)のアカウント残高は7万円となり、受入上限額である5万円を超過することとなるため、これを防止する措置が必要となる。このため、例えば、受取人のアカウント残高と送金人の送金予定額の合計が5万円を超える場合には送金不可とすることや、上限額を超過する2万円を自動的に銀行口座に出金する等の契約にすることなどの措置が考えられる。
③ (略)

第二種資金移動業の滞留規制(法51条)

すべての資金移動業者に、利用者保護措置として、「利用者から受け入れた資金のうち為替取引に用いられることがないと認められるものを保有しないための措置」を講じる義務が課せられている(法51条)。

(利用者の保護等に関する措置)
第五十一条
 資金移動業者は、内閣府令で定めるところにより、銀行等が行う為替取引との誤認を防止するための説明、手数料その他の資金移動業に係る契約の内容についての情報の提供、利用者から受け入れた資金のうち為替取引に用いられることがないと認められるものを保有しないための措置その他の資金移動業の利用者の保護を図り、及び資金移動業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない。

ただ、後述のように、これは実質的には第二種資金移動業についての規制となる。

利用者から受け入れた資金のうち為替取引に用いられることがないと認められるものを保有しないための措置(資金移動府令30条の2)

第二種資金移動業については、利用者資金の受入れについて定量的な制限がなく第一種資金移動業及び第三種資金移動業と比較し、為替取引に用いられることがない利用者資金を保有する可能性が高いことから、こうした利用者資金を保有しないための措置を講ずる必要がある(資金移動ガイドラインⅣ-1)。

そこで、第二種資金移動業者は、利用者1人あたりの受入額が100万円を超えている場合、受入額、受入期間、送金実績、利用目的について送金との関連性を確認し、関連性が低い場合は払出しを要請しなければならない、とされている(資金移動府令30条の2第1項、第3項)。

逆にいえば、受入額が100万円以下の範囲では、送金との関連性を積極的に確認する義務を負わないので、その限度では資金滞留が認められているともいえる。

▽資金移動府令30条の2(※【 】は管理人注)

(為替取引に用いられることがないと認められる利用者の資金を保有しないための措置)
第三十条の二
 資金移動業者(第二種資金移動業を営む者に限る。次項において同じ。)は、各利用者に対して負担している為替取引(第二種資金移動業に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)に関する債務の額が、令第十二条の二第一項に規定する額【=100万円に相当する額を超える場合は、当該債務に係る債権者である利用者の資金(第二種資金移動業に係るものに限る。)が為替取引に用いられるものであるかどうかを確認するための体制を整備しなければならない。
 (略)
 資金移動業者は、利用者から受け入れた資金のうち為替取引に用いられることがないと認められるものについて、当該利用者への返還その他の当該資金を保有しないための措置を講じなければならない。

3項は、利用者への返還が例示されているほかは法51条とほぼ同様の内容で、すべての資金移動業者に求められる義務になっているが(主語は「資金移動業者」)、実質的には第二種資金移動業についての規制となる。

なぜかというと、前述のように、第一種資金移動業では、厳格な滞留規制が敷かれている(資金滞留を認めていない)ので、資金が滞留することが想定されないし、また、第三種資金移動業では、各利用者に対して負担する債務の額に上限がある(各利用者の保有額は5万円まで)ので、資金が滞留しても問題が少ないからである(高橋康文 編著、堀天子、森毅 著「新・逐条解説 資金決済法」222頁参照)。

返還方法等の例としては、利用者の銀行口座等へ振り込むとか、利用者が資金移動者から物品・サービスの提供を受け、代金の支払に利用するといったことが考えられる。

資金移動ガイドラインには、以下のように記載されている。

▽資金移動ガイドラインⅣ-1-1

Ⅳ-1-1 主な着眼点
 為替取引に用いられることがないと認められる利用者の資金を保有しないための措置
 利用者1人当たりの受入額が100万円を超えている場合、利用者資金が為替取引に関するものであるかを確認し、仮に為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断される場合、利用者に払出しを要請し、利用者がこれに応じない場合、利用者への資金の返還その他の当該資金を保有しないための措置を講じる態勢が整備されているか。
 その際、利用者資金と為替取引との関連性を判断するに当たっては、利用者ごとに①受入額、②受入期間、③送金実績、④利用目的を総合考慮しているか。
(注1)例えば、受入額が100 万円を超えているアカウントを認識した際、為替取引の予定の有無や、当該利用者の過去の取引実績等と比較して多額の資金が長期間滞留しているかを確認し、当該確認の結果、為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断した場合、予め登録された利用者の銀行口座に為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断した金額を振り込む方法等が考えられる。
(注2)為替取引に用いられることがないと認められる利用者の資金を保有しないための措置については、利用者資金が為替取引に用いられるものであるかを適時適切に確認する態勢が整備されているかに留意する。

他の種別の資金移動業に係る資金の流用の禁止(資金移動府令30条の4第3項)

資金滞留が認められる第二種資金移動業と第一種資金移動業の兼業を行うことで、第二種資金移動業において滞留する利用者の資金を第一種資金移動業における為替取引に使用することが可能となる。

しかし、第一種資金移動業において資金滞留を厳格に規制している趣旨に反し、適当でないことから、第一種資金移動業の為替取引に用いることがないようにしなければならないとされている。

(二以上の種別の資金移動業を営む場合等に必要な措置)
第三十条の四
 
 資金移動業者(第一種資金移動業及び第二種資金移動業を営む者に限る。)は、利用者から資金(第二種資金移動業に係るものに限る。)を受け入れ、第二種資金移動業に係る為替取引に関する債務を負担している場合にあっては、当該債務を第一種資金移動業に係る為替取引に関する債務に変更することを防止するための措置を講じなければならない。

結び

今回は、資金決済法を勉強しようということで、資金移動業のうち預り金に関する規制(滞留規制)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

主要法令等

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  • 資金決済法(「資金決済に関する法律」)
  • 資金決済法施行令(「資金決済に関する法律施行令」)
  • 前払府令(「前払式支払手段に関する内閣府令」)
  • 資金移動府令(「資金移動業者に関する内閣府令」)
  • 協会府令(「認定資金決済事業者協会に関する内閣府令」)
  • 発行保証金規則(「前払式支払手段発行保証金規則」)
  • 前払ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係)」)
  • 資金移動ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 14.資金移動業者関係)」)
  • 令和2年パブコメ(令和2年4月3日付「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」)
  • 令和3年パブコメ(令和3年3月19日付「『令和2年資金決済法改正に係る政令・内閣府令案等』に関するパブリックコメントの結果等について」)

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