今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の義務のうち取引記録書類(5条書類)の作成・保存義務について見てみたいと思います。
下請法の適用対象になったとき、親事業者には以下のような4つの義務が課せられます。
【親事業者の4つの義務】
① 発注書面の交付義務 (第3条)
② 取引記録書類の作成・保存義務 (第5条)←本記事
③ 支払期日を定める義務 (第2条の2)
④ 遅延利息の支払義務 (第4条の2)
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
取引記録書類の作成・保存義務(法5条)
親事業者が、下請取引の内容や経過などを記録した書類を作成し、保存することを義務づけるものです。
法5条に定められていることから、「5条書類」と呼ばれます。
親事業者自身の社内での業者先管理に資するため、と同時に、公正取引委員会等による検査の便宜・迅速さに資するためのものとされています。
▽下請法5条
(書類等の作成及び保存)
第五条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託をした場合にあつては、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(…(略)…。)を作成し、これを保存しなければならない。
3条書面との違い
ところで、同じく親事業者の義務として「3条書面」というのがありましたが、「3条書面」と「5条書類」というのは何が違うのでしょうか。
必要記載事項も一部重複しているため、一瞬よくわからなかったりもしますが、一応見てみると、以下のような感じです。
- 「3条書面」は作成し相手に交付するものだが、「5条書類」は作成し自分で持っておく(保存しておく)もの
- 「3条書面」は発注時の書面だが、「5条書類」はその後の取引の経過も含めて必要事項をその都度書き込んでいく書類
- 誤解を恐れずにいえば、「3条書面」は相手に交付するための書面、「5条書類」は親事業者内での”管理簿”や”台帳”といったイメージ
(注)後述のように5条書類は様式を問わないし、複数の書類に分散していてもいいので、正確な表現ではないです。あくまでイメージ - だから、「3条書面」は「交付義務」で、「5条書類」は「作成・保存義務」となっている
つまり、基本的な性格の違いとしては、3条書類は外向けの書面(=発注書面)であるのに対し、5条書類は内向けの書類(=取引の経緯の記録)、といってよいと思います。
また、見落としがちですが、3条書面は「3条書面」、5条書類は「5条書類」という表現になっている点も(条文の文言がそうなっています)、このような性格の違いに沿っているように思います。
”書面を交付する”、”書類を記録する”、という言い方はしっくりきますが、もし逆だと、若干違和感があるように思います(”書類を交付する”、”書面を記録する”(?))。
必要記載事項
必要記載事項の内容
では、5条書類の必要記載事項の内容について見てみます。
公正取引委員会規則で定めるところによる「下請事業者の給付、給付の受領、下請代金の支払その他の事項」は、以下のようになっています。
ここでいう公取規則は、5条書類規則(「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」)になります。
【5条書類の必要記載事項】
- 当事者
- 下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
- 発注日、下請事業者の給付に関する事項
- 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、役務の提供の内容)
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
- 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日又は期間)
※上記3・4とは違い、実際に受領した給付、実際の受領日、という意味
- 検収に関する事項
- 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について、検査をした場合は、その検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
- 変更・やり直しに関する事項
- 下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、その内容及び理由
- 下請代金に関する事項①
- 下請代金の額(下請代金の額として算定方法を記載した場合には、その後定まった下請代金の額を記載しなければならない。また、その算定方法に変更があった場合、変更後の算定方法、その変更後の算定方法により定まった下請代金の額及び変更した理由を記載しなければならない)
- 下請代金の支払期日
- 下請代金の額に変更があった場合は、増減額及びその理由
- 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
※上記8・9とは違い、実際に支払った額、実際の支払日、という意味 - 下請代金の全部又は一部の支払につき、手形を交付した場合は、その手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
- 下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
- 下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、支払を受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日
- 原材料等の有償支給に関する事項
- 原材料等を有償支給した場合は、その品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法
- 下請代金に関する事項②
- 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価の全部若しくは一部を控除した場合は、その後の下請代金の残額
- 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
規則の原文も、一応確認してみます。
▽5条書類規則1条1項(※【 】は管理人注)
第一条 下請代金支払遅延等防止法(以下「法」という。)第五条の書類又は電磁的記録には、次に掲げる事項を明確に記載し又は記録しなければならない。
【1号:当事者】
一 下請事業者の商号、名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって下請事業者を識別できるもの
【2号:発注日、下請事業者の給付に関する事項】
二 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託(以下「製造委託等」という。)をした日、下請事業者の給付(役務提供委託の場合は、役務の提供。以下同じ。)の内容及びその給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をする期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間)、並びに受領した給付の内容及びその給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者からその役務が提供された日(期間を定めて提供されたものにあっては、当該期間))
【3号:検収に関する事項】
三 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、その検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
【4号:変更・やり直しに関する事項】
四 下請事業者の給付の内容を変更させ、又は給付の受領後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させた場合には、その内容及びその理由
【5~9号:下請代金に関する事項】
五 下請代金の額及び支払期日並びにその額に変更があった場合は増減額及びその理由
六 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
七 下請代金の全部又は一部の支払につき手形を交付した場合は、その手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
八 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者、下請事業者及び金融機関の間の約定に基づき、下請事業者が債権譲渡担保方式(下請事業者が、下請代金の額に相当する下請代金債権を担保として、金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の貸付けを受ける方式)又はファクタリング方式(下請事業者が、下請代金の額に相当する下請代金債権を譲渡することにより、当該金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の支払を受ける方式)若しくは併存的債務引受方式(下請事業者が、下請代金の額に相当する下請代金債務を親事業者と共に負った金融機関から、当該下請代金の額に相当する金銭の支払を受ける方式)により金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとした場合は、次に掲げる事項
イ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期
ロ 当該下請代金債権又は当該下請代金債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払った日
九 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者及び下請事業者が電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下同じ。)の発生記録(電子記録債権法第十五条に規定する発生記録をいう。)をし又は譲渡記録(電子記録債権法第十七条に規定する譲渡記録をいう。)をした場合は、次に掲げる事項
イ 当該電子記録債権の額
ロ 下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期
ハ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日
【10号:原材料等の有償支給に関する事項】
十 製造委託等に関し原材料等を親事業者から購入させた場合は、その品名、数量、対価及び引き渡しの日並びに決済をした日及び決済の方法
【11~12号:下請代金に関する事項②】
十一 下請代金の一部を支払い又は下請代金から原材料等の対価の全部若しくは一部を控除した場合は、その後の下請代金の残額
十二 遅延利息を支払った場合は、その遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
3条書面の必要記載事項との対比
ここでもわかりにくいのはやはり3条書面との違いだと思いますので、必要記載事項で、3条書面との違いが特徴的なところを少しだけ取り上げてみます。
〇下請事業者の給付に関する事項は、給付内容と納期については3条書面と同内容であるが、5条書類では、さらに、実際に受領した給付の内容や実際の受領日を記載することが義務づけられている(2号)
〇5条書類は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、検収に関する事項は、検収を実際に完了した日、合否の別や不合格の取扱いなどの事項が記載事項となっている(3号)
〇5条書類は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、給付内容の変更・やり直しに関する事項も記載事項となっている(4号)
〇5条書類は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、下請代金に関する事項は、下請代金の増減の有無(5号)や、実際に支払った下請代金の額、実際に支払った日(6号)、下請代金の一部支払いや一部相殺をしたときの残代金(11号)、なども記載事項となっている
そのほか、3条書面との関連で、必要記載事項がやや変則的な内容になる場合を2つ見てみます。
3条書面で下請代金の額を算定方法により記載した場合
3条書面の下請代金の額は、具体的な金額を明確に記載することが原則ですが、やむを得ない事情がある場合には、算定方法による記載も認められています。
このように3条書面で算定方法により記載した場合、下請代金の額に関する5条書類での必要記載事項は、
- 算定方法
- 算定方法により確定した具体的な金額
となります。
また、算定方法に変更があったときは、上記に加えて、
- 変更後の算定方法
- 変更後の算定方法により確定した具体的な金額
- 変更の理由
を記載しなければならないとされています。
▽5条書類規則1条2項
2 法第三条の書面において下請代金の額として算定方法を記載した場合は、前項第五号の下請代金の額について、当該算定方法及びこれにより定められた具体的な金額並びに当該算定方法に変更があったときは変更後の算定方法、当該変更後の算定方法により定められた具体的な金額及びその理由を明確に記載し又は記録しなければならない。
3条書面につき例外的な交付方法(当初書面と補充書面)をとった場合
3条書面で、発注時に内容が定められないことにつき正当な理由がある場合は、例外的な交付方法(当初書面を交付した後に、補充書面を交付するという方法)が認められています。
この場合、5条書類には、
- 特定事項の内容が定められない理由
- 補充書面を交付した日
- 補充書面に記載した特定事項の内容
を記載する必要があるとされています。
▽5条書類1条3項
3 法第三条第一項ただし書の規定に基づき、製造委託等をしたときに書面に記載しない事項(以下「特定事項」という。)がある場合には、特定事項の内容が定められなかった理由、特定事項の内容を記載した書面を交付した日及びそれに記載した特定事項の内容を明確に記載し又は記録しなければならない。
書類の作成方法
5条書類の作成方法は、5条書類規則に定められており、
- 必要記載事項の記載は、必要記載事項に係るそれぞれの事実が生じ、又は明らかになったときに、速やかに行わなければならない
- 書類への記載は、下請事業者別に記載しなければならない(=業者別に整理せよ、ということ)
とされています。
▽5条書類規則2条1項・2項
第二条 前条第一項から第三項までに掲げる事項の記載又は記録は、それぞれその事項に係る事実が生じ、又は明らかになったときに、速やかに当該事項について行わなければならない。
2 前条第一項から第三項までに掲げる事項を書類に記載する場合には、下請事業者別に記載しなければならない。
また、5条書類は、管理簿や台帳のように一つの書類にまとめていなくても、別々の書類になっていても構いません(例えば、普段使っている伝票や帳簿等であっても必要記載事項が満たされていれば新たに帳簿を作成する必要はないし、また、発注部門と経理部門に分けて作成・保存しておくなども可)。
ただ、別々の書類にする場合には、その相互の関係を明らかにしなければならないとされています。
▽5条書類規則1条4項
4 第一項から第三項までに掲げる事項は、その相互の関係を明らかにして、それぞれ別の書類又は電磁的記録に記載又は記録をすることができる。
相互の関係を明らかにする方法としては、例えば、発注ごとの整理番号を別々の書類全てに共通して記載しておくことなどが考えられます。
3条書面の写しを5条書類の一部とする方法
3条書面の写しを5条書類の一部とすることは可能ですが、3条書面は発注時の事項を記載した書面であるのに対し、5条書類は発注してから取引が完了するまでの一連の経緯を記録する書類であるため、3条書面の写しだけで5条書類の必要記載事項の全てをカバーすることはできません。
なので、適宜、3条書面の写しに5条書類の必要記載事項を追記していく形で対応する必要があります。
▽講習会テキストQ&A49
3条書面の写しを5条書類とすることは問題ないか。
発注内容、単価、納期等が記載された3条書面の写しを5条書類の一部とすることは可能である。しかし、5条書類は取引の経緯を記載する書類なので、取引開始時に定めた事項のみが記載されている3条書面の写しを保存するだけでは、5条規則の記載事項を全て満たすことはできないため書類の作成・保存義務に違反することとなる。
なぜこういう質問が出てくるかと言うと、必要記載事項が一部重複しているからです。
電磁的記録による作成・保存
電磁的記録による作成・保存については、
- 訂正や削除の有無・内容を確認できること
(※つまり、改ざんの有無・内容を確認できるようになっていること) - 電磁的記録をディスプレイに表示したりプリントアウトできること
- 下請事業者や発注日の期間を指定して検索できること
という要件が課されており(5条書類規則2条3項)、これらの機能を備えたシステムにする必要があります。
▽5条書類規則2条3項(※【 】は管理人注)
3 前条第一項から第三項までに掲げる事項について記録した電磁的記録を作成し、保有する場合には、次に掲げる要件に従って作成し、保存しなければならない。
一 前条第一項から第三項までに掲げる事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
二 必要に応じ電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に出力することができること。
三 電磁的記録の記録事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を有していること。
イ 前条第一項第一号に掲げる事項【=下請事業者の名称(番号、記号等も可)】を検索の条件として設定することができること。
ロ 製造委託等をした日については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
保存期間
保存期間は、必要記載事項の記載を終わった日から2年間となっています(5条書類規則3条)。
起算日は発注日ではなく、記載終了日です。
▽5条書類規則3条
第三条 法第五条の書類又は電磁的記録の保存期間は、第一条第一項から第三項までに掲げる事項の記載又は記録を終った日から二年間とする。
▽公正取引委員会のXアカウント
【#2024ひとこと講座 32 下請法】
— 公正取引委員会 (@jftc) June 3, 2024
<親事業者の義務 -書類の作成・保存義務->
親事業者は、下請事業者との取引記録の書類を作成し、2年間保存する義務があります。
給付内容、下請代金の額など、記載すべき事項は規則で定められています。
記載すべき事項はこちら→https://t.co/c9pgX5QMeW#下請法 pic.twitter.com/vYLu6XOi89
結び
今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の義務のうち5条書類の作成・保存義務について見てみました。
次の記事は、親事業者の義務のうち支払期日を定める義務と遅延利息の支払義務についてです。
▽次の記事
-
下請法を勉強しよう|親事業者の義務-支払期日を定める義務、遅延利息の支払義務
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下請法に関する記事は、以下のページにまとめています。
▽下請法
-
下請法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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