今回は、商標法を勉強しようということで、商標の種類のうち新しいタイプの商標について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
新しいタイプの商標(平成26年法改正)
平成26年法改正で新たに導入された商標は、”新しいタイプの商標”と呼ばれています。以下の5つがあります。
- 色彩商標
- 音商標
- 動き商標
- ホログラム商標
- 位置商標
①と②は、商標の新しい構成要素として整理され、導入にあたって、商標の定義(法2条1項)の見直しがなされています(▷参考記事:商標の定義について)。
これに対して、③~⑤は、新しい構成要素によるものとは整理されませんでした。構成要素自体は従来のものと同じですが(文字、図形、記号、立体的形状、色彩)、適切な出願方法等がなかったということで、①・②と一緒に手続的な規定が整備されるという形で導入されています。
手続的な規定としては、例えば、
- 新しいタイプの商標を出願しているのだという旨の願書での意思表示(法5条2項)
- 願書への詳細な説明の記載や物件の添付(法5条4項→施行規則4条の8)
- 新しいタイプの商標に関し「商標登録を受けようとする商標」(法第5条第1項第2号)の記載方法(施行規則4条~4条の6。ただし4条の3は従来から有り)
などが整備されています。
これらの商標は、動きやホログラムのように文字や図形等が変化するものであったり、色彩のみであったり、音であったりするので、商標登録を受けようとする商標(法第5条第1項第2号)の従来の記載のみでは、その内容を明確に認識・特定することができなかったためです。
以下、新しいタイプの商標を、順に見てみます。
色彩商標
単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標(図形等に色彩が付されたものではない商標)であって、輪郭なく使用できるもののことです。
例えば、商品の包装紙や、広告用の看板など、色彩を付する対象物によって形状を問わず使用される色彩がこれにあたります。
実際の色彩商標としては、某文房具メーカーの消しゴムのパッケージの色の組み合わせなどが思い浮かぶかと思います
”輪郭なく使用できるもの”というのは、平成26年法改正前は色彩のみの商標は認められておらず、例えば図形などと組み合わせる必要があった(=輪郭あり)のに対して、そういう制限がなくなったということです。
また、意外な気もしますが、色の組み合わせだけではなく、単色の場合も排除されていません。
願書への記載方法は、以下の施行規則に定められています。
▽施行規則4条の4
(色彩のみからなる商標の願書への記載)
第四条の四 色彩のみからなる商標の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、次のいずれかのものによりしなければならない。
一 商標登録を受けようとする色彩を表示した図又は写真
二 商標登録を受けようとする色彩を当該色彩のみで描き、その他の部分を破線で描く等により当該色彩及びそれを付する位置が特定されるように表示した一又は異なる二以上の図又は写真
音商標
音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。例えば、テレビ CMに使われるサウンドロゴや、パソコンの起動音などがあります。
音商標の定義は、願書への記載方法を定めた以下の施行規則の中に出てきます。出願の際には、五線譜などを用いて音(メロディー)を特定します。
▽施行規則4条の5
(音商標の願書への記載)
第四条の五 音からなる商標(以下「音商標」という。)の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、文字若しくは五線譜又はこれらの組み合わせを用いて商標登録を受けようとする音を特定するために必要な事項を記載することによりしなければならない。ただし、必要がある場合には、五線譜に加えて一線譜を用いて記載することができる。
上記の条文では「文字…を用いて」とも書いており、”文字で音を特定する”ってどういうこと?と思いますが、例えば、「本商標は、『バンバン』と2回手をたたく音が聞こえた後に、『ニャオ』という猫の鳴き声が聞こえる構成となっており、全体で3秒間の長さである。」といった例が挙げられています(特許庁「商標審査基準」(改定第15版)24頁)。
動き商標
文字や図形等が、時間の経過に伴って変化する商標です。例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出されて変化する文字や図形等があります。
動き商標の定義は、願書への記載方法を定めた以下の施行規則の中に出てきます。
定義の書きぶりが、”文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合”という表現で足りているように、構成要素自体は従来のものと同じと整理されていることがわかります。
▽施行規則4条
(動き商標の願書への記載)
第四条 商標に係る文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するものであつて、その変化の前後にわたるその文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合からなる商標(以下「変化商標」という。)のうち、時間の経過に伴つて変化するもの(以下「動き商標」という。)の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、その商標の時間の経過に伴う変化の状態が特定されるように表示した一又は異なる二以上の図又は写真によりしなければならない。
ホログラム商標
文字や図形等が、ホログラフィーその他の方法により変化する商標です。
ホログラム商標の定義は、願書への記載方法を定めた以下の施行規則の中に出てきます。
▽施行規則4条の2
(ホログラム商標の願書への記載)
第四条の二 変化商標のうち、ホログラフィーその他の方法により変化するもの(前条に掲げるものを除く。以下「ホログラム商標」という。)の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、その商標のホログラフィーその他の方法による変化の前後の状態が特定されるように表示した一又は異なる二以上の図又は写真によりしなければならない。
動き商標とホログラム商標の定義を見比べてみると、
変化商標のうち、
┗時間の経過の経過に伴って変化するもの:動き商標
┗ホログラフィーその他の方法による変化するもの:ホログラム商標
という書きぶりになっていることがわかります
位置商標
図形等を商品等に付す位置が特定される商標です。
位置商標の定義は、願書への記載方法を定めた以下の施行規則の中に出てきます。
▽施行規則4条の6
(位置商標の願書への記載)
第四条の六 商標に係る標章(文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合に限る。)を付する位置が特定される商標(以下「位置商標」という。)の商標法第五条第一項第二号の規定による願書への記載は、その標章を実線で描き、その他の部分を破線で描く等により標章及びそれを付する位置が特定されるように表示した一又は異なる二以上の図又は写真によりしなければならない。
店舗等の外観・内装の商標(令和2年施行規則改正)
新しいタイプの商標の話とは異なりますが、さらに最近の改正として、商標法施行規則の改正等により、立体商標のなかに店舗等の外観・内装の保護を含められることが明確になりました(立体商標の見直し)。
改正の経緯や概要については、併せて改定された商標審査基準のなかで、以下のように言及されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕「改訂第15版の発行にあたり」
「近年、企業が店舗の外観・内装に特徴的な工夫を凝らしてブランド価値を創出し、サービスの提供や製品の販売を行う事例が増えています。一方で、店舗の外観・内装は、立体的形状(立体商標)として保護の対象となり得ましたが、その保護が必ずしも十分なものといえない可能性がありました。
そのため、産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会における議論を踏まえ、立体商標を出願する際に「商標の詳細な説明」を必要に応じて願書に記載できるようにする、また、願書の商標記載欄に記載する際に標章を実線で描き、その他の部分を破線で描く等の記載方法を可能とする等の立体商標制度の見直しを行いました。
上記の立体商標制度の見直しを踏まえ、商標制度小委員会に設置された商標審査基準ワーキンググループにおける全3回の審議を経て、立体商標に関する商標法第3条、第4条及び第5条等の審査基準の見直しを行い、新たな審査基準として商標審査基準改訂第15版を作成いたしました。」
ちなみに、同時期に意匠権でも保護されるように改正されており、蔦屋書店の内装が第1号になったことがニュースにもなっていたので、見かけたこともあるかと思います。
▽参考リンク
蔦屋書店の「内装の意匠」が登録第1号に、4月施行の改正意匠法で取得|日経クロステック
結び
今回は、商標法を勉強しようということで、新しいタイプの商標について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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