今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の禁止行為のうち割引困難な手形の交付の禁止について見てみたいと思います。
下請法の適用対象になったとき、親事業者には以下のような11の禁止事項が課せられます。
【親事業者の11の禁止事項】
(4条1項のグループ)
①受領拒否の禁止
②下請代金の支払遅延の禁止
③下請代金の減額の禁止
④返品の禁止
⑤買いたたきの禁止
⑥購入・利用強制の禁止
⑦報復措置の禁止
(4条2項のグループ)
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
⑨割引困難な手形の交付の禁止 ←本記事
⑩不当な経済上の利益の提供要請の禁止
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
4条2項のグループ
親事業者の禁止行為については下請法4条に規定されており、1項に7つの禁止行為、2項に4つの禁止行為がそれぞれ定められています。
1項と2項に分かれているのは意味があり、1項では「次の各号に掲げる行為をしてはならない」という定め方であるのに対し、2項では「次の各号に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない」という定め方になっています。
つまり、1項では、原則として、1項の行為類型に該当する行為はそれだけで違法となりますが、2項の行為類型に該当する行為は、それによって下請事業者の利益が不当に害される場合にはじめて違法となります。
割引困難な手形の交付の禁止は、4条2項のグループです。
▽下請法4条2項
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一~四 (略)
割引困難な手形の交付の禁止(2号)
下請法において、下請代金の支払いは手形によることも認められていますが、一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形を交付してはならないというものです。
▽下請法4条2項2号
二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
以下、それぞれの文言の意味を順に見てみます。
「一般の金融機関」
「一般の金融機関」は、銀行や信用組合など、いわゆる受信と与信を両方行うもの(要するに銀行業)を指し、与信のみを行うもの(貸金業者。いわゆるノンバンク)は含まれません。
▽講習会テキスト〔R5.11版〕 1-⑸-ケ
「一般の金融機関」 とは、銀行、信用金庫、信用組合、商工組合中央金庫等の預貯金の受入れと資金の融通を併せて業とする者をいい、貸金業者は含まれない。
「割引を受けることが困難であると認められる手形」
一般の金融機関による割引を受けることが困難かどうかは、手形のサイト、金融機関に対する保証の有無、下請事業者/親事業者の信用度や金融機関との取引関係など、諸々の事情によって異なるため、下請法上は画一的な判断基準は定められていません。
運用上は、以下のような基準が示されていました。手形のサイトが繊維業90日/その他業種120日を超える手形を交付することは、長期の手形として、本号に違反するおそれがあるというものです。
▽講習会テキスト〔R5.11版〕 1-⑸-ケ
●「割引を受けることが困難であると認められる手形」
「割引を受けることが困難であると認められる手形」を一律に定義することは難しいが、一般的にいえば、その業界の商慣行、親事業者と下請事業者との取引関係、その時の金融情勢等を総合的に勘案して、ほぼ妥当と認められる手形期間を超える長期の手形と解される。現在の運用では繊維業は90日(3か月)、その他の業種は120日(4か月)を超える手形期間の手形を長期の手形としている。
なお、親事業者が上記手形期間内の手形を交付した場合であっても、結果的に下請事業者が手形の割引を受けられなかったときは、そもそも下請代金の支払があったとはいえず、支払遅延(本法第4条第1項第2号)に該当することとなる(43ページ参照)。
(※)手形期間=手形の交付日から手形の満期までの期間のこと。手形のサイト。
この基準には令和6年に変更がありましたので、以下、経過をざっと見てみます。
くわしい経過については、以下が参考になります。
▽参考リンク
手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について(令和6年2月 公正取引委員会)|公正取引委員会HP(≫掲載ページ)
従来の指導基準(R3.3.31)
上記の講習会テキストに書かれているように、従来は、繊維業90日/その他業種120日を指導基準としつつ、関係事業者団体に対する通知「下請代金の支払手段について」(R3.3.31)において、概ね3年以内(令和6年)を目途に、60日以内とするよう要請されていました。
▽「下請代金の支払手段について」(令和3年3月31日発出)|公正取引委員会HP
親事業者による下請代金の支払については、以下によるものとする。
1 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
4 前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。
指導基準の変更(R6.4.30)
上記の要請を経て、その後、通知「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」(R6.4.30)において、業種を問わず60日とすることとされました(以下「指導基準変更通知」)。
施行は令和6年11月1日からです(指導基準変更通知・附則1条参照)。
▽「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」(令和6年4月30日発出)|公正取引委員会HP(≫掲載ページ)
手形(下請代金支払遅延等防止法(昭和31年6月1日法律第120号)第4条第2項第2号の手形をいう。以下同じ。)を下請代金の支払手段として用いる場合には、下請事業者の利益を保護する観点から、昭和41年以降、業界の商慣行、金融情勢等を総合的に勘案して、ほぼ妥当と認められる手形の交付日から手形の満期までの期間(以下「手形期間」という。)の基準(以下「指導基準」という。)について、繊維業は90日、その他の業種は120日とし、親事業者がこれを超える長期の手形を交付した場合、割引困難な手形に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し、指導してきた。
今般、改めて業界の商慣行、金融情勢等を総合的に勘案して、指導基準について、業種を問わず60日とする。
これに伴い、令和6年11月1日以降、親事業者が下請代金の支払手段として、手形期間が60日を超える長期の手形を交付した場合、割引困難な手形に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し、指導されたい。
パブコメは以下のとおりです。
一括決済方式、電子記録債権による支払いについて
なお、一括決済方式(ファクタリング等)と電子記録債権による支払いについても、従来、支払サイトは、繊維業90日/その他業種120日が指導方針とされていました。
▽「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」(H11.7.1改正)|公正取引委員会HP(≫指導方針の掲載ページはこちら)
7 下請代金の支払期日から下請代金債権の額に相当する金銭を金融機関に支払う期日までの期間(手形の交付日から手形の満期までの期間に相当)は、120日以内(繊維業の場合は90日以内)とすること。
▽「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」(H21.6.19)|公正取引委員会HP(≫指導方針の掲載ページはこちら)
2 決済期間
下請代金の支払期日から電子記録債権の満期日(電子記録債権法第16条第1項2号に規定する支払期日をいう。)までの期間(手形の交付日から手形の満期までの期間に相当)は、120日以内(繊維業の場合は90日以内)とすること。
これらの指導方針も、手形に関する指導基準と併せて、業種を問わず60日とするように変更されました(指導基準変更通知・附則3条、5条参照)。
▽下請法Q&A【Q28(一括決済方式や電子記録債権の決済期間)】
「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」(令和6年4月30日)の施行後、サイト60日超の一括決済方式や電子記録債権を下請代金の支払方法として利用した事業者に対してどのような措置が採られることになるのか。
一括決済方式及び電子記録債権については、「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」(昭和60年12月25日)及び「電子記録債権が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導方針について」(平成21年6月19日)(以下総称して「指導方針」という。)により、従来から手形と同様に繊維業は90日(3か月)、その他の業種は120日(4か月)を基準として、これを超えるサイトによる下請代金の支払については支払遅延に当たるおそれがあるとして指導してきた。今般、指導方針を改正し、サイトに係る基準について、手形と同様に業種を問わず60日(2か月)としたことから、令和6年11月1日以降、サイト60日超の一括決済方式や電子記録債権による下請代金の支払がなされた場合には、支払遅延に当たるおそれがあるとして指導することになる。
施行前の注意喚起
これら手形等のサイトの短縮につき、施行前の注意喚起として、令和6年10月1日に中小企業庁・公正取引委員会から以下のリリースがなされています。
▽中小企業庁のXアカウント
中小企業庁及び公正取引委員会は、手形等のサイト短縮に関する注意喚起を行いました。令和6年11月1日以降に交付された手形等について、新たな運用が適用されることとなります。
— 中小企業庁 (@meti_chusho) October 1, 2024
詳しくは、こちら。https://t.co/3wA1TTnsUS pic.twitter.com/dkXbbsSlvc
結び
今回は、下請法を勉強しようということで、親事業者の禁止行為のうち割引困難な手形の交付の禁止について見てみました。
次の記事は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止についてです。
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[注記]
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考文献
- 講習会テキスト(「下請取引適正化推進講習会テキスト」(公正取引委員会・中小企業庁))|公取委HP(≫掲載ページ)
- 下請法に関する講習|公取委HP
- 下請法の実務〔第4版〕(鎌田明)
- 優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕(長澤哲也 )
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