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契約の一般条項|どの国の法律が適用?「準拠法条項」を解説

今回は、契約の一般条項ということで、準拠法条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

準拠法条項とは

準拠法条項とは、簡単にいうと、契約書の内容を解釈したり、万が一裁判など揉め事があったときに、どの国の(あるいはどの地域の)法律をルールとして使うかを決める条項のことです。

実際の契約書では、たとえば以下のようにシンプルに規定されることが多いです。

本契約の準拠法は日本法とし、日本法に従って解釈される。

法律上の原則

もし契約書に、この準拠法条項のような合意(指定)がなかった場合、どの国の法律が適用されるのでしょうか(法律上の原則)。

結論からいうと、国際私法というルールに従って、ケースバイケースで決定されることになります。

国際私法とは、国際的な取引やトラブルがあったときに、どこの国の法律をルールとして使うかを定めた法律のことです(なんだか謎かけのようですが、つまり、”適用されるルールを決めるルール”です)。日本においては、「法の適用に関する通則法」(通則法)という法律がこれにあたります。

▽法適用通則法1条

(趣旨)
第一条
 この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。

日本のルール(通則法)ではどうなるか?

もし日本の裁判所で争われることになり、日本の通則法が適用された場合、準拠法は以下のような原則に従って決定されます。

まず大原則ですが、日本の通則法では、法7条で当事者の合意による自由な選択を認めています。しかし、当事者間でその合意(準拠法の選択)がなかった場合、続く法8条1項により、その契約(法律行為)に最も密接な関係がある地の法(最密接関連地法)が適用されることになります。

法律の構造として、原則は合意で決める(法7条)→合意がないから客観的な基準で決める(法8条)という流れになっています

なお、当事者の合意による選択が認められるのは、日本の通則法に限らず、一般にそうです

▽法適用通則法7条

(当事者による準拠法の選択)
第七条
 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

▽法適用通則法8条1項

(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条
 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

では、「最も密接な関係がある地」とはどこかというと、特徴的な給付を行う当事者の常居所地がこれにあたる、との推定規定があります(法8条2項)。つまり、契約において「特徴的な給付」を行う当事者がいる場合、その当事者の常居所地(会社なら主たる事業所の所在地など)の法律が、最も密接な関係がある地の法として推定される、と定められています。

▽法適用通則法8条2項

 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する

【ポイント】具体例で考えてみよう

 たとえば、日本の企業が、中国の企業から著作権を買い取る契約を結んだとします。このとき、日本企業はお金を払うという給付を行いますが、お金の支払いは様々な契約で共通して行われるため、特徴的とはいえません。

 この契約における特徴的な給付は、中国企業が行う著作権の譲渡です。したがって、このケースで準拠法の指定がなかった場合、特徴的な給付を行う中国企業の常居所地法である中国法が、最も密接な関係がある法として推定され、準拠法になる可能性が高いということになります。

なぜこの条項が必要なのか

準拠法を指定しないデメリット

このように、法律上の原則に従って何らかの法律が適用される仕組みにはなっています。しかし、ビジネスにおいて準拠法を指定しない(準拠法条項を入れない)ことには、一定のリスクとデメリットがあるといえます。

1つめは、予測可能性が低いという点です。最も密接な関係がある地という基準は非常に抽象的であるためです。上記の特徴的な給付による推定も絶対ではなく、覆される(推定が破られる)事情があるかどうかが争いになることもあります。そのため、事前に、この法律が適用されるはずだと確実に予測することは困難になります。

2つめは、入口の争いで時間とコストを浪費することになる点です。いざトラブルが発生した際、お互いに、自分の国の法律が適用されるべきだと主張し合うことになります。本題である、どちらに契約違反があったかなどを争う前に、どこの国の法律に従って、どの国の法律を準拠法にするかという入口(国際私法)の議論だけで、多大な時間と費用(弁護士費用など)がかかってしまう可能性があります。

そこで、冒頭のような準拠法条項を定めておく必要があるわけです。

国内取引と海外取引の違い

とはいえ、国内取引の場合と、海外取引の場合とで、意味合いには違いがあります。

国内取引の場合には、つまり日本の企業同士、あるいは日本人同士が日本国内でビジネスをする純粋な国内案件であれば、わざわざこの条項を書かなくても当然に日本法が適用されます。

そのため、規定されていなくても特段の支障はありませんが、念のため一般条項として記載されていることも多いです(特に最近は管轄条項とセットで定型のように入っていることが多い)。

これに対して、海外取引(国際案件)の場合、つまり当事者に海外の企業や個人が含まれる国際案件では、準拠法条項が意味を持つことになります。

この場合は、先ほど見たように、もし契約書に準拠法を定めていないと、いざ紛争が発生したときに国際私法という複雑なルールに従って、どの国の法律を適用するかをいちいち決定しなければなりません。これは、どちらの言い分が正しいかという本題に入る前の入口部分で、多大な時間とコストを無駄にしてしまうことを意味します。

準拠法の指定の限界

前述のように、日本の通則法7条によれば、契約の準拠法は原則として当事者の合意によって自由に選ぶことができます。そうすると、準拠法条項を入れておけばスッキリ解決するように思うところですが、実は準拠法の指定にはいくつかの限界があります。

1つめは、公法や刑事法、強行法規(公序)などには勝てないという点です。

たとえば、独占禁止法といった公法、刑法といった刑事法の領域、あるいは労働基準法、消費者保護法といった国の秩序や弱者を守るための強行法規(公序)については、いくら契約で(現地法以外の法を)準拠法として決めていても、無関係に現地法が適用されてしまいます。

2つめは、法律行為以外の法律関係は別ルールであるという点です。つまり、契約の成立や効力は選んだ準拠法に従いますが、「物」や「権利」そのもの、あるいはこれらの移転などいくつかの領域については、準拠法指定の対象外と考えられています。

たとえば、不動産の権利、特許権などの知的財産権、株式・株券といった、物権や物権類似の支配権の内容(あるいはその移転手続)などについては、契約の準拠法ではなく、その財産がある場所の法律や権利を保護する国の法律に従わなければならないのが一般的です。

これらは(裁判での適用ルールという場面以外で)実務的にどういうことを意味するかというと、たとえば海外子会社のM&Aなどでデューデリジェンスが必要な際に、M&A契約に準拠法条項(日本法)を設けていたとしても、結局これらの部分については現地法の弁護士に聞かないとわからない面がある(その部分を精査するならそのコストが必要)ということを意味します

実務上の注意点

そのほか、実務上、準拠法を決めるにあたっては以下のような点に注意が必要とされています。

分割指定や交差的指定は避ける

交渉がまとまらない場合の妥協案として、第1条から第5条までは日本法、第6条以降はアメリカ・ニューヨーク州法といったように、条文ごとに法律を分ける分割指定や、訴えた側の法律(または訴えられた側の法律)を適用するといったように、当事者によって法律を分ける交差的準拠法が持ち出されることがあります。

しかし、これらはいざ紛争になった際に、両方の法律をまたいで検討しなければならず、コストと手間が増すため、実務上の不都合が大きく避けるべきとされています。

第三国の法律を選ぶときのリスク

当事者間でどうしても折り合いがつかない場合、全く関係のない第三国の法律を選ぶという妥協案もあります(管轄条項についても同様なジレンマがありますが)。

しかし、その第三国の法律に精通していない限り、思わぬ不利益を被るリスクがある点には十分な注意が必要です。結局、どちらの国でもないがゆえに、当事者双方にとって不確実性が高まってしまいます。

国際的なモノの売買なら「ウィーン売買条約」に注意

日本法を準拠法とした場合でも、海外との物品(動産)の売買契約である場合、日本も加盟しているウィーン売買条約(CISG)という国際ルールが自動的に適用されることがあります(国際的な物品の売買について、契約の方式や成立、売主と買主の権利義務、義務違反の場合の救済措置などが定められています)。

もし日本の民事法の適用のみとしたい場合は、契約書の中で、ウィーン売買条約の適用は排除する旨を明記しておく必要があります。

結び

とくに海外企業との取引においては、準拠法条項を曖昧にしたまま契約を進めるのは大きなリスクです。契約書をチェックする際は、(もしものときに)自分たちがどのルールで戦うことになるのか、必ず確認するようにしましょう。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等・参考文献

主要法令等

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民法(債権関係)改正の資料

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