契約の一般条項

契約の一般条項|契約違反による「損害賠償条項」を解説~責任の制限と拡張・直接かつ現実の損害など

2025年3月24日

今回は、契約の一般条項ということで、損害賠償条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

契約違反による損害賠償条項は大体どの契約書にも書かれていますが、法律の内容と同じことを書いているだけの場合もあれば、きっちりと異なる意図をもって書かれている場合もあります。相手方から出された契約書を見るときには、こちら側にとって不利な内容になっていないか、しっかりとチェックする必要があります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

損害賠償条項とは

損害賠償条項は、契約に違反した場合の損害賠償責任を定めた条項のことです。

契約書でよくある定め方としては、

甲及び乙は、本契約に違反することにより相手方に損害を与えた場合には、その損害を賠償する責任を負う。

といった簡潔な記載がよく見られますが、このような抽象的な記載は、実質的には民法の規定をなぞっているにとどまります。

実際には、契約の内容は裁判所の事実認定によりますので(契約当事者の合理的意思解釈)、上記のような定め方でも、個別の事案によっては何か特殊な意味に解釈される可能性もなくはないと思いますが(たとえば、帰責性あるいは故意・過失を書いていないのはそれを不要とする趣旨だ、など)、管理人の知る限りでは可能性としては低いと思われます

穏当な契約書などでは、双方平等の規定にする(=法律上の原則のままにする)という意図で、あえてこのような記載にしておくこともままありますが、実務上、この条項を設ける目的は、多くの場合、法的な原則を自社のビジネスリスクに合わせて修正することにあります。

そこで、本記事では、法律上の原則を確認しつつ、売主側・買主側それぞれの修正パターンについて順に解説していきます。

法律上の原則

債務不履行に基づく損害賠償請求についての法律の内容は、基本的に以下の民法の規定(415条1項)によります。

▽民法415条1項

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

これにより、債務不履行に基づく損害賠償請求の法律上の要件は、

  • 債務不履行(履行遅滞・不完全履行・履行不能の3パターン)
  • 債務者の帰責性(債務者側がその不存在につき立証責任を負う=免責の抗弁)
  • 因果関係
  • 損害の発生

と解されていますが、ドラフト交渉で修正が問題となるのは主に②と③です(特に③の因果関係、つまり損害賠償の範囲が主戦場)。

損害賠償条項を分析する前提として、一応簡単に、法律上の原則(民法の考え方)について確認しておきましょう。

帰責性に関する考え方

2017年の民法改正(2020年4月施行)後の、帰責性の考え方のポイントは次の2点です。

まず、過失責任主義の否定と新たな判断枠組みです。改正前民法の下では、伝統的に「債務者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由」が帰責事由として解釈されてきました(過失責任主義)。しかし、改正民法(415条1項)においては過失責任主義が否定され、契約の趣旨等に照らして債務者が引き受けていたリスクかどうかにより免責の可否が判断されることとなり、「帰責事由=過失」を意味するものではなくなっています。

次に、主張・立証責任の所在の明確化です。民法415条1項ただし書において、債務不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは損害賠償請求ができないと規定され、免責事由についての主張・立証責任を債務者側(損害賠償を請求される側)が負うことが明確化されています(※改正前もそのように解釈されていたため、実質的な変更はありません)。

因果関係(損害賠償の範囲)に関する考え方

契約の債務不履行に基づく損害賠償請求においては、判例および通説により、債務不履行の事実と発生した損害との間に相当因果関係(=法的に因果関係があると評価できる範囲内の損害であること)が必要であると解されています。

具体的には、民法416条により、賠償の対象となる損害の範囲は通常損害特別損害とされています。

  • 通常損害(1項)債務不履行によって通常生ずべき損害を指します。相当因果関係が認められる損害のことです
  • 特別損害(2項)特別の事情によって生じた損害を指します。特別損害については、当事者(債務者)がその事情を「予見すべきであったとき」(2017年の改正前民法では「予見し、又は予見することができたとき」)に限り、相当因果関係が認められ、賠償請求の対象となります

▽民法416条

(損害賠償の範囲)
第四百十六条
 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

しかし、何が通常損害であり、何が特別損害であるかについての一般的な基準は存在せず、契約類型や事案ごとに個別具体的に判断されます。そのため、実務においては、契約書(損害賠償条項や補償条項)で、損害賠償の範囲を当事者間の合意によって修正(拡大・限定)することが広く行われています。

👉法律上の原則についてのまとめ記事はこちら

契約の一般条項|債務不履行による損害賠償請求(法律上の原則)~損害賠償条項に関連して

続きを見る

帰責性(あるいは故意・過失)の修正パターン

ではまず、損害賠償条項における帰責性の修正パターンから見ていきましょう。

故意・重過失を除く免責(売主側)

これは、売主側が責任を限定するパターン(軽過失免責)です。

賠償義務を負う可能性が高い当事者(商品・サービスの提供者側)がリスクを軽減するため、賠償責任が生じる要件を故意又は重大な過失(重過失)がある場合に限定し、軽過失による損害を免責するパターンです。

用語としては「軽過失」と言われますが(消費者契約法など参照)、個人的にはミスリーディングな名称であり、注意した方がよいと思っています。軽過失といっても、”軽い過失”という意味ではなく、”重過失を除いた過失”という意味ですので、実質的な意味としては通常過失(あるいは単純過失)を含む内容のものです。その場合も含めて免責、ということです

規定ぶりとしては、「故意又は重大な過失がある場合に限り、損害を賠償する責任を負う」旨の定め方と、これとは逆側からの、「一切責任を負わない。ただし、故意又は重大な過失がある場合はこの限りでない」旨の定め方などがあります。

故意や重過失がある場合についても免責する条項は、信義則や公序良俗に反し無効とされる傾向が強いものの、軽過失を免責する条項は、(個別具体的な事情により無効とされる余地はあるものの)実務上広く有効とされています。

【ポイント】重過失により免責条項の効力が否定された最近の事例

 東京地判令和7年4月25日は、ECプラットフォーム運営者(アマゾンジャパン)に対して、相乗り出品による偽造品トラブルや、不適切な出品削除につき、一定条件下で法的責任(調査義務・出品維持義務)を認めた事例です。

 この事例では、原告が相乗り出品の排除を求めてフォームから申告したところ、被告が商品ページごと全体を削除し、抗議を受けても回復しなかった措置の部分について、義務違反が認定され(重過失あり)、これにより免責条項の適用が排除されています。

東京地判令和7年4月25日(令和4(ワ)24415号)|裁判所HP(≫裁判例検索

「…しかし、前段に記載された損害は広範囲かつ抽象的であり、これらの損害すべてについて、損害の性質によって合理的範囲に限定することなく、被告に故意又は重過失が認められる場合にまで一切免責されるとする点については、本件契約が大規模なオンラインストア・プラットフォームにおける不特定多数の出品者との間に適用される定型取引であり、画一的処理の要請が強いことを考慮しても、取引上の社会通念として許容される範囲を超えるものであって、上記改正前民法においても、信義則に照らし、その効力を否定されるべきものと解される。そうすると、民法548条2項の適用により、本件免責条項の前段につき、少なくとも被告に故意又は重過失のある場合については、合意しなかったものとみなされる。」
「…他方、義務②の削除商品②にかかる義務違反については、被告に故意又は少なくとも重過失があるものといえ、同義務違反によって生じた損害は、本件免責条項前段による免責の対象外である。」

免責の抗弁の排除(買主側)

これは、損害賠償を請求する可能性が高い当事者の立場(主に買主側)から、債務者の帰責事由の有無を問わず、結果として損害が発生した場合には賠償させるようにするパターンです。つまり、免責主張(抗弁)自体を封じるということです。

規定ぶりとしては、「故意又は過失の有無にかかわらず、損害を賠償する責任を負う」旨の定め方や、「自らの責めに帰することができない事由があることを理由として、損害賠償責任を免れることはできない」旨の定め方などがあります。

そもそも一般論として、債務の履行を怠っておきながら免責事由が認められるケースは限定的と考えられていますが、債務者側から免責を主張して争われるリスクそのものをあらかじめ回避する目的で置かれます。ただし、かなり立場が強い場合でないと、実際に契約書に定めることは難しいといえます。

損害賠償の範囲の修正パターン

トラブルが発生した際、最も争点になるのが、どこまでが賠償の対象かという範囲の問題です。

たとえば、納品物に不具合があった場合、買主側は商品の回収費用、代替品の調達コスト、さらには対応した従業員の人件費やブランド毀損の賠償まで請求したいと考えるでしょう。これに対し、売主側は、通常予想できる範囲(あるいはそれ以下)に限定したいと考えるのが通例です。

賠償範囲の制限(売主側)

損害賠償の範囲を制限

賠償義務を負う側が予測不可能なリスクを避けるため、賠償の対象となる損害の範囲を限定するパターンです。

一般的に最もよく見られるのは、「直接かつ現実に生じた通常の損害」に限定するというものです。民法の原則では要件を満たせば請求可能となる特別損害(特別の事情から生じた損害)や、二次的に生じた間接損害を賠償の対象から除外する条項がよく用いられます(※詳しくは後述)。

または、単純に特別損害、あるいは逸失利益を除外するもの(債務不履行がなければ得られたであろう転売利益などの逸失利益について、明示的に損害賠償の範囲から除外する旨を規定する)など、何かしら特定の損害範囲を除外するような表現もあります。

損害賠償額の上限を設定(代金額を上限とするなど)

次に、損害賠償の範囲の制限とあわせて、または単独で、賠償額に上限(キャップ)を設ける方法があります。

特にシステム開発やコンサルティング契約などのような、受託側の報酬に対して潜在的な損害が大きくなる契約では、賠償額の上限を設定することが一般的です。たとえば、「受領済みの報酬額を上限とする」「損害賠償額の上限は、過去1年間に受領した委託料を限度とする」といった条項です。

しかし、ここでも注意が必要なのは、上限を定めていても、故意または重過失がある場合には、その制限が適用されない(無効となる)可能性が高いという点です。裁判例でも、重過失(ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態)がある場合にまで責任制限を認めることは、当事者間の公平を著しく害すると判断したものがあります(東京地判平成26年1月23日判時2221号71頁等)。

そのため、契約締結時には、どのようなケースが重過失にあたるかを具体的にイメージしておく必要があります。

賠償範囲の拡張(買主側)

では逆に、責任を拡張するパターンにはどのようなものがあるでしょうか。

賠償を請求する側が有利になるよう、民法上の相当因果関係よりも広い範囲の損害を対象とする方法としては、以下のようなものがあります。

「起因又は関連して」という文言の使用

M&Aの株式譲渡契約等における補償条項などでは、「表明保証違反に起因又は関連して生じた損害」といった規定の仕方がよくされます(※通常の取引契約書でも、これに倣ったのであろう損害賠償条項をたまに見かけることがあります)。

これは英米法で用いられる「arising out of or related to」を直訳したものであり、当事者の合理的な意思としては、民法上の相当因果関係よりも広い概念(単に関連性があれば足りる)を意味すると解釈されると考えられています。

「一切の損害」とするパターン

「相手方が被った一切の損害について賠償する」と規定し、損害の項目を限定しないことで範囲を広げる方法もあります。

ただし、因果関係を広げる文言を用いた場合でも、賠償額の上限(キャップ)の定めがない場合などは、範囲が広範になりすぎて不合理な結論になるのを避けるため、裁判所によって、結局は相当因果関係と同程度の範囲に限定解釈される可能性も否定できません。

損害項目を具体的に列挙するパターン(弁護士費用など)

また、契約締結時に想定される具体的な損害項目を明示するパターンもあります。

たとえば、裁判時に原則として損害として認められない弁護士費用を明記して賠償対象に含めることは、よく行われています(「合理的な」等の修飾字句をつけることも多い)。

【ポイント】弁護士費用の扱い

 債務不履行に基づく損害賠償請求では、契約書に定めがない限り、弁護士費用を損害として請求することは原則としてできません(最判昭和48年10月11日判時723号44頁)。紛争解決コストを相手方に負担させたいのであれば、損害の範囲に「(合理的な範囲内の)弁護士費用を含む」等と明示しておくことが必要です。

そのほかにも、製品に欠陥があった場合の「原因調査費用」「リコールに要した回収費用」「第三者との紛争解決費用」などを具体的に列挙することも考えられ、このように、項目ごとに損害賠償の範囲に含めることをあらかじめ明確化しておく方法があります。

項目列挙の書き方は、もちろん、制限的に使えば(項目A、項目B、項目Cに限るといった限定列挙の仕方)、賠償範囲を制限する方法として使うことも可能です。もっとも、個人的にあまり見たことはありません

損害賠償額の予定・違約金

以上のほか、契約に違反した場合に損害賠償として支払う金額をあらかじめ決めておく方法もあります。

民法上は、損害賠償額の予定と呼ばれます(民法420条3項)。この規定があれば、請求する側は実際にいくら損害が出たかを証明しなくても、決まった金額を請求できるというメリットがあります(損害額の立証負担を軽減)。

▽民法420条

(賠償額の予定)
第四百二十条
 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
 違約金は、賠償額の予定と推定する。

損害賠償額の予定には、契約の性質や目的に応じて様々なバリエーションが存在します。その目的は主に、債権者にとって損害額を立証するコストを省くこと、あるいは、債務者にとってリスクの把握を容易にすることです(※通常は、債権者の目線から定められたものが多い)。

たとえば、以下のようなパターンがあります。

端的に固定金額を示す場合

これは、「金〇円を損害額とみなす。」といった、損害賠償額をあらかじめ具体的な金額で固定してしまうパターンです。

ただ、実際には具体的な金額をピンポイントで指定する例はあまり見かけず、以下のように算定方法を記載したものが多いように思います。

賃貸借契約における建物明渡債務の不履行(遅延)の場合

賃貸借契約が終了したにもかかわらず賃借人が建物を明け渡さない場合に、「契約終了の翌日から建物明渡しに至るまで、賃借人は賃貸人に対し、賃料の2倍に相当する賃料相当損害金を支払う」といった形で、損害金をあらかじめ定めておくパターンです。

売買契約等における引渡債務の不履行(遅延)の場合

売買契約などで、目的物の納入が遅れた場合のペナルティとして、「納入期日の翌日から納入日までの間、1日〇円の割合による損害金を支払う」といった形で、遅延期間に応じた一定割合の損害金を定めるパターンです。

ただし、これに限りませんが、あまりに過大な賠償額を定めた場合、公序良俗違反などで条項が無効とされる場合がある点に注意が必要です。

特殊な義務違反に対する予定(企業買収等)

M&A(企業買収)の交渉などにおいて、独占的交渉義務などの特定の義務に違反した場合のペナルティとして、実費に加えて一定額を損害金とみなすパターンもあります。

たとえば、独占交渉義務の違反があった場合に、「独占交渉権をもつ者が現在までの交渉に要した合理的範囲の実費全額」と「金〇〇円」を損害金として支払う、といった形で損害金を定めるパターンです。

「違約金」との関係について

 契約違反等があった場合に、「違約金」という名目で請求を行う規定を設けることがありますが、民法上、違約金は原則として「賠償額の予定」と推定されます(民法420条3項)。

 したがって、単に制裁(違約罰)としての意味合いで違約金を定めたつもりであっても、損害賠償額の予定として扱われ、違約金以上の損害額を請求できなくなる可能性がある(実損害が予定額を超えても追加請求できない可能性がある)ため、実務上の留意が必要です。

 たとえば、契約書の中で「別途実損害の賠償請求を妨げない」「超過額も請求できる」といった性質を明確にしておく必要があります。

補足:「直接かつ現実に生じた通常の損害」について

これらのよくある修正パターンのうち、通常の取引契約書で最もよく見かけるのは「直接かつ現実に生じた通常の損害」(書きぶりは多少違う場合もありますが)といった表現です。

そこで、この意味するところについて取り上げて考えてみたいと思います。

「直接かつ現実に生じた…」の意味

契約実務において、「直接かつ現実に生じた通常の損害」(あるいは、「現実に発生した通常かつ直接の損害」etc)という文言は、損害賠償責任を負う範囲を限定する目的でよく用いられます。

具体的には、債務不履行によって一次的に生じた損害に限定し、そこから派生して二次的・間接的に生じた間接損害、特別な事情から生じた特別損害、あるいは債務不履行がなければ得られたであろう逸失利益などを、賠償の対象から除外する趣旨で使われるのが一般的です。

しかし、以下のように、日本法の下ではこれらの概念は必ずしも明確ではありません。

  • 直接損害 / 間接損害
    「間接損害」は一次的に損害を被った者から派生して波及した二次的損害と説明されることがありますが、ある具体的な損害が直接損害と間接損害のどちらに含まれるのか明確でないことも多いとされています(※また、間接損害はあくまでも損害の分類論であり、因果関係の認められる範囲と直接結びついた概念ではない)
  • 現実の損害
    米国不法行為法における「懲罰的損害賠償」の対義語として理解する立場(填補賠償を基本とする日本法下では特段の意味を持たないとする立場)や、「逸失利益」を含まない趣旨として捉える立場などがあり得ますが、その内容や外延は曖昧です

自社のドラフトに書くべきか

自社が用意するドラフトにこの文言を書くべきかどうかは、当然ですが、当該契約において自社が損害賠償を請求する側と請求される側のどちらになりやすいかによって異なります。

自社が損害賠償の請求を受ける可能性が高い立場(受託者・売主など)である場合は、自社の賠償リスクを軽減するために、損害賠償の範囲を限定する条項として検討してよいと思います(ただ、大きな損害が生じるリスクがある契約では、より念入りに検討することが求められますが)。

先ほど見たような意味合いの不明瞭さから、そもそも使用すべきかどうかについて悩んでいる人を見かけることもありますが、損害賠償の範囲を制限する方向であることは明らかであるため、使用自体を禁じるほど硬直的に考える必要はないと思われます(管理人の私見)

また最近は、「直接かつ現実の…損害」と書いた後で、括弧書きでその内実を具体的に記載する例も多くなっているように思います。

【雑感】括弧書きで具体化する方法

 括弧書きで具体化する方法は、契約ドラフトの大原則である「なるだけ一義的な意味になるように」とのポリシーに沿った、あるべき運用だとは思います。ただ、おそらく「直接かつ現実の損害」は、そのフワッとした表現から、目立たせず契約書にしれっと入れておけることに実務上の使用が広がった妙味があったのであろうと思われ、括弧書きで具体化するとその意味は薄れるという現実論もあるように思います。

 結局、いざという時に「逸失利益は直接損害に含まれるのか」といった解釈の争いが生じるのを防ぐために、より明確に「直接かつ現実に生じた通常の損害(逸失利益、間接損害及び特別損害を含まない。)」など除外したい損害を括弧書き等で具体的に明記するメリットと、相手方との交渉コストとの兼ね合いの問題だろうと思います。

相手方のドラフトにあった場合の対応

相手方が提示したドラフトに「直接かつ現実の損害」と記載されていた場合も、当然ですが、自社の立場に応じてとるべき対応は異なります。

自社が損害賠償を請求する可能性が高い立場の場合は、安易にこの制限条項を受け入れるべきではありません。そもそも法律上の原則に従った処理まで戻すことがまず優先事項となります。

もし相手方が限定を求めて譲らない場合、あるいは制限条項自体は受け入れざるを得ない場合でも、前述のとおりその概念は不明確であるため、事後的なトラブルの火種となる可能性はあります。

そのため、その文言の意義(どのような損害を対象とし、何を除外する意図なのか)を確認することが望ましいといえます。また、可能な限りですが、自社が被る可能性のある重要な損害(例えば転売による逸失利益など)が除外されてしまわないよう、賠償対象となる損害項目を具体的に例示・列挙するよう求めることで、事後的に争われるリスクを減らすことが考えられます。

他方、自社が損害賠償の請求を受ける可能性が高い立場の場合は、相手方が自ら損害範囲を限定してくれていることになるため、基本的には自社に有利な条項といえます。ただし、前述のように、いざという時に解釈の争いが生じるのを防ぐため、除外したい損害を括弧書き等で具体的に明記するような修正提案を行うことも、有効なリスクヘッジとなります。

契約書の作成・レビューについて(管理人の私見)

損害賠償条項に限らずですが、契約書を見るときには、こちら側にとって不利な内容になっていないかチェックする必要がありますし、契約書を作成するときには、こちら側にとって(交渉上可能な範囲で)有利な内容になるように作成する必要があります。

損害賠償の範囲について契約書を見るときのひとつのポイントは、

責任を制限する(損害賠償の範囲を狭める)内容になっている場合、基本的には、商品・サービスの提供側に有利に働く場合が多い

ということかと思います。

こちらがお金を払う側で、相手方から契約書が出てきた場合に、責任制限がされている内容でも、相手方からはしれっと”甲にも乙にも適用される双方平等の規定ですので、特に問題はないものです”といった説明がされることもあります。たしかに、規定ぶりだけを見ると、一見そのように見えます。

それで、こちら側の依頼者・担当者はそのような説明をほぼそのまま受け止めることもありますが、実際的な働き方としてはそうとは限りません

なので、説明が必要です。

というのは、こちらがお金を払う側であるときは、特に窮状でもない限り代金は支払うはずですので、代金不払いで損害賠償を請求される可能性がそもそも低く、自社にとってあまりリスクヘッジにはならないためです。

対して、損害賠償を請求するのは、当然ですが、商品やサービスに何かあったときに、お金を払った側から請求することが多いわけです。

なので、こちらがお金を払う側のときに、損害賠償のできる範囲が制限されているというのは、「自社からの賠償請求がリスクヘッジされている」と考えておいた方がよいことになります。

もちろん、契約違反というのは、代金支払といった基本的義務だけではないので、支払う側においても責任制限がリスクヘッジになる場合はあり得ます。たとえば、支払う側であっても、万一、秘密保持義務違反などをしてしまった場合に、「ああ、あのときに責任制限しておけばよかった」となることも考えられます

ただ、発生頻度としては少なく、やはり実際的な働き方としては、商品・サービスの提供側(売主側)に有利に働くことが多い、と思われます

結び

今回は、契約の一般条項ということで、損害賠償条項について見てみました。

本記事のハイライトをまとめます。

損害賠償条項のポイント

  • 損害賠償条項は、トラブル発生時のルールを明確にし、紛争をスムーズに解決・リスクを把握するための条項
  • 損害賠償の請求を受ける可能性が高い当事者(主に売主側)は、損害賠償の範囲の制限、上限額(キャップ)の設定、違約金(賠償額の予定)などの方法がある
  • ただし、故意・重過失の場合や、消費者契約法などの法律の制限がある点に注意
  • 損害賠償を請求する可能性が高い当事者(主に買主側)も、損害賠償の範囲を拡張するいくつかの方法がある
契約の一般条項 - 法律ファンライフ
契約の一般条項 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

契約の一般条項

契約の一般条項|契約の有効期間

契約の一般条項 法制執務

法令用語の基本|「及び」「並びに」と「又は」「若しくは」

契約の一般条項 法制執務

法令用語の基本|「前」「次」「同」の使い方

契約の一般条項 法制執務

法令用語の基本|「当該」の意味と使い方

契約の一般条項

契約の一般条項|契約違反による「損害賠償条項」を解説~責任の制限と拡張・直接かつ現実の損害など

主要法令等・参考文献

主要法令等

リンクをクリックすると、e-Govのページに遷移します

民法(債権関係)改正の資料

リンクをクリックすると、e-Govのページまたは法務省HPに遷移します

参考文献image

-契約の一般条項