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名称の権利化とブランディング戦略(前編)|お金配りと商標権

今回は、名称の権利化とブランディング戦略、という話を書いてみたいと思います。

名称の法的保護

名称の法的保護といえば商標権です。

そうすると、商標って法律の話でしょ、法務さんお願いね、インハウスローヤーもいるしヨロシクね…、みたいな感じになりがちなこともあるかなと思いますが、本来、そういう話だけではないです。

名称の権利化っていうのは、経営戦略の話と密接に絡んでいると思うんですよね。潜在的な可能性も含めてどの方面に進出し、そのうちどの方面に重点的にコストをかけるか、という選択の問題が発生するためです。

でも、あんまりその感じって、その層(経営層あるいは広告宣伝部的な部署)が持っていたり持っていなかったりするなあ、という感じがします。

名称を法的に保護するものはいくつかあり、中心は、商標権不正競争防止法といっていいと思います(あとは商法・会社法の商号、ケースによっては著作権も?)。

ということで、本記事では、身近な例を題材に、商標権から見ていきたいと思います。

身近な例を題材に

少し前になりますけど、前澤友作さんが商標出願してましたね。「お金配りおじさん」っていう名称です。

これは商標権をとろうとしているパターンです。これを見たとき、個人的には、しっかりやってるんだなと思いました。

というのは、経営者や企画者自らが「そういえばこれ商標とっとかないといけないな」と思うことは、あまり多くない気もするからです(それなりに大きな企業で運用実績もあって組織化されているところなら別ですが)。

そこまで気が回ってないことも多い、というか。なので、ちゃんと脇を固める人がいるんだろうなと。

商標登録をとる意味

で、商標権をとる意味とは何かというと、その商標の使用について(登録の際に指定した商品・役務の範囲で独占的な権利を得るということです。

独占的な権利を得る、といっても、何だかわかるようなわからないような感じなので分けてみると、

① 自分だけが使用することができる
② 他人に使用させないことができる(※類似範囲も含む)

ということです。ちなみに、①を専用権(25条)、②を禁止権(37条1号)といいます。

①は当然みたいな感じもしますが、自分だけが使えるということ(専用権)と、あと大事なのは、「他人にその商標をとられなくて済む」ということです。

商標法は、権利の発生に関して使用主義ではなく登録主義をとっているので、使用の実態がなくても、他人が先に商標出願して登録査定が出てしまうと、登録できてしまいます。

そうすると、せっかく使ってきた名称やマークが使えなくなってしまいます(物理的には使えるが、商標権侵害になってしまう)。

厳密には、不登録事由というのにひっかかって登録できなかったりすることもありますし(商標法4条1項19号など)、登録されても、先使用の抗弁(32条)というのがあって一定範囲で救済される制度もありますが、周知性が要件になっていたりして、それなりにハードルがあり、不安定です。

なので、「自分が長く安心して使えるようにする」ために、商標権をとるということです。

②は、勝手に使っている他人がいたら、差止請求損害賠償請求ができるということです。他人の使用を禁止できるので、禁止権と呼ばれます。

商標権の効力については、特許庁HPにわかりやすい説明があります。

▷参考リンク:商標権の効力|特許庁HP

お金配りおじさん」を見てみる

商標を取るメリットは2つあるということを噛み砕いていうと、上記のようなことです。

なので、「お金配りおじさん」でいうと、

① 他人が「お金配りおじさん」で出願して商標をとられてしまって、使えなくなる、という心配がない
② 他人が「お金配りおじさん」を勝手に使っていたときに、(登録している指定商品・指定役務の範囲内では)使うな!と言える

ということです。

区分としては、35類(広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供)など、3区分で商標出願中のようです。

参考

 商標権は、登録すればあらゆる範囲の商品・役務での商標として独占使用できるわけではなくて、出願のときに、その商標を使用する商品・役務を指定し(指定商品指定役務といいます)、あわせて「区分」も記載する必要があります。

 「区分」というのは、世の中のあらゆる商品・役務を、(ある意味で無理やり)45種類のカテゴリに分けたもので、1~34類までが商品の区分35~45類までが役務(サービス)の区分になっています。

 区分ごとに登録のコストがかかりますので、たくさんの区分で登録しようとすると、それだけ費用もたくさんかかるようになっています。

ちなみに、「名称の権利化はブランディング戦略である」というのを逆からいえば、「登録の区分や指定商標・指定役務を見ると、どういう戦略でやっていこうとしているのかがおぼろげに見える」ということでもあります。

どういう方面でこの名称を使っていこうとしているのか、というのがわかるからです。

まあ、将来的にかなり可能性の薄いところでも広めに書いておくものなので、ボヤっとした輪郭みたいなレベルでしかわからないですけども。

なお、こういった情報は、J-Platで検索すれば誰でも見ることができます。

▷参考リンク:特許情報プラットフォーム J-PlatPat|独立行政法人 工業所有権情報館・研修館

結び

商標をとっておくことにはこうしたメリットがありますが、とはいえ、取得するのに手間もお金もかかります(ちなみに10年ごとに更新があるので維持費もかかります)。

結局、長い間かかってイメージを定着させていくと決めたところにそういう経営コストを投下するわけなので、これはやはり経営判断であると思います。

ただ、スタートアップっぽい機動的な方針転換が必要とされる場面では、なかなか両立させにくい部分もあるかもしれないなとも思います。取得するのに手間もお金もかかる、というの柔軟な方針転換とは相容れないので。

両立させるのは中々難しいかなとは思いつつも、それでも個人的には、やはりある程度は慎重に検討した上で、決めたら戦略的に一歩一歩踏み固めていくような方針の方がいいんじゃないかなと思います。

本記事は別に大した話ではないですが、これ商標ちゃんと取ろうとしてるんだ…と思ったので、簡単な記事にしてみました。

もうひとつの不正競争防止法による名称保護の方は、次の記事に書いています。

▽次の記事

名称の権利化とブランディング戦略(後編)|大学の名称変更と不正競争防止法

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[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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