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法令用語を勉強しよう|「当該」の使い方

今回は、法令用語を勉強しようということで、「当該」の使い方を見てみたいと思います。

法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち契約書を読み書きするときにも役立つものをピックアップします。

「当該」には指示語としての用法があり、契約書などでも非常に使いやすいです。

指示語は、一般的には「その」「この」とか「それ」「これ」などが使われ、業務文書では「同」「前記」「上記」などいろいろありますが、法令用語としては「当該」があります。

なお、以下に見るように、法令用語としては、指示語としての意味だけではありません。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

指示語として使う

まずは、指示語として使われる場合です。「まさにその」とか「当の」という意味です(「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)33頁参照)。

法文の中では、

当該ナントカ

という形で使われます。

どういうことかというと、直前の同一語句(同一語句というのは、上記の例では「ナントカ」)を指す意味で使われます。

つまり、読むときは、直前に出ている「ナントカ」を探せばよいわけで、また、書くときは、直前に出ている「ナントカ」を指すようにして書けばよいわけです。

例えば、

(確認記録の作成義務等)
第六条
 特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、主務省令で定める方法により、当該取引時確認に係る事項、当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録(以下「確認記録」という。)を作成しなければならない。

などがあります(犯罪収益移転防止法6条1項)。

これは、契約書などを書くときでも非常に使いやすいです。なぜかというと、前についている修飾語を省略できるからです。

正確には

このように、「正にその」とか「当の」という意味が含まれているから、この「当該」を使うときにはいろいろな修飾語がついているものでも、修飾語なしで「当該〇〇」と引用することができるので、法令文を簡潔に表現することに役立つ。

「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)34頁

とされています。

例えば、

(地方公共団体相互間における経費の負担関係)
第二十八条の二
 地方公共団体は、法令の規定に基づき経費の負担区分が定められている事務について、他の地方公共団体に対し、当該事務の処理に要する経費の負担を転嫁し、その他地方公共団体相互の間における経費の負担区分をみだすようなことをしてはならない。

などがあります(地方財政法28条の2)。

当該事務」って、どの事務?というのを探すときは、直前の「事務」を探せばよいわけです。そうすると、下線部の修飾語がかかっているので、「法令の規定に基づき経費の負担区分が定められている事務」のことなのだな、とわかります。

他方、書き手になるときは、このような「当該」の用例を踏まえてうまく活用すると、無駄なくり返しを省くことができるというわけです。

雑感

 管理人的には、一般的な業務文書でも見られる、どう」の使い方とほぼ同じだと思います(管理人の感覚)。

 「同」も、「同ナントカ」の形で、基本的には直前の同一語句を指すときに使われます。

 一番よく見かけるのは、年月日を省略するときですかね。例えば、「2021年」があったときに、「2021年」と書き続けるのは文字がうるさくなるので、「同年」としてよく簡略化します。「同月」「同日」もよく使います。

ただ、ずーっと「同年」と書いていると、自分が読み手として読み返したときに「いつだったっけ?」となるときもあるので、近くに指すものがある範囲(指示しようとするものが目に入る範囲)にしておいた方がよいと個人的には思っています。

 同年どうねん」「同人どうにん」「同書面」「同管理人」「同運営会社」「同報告書」etc…なんでも使えますし、実際使われていますので、気が向いたら、普段仕事で見かける文書をそういう目で眺めてみると、フムフムという感じになるかもしれません。

 一般的な業務文書で、「同」を「当該」に置き換えても、基本的に意味は変わらないだろうと思います。

各号列記の形で書く場合に使う

2つ目は、各号列記の形で定める場合に、「それぞれ対応する」の意味で使われる場合です(「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)34頁参照)。

平たくいうと、各々(おのおの)、の意味です。

法文の中では、

当該各号に定めるところによる。

とか、

次の各号に掲げるナントカに応じて…当該各号に定めるカントカ

というのが、よく見る言い回しかと思います。

例1)定義を各号列記の形で書く

例えば、定義規定を各号列記の形で定める場合として、

(用語)
第一条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる
一 地方団体 道府県又は市町村をいう。
二 地方団体の長 道府県知事又は市町村長をいう。
三 徴税吏員 道府県知事若しくはその委任を受けた道府県職員又は市町村長若しくはその委任を受けた市町村職員をいう。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
五~十四 (略)

などがあります(地方税法1条1項)。

それぞれ対応する各号の定めるところによる」と読めば、意味が通りますね。

例2)内容を各号列記の形で書く

ほかにも、「次の各号に掲げる■■に応じて、当該各号に定める▲▲」という形でよく使われ、例えば、

(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第六百十七条
 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条
 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

(損害の額の推定等)
第五条
 
3 第二条第一項第一号から第九号まで、第十一号から第十六号まで、第十九号又は第二十二号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
一 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品等表示の使用
二 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品の形態の使用
三 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る営業秘密の使用
四 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る限定提供データの使用
五 第二条第一項第十九号に掲げる不正競争 当該侵害に係るドメイン名の使用
六 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商標の使用

などがあります(民法617条1項、1042条1項、不正競争防止法5条3項)。

この用例の方が、定義規定としての用例より多いというか、一般的なように思います(管理人の感覚)。

契約書などを書く際も、内容を箇条書きで書きたいと思うときには、この用例を参考にすると上手く書けます。

例3)施行期日を各号列記の形で書く

あとは、附則のなかで、施行期日を各号列記の形で書くときに、

ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する

という書き方がありますが、契約書などとは関係することが少なそうなので、本記事ではこれ以上は割愛します。

ただ、約款や規約などでも、附則を法令の書きぶりと同水準できっちり書いているものもあり、これらは上記のような用法も踏まえてきちんと書かれている場合が多いので、気が向いたら、そういう目で各社の約款や規約を眺めてみると、フムフムとなることもあるかもしれません。

「当該職員」という意味で使う

最後は、契約書などとはあまり関係ない、法令用語としての特殊な意味で使われる場合です。公務員を指す言葉として使われるようです。

この用例は、「その事務についての権限又は職責を有する国又は地方公共団体の職員」を意味するものとされており(「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)35頁参照)、例えば、

(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等)
第二百三十二条
 
2 国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、前項の規定の適用を受ける者の所得税に係る同項に規定する総収入金額及び必要経費に関する事項の調査に際しては、同項の帳簿を検査するものとする。ただし、当該帳簿の検査を困難とする事情があるときは、この限りでない。

などがあります(所得税法232条2項)。

イメージとしては「吏」、つまりお役人を指す用例という感じだと思います。

この用例のときは、当該ナントカの「ナントカ」が「職員」になっているから直前の「職員」を探せばいいんだ…!と思って探しても、ありませんので、先ほどまで見てきた用例とは少し毛色が違うという感じです(純粋な指示語ではない)。

法令用語の変遷としては、以下のような流れがあるようです(前掲田島・36頁参照)。

種類昔の用語今の用語
国家公務員「当該官吏」「当該職員」
地方公務員「当該吏員」

まあ、この使い方は、契約書などの読み書きとは普通あまり関係ないと思いますので、”ふーん、そんな使い方もあるのか”ぐらいで十分かと思います。

契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)

では、契約書などの作成・レビューのときにどう考えればいいか?ということなんですが(以下は管理人の私見です)。

指示語としての用法は、契約書などを書くときにも非常に役立ちます。上記で書いたところとくり返しになりますが、修飾語が長々とついているときでも、簡潔な形で指示語として使えるからです。

もちろん、修飾語がついていないときに使ってもいいですし。非常に汎用性があります。

使い方としては、「同」と同じだと個人的には思いますが、契約書などで「同」というのはあまり見かけないので使いにくいですし(年月日や、金額を指すときの「同額」「同金額」などは見かける)、あまり考えずに指示語を使っていると表記揺れになりがちです。

その点、「当該」を使えば、法令用語としては用例が決まっているので意味が取りやすいですし、「当該」で決めてしまえば表記揺れも防げるので、契約書などがピシッと締まります。

注意点は、

  • 「当該」ということで直前の同一語句が目に入る範囲ぐらいで使うようにしないと、何を指しているのかわからないこと
  • また、数頁にわたるような長い文書で、反復して指示し続けるのには向いていないこと(以下のポイントで書いている「上記」との違い)

ですかね。

なので、「当該」は、契約書の条項のひとつひとつや、業務文書(契約書ではなく、通常の文章体で書くもの)であれば、全体の中でのひと段落のような、ある程度コンパクトな分量で収まる範囲の文章で使用するのに向いていると思います。

「上記」という指示語

 ちなみに、業務文書(契約書ではなく、通常の文章体で書くもの)では、指示語で最も汎用的なものは、個人的には「上記」だと思っています。

 「上記」は直前の同一語句とは限らず、もう少し漠然と「前の方で既に書いた」ぐらいの意味で使われている感じがしますので(つまり「前述の」と同じような意味合い)、指示語としての使い方は、「当該」とは少し違っていると思います(管理人の感覚)。

 指示語は使わずに「(以下「〇〇」という。)」という形で定義づけしておいて、その後はずっと「〇〇」を使う、という方法もあります。

 が、定義づけだとちょっと格式ばり過ぎて煩わしいように感じるときは、あまり内容が複雑すぎない場合に限られますが、定義づけせずに、「上記〇〇」という形で指示し続ける方法でも、特に違和感なく書面を作成することができます。

 「上記」は、公証役場で作成される(つまり公証人が作成する)公正証書でもよく見られます。例えば、公正証書遺言などで、「長男である山田太郎」というのが出てきた後、その後の同人は「上記長男」と指示し続けるようにすれば、不明瞭さがなくかつ簡潔に書面が作成できます。

 こういう書き方をすれば、「(以下「〇〇」という。)」という定義づけを必ずしも使う必要はありません。

また、各号列記の形で書く場合の用法も、契約書などでも非常に役立ちます。

契約書などの条項を作成するときも、書き下しの文章で「また」などを使って書き続けるより、箇条書きで書いた方が見やすくなる場合もあります。

そういうときは、契約書などでは各号列記の形で書くことになりますので、この用法を踏まえて「当該各号」という用語を正しく使えば、キッチリとした条項を作成することができます。

結び

今回は、法令用語を勉強しようということで、「当該」の使い方を見てみました。

本記事のハイライトをまとめます。

  • 契約書などでも、指示語として「当該」は使いやすく、無駄なくり返しを省ける
  • 契約書などの条項を各号列記の形で書く(箇条書きの形で書く)ときにも、「当該」は役立つ
  • 「当該」を勉強するついでに、指示語の使い方について考える良い機会にできる

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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