弁護士像

【弁護士像】クラウドワーカー型法律事務所という可能性

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インハウスローヤー(企業内弁護士)やったり、外部弁護士やったりしていると、何となく「クラウドワーカー型弁護士」みたいなやり方があるんじゃないかな、と思えてくる。

という話を書いてみたい。

クラウドワーカー型弁護士という可能性

ここでいう「クラウドワーカー型弁護士」というのは、たとえば、3・4社ぐらいと業務委託(週◯日とかの常駐形態を含む)という形で契約して活動する弁護士、というイメージ。

顧問だとたくさんの顧問先について、相談があったときに対応するという形が基本だけど、それよりはずっと少ない数の企業に絞って、日常的にコミットする。インハウスローヤーのように基本1社にフルコミットするのでもない、という距離感。

リモートの割合も多くなると思うけど、適宜に職場での在席もしたりする。で、個人活動は法律事務所でやる、みたいな。

これは、ずっと法律事務所という職歴で活動している人ももちろん出来ることだけど(後述のように、現に法律事務所からの出向ニーズとかは多い)、ただ、インハウス経験ある人の方が平均的にはそういう情報感度は高い場合が多いのではないか、と思う。ただの感覚ですけど。

”インハウスと法律事務所の間をゆらゆらするのっていいよね”、というツイートなんかも見かけることがあって、個人的には首が自然と縦に動いて、「ハッ、おれはいま何を…!」ってなる(笑)。

インハウスと法律事務所を行き来していると、いろんな感覚が身につくような気がするんですよね。

紛争処理機能に、法務機能をプラスオンするとか。

徒弟的な法律事務所の世界と、企業の世界を両方見るとか。

いくつか転職すれば、企業のなかでも、大企業と中小規模、伝統的な保守的企業と比較的新しい業界の企業を見るとか。

その業界特有の知識を身につけて、プレイヤーとしての感覚も兼ね備える、とか。何せ現場の人(=事業部の人)と話す頻度は法律事務所より段違いに多いので。

(※ただ、これは当該一社を狭く深く知るという特性であって、外部から顧問として複数社をある意味で広く浅く知る、というのとはどちらが優れているというのではなく、一長一短だと思う。)

こういった、組織の外部と内部を、法務と紛争処理の世界を、自由に行き来するような感じ。こういう柔軟性を持った人は、インハウスに多いんじゃないかと思う(←個人の見解です)。もちろん、インハウス以外にそういう人はいないとかの極論を言っているんじゃないです。結局は人による、ということは前提の話として。

インハウス側からのクラウドワーカー化

で、ここから滲み出る具体的な働き方として徐々に顕在化するのではないかと考えられるものが、冒頭の「クラウドワーカー型弁護士」ではないか、と思うわけです。

距離感としては、顧問とインハウスの中間みたいな感じ。そしてこれは、いくつか複数の場所を経験していないとカンがつかめない。ゆえにいくつかの転職経験が必要となるのではないかと。

あそこでもここでも共通する現象があったな、という(組織内部での)肌感覚としての総論部分を適用しつつ、顧問以上インハウス未満での距離感で、各論の解決方法を編み出していく、というような方向性になると思う。

現在すでにこういった形で活動している人もいると思うけど、自分の知る限りたとえば以下の記事のような方がいる。この方はインハウスから始まったのではないけど、そもそも組織人(体験型ゲームのプロデューサー)として活動されていたようなので、まあ近いものはあるのではと思う(←個人の見解です)。

▽SlackとTrelloを駆使して3つ以上の職場で働く。エンタメ業界の“現場”を選んだ弁護士・山辺哲識さんの仕事術|ライフハッカー[日本版]
https://www.lifehacker.jp/2019/11/202540_yamabe-satoshi.html

ちなみに世界を旅しながら弁護士をしている以下の記事のような方もいるが、この方は顧問形態のようなので(顧問を全リモートでやっている)、ここでいうクラウドワーカー型弁護士とは少し違う。でもたぶんデバイスの使い方とか共通項は多くなると思う。

▽年間100日世界を旅する弁護士 藤井総氏の最強テレワーク術|日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00384/

また、インハウスをつなげるというコンセプトで、副業をベースに(=法律事務所での活動の方が副業ということ)している法律事務所、というところも現在既にあったりする。

法律事務所側からはこういう動きが出ないのか?

出向形態ニーズの増加

ちなみに、法律事務所側からはこういう形が出てこない、と言っているわけではない。

ここは、法律事務所側からすれば、出向形態ニーズの増加という形で増えているのだと思う。たとえば梅田康宏弁護士のこの記事。なお、出向形態のほか、業務委託形態にも触れられている。

▽【特集】「先生」の働き方:弁護士の世界 労働者としての弁護士|梅田康宏(弁護士)|日本労働研究雑誌No. 645/April 2014
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/04/pdf/022-025.pdf

(抜粋)
「近年は,企業が直接弁護士を雇用する形態以外にも,法律事務所に所属する弁護士が,何らかの形で法律事務所との関係を維持したまま企業に『出向』するという形態が増えている。」
「法律事務所と企業との間での出向は,主に,中堅以上の弁護士による顧問先企業の体制強化目的や,若手弁護士に顧問先企業の法務を経験させるという人材育成目的で行われることが多い。職業安定法 44 条や労働者派遣法 2 条違反とみなされないために法律事務所に利益が生じないようにしないといけない半面,出向先の企業は,出向してくる弁護士に対して指揮命令権を行使することもできるので,使い勝手が良いという利点がある。」
「このほかにも最近は,業務委託契約に基づき企業で働く弁護士がよく見られる。法律事務所と企業との間で法律事務の処理に関する業務委託契約を締結し,実際の業務処理を法律事務所ではなく企業のオフィスで行うという立て付けである。」

なお、このような出向による交流は、大規模法律事務所では顧問先企業(多くは一定規模以上の企業)との間で従来から定期的に(慣行的に)行われていることだと思うが、本記事でいう出向形態ニーズの増加、というのは、おそらくそういった企業以外にも需要が存在する、という意味で使っている。

また、上記の記事で書かれている業務委託は、これも比較的大規模な法律事務所から出向形態を選択したくないときに業務委託形態がとられているという意味だと思うが(←管理人の推測です)、本記事でいうクラウドワーカー型弁護士というのは、もっとフリーランス的な動き方や規模感を指す意味で使っている。

昔のボス弁世代はどうだったのか?

さらにいえば、超ベテラン世代の弁護士(=当然ながら法律事務所サイドで、そのなかでも伝統的な価値観の世代)でも、このあたりの世界(=会社の世界)のことを知らないとか、わかってないとかいうのでは実は全然ないと思う。

この世代は基本的に「自分は会社勤めなんて無理」あるいは「一国一城の主」という価値観の人が多いので、選択として行っていないだけだと思う。一国一城の価値観を持つか持たないかは当然人それぞれの自由だし、その価値観の人がこの世代には相対的に多い、というだけかなと。

昔のボス弁は、自分がインハウス転職するとき、「サラリーマンの処世術に気をつけろよ」と言っていた。ふうん?くらいにしか思わなかったが、入ってみるとああなるほどな…と思うことがいくつかあった。

その人は弁護士歴30年とかの超ベテラン世代なので、当然インハウスが増加した世代のような考え方はしないし、そのことを1ミリでも考えるような人ではなかったんだけど、そういうこと(会社の世界とか文化)もよくわかっているようだった。

顧問として外部から見続けると、積み重なってそうなるのかもしれない(20年とか30年とかのスパンになると)。
業界固有の慣行も兼ねてわかっていき、その分野の専門家になっていくのだろう。

ただやはり、実際中に入ってしまった方が情報の濃度は濃く、かつ早いと思うし、顧問としての外部接触を蓄積させるのとはまた少し違った知見(プレイヤーとしての感覚、というか)が深まると思う。

その「中に入った経験」を複数もっていて(つまりクラウドワーカーとして3・4社ぐらいにコミット)、かつそういう弁護士が集まると、情報の濃度が相当濃い、またこれまでになかったグループが出来上がる気がする。

結び

実際の需要としては、例えば以下にツイートしたような場合に需要がありそうだし、前述した出向ニーズの増加も、業務委託型のニーズが顕在化されつつあることの現れと思う(←個人の見解です)。

つまり、業務委託型の法律サービスという需要があって、それがインハウス側からはクラウドワークとして、外部の法律事務所側からは出向ニーズの増加という形で、現れている又はこれから顕在化する、ということなんじゃないかなと。

という空想話でした。

あるいは逆に、普通にそうだよねという感じで今さら何を、といった感想もあるかもしれませんが、そういった場合はご放念ください。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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