公益通報者保護法 法改正

改正公益通報者保護法|令和2年改正

令和2年に公益通報者保護法が改正されましたので、その内容をざっと見てみたいと思います。

ニュースとしては、例えばこちら。

▽‪内部告発「裏切り者に制裁」後絶たず…16年ぶり法改正も、通報者が守られない理由 |弁護士ドットコム‬
https://news.line.me/articles/oa-bengo4com/de323fe82e73

(抜粋) ※太字は管理人による
「もっとも、今回の改正も、裁判上は法改正がなくとも認められる可能性が高い範囲で通報者の保護を拡張したにとどまり、通報者にとっては、法的な観点からすると保護が大幅に強化されたとはいえません。」
「他方で、事業者側や行政機関にとっては、通報対応体制が法的義務とされたことで、対応を迫られることになります。反射的に、通報者がより保護されるようになる面はあるでしょう。」
「今回の改正では、通報者の保護の強化は非常に限られたものにとどまり、違反に対する制裁や立証責任の緩和といった強力な手段については、今後の検討に委ねられました。」

このあたりのコメント(大森景一弁護士のコメント)に言い尽くされていますし、このニュースを見れば大体わかりますので、ブログで書く意味ないんじゃないかという話もありますが(笑)。

ここで終わってしまうと面白くないので、以下、周辺情報なども補足しつつまとめてみたいと思います。

なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

基本情報

令和2年改正の基本情報は、以下のとおりです。

  • 所管:消費者庁
  • 成立:令和2年6月8日
  • 公布:令和2年6月12日
  • 施行:公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から(→※令和4年6月1日に決定)

施行日についての説明は、以下の改正法Q&A(「公益通報者保護法の一部を改正する法律に関するQ&A」)のとおりです。

▽改正法Q&A〔令和2年8月版〕Q1|消費者庁HP

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200828_0001.pdfより

 施行日はいつになるのか。

 一部の附則規定を除き、公布の日(令和2年(2020 年)6月12日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日からとされております。
(現時点では未定ですが、十分な準備期間を確保いただけるよう、おおむね令和4年頃(2022年)を予定しております。)

令和2年6月12日 公布
 ⇓
令和3年 指針、各種ガイドラインの作成
 ⇓
令和4年6月まで 施行予定

改正法の基本情報は、以下のページから見ることができます。

新旧対照表などは、以下のページから見ることができます。

参考リンク

改正のポイントを順に見ていく前に、もともとの(令和2年改正前の)公益通報者保護法の全体像をざっと見てみます。

(令和2年改正前の)公益通報者保護法

そもそも何をしたい法律なのか?(=法律の目的)というと、

労働者が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることがないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのか、という制度的なルールを明確にするための法律

といえます。

そして、公益通報とは何か?(=法律要件)というと、

  • 通報の主体:労働者が、
  • 通報の内容:労務提供先の不正行為を、
  • 通報先:一定の通報先(①事業者内部、②行政機関、③報道機関その他の外部、のいずれか)に通報すること
    であり、
  • ただし、不正の利益を得る、他人に損害を加えるといった、不正の目的である場合は除外される

という建付けになっています。

通報の①主体、②内容、③通報先の3点が要件だと押さえつつ、④があると除外される、と思っておけばよいと思います(管理人の理解の仕方)。

これに該当すれば、どういうふうに保護されるのか?(=法律効果)というと、

  • 解雇の無効
  • 解雇以外の不利益な取扱いの禁止
    降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与上の差別、退職の強要、専ら雑事に従事させること、退職金の減額・没収etc

のように、公益通報をしたことを理由とした不利益な取扱いが禁止される、という形で保護されます。

以上が(令和2年改正前の)全体の基本的な仕組みとなっています。

令和2年改正のポイント

改正の主なポイントは、以下のとおりです。

  • 通報の「主体」に関する要件:公益通報者の範囲の拡大
  • 通報の「内容」に関する要件:行政罰を通報対象事実に追加
  • 「通報先」に関する要件:外部通報の保護要件の緩和
  • 内部通報体制整備の義務づけと行政措置の導入
  • 担当者個人の守秘義務の新設
  • 通報に伴う損害賠償責任の免除

以下、順に見てみます。

通報の「主体」に関する要件:公益通報者の範囲の拡大

保護される公益通報者として、現行法では「労働者」しかありません。労働者には、当然、派遣労働者なども含まれます。

今回の改正によって、これに、

  • 退職者」:
    通報時点で退職者である者。ただし、退職後1年以内の通報に限る
  • 役員」:
    ただし、原則として外部通報については内部での調査・是正措置の前置が必要

が追加されました。

退職者を追加しているのは、退職後に通報する事案もしばしば見られたためこれを含めつつ、1年以内ということにして退職後早期の通報を促した、という考え方です。

役員は、役員も不正を知り得る立場でしょうということでこれを含めつつ、でも役員なんだしまずは内部で是正すべき立場にあるよねということで、原則として外部通報については事前に内部での調査・是正措置の努力をしたことを求める、という考え方です。

このように、通報の主体の範囲が拡大されました。

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通報の「内容」に関する要件:行政罰を通報対象事実に追加

通報の内容となる不正行為のことを「通報対象事実」といいますが、実は、不正という感じの行為なら何でもいいわけではなく、いくつか特定の法律の違反で、かつ刑事罰(又は最終的に刑事罰につながる行為)に限定されています。

通報対象事実

  • 国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として法の別表(※)に掲げるものに規定する罪の犯罪行為の事実
  • 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが①の事実となる場合における当該処分の理由とされている事実等

    (※)別表:刑法、食品衛生法、金融商品取引法、JAS 法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、個人情報保護法、その他政令で定める法律(独占禁止法、道路運送車両法等)

これに、今回の改正では、行政罰の対象となるような行為も追加されました(黄色マーカー部分)。

▽改正後の条文(法2条3項1号)

(定義)
第二条
 この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。
 この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。以下この項において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実
 (略)

ただ、以上を見てみて感じるかと思いますが、パッと見、どんな通報が保護されるのかの判断は難しいといえます。しかも行政機関に通報する場合、どこでもいいわけではなく、所管の行政機関に通報しなければなりません(消費者庁HPにキーワード検索のシステムは用意してくれていますが)。

また、脱税や公職選挙法違反、行政内部の手続違反などの重大な不正は含まれていませんが、このへんの改正は、今回の改正には盛り込まれていません(改正議論の対象にはなったものの、変更なし)。

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「通報先」に関する要件:外部通報の保護要件の緩和

公益通報者保護法では、公益通報となる通報先が以下の3種類に分類されています(法3条1号~3号)。

通報先

  • 1号通報(内部通報)
    ※事業者があらかじめ通報先として弁護士等を定めている場合には、そこへの通報も事業者内部への通報にあたる
  • 2号通報(行政機関等への通報)
  • 3号通報(報道機関その他の外部への通報)

なお、①~③に優先順位はありません(要件を満たせばどこに行ってもよい)。

①が「内部通報」、②と③が「外部通報」になります(文字どおり外部なので)。構造としては、①から③にいくにつれて、保護要件が厳しくなるようになっています。これは、通報先に応じて、事業者の利益が損なわれるおそれの程度が異なるためです。

改正前を表にすると、以下のような感じです(〇が必要部分)。

保護要件 内部通報 外部通報
1号通報
(事業者内部)
2号通報
(権限のある行政機関)
3号通報
(その他の事業者外部)
通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると思料すること    
上記のように信じるに足りる相当の理由真実相当性)※つまり相応の根拠が必要  
個人の生命又は身体への危害のおそれなど、特定事由(3条3号イ~ホのいずれかの事由)    

これが、改正では、以下の表のように変わりました(赤字が変わった部分)。

保護要件 内部通報 外部通報
1号通報
(事業者内部)
2号通報
(権限のある行政機関)
3号通報
(その他の事業者外部)
パターンA パターンB
通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると思料すること    
通報者の氏名と住所、通報対象事実の発生を思料する理由など一定事項を記載した書面を提出すること      
上記のように信じるに足りる相当の理由真実相当性)※つまり相応の根拠が必要    
個人の生命又は身体への危害のおそれなど、特定事由(3条3号イ~へのいずれかの事由)      

これはどういうことかというと、まず、2号通報について、「真実相当性」(つまり相応の根拠)を要求するのが通報者にとって重たすぎるということで、これを不要とし、代わりに、一定事項を記載した書面を行政機関に提出することでもOKとしました(そして行政機関が必要な調査をする)。表のパターンAの部分です。

また、3号通報について、特定事由が2つ追加されました。詳細は省きますが、簡単にいうと、「財産に対する損害(回復困難又は重大なもの)」と「通報者を特定させる情報が洩れる可能性が高い場合」が追加されています。

つまり、今回の改正では、外部通報について、保護要件がいくらか緩和されたということになります。

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内部通報体制整備の義務づけと行政措置の導入

従業員数が300人を超える事業者に対し、内部通報体制の整備等を義務づけることになりました。

▽改正後の条文(法11条)

(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応義務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない
 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない
 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
5~7 (略)

具体的な内容としては、以下のような4つの項目が備えるべき体制のポイントとなることが検討されていました(以下の報告書に記載)。

公益通報者保護専門調査会報告書(26頁)|内閣府HP(≫掲載ページ

https://www.cao.go.jp/consumer/history/05/kabusoshiki/koueki/doc/20181227_koueki_houkoku.pdfより

  • 内部通報受付窓口の設置など、内部通報を受け付ける運用
  • 内部通報受付窓口を組織内で周知する運用
  • 通報者を特定可能な情報の共有を必要最小限の範囲にとどめる運用
  • 公益通報をしたことを理由に解雇その他不利益な取扱いを禁止する運用が機能するような体制の整備

その後、4項に基づき、法定指針が策定されました。

法定指針と解説

消費者庁HP(≫掲載ページ

  • 法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号))
  • 指針の解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」)

そして、実効性確保のために、公益通報者保護のための体制に不十分なところがある場合には、行政措置の対象になりうることとなりました(「助言・指導、勧告」及び「勧告に従わない場合の公表」という、行政措置の導入)。

▽改正後の条文(法15条、16条)

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

(公表)
第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

第二十二条 第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

ちなみに、意外な気もするかもですが、実は令和2年改正前は、内部通報体制の構築というのは法的には義務づけられていませんでした。

ガイドラインで、法の趣旨を汲んで、体制整備が促されていたにとどまります(事業者による自主的な取組みを期待)。実際は、一定規模以上の組織ではすでに普通にあったところだと思いますが(特に上場の関係とかではそう)。

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担当者個人の守秘義務の新設

調査等に従事する担当者(「公益通報対象業務従事者」)に対し、通報者を特定させる情報の守秘義務が新設され、その違反に対する刑事罰が導入されました。

▽改正後の条文(法12条、21条)

(公益通報対応業務従事者の義務)
第十二条 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない

第二十一条 第十二条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する。

通報に伴う損害賠償責任の免除

通報者の委縮を防ぐ狙いで導入されたものになります。

つまり、通報した後、逆に事業者の側から、通報行為が名誉棄損にあたるということで提訴される事例があるため、正当な(=保護要件を満たす)公益通報である限り、損害賠償責任を負わないことを明示しました。

▽改正後の条文(法7条)

(損害賠償の制限)
第七条 第二条第一項各号に定める事業者は、第三条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。

残る課題-不利益処分の禁止に関する実効性の確保

前述の基本的な仕組みのところで、公益通報を行ったことを理由とする不利益な取扱いは禁止されていると書きましたが、実はこの禁止に違反した場合のペナルティは公益通報者保護法には定められていません。

そのため、結局は、不利益な取扱いを受けたことを理由にして、通報者が他の一般的な法律(民法など)で無効や損害賠償を請求するしかなく、これでは実効性が確保できないだろうということで、議論はありましたが、結局は見送られました。

また、解雇や不利益な取扱いが行われた場合に、それが「公益通報をしたことを理由とするもの」ではないという形で事業者側が争うことが多いわけですが、ここ(因果関係)の立証責任は通報者側が負っています。つまり、「公益通報をしたことを理由とするもの」であることを通報者側が立証する必要があります。

そのため、結局は、結果として保護を受けられないリスクがあります。これで実効性が確保できるのだろうか…という話があります。しかし、この部分も改正で手を入れられてはいません(⇔ちなみに、EUでは因果関係の存在を推定する法制にしているらしい)。

冒頭のニュースの抜粋部分は、そのことを言っているわけです。

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結び

今回は、改正公益通報者保護法ということで、令和2年改正の内容を見てみました。

総括的には、通報者の保護を強化しようとして頑張ったけど、まだ手が届いてないところがたくさんある…という感じがします。

ここまで読んでから、冒頭のニュースの抜粋部分をもう一度読むと、ああなるほどね…という感じで理解が深まっているのを実感できる(?)かもしれません。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システムまたは消費者庁HPに遷移します
  • 公益通報者保護法
  • 通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)
  • 法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号))|消費者庁HP
  • 指針解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」)|消費者庁HP
  • Q&A集|消費者庁HP

参考文献

リンクをクリックすると、消費者庁HPに遷移します

-公益通報者保護法, 法改正