今回は、特定商取引法ということで、電話勧誘販売規制のうち法定書面の交付義務について見てみたいと思います。
本記事では、法令上の根拠(条文・省令)も踏まえつつ、書面交付義務の全体を体系的に解説していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
制度の概要と趣旨
電話勧誘販売は、店舗を構えない不意打ち的な取引(非対面・隔地者間取引)であるため、消費者が取引条件を十分に確認しないまま申し込んでしまったり、契約内容があやふやなために後日トラブルに発展したりするリスクが高い取引です。
このため、特商法は、事業者に対し、契約内容や取引条件を明確に記載した法定書面を消費者に交付することを義務付けています。
また、この書面交付は、後日の紛争を防ぐだけでなく、消費者がクーリング・オフ(8日間の無条件解約)を行使できる、熟慮期間の起算点(カウント開始日)としての意味も持っています。
法令上の根拠と書面の種類
特商法では、取引のフェーズ(申込み段階か締結段階か)に応じて、以下の2種類の書面交付を想定しています。
申込書面の交付義務(法18条)
申込書面は、電話口の販売員に契約を確定させる権限がなく、持ち帰って会社やクレジット会社等の審査・承認を経て契約を成立させるような、申込み段階において交付する書面です。
電話勧誘行為により、郵便等で、売買契約や役務提供契約の申込みを受けた場合が対象になります。
▽特商法18条1項
(電話勧誘販売における書面の交付)
第十八条 販売業者又は役務提供事業者は、電話勧誘行為により、電話勧誘顧客から商品若しくは特定権利につき当該売買契約の申込みを郵便等により受け、又は役務につき当該役務提供契約の申込みを郵便等により受けたときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。ただし、その申込みを受けた際その売買契約又は役務提供契約を締結した場合においては、この限りでない。
一 商品若しくは権利又は役務の種類
二 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
三 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
四 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
五 第二十四条第一項の規定による売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除に関する事項(同条第二項から第七項までの規定に関する事項(第二十六条第二項、第四項又は第五項の規定の適用がある場合にあつては、当該各項の規定に関する事項を含む。)を含む。)
六 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
契約書面の交付義務(法19条)
契約書面は、契約が正式に成立した段階で、その契約内容を確定・明示するために交付する書面です。
電話勧誘行為により、郵便等で売買契約や役務提供契約を締結(成立)させた場合が対象になります。
電話口で直ちに契約締結に至る場合は、18条の申込書面は免除され、19条の契約書面を交付することになります(法18条1項ただし書)。また、両書面の記載事項は、省令上、実質的に同一とされています。
▽特商法19条1項
第十九条 販売業者又は役務提供事業者は、次の各号のいずれかに該当するときは、次項に規定する場合を除き、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、前条第一項各号の事項(同項第五号の事項については、売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項に限る。)についてその売買契約又は役務提供契約の内容を明らかにする書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
一 電話勧誘行為により、電話勧誘顧客と商品若しくは特定権利につき当該売買契約を郵便等により締結したとき又は役務につき当該役務提供契約を郵便等により締結したとき。
二 電話勧誘行為により電話勧誘顧客から商品若しくは特定権利又は役務につき当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、その売買契約又は役務提供契約を締結したとき。
なお、契約締結の場で商品を引き渡し代金も全額受領したという場合(「現金取引」と呼ばれます)は、記載事項がやや簡略化された書面でよいことになっています(法18条1・2号、5号のうち解除に関する事項、および規則54条が定める事項)。
▽同条2項
2 販売業者又は役務提供事業者は、前項第二号に該当する場合において、その売買契約又は役務提供契約を締結した際に、商品を引き渡し、若しくは特定権利を移転し、又は役務を提供し、かつ、商品若しくは特定権利の代金又は役務の対価の全部を受領したときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、前条第一項第一号及び第二号の事項並びに同項第五号の事項のうち売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項その他主務省令で定める事項を記載した書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
書面交付の具体的ルール(時期・記載事項・形式)
交付のタイミング(時期)
交付のタイミングは、原則して「遅滞なく」交付すること、とされています(法18条1項・法19条1項)。
訪問販売(対面のため「直ちに」交付)とは異なり、電話勧誘販売は郵便や宅配等の通信手段を用いる隔地者間取引であるため、「遅滞なく」と定められています。
ここでの「遅滞なく」とは、通常3〜4日以内に交付することを指します(逐条解説 第18条-1-⑵参照)
例外的に、現金取引における書面交付義務(締結の際に商品の引渡し等と代金全額の受領が済んでいる場合)では、「直ちに」とされています(法19条2項)。
| 場面 | 書面 | 根拠 | 交付の時期 |
|---|---|---|---|
| 消費者から申込みを受けたが、まだ契約は成立していない | 申込書面 | 法18条 | 遅滞なく |
| 契約を締結した(通常のケース) | 契約書面 | 法19条1項 | 遅滞なく |
| 契約締結の場で商品を引き渡し、代金も全額受領した(現金取引) | 簡略な契約書面 | 法19条2項 | 直ちに |
(※)法18条は、申込みを受けたときに契約を締結した場合は不要で(18条1項但書)、その場合は法19条の書面に進みます。
主な記載事項(法18条1項各号・法19条1項、施行規則)
記載事項は、法律→省令の2段構えで決まっています(法律の5項目+省令の追加項目)。
| 層 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法律が定める5項目 | 1号:商品・権利・役務の種類 2号:価格・対価 3号:支払時期・方法 4号:引渡時期・提供時期等 5号:クーリング・オフ等に関する事項 | 法18条1〜5号(法19条1項も同じ。ただし5号は「解除に関する事項」に限る) |
| 省令が追加する項目 | ➢事業者情報:氏名又は名称、住所、電話番号、法人は代表者氏名 ➢担当者・日付:申込み(締結)を担当した者の氏名、申込み(締結)の年月日 ➢商品情報:商品名、商標又は製造者名、型式(あれば)、数量 ➢契約条件:契約不適合責任・解除に関する定め、特約(あれば) | 法18条6号に基づく規則45条 (現金取引の簡略書面は、法19条2項に基づく規則54条) |
(※)簡略書面(法19条2項)は、法18条1・2号と5号のうち解除に関する事項に、規則54条の事項を加えた形となっています。
書面には、これら省令等で定められた以下のような重要事項を、もれなく記載しなければなりません。
書面の記載事項については、以下の個別記事で詳しく解説しています。適宜ご参照ください。
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特商法解説|電話勧誘販売における「法定書面の記載事項」とは?~法定の5項目・省令の項目・クーリングオフの細目など
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記載形式の厳格なルール(文字の大きさ・赤枠赤字)
視力や知識の有無にかかわらず、消費者が確実に内容を認識できるよう、形式面にも基準が設けられています。
まず、文字の大きさです。日本産業規格(JIS)Z8305に規定する8ポイント以上の大きさの文字および数字を使用することとされています。
また、赤枠・赤字の義務付けがあります。「書面の内容を十分に読むべき旨(注意文)」および「クーリング・オフに関する記載事項」については、消費者の注意を喚起するため、赤枠の中に赤字で記載しなければなりません(施行規則46条、47条等)。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 文字の大きさ | 8ポイント以上(JIS Z 8305) |
| 赤枠・赤字 | 「書面の内容を十分に読むべき旨」と「クーリング・オフに関する事項」を、赤枠の中に赤字で書く |
電磁的方法(電子書面)による交付(法18条2項・3項、法19条3項)
従来は紙の書面交付が必須でしたが、法改正により、あらかじめ消費者の承諾を得た場合に限り、書面に代えて電子メールやファイルダウンロード等の電磁的方法により提供することが認められています。
ただし、消費者の真意に基づく承諾手続が必要であり、申込者の電子計算機(スマホやPC)のファイルに記録された時点(到達した時点)で交付があったとみなされます。
▽特商法18条2項・3項
2 販売業者又は役務提供事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該販売業者又は当該役務提供事業者は、当該書面を交付したものとみなす。
3 前項前段の規定による書面に記載すべき事項の電磁的方法(主務省令で定める方法を除く。)による提供は、当該申込みをした者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該申込みをした者に到達したものとみなす。
▽特商法19条3項
3 前条第二項及び第三項の規定は、前二項の規定による書面の交付について準用する。この場合において、同条第二項及び第三項中「申込みをした者」とあるのは、「購入者又は役務の提供を受ける者」と読み替えるものとする。
交付義務に違反した場合のペナルティと効果
事業者が書面を交付しなかったり(不交付)、記載事項に欠落・誤りがあったり(書面不備)、虚偽の記載をした場合、以下のような効果が生じます。
民事上の効果:クーリング・オフ期間の不開始
法定の記載事項を満たした適法な書面が交付されない限り、クーリング・オフの8日間のカウントダウン(起算点)は永遠に始まりません。
したがって、仮に契約から数か月〜数年が経過していたとしても、書面不備等を理由としていつでも無条件でクーリング・オフを行使することができます。
行政処分(法22条・法23条)
主務大臣(消費者庁)や都道府県知事による是正指示(法22条)や、最長2年間の業務停止命令(法23条)の対象となります。
刑事罰(直罰)(法71条1号)
書面の不交付・不備書面の交付・虚偽記載に対しては、行政処分を挟まず、直接に刑事罰が科されます。
- 個人:6月以下の拘禁刑(旧懲役)若しくは 100万円以下の罰金(またはその併科)
- 法人(両罰規定:法74条):行為者だけでなく法人に対しても100万円以下の罰金
結び
電話勧誘販売における書面交付義務(法18条・19条)は、取引条件の全貌を消費者に開示させ、冷静な再考の機会(クーリング・オフ)を与えるためのルールです。
事業者がこれを怠った場合、刑事罰や行政処分を受けるだけでなく、民事上もクーリング・オフ権がいつまでも保留され続けるというペナルティが生じる仕組みになっています。
今回は、特商法の電話勧誘販売規制のうち、法定書面の交付義務について見てみました。
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本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 逐条解説(「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」)(消費者庁)
参考サイト・関連団体
- 特定商取引法ガイド(※消費者庁の特設サイト)
- 財団法人日本産業協会(※特商法の申出制度に関する指定法人)
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