今回は、インハウスの働き方の具体例をひとつ挙げたいと思います。
自分としては非常に感銘を受けた、ある記事があります。それは、法テラスのスタッフ弁護士が、社会福祉法人のインハウスとして活動し、これを振り返って書いた記事です(だから正確にいうとインハウス転職の記事ではないのですが)。
具体的には、『自由と正義』2013年6月号99頁、「社会福祉法人の組織内弁護士として」という、浦﨑寛泰弁護士の記事です。
この記事には、社会福祉法人における現場の実情のひとつとして、虐待と虐待でない支援との間にはかなり広いグレーゾーンがあることが綴られています。
強度行動障がいと呼ばれる、自分の排泄物を持ち歩く癖のある利用者、突然道路に向かって走り出す利用者、落ちている物を何でも口に入れようとする利用者など…。
しかし、止めようとするときには手に力が入るかもしれない、手を叩くことがあるかもしれない、体を張って止める必要もときにはあるかもしれないのだと、支援の現場の厳しい実態が書かれています。
これに対し、法人内の独立した組織として虐待防止委員会を設置し、弁護士等の専門家や異なる分野の現場に精通した委員を人選し、現場を熟知したメンバーによる、しかし独善的にならない専門的客観的なマニュアルや研修づくりを行い、併せて、行政への通報と外部弁護士による調査に移行できる体制の整備等を、試行錯誤しながら行った、と続きます。
そして、ひとつの項目の締めくくりとして、
「虐待防止の取り組みは、単なる職員個々人の『心構え』の問題ではなく、専門性に裏付けられた対人支援技術の問題であり、また、組織全体のガバナンスの問題であると痛感した。」
と綴られ、さらに、
「職員はその戦場で、利用者とともに丸腰で戦っている。利用者も職員も、身を守るための『武器と防具』が必要である。私たち弁護士の役割は、地域で暮らし、地域で支えるために必要な『武器と防具』を彼らに与えることである。」
と展開しています。
上記は非常に芯を突いたご意見であり、インハウスの果たすべき大切な役割のひとつは、このようなものであると思います。つまり、法的支援技術を用いて、現場の職員と顧客がいまより暮らしやすい、いまより働きやすい環境を、プレイヤーたちと一緒につくることです(そして、その結果として紛争が減る)。
この記事は、体制構築を始動させた初期の段階の組織に関するものであり、業界によってまた組織によって、必要な「武器の与え方」は異なるのだろうと思います。自分も法務部の立ち上げを検討している企業との面接をさせていただき、内定をいただいたこともありますが、もし入っていたら、この記事に少し近い仕事をしていたかもしれません。
しかし、たとえ体制構築を済ませている組織であっても、更新を怠れば、いつの間にかガタが来てしまうこともあると思われます。
(最新の武器と思って導入したのが、いつの間にか「火縄銃」になっているのに、そのことに当事者が気づいていないだけかも)
自分としては、こういう動機でインハウスを目指す人が増えれば、弁護士にとっても良い変化が訪れるのではないかと勝手に思っていますが、しかし、弁護士側も、インハウスを採用している組織側も、こういった動機を持っているとは限らず、むしろあんまり持ってない、というのが実情です。
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