資金決済法

資金決済法を勉強しよう|資金移動業とは

著作者:rawpixel.com/出典:Freepik

今回は、資金決済法を勉強しようということで、資金移動業の定義について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

資金移動業とは(法2条2項)

資金移動業とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことである(法2条2項)。

 この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。

これは、銀行法により、本来、為替取引は銀行等しか行えないようになっているところ、昨今のキャッシュレス決済サービスなどの需要拡大を受けて、為替取引の間口を広げるために、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことを認めたものである。

memo

 ”為替”というと、ドル円とかの外国為替(異なる通貨を交換するという意味での為替)が思い浮かぶかもしれませんが、為替取引は、それよりももっと広い概念になります。

 「為替取引」という概念自体は、隔地者間(離れた場所にいる者同士のこと)の資金移動を、現金の輸送によらずに行うことを指します(後述)。

 この隔地が同一国内にある場合が内国為替、複数の国にまたがる場合が外国為替ですが、外国為替は途中で通貨の交換が起こることになります。狭い意味ではこの通貨の交換のことを外国為替と呼ぶこともあり、上記のドル円云々みたいな話は、ここを思い浮かべているわけです。
▷参考サイト:外国為替|公益財団法人 国際通貨研究所

以下、定義のなかにある「銀行等」と「為替取引」の意味を、順に見てみる。

銀行等(法2条29項)

資金決済法上の「銀行等」については、法2条29項に定めがある。

29 この法律において「銀行等」とは、次に掲げる者をいう。
一 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行
二 長期信用銀行法(昭和二十七年法律第百八十七号)第二条に規定する長期信用銀行
三 信用金庫
四 信用金庫連合会
五 労働金庫
六 労働金庫連合会
七 信用協同組合
八 中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の九第一項第一号の事業を行う協同組合連合会
九 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第三号の事業を行う農業協同組合
十 農業協同組合法第十条第一項第三号の事業を行う農業協同組合連合会
十一 水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第四号の事業を行う漁業協同組合
十二 水産業協同組合法第八十七条第一項第四号の事業を行う漁業協同組合連合会
十三 水産業協同組合法第九十三条第一項第二号の事業を行う水産加工業協同組合
十四 水産業協同組合法第九十七条第一項第二号の事業を行う水産加工業協同組合連合会
十五 農林中央金庫
十六 株式会社商工組合中央金庫

為替取引とは

為替取引の定義については、資金決済法に定めはない。また、銀行法にも定められていない。

最高裁決定に為替取引の定義について示したものがあるので、銀行法も、資金決済法も、この内容を前提に考えられており、為替取引とは、

顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること

とされている。

最決平成13年3月12日刑集第55巻2号97頁|裁判所HP

「銀行法2条2項2号は、それを行う営業が銀行業に当たる行為の一つとして「為替取引を行うこと」を掲げているところ、同号にいう「為替取引を行うこと」とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいうと解するのが相当である。」

※ちなみに、事案としては、株式会社AとBの以下の行為が、銀行法の定める無免許銀行業の罪に該当するかが争われた刑事事件
「被告人株式会社A(以下「被告会社」という。)の代表取締役である被告人Bは、被告会社の業務に関し、本邦内にある送金依頼人らから、大韓民国内にある受取人らへの送金の依頼を受け、送金資金として本邦通貨を受領した上、直接現金を大韓民国内に輸送せずに、同国在住の共犯者Cに対し、ファクシミリで送金依頼人の氏名、送金受任額、送金先銀行口座等を連絡して支払方を指図し、同国内の被告会社に帰属する銀行口座の資金を用いて送金依頼人の指定する受取人名義の銀行口座等に送金受任額相当額を同国通貨で入金させた」

▽銀行法2条2項

 この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう。
一 預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。
二 為替取引を行うこと

資金移動業の種別(法36条の2)

資金移動業は事前の登録制になっており、登録は1つであるが、取り扱える為替取引の額の上限で、3つの種別に分けられている(法36条の2)。

つまり、

  • 第一種資金移動業は、上限なし
  • 第二種資金移動業は、上限は100万円
  • 第三種資金移動業は、上限は5万円

となっている。

(定義)
第三十六条の二
 この章において「第一種資金移動業」とは、資金移動業・・・・・(特定資金移動業を除く。第四項を除き、以下同じ。)のうち・・・第二種資金移動業及び第三種資金移動業以外のものをいう。
2 この章において「第二種資金移動業」とは、資金移動業のうち・・・・・・・・少額として政令で定める額以下の資金の移動に係る為替取引のみを業として営むこと(第三種資金移動業を除く。)をいう。
3 この章において「第三種資金移動業」とは、資金移動業のうち・・・・・・・・特に少額として政令で定める額以下の資金の移動に係る為替取引のみを業として営むことをいう。
4 この章において「特定資金移動業」とは、資金移動業のうち・・・・・・・・、特定信託為替取引のみを業として営むことをいう。

▽施行令12条の2

(第二種資金移動業及び第三種資金移動業における資金移動の上限額)
第十二条の二
 法第三十六条の二第二項に規定する少額として政令で定める額は、百万円に相当する額とする。
2 法第三十六条の二第三項に規定する特に少額として政令で定める額は、五万円に相当する額とする。

資金移動業」は、上記のすべてに「資金移動業のうち・・・・・・・・…」とついているように、これらを包摂する概念となっている。

また、第一種は、100万円以下の送金も、5万円以下の送金もできるが、これらはあくまでも第一種の送金として規制の対象となり、同様に、第二種は、5万円以下の送金もできるが、これはあくまでも第二種の送金として規制の対象となる。

これらの場合に、第二種あるいは第三種としての規制にとどめるためには、別途、第二種や第三種としての登録を行う必要がある。

令和2年法改正前の「資金移動業」

 資金決済法の制定時は、「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むこと、とされており、上限が100万円でした。これが、令和2年法改正により、上記のように改正されました。

▽令和2年法改正前の法2条2項

 この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう。

 つまり、当初は、少額の為替取引に限って、銀行等以外の事業者にも為替取引の間口を広げるものでしたが、現在は、金額の上限による違いはなくなっています。そうすると、主体が違うだけです。

 なので、「資金移動業とは何ですか?」という問いにひと言で答えると、「為替取引です」ということになります。

 中身は、銀行等が行っている為替取引と同じなわけです(概念上は。もちろん、為替取引を実現するための個々の仕組みや技術には違いがあるとしても)。ただ、事業者が、銀行等以外というだけです。

▽令和2年法改正に関する参考資料

前払式支払手段との対比

前払式支払手段と対比した場合、一番の違いは、一般的な払戻しが可能なことである。

前払式支払手段の場合、払戻しは原則として禁止されている(法20条5項)。これは、一般的に払戻しができるとした場合、①出資法で禁じる預り金や銀行法の預金業務になってしまうおそれがあるし、また、②送金手段としての利用が可能になるので、為替取引にあたるおそれもあるからである。

memo

 イメージしやすいように極端な例で考えてみると、例えば、第三者型の前払式支払手段である商品券で、完全に任意な払戻しが可能なものがあると仮定します。

 そうすると、100万円分の商品券を買っておいて、いつ払戻しを受けてもいいことになりますが、これは事業者側から見れば、元本保証で不特定多数から資金を集めているので、預り金預金業務(つまりは不特定多数から信用を受ける行為=受信行為)を行っていることになります。

 また、隔地者間で、キャッシュ100万円での商品購入取引があったとします。このとき、買っておいた100万円分の商品券を、商品の購入先に送って、これを購入先で換金してもらえば、資金決済ができることになります(購入先がそれでOKといえば)。これは、為替取引になります。

 現に、身近な例でいえば、住民票の写しや戸籍謄本を郵送で請求するときは、手数料として、通数分の定額小為替を同封して役所に送っていると思いますが、この定額小為替は、金額が小さいだけで、上記と同じことをしています(これも為替取引)。

 しかし、前払式支払手段で本当にこういうことができてしまうと、それはもはや前払式支払手段の域を超えていると考えられており(商品やサービスの対価を前払いしておくもの=プリペイド、とはもはや言えない)、払戻しは原則として禁止されているわけです。

ということで、一般的な払戻しが可能な前払式支払手段については、為替取引(資金移動業)として規律を設けた方が妥当と整理され、資金移動業の登録を得て行うもの、とされている。

なので、例えば、前払式支払手段発行者が資金移動業者として登録を受けることで、利用者への払戻し(銀行口座への振替)が可能となることになる。
▷参考サイト:キャッシュレスを学ぼう(3)-資金移動業|ニッセイ基礎研究所

結び

今回は、資金決済法を勉強しようということで、資金移動業の定義について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

主要法令等

リンクをクリックすると、e-Gov又は金融庁HPの資料(▷掲載ページはこちら)に遷移します

  • 資金決済法(「資金決済に関する法律」)
  • 資金決済法施行令(「資金決済に関する法律施行令」)
  • 前払府令(「前払式支払手段に関する内閣府令」)
  • 資金移動府令(「資金移動業者に関する内閣府令」)
  • 協会府令(「認定資金決済事業者協会に関する内閣府令」)
  • 発行保証金規則(「前払式支払手段発行保証金規則」)
  • 前払ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係)」)
  • 資金移動ガイドライン(金融庁「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係 14.資金移動業者関係)」)
  • 令和2年パブコメ(令和2年4月3日付「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」)
  • 令和3年パブコメ(令和3年3月19日付「『令和2年資金決済法改正に係る政令・内閣府令案等』に関するパブリックコメントの結果等について」)

-資金決済法