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【改正論レビュー】発信者情報開示請求制度の改正論|7月中間とりまとめ案

ふと、そういえば発信者情報開示の見直しの議論(@総務省)ってどうなってるんだろう…と思って、今ごろ感あるが、総務省のHPを見てみた。

 

▽発信者情報の在り方に関する研究会(第4回)|総務省HP

総務省|発信者情報開示の在り方に関する研究会|発信者情報開示の在り方に関する研究会
総務省|発信者情報開示の在り方に関する研究会|発信者情報開示の在り方に関する研究会

www.soumu.go.jp

 

6月下旬ごろは、“正式な裁判手続でない簡易な裁判手続の検討”みたいな報道がされていて、いったい何のことだろうと思っていたんですが。

 

7月10日に「中間取りまとめ(案)」が発表されていたようで、簡易な裁判手続っていうのはどうやら非訟手続のことらしい。

 

中間取りまとめ(案)に関するニュースは、たとえば以下のようなものだった(7月10日のニュース)。

▽投稿者開示、手続き簡素化へ ネット中傷対策ー総務省中間案(時事ドットコムニュース)

 

 

簡易な裁判手続っていうのは非訟手続のことらしい

非訟手続のことは、中間取りまとめ(案)に書いてあった。ちょっと長いけれど、以下、該当部分を引用する。

 

▽中間とりまとめ(案)16頁〜 ※下線削除、太字は管理人による

「(1)新たな裁判手続の必要性
 発信者情報開示の場面で、問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多いため、 一般的に、①コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分申立て、②アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟という二段階の裁判手続を経て、 その後、③特定された発信者への損害賠償請求訴訟を行うという、3段階の手続を経る必要がある。
 これらの裁判手続、特に発信者情報開示のプロセスに多くの時間・コストがかかることは被害者にとって負担となっており、場合によっては権利回復のための手続を断念せざるを得ないこともあるなどの課題があることから、こうした課題に対応するため、例えば、1つの手続の中で発信者を特定することができるプロセスなど、より円滑な被害者の権利回復を可能とする裁判手続の実現を図る必要がある。
 他方で、開示請求を受けたプロバイダは、本来、裁判手続の中で発信者の意見を適切に反映するなど、発信者の利益を適切に擁護する役割を担うことが期待されるが、裁判上の請求に対応する件数の増加等により負担が増し、期待される役割を果 たすことが困難になっているなどの課題があることから、こうした課題に対応するため、発信者の利益擁護及び手続保障が十分に確保される裁判手続の実現を図る必要がある。
 具体的には、発信者の権利利益の確保に十分配慮しつつ、円滑な被害者の権利回復が適切に図られるようにするため、柔軟な制度設計を可能とする観点から、例え ば、発信者情報開示請求権という実体法上の請求権に基づく開示制度に代えて、非訟手続等として被害者からの申立てにより、裁判所が発信者情報の開示の適否を判断・決定する仕組み(新たな裁判手続)を創設することについて、法改正を視野に 検討を進めることが適当である。」

 

▽原文はこちらから(研究会第4回)

総務省|発信者情報開示の在り方に関する研究会|発信者情報開示の在り方に関する研究会(第4回)配布資料
総務省|発信者情報開示の在り方に関する研究会|発信者情報開示の在り方に関する研究会(第4回)配布資料

www.soumu.go.jp

 

非訟手続というのを見たときは、「そ、そうなん??」というのが第一印象だった。が、考えてみるとけっこう攻めた案なのかもしれない。つまり、現行の制度の枠内で(けっこうリスクを背負いつつ)何とかしようとしている、という意味で。

 

 

非訟って何か

「非訟」というのはわかりにくいが(正直いうと自分も他人に説明できるほどよくわかっていない)、業界の人以外には更にわかりにくいだろうと思う。裁判所が後見的に判断するもの、言われている。

 

訴訟というのは、「実体法規に定められた抽象的事実Fに、具体的事実fをあてはめて、権利義務Rの発生の有無を判断する」という構造をとる。

 

つまり、実体法規が「ある事実Fがあれば,ある権利Rが生じる」と定めている場合、裁判所は、その事実Fの存在を認識することができたときに権利Rが発生したと判断する、ということ。

 

で、非訟というのは、「訴訟に非ず」という字面からもわかるとおり、こういう判断方法になじまないものをいう(まあ、性質論はすごく難しい学説争いがあるみたいなんですが…)。事実を実体法規にあてはめて権利義務の有無を判断する云々…という一刀両断的な判断方法ではうまく答えが出せなそうなもの。

 

たとえば、共有物分割とか、遺産分割とか。裁判所が後見的に判断して、本件ではこういう分割方法がいいんじゃないでしょうか、とやる。つまり、具体的な事案において、誰にどういう風な形で分割するのが妥当かというのは、「事実を法規にあてはめて法律効果の発生の有無を判断する」という方法では答えが出てこない。

 

「後見的に」というのは、まあ要するに「政策的に」と言い換えてもよく(と自分では思っている)、要するに様々な要素を考慮した総合判断のこと。

 

そして、最後は裁判所がエイヤとやる。

 

 

結局それで良くなるのだろうか?

で、話を戻すと、発信者情報の開示って、開示するかしないかという2択の話のように思えるので、それで非訟になるの?よくわからない…という感想だった。

 

まあ「通常清算における債務弁済許可申立」という会社非訟の手続もあって、これなんかは通常清算の公告中に債務を弁済してOKかどうかという2択の話なのだが、これは解散時BSの財務状態をベースにして、先んじて債権者の一部に対して弁済しても大丈夫そうかどうかを判断するという総合考慮っぽいものが入っているので、これともちょっと違う気がする。

 

昔は地代増減額請求も訴訟だったのがいまでは非訟とされている(「訴訟の非訟化」という)ので、可能なのかもしれないが、個人的には何となくピンとこない。

 

諸事情を総合考慮して裁判所が後見的に判断…という非訟の性質論というよりも、簡易な手続になるという効果の部分だけに着目して便宜的に(悪くいえば理論的なものにはやや目を瞑って)持ってきているだけのような気もするので、何となく批判が多そうな気がする。意見書めいたもの(後述)が書かれているのもそういう事情のようにも見える。

 

もうひとつピンと来ないのは、非訟になったからといって、結局どれだけ(被害者側からして)手続が軽くなるのだろうか、ということ。被害者側からすれば、どっちにしろ裁判所の手続である以上、弁護士に頼んで進めていくことが多いだろうから、それが訴訟だろうと非訟だろうと、コスト感の感じ方はあんまり変わらないのでは。

 

仮処分に比べてそんなに軽くなるのだろうか。仮処分自体も、緊急かつ要急の(=つまりその分迅速な)手続として設計されているわけだし。

 

さらに、余談だが、“曽我部先生(京都大学の憲法の教授で、研究会の座長)に一任”とかいうことが構成員数名による意見書めいたものに書かれていて(「中間とりまとめに関するお願い」という表題の提出意見)、ボールが曽我部先生にブン投げられているようにも見えるけれども、どういう力学でこうなったのだろう…とかも気になってみたり。座長だからそうなっているだけなのかな。

 

インハウスローヤーも、自己防衛が必要な場合には組織や上長宛ての意見書を作成してリスクヘッジしておく(露骨にいえばアリバイづくり。要するに、私は反対しましたよ、あるいはこういう意見言いましたよというエビデンスを残す)という手段が言われているが、上記の提出意見はそれに当たるもののようにも見えるので、なんだか妙に気になる(自分は実際にやったことはないが)。

 

 

個人的な意見

個人的には、任意開示の範囲が広がらなければ、あまりインパクトは大きくならないのでは、という意見を持っている。

 

個人的には、名誉侵害性判定の専門機関などを独立行政委員会みたいな形でつくるのはどうだろうと思ったり、それぐらいやらないと変わらないんじゃないか、という話を書いてみたりした(下記note)。

 

 

が、ここらへんの議論は、研究会では、論点出しで一瞬出てきた後に一蹴されていた模様(笑)。まあ、これはドラスティックすぎて、現実的でないだろうというのもわかる。特にその機関が政治の傀儡になったりしたときのリスクが致命的すぎるから。

 

表現の自由という問題について最も適切な判断機関は裁判所だし、そこ以外になかなか考えられないんじゃないですか、という意見は健全だとも思う。

 

とはいえ、ドイツで若干それっぽい仕組みがありそうな記事も、ちらっとは見かけた。次の記事には、ドイツでは2020年6月から、SNS事業者が違法情報か否かの判断に迷ったとき、自主規制機関に相談し、当該機関が事業者の代わりに判定できるようになったとの記述がある(4頁目)。詳細がわからないので、何ともいえないけれど。

 

▽(参考サイト)

 

これら含め、他国の現在の法制をどれだけ調査したうえでいまの議論をしているのかどうかが、ニュースなどを見ていてもイマイチわからない。そのへんが何だかもどかしい。開示請求の高コスト問題って、世界共通の悩み事になるはずだと思うのだけど、実際にそうなのかどうか、それすらよくわからない。

 

 

先行きの予想

上記の私見がもしも「当たらずとも遠からず」的なものであった場合、開示請求のコストは劇的に下がることはないことになるので、コストが多少マシになったあとは結局、プラットフォーマーの自主規制の行き方次第に委ねるしかなくなる、というのが個人的に予見している未来である。

 

多少マシになる、というのは、たとえば裁判含めた費用が80万かかっていたのが40万とか50万になる、みたいな感じで、確かに安くはなったけど、被害者がアクションを起こすのに躊躇しないレベルになるかというとそこまでではない、という意味。

 

 

非訟手続の話以外の論点も含めた全体感

なお、非訟手続の論点以外はどうかというと、論点が多岐にわたりすぎて全部読むには正直しんどいので、大ざっぱに書いてみたい。

 

開示請求の高コスト問題に対する改善案については、全体の地図はこんな感じだと思う。

 

A 裁判手続を簡潔にするベクトルの方策

・開示請求権の要件を緩和できないか

・開示請求の証明度を低減できないか

・新たな裁判手続(非訟手続)を導入できないか

・匿名訴訟の検討…は無理っぽい(民訴の改正が必要になるので話がデカくなりすぎる)

・etc

B 裁判手続を経なくても開示されるようにする(=任意開示の範囲を広げる)ベクトルの方策

・細かいガイドラインを出す

・専門機関をつくる(←早々と否定されている模様)

・etc

 

いろんな論点があるが、基本的には上記のように2つの方向性があって、またこの2つは相反するものではないので、併行的に検討されている、と思えばわかりやすいと思う。自分はそう思っている(大ざっぱ…笑)

 

目指すべき着地点(私見)

上記のようにいろんな論点ありますが、目指すべき最終的な着地点としては

①どう見てもひどすぎる表現は、裁判を経ずに開示されるようにする
②若干微妙な表現は、裁判を経て開示されるようにする(あるいはされないようにする)

というのが妥当だと思うのです。

 

①はいわば不動産登記のうち簡単なもののように、本人が自分でやろうと思えば調べながらギリギリできるようなレベル。つまり任意開示で、発信者情報の開示請求書の雛形を見ながら自分で書いてプロバイダに出せば、プロバイダから任意で発信者情報が開示される…ということができるようにする(裁判手続が介在する場合、自分でやる難易度はさらに跳ね上がり、多くの場合たぶんできない)。

 

そしてそのまま相手方本人との訴訟にいけるようにする(そこで弁護士への依頼が必要になるのは他の訴訟も同じなので仕方ない)。

 

しかし、現状ではおそらく①のレベル感のものすら任意開示では拒否されていると思う。特にアクセスプロバイダはそう。以前に開示請求の事案をやったとき、「この内容でも任意開示拒否しますか…マジかよ」と思ったことがある。それは多分、上記のnoteで書いたように、企業のロジックとしては基本的に任意開示に応じないのが正解になる状況があるから(←私見です)。

 

たとえば次のサイトにもなかなか任意開示されないという状況とその考察について若干の記述がありますが(最後の方)、自分の肌感覚からしても違和感ないです。

 

▽(参考サイト)

発信者情報開示請求とは|ベリーベスト法律事務所
発信者情報開示請求とは|ベリーベスト法律事務所

www.vbest.jp

 

企業としてはまず1番に考えるのは、読んで嫌な気分になる人もいるかと思いますが、被害者の利益でもなく、発信者の利益でもなく、企業自身の利益だと思うわけです(←重ねていいますが、私見です)。是非とか善悪というよりも、論理的にそうなるというか。研究会の議論にはあまりこのへんの生々しいところを感じない。

 

ただ、この仕組みを崩さないと現状が変わらないと思うわけです。そのためには上記のようにもう専門の機関を作っちゃうぐらいの劇的な手段がないと変わらないのではと思うわけです。ここに別の方法があればいいのだけど、思いつかない。

 

研究会で言われている、細かいガイドラインを出すという方策は、たぶん現実にはあまり効果がないと思う。なぜならいまプロバイダが応じないのは、「悩ましい」と悩んでいるからというよりは、くり返しになりますが、企業のロジックとして基本的には出さないのが正解という状況があるからだから(←私見です)。

 

そして、②のレベル感のものに対しては、多少弁護士費用などもかけて被害者側が本人特定の負担をすることになるのは仕方ない気がする。そのあたりは共感されるのでは。

 

…と、書いているうちにいつの間にか長くなってしまったので(ちょっと疲れたw)、突然でまとまりが悪いですが、ここで本記事は終わりにしたいと思います。

 

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

 

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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