独占禁止法

独占禁止法を勉強しよう|不公正な取引方法の禁止(行為類型と全体像)

今回は、独占禁止法を勉強しようということで、不公正な取引方法の禁止の全体像について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

不公正な取引方法の禁止

不公正な取引方法というのは、競争を実質的に制限するとまではいえないが、何らかの形で競争を妨げる行為のことです。競争を阻害するおそれがない場合には、通常の取引行為として適法に行うことができるものを含んでいます。

ただ、競争の実質的制限と公正競争阻害性は、実際にはそのボーダーラインが明確ではなく個別的な判断が必要とされます

基本的な条文は、不公正な取引方法の定義を定める法2条9項各号と、その禁止を定める法19条になります。

▽法19条

第十九条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

こういう禁止規定があって、では「不公正な取引方法」とは何か?という定義が法2条9項各号に書かれている、という構造になっています。

以下、法2条9項の条文をざっと見の意味で引用してみます(とりあえずの流し読み用)。

▽法2条9項(※【 】は管理人注)

⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
1号:共同の取引拒絶
 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
  ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
  他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。
2号:差別対価
 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
3号:不当廉売
 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの
4号:再販売価格の拘束
 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
  相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
  相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
5号:優越的地位の濫用
 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
  継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
  継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
  取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
6号:公正取引委員会による指定
 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
  不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
  不当な対価をもつて取引すること。
  不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
  相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
  自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
  自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

そして、上記6号の「公正取引委員会が指定するもの」は告示で指定されており、以下のようになっています。

参考リンク

  • 一般指定(「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号))
  • 特殊指定
    1. 新聞特殊指定(「新聞業における特定の不公正な取引方法」(平成11年7月21日公正取引委員会告示第9号))
    2. 物流特殊指定(「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(平成16年3月8日公正取引委員会告示第1号))
    3. 大規模小売業告示(「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(平成17年5月13日公正取引委員会告示第11号))

不公正な取引方法の類型

不公正な取引方法は行為類型が多くあって、とにかく全体像が見えにくいように思います。そこで、本記事では全体像を俯瞰したいと思います。

法定類型と告示類型

不公正な取引方法には、大きく

法定類型(法2条9項1号~5号
告示類型(法2条9項6号

あります。

法定類型は、先ほど見た法2条9項の1号~5号に定められているものです。

そして、6号で「公正取引委員会が指定するもの」となっていて、これを受けて告示類型が定められています。

一般指定と特殊指定

告示類型には、全ての事業者に適用される一般指定と、特定の事業分野における特定の取引方法に適用される特殊指定があります(前述の参考リンク参照)。

特殊指定は、新聞特殊指定/物流特殊指定/大規模小売業告示の3つがあります。

以上をまとめると、

法定類型(5類型)
告示類型
 ┗ 一般指定(15類型)
 ┗ 特殊指定(3類型)

のようになっています。

法定類型と告示類型の実益的な違いは何かというと、法定類型には課徴金が課され、告示類型には課徴金が課されないという点です。

まとめ

特殊指定は特定の事業分野のみに関するものなのでいったん除いておいて、本記事では、法定類型と一般指定のもう少し具体的な内容を表でまとめてみたいと思います。

以下の表のポイントとして、次の2点があります。

不公正な取引方法の全体像がわかりにくいのは、行為類型によっては、一部が法定類型で一部が告示類型になっているものもあることだと思います(つまり、法定類型にも告示類型にもまたがるものがあるということ)。

そこで、以下の表では、法定類型の列と、一般指定の列をつくり、どちらにあたるかがわかるようにしています(条文or告示の根拠条数・項数をそれぞれ書いています)。

前の記事で独禁法には行為類型に共通の効果要件があるという話を書いていますが、不公正な取引方法における「公正競争阻害性」要件に関しては、「正当な理由なく」「不当に」「正常な商慣習に照らして不当に」という3種類の異なる文言があります。

これらは、以下のように、類型的な意味があるものとされています。

正当な理由なくという行為類型(1号、3号、4号)
行為自体が類型的に公正競争阻害性を有するもの。
行為要件に該当することが認定されれば、原則として公正競争阻害性が認められる。

不当にという行為類型(2号、6号)
行為自体は中立的であり、通常の取引行為として適法に行われることもあるもの。
行為要件に該当するというだけでは、公正競争阻害性あるとはいえないため、別途公正競争阻害性があることが認定される必要がある。

正常な商慣習に照らして不当にという行為類型(5号)
「不当に」と同様、行為自体は中立的とされる。
なお、「正常な商慣習」というのは、独禁法の観点から見たときの許容できる商慣習のことで、普通の意味でいう”商慣習”という意味ではない。

以上の要領で法定類型と一般指定にある行為類型を表にまとめると、以下のようになります。つまり、法定類型を軸にしつつ、一般指定で補充したり、新たに追加したりして全体を作り上げているイメージです。

行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
共同の取引拒絶供給することの拒絶(直接拒絶)1号イ 正当な理由なく
供給することの拒絶(間接拒絶)1号ロ 正当な理由なく
供給を受けることの拒絶(直接拒絶) 1項正当な理由なく
供給を受けることの拒絶(間接拒絶) 1項正当な理由なく
その他の取引拒絶単独の取引拒絶 2項不当に
競争者でない者による共同の取引拒絶 2項不当に
差別対価継続的に供給する場合2号 不当に
供給する場合のうち継続的でない場合、供給を受ける場合 3項不当に
差別的取扱い対価を除く取引条件の差別的取扱い 4項不当に
事業者団体における差別取扱い等  5項不当に
行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
不当廉売継続して、供給に要する費用を著しく下回る価格で3号 正当な理由なく
上記以外 6項不当に
不当高価購入  7項不当に
行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
欺瞞的顧客誘引  8項不当に
不当利益顧客誘引  9項正常な商慣習に照らして不当に
抱き合わせ販売抱き合わせ販売 10項前段不当に
抱き合わせ販売以外の強制 10項後段不当に
行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
再販売価格拘束直接の再販売価格維持行為4号イ  
直接の再販売価格維持行為4号ロ  
排他的条件付取引  11項不当に
拘束条件付取引  12項不当に
行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
優越的地位の濫用取引に関係ない商品・役務の購入(購入要請5号イ 正常な商慣習に照らして不当に
金銭役務・経済上の利益提供(利益提供要請5号ロ 正常な商慣習に照らして不当に
取引条件の不利益変更5号ハ 正常な商慣習に照らして不当に
取引の相手方に対する不当干渉(不当干渉 13項正常な商慣習に照らして不当に
行為類型細分類法定類型一般指定公正競争阻害性
取引妨害14項不当に
内部干渉15項不当に

公正競争阻害性

最後に、公正競争阻害性について、概念的なところ(どういう概念的なのか)を簡単に見てみたいと思います

公正な競争とは

そもそも「公正な競争」というのはどういう競争のことをいっているのかというと、「能率競争」のことであるといわれます。

能率競争というのは、良質な商品を廉価で提供することを唯一の手段として顧客を獲得しようとすることです。つまり、わかりやすくいうと、”品質と価格で勝負すること”という意味になります。

さらにくだけて言うと、”いいモノ安く!”の精神です

とりあえずは、”フェアな競争(公正な競争)というのは、品質と価格で勝負することを基本に据えているのだな”と思っておけばよいと思います。

公正競争阻害性とは

公正競争阻害性の概念については、「独占禁止法研究会報告書」(昭和57年7月8日)が3種類に整理した考え方を提示しています。

これによると、公正な競争とは、

  1. 自由な競争の確保
  2. 競争手段の公正さの確保
  3. 自由競争基盤の確保

によってもたらされる状態のことであり、公正競争阻害性これら3つの条件が侵害されることを意味するとされます。

  • 競争の減殺
    自由な競争が侵害されるおそれがある場合。再販売価格拘束、取引拒絶、差別的取り扱い、不当廉売、排他条件付取引など
  • 競争手段の不公正さ
    競争秩序に悪影響を及ぼすような取引方法を用いる場合。欺瞞的取引、不当な利益供与による顧客誘引、抱き合わせ販売、取引強制、取引妨害・内部干渉など
  • 競争基盤の侵害
    自由で主体的な判断により取引を行うことができない状態。優越的地位の濫用

結び

今回は、独占禁止法を勉強しようということで、不公正な取引方法の禁止の全体像について見てみました。

▽次の記事

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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