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契約の一般条項|契約書外の主張を防ぐ「完全合意条項」と「変更条項」を解説

今回は、契約の一般条項ということで、完全合意条項(および変更条項)について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

契約書を読んでいると、最後の方に、細かいルール(一般条項)がたくさん書かれていますよね。本記事では、そのうちのひとつである完全合意条項(Entire Agreement Clause)と、これに関連して、変更条項について解説していきます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

完全合意条項とは

完全合意条項とは、この契約書に書かれていることだけが当事者間の合意の全てであるとする取り決めのことを指します。

もともとは英米法上の概念(Entire Agreement)であり、口頭証拠排除原則(Parol Evidence Rule)というルールを契約書に明文化したものです。このルールは、当事者が最終的な合意として契約書を作成した場合、それ以前(あるいは同時)の口頭での約束や、過去の議事録・メール・提案書などを証拠として持ち出しても、契約書の内容は覆らないというものです。

なぜこの条項が必要なのか

日本の民法や裁判の考え方では、契約書に書いていない口頭の約束や交渉過程の議事録などであっても、後から証拠として使って証明できれば、契約内容の一部として認められることがあります。

しかし、これではたとえば、あの時の打ち合わせで”特別に対応する”って言いましたよね?とか、議事録にこう書いてあるからこれはそっちの義務ですといったような、言った・言わないのトラブルが後で生じる可能性を否定できません。不利になる側の当事者にとっては、契約書にない予測できない義務を背負わされるリスクがあります。

完全合意条項を入れることで、契約外の主張をシャットアウトし(約束の内容は契約書に書かれているものに限定される)、予期せぬトラブルを防ぐというのが完全合意条項のメリットといえます。

有効性

英米法のルールなら日本の取引では関係ないのではと思うかもしれませんが、国内のビジネス契約でも、完全合意条項はよく使われるようになっています。

この完全合意条項を原則として有効とし、契約書外の証拠による内容の変更や追加を認めなかった裁判例もあります。ただし、日本の民事訴訟上は自由心証主義というルールがあるため、契約書の文言の解釈に迷った場合などには、交渉の経緯が有力な間接事実として考慮される可能性が全くないわけではない点には少し注意が必要です。

実務上の注意点

このような完全合意条項ですが、実務上は以下の点に気をつけなければなりません。

ひとつは、契約書が絶対になるということです。完全合意条項を入れるということは、契約書に書き忘れたことは基本的に対象外ということになります。そのため、契約書を取り交わす際には、本当にその内容でよいか、抜け漏れがないかを慎重に確認する必要があります。

もうひとつは、事前のNDA(秘密保持契約)などは除外する必要がある場合があるということです。この条項を入れると、過去の合意は全て無効になってしまいます。そのため、案件の開始段階で結んだ秘密保持契約(NDA)や基本合意書(LOI)を引き続き有効にしておきたい場合は、完全合意条項の中で除外しておく必要があります。

【ポイント】結局どういう場合に入れればよいのか

 結局、どういう場合に完全合意条項を入れればよいのかですが、昔ながらの”スカスカな契約書”には不向きであるといえます。日本の伝統的な契約書のように、細かいことは書かずに多くを契約書外の合意に委ねているようなスタイルの場合、完全合意条項を入れてしまうと後で自分たちの首を絞めることになりかねません。そのような契約ではそもそも規定しない方がよいといえます。

 典型的には、M&A契約のように、一定のモデルがあり様々な内容を細かく書き込んでいる場合には(せっかくそこまで作り込んだのだから)契約書外の主張を許さない、というのが合理的な内容になるわけなので、ある程度契約書が作り込まれているケースで使用するのが適切だろうと思われます。

変更条項とは

一方で、契約を結んだに、あのとき口頭で条件を変えるって合意しましたよねなどと主張されるリスクもあります。これを防ぐのが変更条項です。

日本の民法では、契約の成立だけでなく、一度結んだ契約内容の変更も口頭で可能とされています。しかし、せっかく時間をかけて契約書を作ったのに、後から安易に口頭で変更されてしまっては契約書を作った意味がないという場合もあります。

そこで、契約の修正や変更は当事者が署名(記名押印)した書面等によらなければ効力を持たない旨を規定します。権利の放棄や免除についても同様に、書面のみと規定されることもあります。

なぜこの条項が必要なのか

契約書では、完全合意条項と変更条項がセットで盛り込まれることが多いです。また、完全条項という一つの項目の中に、本契約は事前の一切の合意に代わるものとし、以後の変更は書面のみで行うという風に、両方の意味をまとめて記載するケースもあります。

  • 完全合意条項 = 契約締結「前」の合意を排除する
  • 修正変更条項 = 契約締結「後」の口頭での変更を排除する

このように、契約締結のタイミングを基準にして、前後からの契約書外の主張を両方ともブロックし、いま目の前にある契約書が全てであり、変えたいならちゃんと書面を作り直そう、というルールを徹底するものといえます。

有効性

書面でしか変更できないと合意したとしても、民法上は口頭でも変更できるという基本があるため、この条項自体が法的に完全に有効と言い切れるかは明確ではありません。

しかし、実際に裁判になった際、この条項があるにもかかわらず、あえて口頭で重要な変更をしたというのは非常に不自然になります。そのため、少なくとも、口頭で変更されたという相手の主張に対する強力な反証(牽制)として機能することは期待でき、結果として口頭での変更を否定しやすくなるというメリットがあります。

実務上の注意点

変更条項を入れた以上は、実務担当者同士がメールや口頭で、これでいいですよねと進めてしまうのは危険です。必ず変更契約書や覚書などを作成する運用にする必要があります。

入れた以上は、変更する時はサボらず書面(変更契約書等)にしましょう、ということです

結び

完全合意条項は、ビジネスの現場で契約書外の主張を防ぐための対策です。ですが、契約書外の主張を封じる以上は、その内側(契約書の中身)をしっかり作り込むことや、必要な過去の契約(NDAなど)は守る工夫も必要になります。

また、変更条項とのセットは、契約書という書面の価値を最大限に高める方策といえます。契約書を読む際は、ぜひこれらの条項の有無とその影響をチェックしてみてくださいね。

主要法令等・参考文献

主要法令等

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民法(債権関係)改正の資料

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