今回は、法令用語を勉強しようということで、「係る」と「関する」を見てみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
そんなに大した話ではないですが、法律的な文章でよく見かけて何となく使っている「係る」は、どういう意味なのか?を確認してみたいと思います。「関する」との対比です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
係る
「係る 」は、法令ではけっこうよく見かけますが、普段の日常生活ではそんなに見ない表現だと思います。
法令では、
〇〇に係る△△
という表現でよく使われており、細かい意味はよくわからないなと思いつつも、契約書でも、法令を読むときに自然と感じているようなニュアンス(要するに「関する」みたいな意味でしょ?といったような)で、何となく使っているように思います。
実際問題としてそれで特に問題はなく、法令上も「関する」「関係する」に近い意味で使われます。
直接的な関係に用いられる
ただ、特徴を挙げるとすると、「係る」は、その前後で結び付けられる事柄が直接的なつながりを持っていることが多いとされます。
例えば、「処分の審査請求」という言葉をひっくり返して使うとすると、「審査請求に係る処分」(行政不服審査法19条2項3号)という表現になるというような、前後の言葉の直接的な関係があります(田島信威「最新 法令用語の基礎知識」〔三訂版〕43頁等参照)。
こういう感じで、直接的な関係に用いられている「〇〇に係る△△」には、”その ○○についてのその△△”のようなニュアンスがあるかと思います。
▽民法19条1項
(審判相互の関係)
第十九条 後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。
▽民法264条の2第1項
(所有者不明土地管理命令)
第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
▽民法509条
(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百九条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
▽民法777条
(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条 次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、それぞれ当該各号に定める時から三年以内に提起しなければならない。
一 父の否認権 父が子の出生を知った時
二 子の否認権 その出生の時
三 母の否認権 子の出生の時
四 前夫の否認権 前夫が子の出生を知った時
直接的でない関係にも用いられる
とはいえ、直接的な関係がない場合や、もっと漠然とした関係である場合でもよく使われており、単に「〇〇に関する△△」「〇〇に関係する△△」「〇〇に属する△△」「〇〇の△△」等の意味を持っています。
▽地方自治法199条1項
第百九十九条 監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査する。
関する
これに対して、「関する」は、「係る」のような直接的なつながりに用いられることはなく、直接的な関係がない場合や、もっと漠然とした関係である場合に使用されます。
つまり、普通に、「関連する」「属する」といった意味合いで、日常生活と同じように、法令でも頻繁に使用されています。
正確にいうと、
…このように、「関する」はある事柄を中心として、これと関係があることを表すときに用いられる。…
田島信威「最新 法令用語の基礎知識」〔三訂版〕44頁
とされています。
▽民法761条
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「係る」と「関する」を見てみました。
要するに、対比で頭に入れておくとすると、「係る」の方は直接的なつながりのあるニュアンスを持っていますが、「関する」の方にはそれはないということです。
例えば、試しに、先ほど見た例で「係る」を「関する」に変更してみると、
▽民法509条?(※黄色ハイライト部分:「係る」を「関する」に変更)
(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百九条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に関する債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
のようになりますが、これだと意味がちょっと変わってしまいそうな気もしますし(なにか他の債権も含むのか?といったような疑問)、あるいは、意味はわかるとしても若干の違和感を感じる(少なくとも「係る」の方がしっくりくる)ように思います。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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